おはなしのろうそく29/E・M・アルメディンゲン・作 小林いづみ:編訳/東京子ども図書館/2013年
古いバラッドをもとにした創作とありました。「ロシアのキエフの東」とはじまりますからウクライナが舞台です。
母マーサ、息子のポルカはふたり暮らし。とても貧しい暮らしでしたが、ポルカは森の中を歩き回っては、いつもなにかしら食べられるものを袋に入れて持って帰ってきましたし、また釣りも上手でした。ボルカはキエフの王さまにお仕えして黄金のテーブルの騎士になることが望みでしたが、宮仕に必要な支度を整える余裕などはありあせんでした。
そんなボルカが湖に落ちていた年とった巡礼を助けたことから運命が一変します。
巡礼が、すばらしい鎖かたびら、美しい白い麻のズボン、銀のふさのついた緑のブーツ、短いやりと斧を残してくれたのです。もう一つは羊皮紙で、文字の読めないボルカが教区の書記に読んでもらうと「願いがかなう。全部で九つ。ボルカの願いは六つ。ダニロ王子のためには三つ。それっきり」とありました。
小さいダニロ王子の願いは何かきいてこなくちゃと考えたボルカでしたが、自分のところの馬ではキエフまでいけそうにありません。
ボルカが「ぼくをあっというまに、キエフの城壁の真ん前につれていってくれる馬があればなあ!」と叫ぶと、目の前にはキエフの城壁が。一つ目の願いでした。
ところがダニロ王子は、はるかかなたの国からきた敵にとらえられ、身代金に真白な牡牛一万頭を要求されていました。そして黄金の騎士は、一人残らず牡牛をさがしにでかけて、まだだれも戻っていなかったのです。
王子を助けにいったボルカは、すぐに金のかごにいれられていた王子に会いますが、そこには大きな猟犬がニ匹いて、ちかずくものをかみ殺していました。ボルカが「二匹ともすぐ倒れて死ぬように」と願うと、犬は倒れてしまいます。
ボルカに残された願いはあと三つになりました。金のかごをあけるためにひとつ、食べ物をだしてもらうのにひとつ使うと残りはひとつです。
ところがダニロ王子が、異国の服と異国風の帽子をいつもの青い小さな上着と、ふさのついた緑のブーツがほしといいだし、ボルカが「おっしゃったような服があればいいのですが」と同意すると、王子の装いは王子にふさわしいものになりますが、ボルカは最後の願いを使ったことに気がつきます。
王子とボルカは馬で逃げ出しますが、すぐに追っ手に追いかけられますボルカは自分たちがキエフとは逆の方向に進んでいることを知っていました。途中ものすごい疲れを感じたボルカが一時間でも眠れたらと思っていると、王子は「きみがそんなに疲れてなきゃいいんだけど」と、声をかけました。王子がそういったとたんボルカは自分の疲れがすっかりとけたのを感じました。王子の願いは、だれかほかの人のことを願ったときだけかなうのでした。
キエフがそんなに遠いはずがないと、ボルカが馬に乗ろうとしたとき、王子は「きみがそんなに悲しそうに見えなきゃいいのに」というと、絶体絶命にもかかわらず、ボルカは、今まで感じたことがなかったほど幸せを感じます。王子のふたつめの願いがかなったのです。
王子がさらに「きみのお母さんが、キエフの町で、馬に乗っているきみを見ることができたらいいのにね」と願うと、ふたりはキエフの町の広場にいるマーサの顔を、目のすみにとらえることができました。王宮についたボルカは黄金のテーブルの騎士にくわえられることになりました。
次から次へとストーリーが展開し、ボルカが願いを使い果たし、キエフにつけるか心配になるところですが、最後王子の願いでキエフにたどり着けるまでハラハラです。
男ふたりが主人公というのは、これまであまりみられませんでしたし、協力し合うというのも さわやかな終わり方です。