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寿命を迎えた恒星の中に入り込むことで起こる“スーパーチャンドラセカール超新星”

2020年09月19日 | 宇宙 space
極めて特異な性質を示す超新星“LSQ14fmg”は、白色矮星を起源に持つIa型に分類されています。
ただ、“LSQ14fmg”は明るさが最大になるまでの時間が異常に長く、最大光度はIa型として最も明るいもの…
なぜ、通常よりも明るいIa型超新星になったのでしょうか?
今回の研究によれば、この爆発は白色矮星が別の恒星の内部で起こしたもので、これにより“チャンドラセカール限界質量”を突破したようです。

特異な超新星

ペガスス座の方向約1億光年彼方に位置する特異な超新星“LSQ14fmg”は、ヨーロッパ南天天文台のラシーヤ天文台で行われているサーベイ観測“La Silla-QUEST”で、2014年に発見された超新星です。

今回、この“LSQ14fmg”をアメリカ・フロリダ州立大学の研究チームが分析。
超新星を観測して特性を調べる“カーネギー超新星プロジェクトII”の一環として行われたものでした。
超新星“LSQ14fmg”(Credit: Carnegie Supernova Project/Las Campanas Observatory)
超新星“LSQ14fmg”(Credit: Carnegie Supernova Project/Las Campanas Observatory)
“LSQ14fmg”はスペクトルの特徴からIa型超新星に分類されています。

Ia型超新星は、白色矮星に伴星などからガスが流れ込むことで質量が増加し、“チャンドラセカール限界質量”を突破したときに起こる爆発です。
“チャンドラセカール限界質量”とは、白色矮星が自分の重さを支えられる限界の質量(太陽の約1.4倍)。

同じ質量で爆発するので、Ia型超新星の絶対的な明るさや光度変化は一定だと予想され、遠方銀河までの距離を判定するのにも使われてきました。
ダークエネルギーによって宇宙の膨張が加速しているという現代宇宙論の基本知識も、Ia型超新星の観測から判明したことでした。

“チャンドラセカール限界質量”を突破する白色矮星

ところが、Ia型超新星のスペクトルを示しながらも、異なる挙動を示す超新星がいくつか見つかってきているんですねー
その中でも“LSQ14fmg”は差異が際立った存在でした。

爆発が始まったと推定される瞬間から明るさが最大になるまでの時間は異常に長く、その最大光度はIa型としては最も明るい部類。
逆に減光は急激に進みました。

このように通常よりも明るいIa型超新星の元になった白色矮星は、何らかの要因で“チャンドラセカール限界質量”を突破していたのではないかと推測され、“スーパーチャンドラセカール超新星”と呼ばれることもあります。

この超新星“LSQ14fmg”の発見及び研究を通じて期待されているのは、“チャンドラセカール限界質量”を突破するメカニズムを説明できる可能性があることです。

寿命を迎えた恒星の中に入り込む白色矮星

“スーパーチャンドラセカール超新星”は本当に独特で奇妙な現象です。
ただ、この現象に対する研究チームの説明も同じくらい面白いものなんですねー

今回、研究チームが超新星“LSQ14fmg”の観測に用いたのは、チリのラスカンパナス天文台にあるスウォーブ望遠鏡とデュポン望遠鏡、およびスペイン・カナリア諸島ラ・パルマ島のラ・パルマ天文台北欧光学望遠鏡でした。

観測データを分析してみると、“LSQ14fmg”は超新星爆発自体の光に加えて、爆発の噴出物が周囲の物質に衝突することでさらに明るくなっていたことが分かります。
さらに、一酸化炭素が形成されていた証拠も見つかっています。

この観測結果に基づき、研究チームは“LSQ14fmg”の元になったのは白色矮星と漸近巨星分枝星と呼ばれるタイプの恒星の連星で、両者が合体することで超新星爆発を起こしたのだと結論付けています。
年老いた軽い星である漸近巨星分枝星は、太陽のような低質量星の一生の末期にあたる。

漸近巨星分枝星は寿命を迎えて白色矮星となる寸前の恒星であり、大きく膨らみ赤く輝きます。
その表面からは絶えず物質が放出され、これが後に惑星状星雲になります。

爆発を起こした白色矮星は、表面から大量の物質を放出しつつある漸近巨星分枝星の中に入り込み、その中心核と合体することでチャンドラセカール限界質量を大きく超えたと考えられます。

爆発で飛び散った物質がすでに放出されていた物質と衝突したときの輝きは“LSQ14fmg”をさらに明るくしただけでなく、その増光のピークを遅らせる効果も生み出します。

通常のIa型超新星では生成されない一酸化炭素も、“LSQ14fmg”のゆっくりと増光する環境により生成。
同時に一酸化炭素の生成は、超新星を急激に冷却させ減光に転じさせる効果があったと研究チームは考えています。
惑星状星雲“NGC 7662(青い雪玉星雲)”。超新星“LSQ14fmg”は、このように物質が周りに放出された環境で起こったと予想されている。(Credit: Eric Hsiao)
惑星状星雲“NGC 7662(青い雪玉星雲)”。超新星“LSQ14fmg”は、このように物質が周りに放出された環境で起こったと予想されている。(Credit: Eric Hsiao)
今回、研究チームが行った“LSQ14fmg”の分析は、漸近巨星分枝星の段階を終えて惑星状星雲になろうとしている系において、Ia型超新星が起こり得ることを示す、初めての強力な観測的証拠。
また、Ia型超新星の起源を理解する重要な一歩とも言えます。

この研究は、Ia型超新星の起源に関する理解を深めるとともに、将来のダークエネルギーの研究にも役立つはずです。

ただ、これらの超新星は、ダークエネルギーの研究で使われる普通の(Ia型)超新星に紛れることもあるので、特に厄介な問題になる可能性があるようです。


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