大映の女優さんの思い出は沢山ありますが、渚まゆみさんも忘れられない一人です。高
校生のまま大映に入り、「夕やけ小やけの赤とんぼ」(1961)がデビュー作でした。人柄
がとても良く、ややハスキーな声ですからどんな役にも似合うとは言いませんが、彼女
に魅せられたという人も多く、可愛くて仕方がないと思わせる女優さんでした。
お母さんもよく存じていますが、いかにも東北出身の女性という感じの明るく気さくな
方でした。渚まゆみさんも人柄がとても良く、ややハスキーな声にはとても魅力を感じ
ました。早くお父さんを亡くしたせいか、父親みたいな人と親しくなる傾向は当時から
ありましたから、後に27歳も年上の浜口庫之助氏と結婚した時に、私は少しも不思議と
は思いませんでした。
田宮二郎が退社して、福岡のキャバレーに出たことがあります。丁度来福していた彼女
も「一緒に連れて行って」と言うものですから、花束を持ってキャバレーへ。
歌いながら田宮が客席を回りはじめます。そしてやってきました私たちのテーブルへ。
さっと立上って渚が花束を差し出すと、驚いたのは田宮。「今晩はとても嬉しいことに、
「大映の渚まゆみさんと中島さんが来てくれています・・・」とお客さんに紹介、私たちも
嬉しかったし、楽屋では大映退社の生々しい話は一切しませんでした。
そんなまゆみさんとは一昨年の大映会で再会、また東京でゆっくり食事をしようと約束
しています。渚まゆみさんは現在75歳、浜庫さんが亡くなって、今はロンドンにいる娘
さん夫婦の所に行ったり帰ったりだそうで、お孫さんに囲まれて幸せな老後を送ってい
ます。私の頭の中では、明るく元気でチャーミングで少しはスキーボイスの彼女が、いつ
まで経っても離れてくれません。