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『世紀末とベル・エポックの文化』

2020-11-16 10:58:22 | 読書。
読書。
『世紀末とベル・エポックの文化』 福井憲彦
を読んだ。

19世紀から20世紀にかけての世紀末、第一次大戦勃発前までのベル・エポックの時代。科学の進歩に伴って、社会はダイナミックに変化し、文化は新たなものが続々とあらわれてくる時代。それらを大まかに、かつ重要なポイントを見定めてまとめた本です。

産業革命以来、工業化によって豊かになり世界の覇権を握るようになったヨーロッパ諸国とアメリカ合衆国の、それがゆえの自己中心性に捉われた精神性の時代でもあります。電気が普及し始め、蒸気機関にかわって都市部に電車や地下鉄が生まれたのも、ガス灯から電燈に切り替わったのもこのころです。また内燃機関(エンジン)が発明されて、自動車が生まれたのもこの時代。電話が発明されて、欧米で通信網が整備されだしもしました。このようなところを見ていくと、現在の発展につづくその大きな起点となっているのが、この19世紀末なのだとわかってきます。

こうして、スピード化と効率化の急速な進歩とそれらによる流通の拡大によって、マスメディアの力が増していきます。その当時の大衆の間に蔓延していた排外主義に取り入るかたちで新聞は支持を集め、迎合する新聞記事によって大衆は排外主義をさらに加速させていく面があったようです。ナショナリズムの拡大や世界大戦への傾斜はこうして作られたところは大きいのでしょう。

また科学の分野では、パスツールらによって細菌が発見され、人に見えない世界というものが通常の世界に影響を与えることがわかるようになります。続いて、これも目には見えない人の心の世界をフロイトが切り拓き、見えない世界というものがより人々に意識されるようになりました。そこで、とすれば科学でもつかめない「見えない世界の力」、つまりそれこそ神秘の力が他にも存在していいのではないかとでもいうような心理が、黒魔術や占星術や超能力にいたるまでのオカルト思想・神秘思想までもを盛んにした側面があるということでした。これは科学が発達して存在感を増したことへの反発力でもあるみたいです(たくさんの矛盾する諸要素が流れ込むような状態が、オカルトへの傾斜を作ったとも)。

文化面では、アールヌーヴォー、印象派、象徴主義、などなど、おもしろい発展がみられ、それが現代へと続いて行く。

先に触れた、「見えない世界」の概念から考えてみると、この世紀末とベル・エポックの時代を知ることは、現代の流れを決めた今では見えない世界を知るようなことでもあります。現代を顕微鏡で眺めてみると、19世紀末とベル・エポックの時代が見えた、というような。

ほんとうに内容の濃い時代だなと思います。個人的にはストラヴィンスキーに興味があるんですよねえ。テレビでちらっと見たことのある『春の祭典』がツボです。


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