Fish On The Boat

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『トラペジウム』

2019-06-15 22:56:27 | 読書。
読書。
『トラペジウム』 高山一実
を読んだ。

乃木坂46の一期生で人気メンバーの高山一実ちゃんによるデビュー長編。
本作が<『ダ・ヴィンチ』に連載>の報を知ったときから単行本化を待ってました。
なぜなら、本作に先駆けて『ダ・ヴィンチ』のWEBにアップされた
著者の短編がおもしろくて好きだったからです。
その割に、買ってから読むまでの期間が空きましたが、
まあ、それはいつものことということで。

待望の読書になりましたから、
ついに読むんだ!と、溢れそうな喜びで鳥肌をたてながら、
本書のページを繰り始めました。
最初の三行からしてもう期待をスコンと打ち返してくれる。
チャプター1を終えました段階で、とっても好いなあと。文体が好み。

アイドルを目指す女子高生が仲間を集めていって……というお話ですが、
そのまま空想物語が展開されて終わりとはなりません。
しっかり身を切ってくれたというか、
血を流してくれたというか、
覚悟して書きあげてくれたよなあと、リスペクトの念。

きっと著者と同世代の人たちからすると、
本書に触れることによって、
高山一実という人に必要以上に霧がかかって見える部分があるかもしれない。
360度へ向けて放射するように言葉をあてていっている感があり、
そこを掌中に収めるように読むとなると、同じ世代では難しいかなと思いました。
でも、べつに、すべてをわかっていなくても人と人は付き合うもので、
同じようにこの作品と付き合うことはできますからね、
それでいて、要点をおさえつつ読了に至ることは難しいことではないし、
いろいろなヒントなんかを本書から引っ張り出して考えてみたり、
自分の肉にしたりする読者は多いのではないか。
がんばって書いていて、
ところによってはひいひい言ってそうに感じるところもありましたが、
そこも含めて、よい書き手がでてきたなと思いました。
出し尽くそうとしている。

途中、……これはネタバレになりますが、
老人たちを踏み台にしてのしあがっていくところ、
弱者を踏み台にして!と思わないで済むのは
老人たちもバイリンガルで、けっこうな猛者だという設定もあるのですが、
これはひとつの年長世代へのカウンターであるととらえることができます。

年長世代による環境問題やエネルギー問題、年金問題などの、
若い世代への押し付けってありますよね、
そして、年長世代が経験や知識を活かして力を握ったままでいようともする。
そのくびきを受けるのが若い世代。
そういう構造を、さりげなくそして軽々と逆転させてしまった痛快さがあります。
まあ、これを読んでいる僕だって著者よりもずっと年長者ですから、
そこに痛みのようなものを感じはするのですが、
「反旗を翻す!」みたいな、頑なで感情的なものというより、
著者の知性でそうしているのだろうというような、
若い世代と老年世代の和解の可能性はあるだろうね、
という目測めいた予感を感じさせもするのですが、
そこには、本書にちりばめられた著者ならではのやさしい眼差しが
一役買っているのでしょう。
かといって、いじわるな表現が読者のこころをつついたりもして、
そこに、葛藤を経て成長していまの姿となった著者の軌跡をうかがえもするんですよね。
著者が深く自己省察するタイプの人であることがわかる。

というところですが、
デビュー長編にして緩急をつけていたり、
最後はしっかり締めていたり、
お見事といいたい。
総じて面白く読めました。
そして、しっかと受け取ったという気分です。


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