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次の目標天体は小惑星“1998KY26”。地球帰還後の“はやぶさ2”はカプセル分離後に拡張ミッションへ!

2020年09月21日 | 小惑星探査 はやぶさ2
小惑星“リュウグウ”のサンプルを持って、2020年12月に地球に戻ってくる探査機“はやぶさ2”。
12月6には小惑星“リュウグウ”のサンプルが入っているカプセルを分離し、ミッションは完了するはずでした。
ただ、“はやぶさ2”にはイオンエンジンの燃料が半分以上残っていて、まだまだ使用可能な状態だったんですねー
そこで、JAXAが考えたのは別の天体を目指す拡張ミッション。
目標天体は多くの候補から2案にまで絞られていたのですが、小惑星“1998 KY26”に決まったようです。
地球に帰還するカプセルと飛び去る“はやぶさ2”のイメージ図。(Credit: JAXA)
地球に帰還するカプセルと飛び去る“はやぶさ2”のイメージ図。(Credit: JAXA)

なぜカプセルを12時間も早く分離するのか

地球に向けて順調に飛行中の“はやぶさ2”は、8月28日には復路の第2期イオンエンジン運転がほぼ完了。
今後は、軌道を精密に測定してから、9月半ばに微修正を行うことで、往復でのイオンエンジン運転は完了になります。

これにより、“はやぶさ2”は高度1000キロ以下という、地球ギリギリを通過する軌道に入る見込みです。

注目のカプセルの分離は12月5日の14時~15時頃。
地球からの距離は月軌道との中間よりやや遠い約22万キロで、分離は着地の12時間も前になります。

もともと8~12時間前の分離を想定して設計されていた“はやぶさ2”の再突入カプセル。
今回、その中で最も長い方の時間に設定されたのは、探査機本体の退避のためには分離は早い方が良いという理由がありました。

カプセルを早く分離すれば、その分退避運用も早く実施することが可能になり、余裕を持って運用でき、化学エンジン(スラスター)の推進剤も節約できます。
“はやぶさ2”は、地球帰還後に別の天体を目指す拡張ミッションを計画しているので、なるべく推進剤を残しておきたいところです。

一方、カプセルを精度良く着地させるためには分離は遅い方が良く、分離が早いことはデメリットになってしまいます。

ただ、初号機からの10年間で大幅に向上したのが軌道推定の精度です。
分離が12時間前でも“はやぶさ(初号機)”と同程度の着地精度を実現できるそうです。
初号機のカプセル分離は、“はやぶさ2”に比べるとかなりギリギリの約3時間前に行われている。これは、初号機には退避する能力がすでに無かったので、そのための時間を考慮する必要が無かった。

カプセルの分離と“はやぶさ2”の軌道変更

カプセルの分離で注目したいのは分離する方向です。

カプセルは探査機の進行方向に分離すると思いそうですが、実は姿勢を大きく変えてから、進行方向に対してほぼ直角に分離することになります。

カプセルは姿勢を安定させるため、分離時にはコマのような回転を与えられます。

この回転軸の向きは飛行中に変わらないので、このままだと横向きで再突入しそうでが、カプセルの軌道は地球の重力により大きく曲げられます。
再突入のタイミングで、ちょうどカプセルの飛行方向と回転軸が重なるように考えて、この角度で分離するそうです。

一方、“はやぶさ2”はスラスタ4本を全力で噴射。
軌道を外側にズラし地球への再突入を避ける行動に入ります。

この動作にはカプセル分離から1~2時間くらいしか時間がなく、最もクリティカルな運用になります。

ここで必要になる噴射量は“はやぶさ2”としては最大のもの。
1回30秒の噴射を3回行い、各噴射の間は冷却のため30分~1時間ほど空けることになっています。
“はやぶさ2”の地球帰還説明CG動画。(Credit: JAXA)
そして、今回最も注目したいのは、再突入するカプセルの撮影です。

探査機はカプセルの上空を並行する形になるので、再突入時の発光を観測できる可能性があります。
ただ、撮影は探査機の側面にある広角カメラ“ONC-W2”を使うため、写ったとしても「点が見えるくらい」になるそうです。

残念ながら、初号機の“ラストショット”のような地球の撮影は、時間的な余裕がなく今回は行われません。
地球については通過した後、離れていくときに撮影する予定。

拡張ミッションの目標天体

JAXAは2020年7月、地球帰還後に実施する拡張ミッションとして、小惑星“2001 AV43”と“1998 KY26”の2つを最終候補としていました。

その後、詳細な技術的成立性などの検討を進めてきた結果、“1998 KY26”の方が実現可能性が高いと判断。
カプセルを分離した“はやぶさ2”はエスケープ軌道に入り、拡張ミッションのため“1998 KY26”を目指すことになります。

“はやぶさ2”は2021~2026年中ごろまで巡行運用を行った後、小惑星“2001 CC21”をフライバイ観測。
そして、2027年下期に1回目の地球スイングバイ、2028年上期に2回目の地球スイングバイを行い、2031年下期に目標天体の小惑星“1998KY26”に到達する予定です。

ミッション期間はやや長くなりますが、2つの小惑星の観測が可能になります。
さらに、注目すべき点は、“1998 KY26”が“リュウグウ”と同じC型小惑星の可能性があること。
そう、探査では“はやぶさ2”の観測装置を最大限に活用できそうです。

そうは言っても、拡張ミッションには到達までにさらに10年前後の長い年月がかかり、地球帰還時の“はやぶさ2”は打ち上げからすでに6年経過…

過酷な宇宙空間での長旅に耐えられるのでしょうか?
“はやぶさ2”は“リュウグウ”でのミッションを達成済みなので、失敗を恐れずに拡張ミッションにチャレンジできる強みはありますね。


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