私立小と言えば大学付属校のイメージが強いですが、ほぼ皆が中学受験し多くの子が外部の難関中学に進学する「中学受験に強い私立小」があります。受験小・中受小と呼ばれています。
神奈川県川崎市の「洗足学園小学校」や東京都中野区の「宝仙学園小学校」、東京都国立市の「国立学園小学校」などが有名ですね。
そういった学校に通うと、公立に通った場合よりも中学受験はどれくらい有利になるのでしょうか?それとも有利にはならないのでしょうか?
受験小から中学受験するメリット・デメリットを考えてみます。
受験小のメリット
授業進度が早く、内容も難しめなので優秀児には授業の効果が高い
受験小はどこも入学試験でペーパーテストを課しているため、一定以上の学力と勉強の素質がある子たちが入学してきます。
授業は文科省の学習指導要領に従って公立と同じ分野をやりますが、授業進度はかなり早く、カリキュラムも柔軟です。
(教科書通りにやるのではなく、まとめて教えた方がいいことなどは先の内容であっても先生たちの判断で教える)
公立の授業では物足りないお子さんには授業の学習効果が高いと思います。
先取り学習を活かせる
公立小では「まだ習ってない漢字は使ってはいけない」などと言われることがあるようですが、多くの受験小ではそんなことは言われません。
多くの子が入学前に先取り学習をしており、その知識を学校の授業でも活かせます。
皆が入学前にどの程度の先取りをしているかというと
・ほとんどの子が入学時点でひらがなカタカナを読み書きできますし、簡単な計算(足し算、引き算)もできます。
・自分の名前を漢字で書けたり、小学校低学年相当の漢字検定を取得している子も珍しくありません。
・公文を小学校低学年くらいまで進めている子もけっこういます。
中学受験を意識した授業をしてくれる
高学年の授業は中学受験を意識したものになっています。学校によっては、塾と共同製作したテキストを使うところもあります(塾のテキストを学校のカリキュラムに合わせて並べ換えたもの)
特に算数は習熟度別授業(レベルによって2つ~3つのクラスに分ける)で中学受験頻出の問題を解かせたりするので、塾と似た雰囲気があります。
塾通いを隠さなくていい
受験する子が少ない小学校では「あそこは教育ママなのね」「遅くまで塾で勉強させるなんてかわいそう」などと陰で言われないように、塾通いを隠すこともあると聞きますが、受験小ではそんな心配は無用です。
皆中学受験するので、そのことについてオープンに話せる環境があり、有益な情報交換もできます。
ママ友と情報交換ができる
保護者がほぼ皆が教育熱心で情報通なので、人気の習い事や塾、個別指導、家庭教師などについて情報交換ができます。
サピックスや早稲田アカデミーなどの有名塾の情報はもちろんのこと、「エクタス」「スピカ」「グノーブル」「エルカミノ」「ジーニアス」などの規模の大きくない塾についてもたいてい誰かお友達が通っているので、生の声が入ってきます。
(コロナ自粛中の対応はどうだった?最寄りの校舎の評判は?合格実績は?など)
先生方が熱心である
転勤のある公立と違い、私立小の先生はその学校の採用試験に自ら応募したということなので、愛校心が強いことが多いです。
(自分の子を自分の勤める小学校に通わせる先生もいます)
給料などの待遇も比較的良いため全体的に先生方に余裕があり、研究熱心で親身になってくれる先生が多いです。
また、公立の先生は担任の1人が多くの教科を教えますが、私立小では専門教科を中心に担当することが多いです。
(英語の先生なら英語だけ、国語の先生なら国語+社会を担当するなど)
先生自身がその教科を好きなので深い内容の授業をしてくれますし、子どもが質問したら熱く答えてくれます。
受験をサポートしてくれる
東京都板橋区の淑徳小学校では受験の心構え的な本をオリジナルで作成し、保護者に配ってくれます。
多くの受験小では、志望校選びのサポートもしてくれます。
(校内模試・全国模試の成績をもとに指導してくれる)
子どもの学校生活をよく知っている先生による指導なので、塾とはまた違った視点もあって参考になると思います。
似た価値観の友達ができる
私立小の悪い点として「多様性がない」ということを挙げる人もいますが、それはある意味メリットでもあります。
教育熱心な家庭の子しかいないので、ゲームやYouTubeを無制限でやらせるような家庭はありません。
「ゲームを持ってないと話についていけないから買ってよ」などと子どもにねだられる可能性も低いです。
ダイエットするならダイエットしてる者同士で仲良くしていた方が成功しやすい、みたいな感じで同じ中学受験という目標を持った子たちだけで集まるのはアリだと思います。
他の子が放課後ずっと遊んでいたら子どもは塾通いに疑問を抱くかもしれませんが、皆がそうなら当然のこととして受け止めます。
もちろん、多様性を学ぶのも大事なので学校とは別のところで多様性を学ぶ機会は作った方がいいと思います。
優秀なお友達から良い刺激が受けられる
受験小の学年トップの子たちは全国模試に名前が出るくらいハイレベルです。
そのようなお友達と日常的に交流ができるというのは、良い刺激になります。
皆が色々なテストや検定を受けているので、自分も受けようかという気になるかもしれません。
漢検・英検・数検、全国統一小学生テストなどには多くの子が挑戦していますし、算数オリンピック(低学年向けのキッズビー)や日本語能力検定・元素検定などややマイナーなものにも挑戦している子たちがいます。
勉強ができることが正当に評価される環境である
普通小学生くらいでは勉強よりスポーツの出来る子の方が評価されがちですが、受験小では「勉強ができるのは良いこと」という認識があります。
なので賢い子は尊敬されます。
受験小のデメリット
学費が高い
私立小に通うと公立に比べて年100万以上かかります。大学までのエスカレーターが保証されているならそれでも高くないかもしれませんが、受験小は直接大学にはつながらないので高いと感じる人も多いです。
教育費として出せる額が限られているなら、受験小へ入学させるのをやめて、その分の学費を習い事や塾や家庭教師にまわした方がいいかもしれません。
塾通いもほぼ必須
受験小がいくら授業進度が早く、中学受験を意識した授業をしてくれていても、学校での勉強はやはり塾とは別物です。
学校の時間割には受験科目(国語、算数、理科、社会)以外の授業もたくさんあるし、受験科目でも受験テクニックよりグループワークやICTの活用など別のところに焦点が置かれた授業も多いです。
多くの子は学校の勉強だけでは難関中学に受からないので、学校+中学受験塾に通うのが普通になっています。
家庭によっては、さらに個別指導や家庭教師をつけているところもあります。
中学受験塾だけでも高価なのに、それプラス私立小の学費や定期代制服代など諸経費を考えるとこわいことになりますね。
受験小の授業効果は「受験勉強の良いアシストになる」「学校にいる時間が無駄にならない」という程度だと思います。
それだけのことに学費を払えるかは各家庭でよく話し合ってください。
通学に時間がかかる
自宅の近くに良い私立小があればいいのですが、普通は遠くの学校に通うのでその通学時間と労力がもったいないという意見もあります。
片道30分程度ならさほどロスにはならないと思いますが、やはり徒歩だけで通える公立と比べると面倒さや不安はあると思います。
特に、新型コロナなど感染症が流行っている時には公共交通機関のリスクが高くなりますね。
また、通学に時間がかかる分、自宅近くの習い事や塾の開始時間に間に合わないということもあるようです。
気に入った学校に通えるというメリットに比べて、このデメリットをどう見積もるか難しい所ですね。
実際に遠方から受験小に通わせている家庭は、メリットが勝るという考えみたいです。
うちの子のお友達には電車で1時間半かけて受験小に通う子もいます。親も定期券を買って、低学年のうちはほぼ毎日送迎する予定だそうです。
子どもだけでなく親も大変そうですね。
優秀な子でも目立ちにくい
受験小には教育熱心な家庭で幼い頃から磨き上げられた「超優秀」な子が多いので、普通に公立に行けば「勉強できるキャラ」になれた子も、受験小では埋もれてしまうことがあります。
むしろ「自分は他の子と比べて勉強があまり得意ではないな」と勉強に苦手意識を持ってしまうおそれがあります。
「周囲の子より勉強ができる→自分の取り柄は勉強だと思う→勉強を頑張る」という流れに乗せたいなら公立の方がいいかもしれません。
「鶏口牛後」の教えではどんな集団でもいいからトップを取った方がいいとあります。また、心理学用語には期待されたら伸びるという「ピグマリオン効果」がありますね。
その観点から行くと受験小より公立小の方がいいのかもしれません。
受験小ゆえのトラブルもある
受験小はほぼ皆が受験するし親のプレッシャーも強めのため、受験勉強が本格化する高学年ではクラスの雰囲気がピリピリすることもあるようです。
いじめ、保護者同士のトラブルなども高学年で起きやすいと聞きます。
多様性がない
先ほど、「私立小には公立小のような多様性がないというのはメリットでもある」と書きましたが、やはりデメリットでもあります。
特に、将来、医師・弁護士・政治家などいろいろな人と接する仕事に就く場合には、幼い頃から日常的にいろいろな家庭の子と接しておいた方がいいかもしれません。
例えば、私の住んでいるのはわりと教育熱心なエリアですが、公立小にはネグレクトが疑われるようなお子さん、例えば虫歯を放置して、歯が真っ黒になっているお子さんなどもいるそうです。
そういった子の存在を大きくなってから知るよりも、子どものうちに知った方が弱者の気持ちが分かる医師・弁護士・政治家になれるかもしれません。
行事が忙しい
私立の方が行事(音楽会、語学研修、スポーツ合宿など)に力を入れているので、高学年でも気合いの入った宿泊行事などがあり塾とかぶってしまうことがあります。夏休みなどは塾の夏期講習と学校行事どちらに行くか迷う子もいるようです。
それが嫌で高学年で敢えて公立に転校するケースもあるそうです。
親の負担が大きい
私立小は公立小よりも親の負担が大きくなります。
例えば半分くらいの私立小に給食がないので、毎日お弁当を持たせる必要があります。
また私立小は行事に力を入れているので、親はその準備や手伝いが大変です。
子どもの勉強については、進度が早い分親がフォローしている家庭が多いと思います。
提出課題のフォローなどもやはり親がしています。きちんと課題を提出させる家庭が多いので、やっていないと目立ちます。
教育熱心な地域の公立とあまり変わらない
教育熱心な地域の公立なら、受験小と似たようなメリット(優秀なお友達、熱心な親、中学受験が当たり前の環境、高い進学実績)があります。
しかも授業料はかかりません。
子どもの小学校入学のタイミングでそういった地域に引っ越す家庭もあります(公立小移民と呼ばれる)
ただし、公立の方が先生の移動などもあり、学校の進学実績や雰囲気がコロコロ変わりやすい傾向はあります。
なので公立のレベルが高い地域に住んでいても、受験小の方が安心と考え敢えて受験小に通わせる家庭もあります。
また、受験小と同レベル以上の結果を出している公立小の学区に住むためには、非常に高い家賃を払う必要があります。
コスパを考えるなら、実は受験小に通った方が安くつくかもしれません。
まとめ
結局、受験小に通って中学受験が有利になるかどうかは、子どもと家庭の状況によるとしか言いようがありません。
上記のメリットとデメリットどちらを強く感じたかで選んだらいいと思います。
国立小からの中学受験はどうなの?
国立小からの中学受験についても少し考えてみます。
国立小は内部進学試験に受かれば高校まで行けますが、中学は外部受験前提で国立小に進学させる家庭もあります。
国立小を受験小のように使うということですね。
とりあえず国立小に進学してから、途中で内部進学か外部進学か決めたいという家庭もあります。
色々な進路の可能性があるのはよいことですが、どちらも中途半端になる可能性もあります。
多くの家庭が内部進学を狙う国立小からの中学受験は少数派なのでけっこう肩身が狭いと聞きました。
国立小の子は塾に通うとしても内部進学対策の塾なので、中学受験塾に通う子はこっそり通うようです。
そもそも国立小は教育実験校なので授業は受験勉強のためにはなりません。
実習生にお手紙を書いたり、行事に全力で取り組むなど公立にはない負担もあります。
親の手伝いも多いです。
また、内部進学を考えると先生への印象を悪くしたくないからあまり先取りさせない方がいい(知ってると授業を熱心に聞かなくなるから)のですが、それは中学受験の勉強とは真逆の方向性です。
というわけで国立小からの中学受験はあまりおすすめできません。
中学受験する可能性が高いなら、国立小ではなく公立小か受験小を選ぶのがいいと思います。
twitterでも受験小について呟いています
皆が中学受験で出て行く私立小。
そんな私立小に子を通わせる親の職業って何?答えは、医師が多い。夫婦共に医師という家庭も珍しくない(ただし妻の方が仕事を一時的に休んでたりする)
後は、エリートサラリーマン(金融やITなど)が多い。夫婦でエリートな所謂パワーカップルも多い。官僚もいる— 英才教育ママの端くれ (@eisai_kyouiku) June 6, 2020
必要なところへガッツリ課金するケースとしては
・家から学校が遠いからもう一軒家を借りる。もしくはしょっちゅうホテルに泊まる。学校の近くに駐車場を借りる
・子どもの習い事や体験、預かりにお金をかける。塾や家庭教師、英語学童、プログラミング、バレエ、バイリオン、スキー合宿、短期留学等
— 英才教育ママの端くれ (@eisai_kyouiku) June 6, 2020