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『パリのグランド・デザイン』

2019-12-02 23:07:04 | 読書。
読書。
『パリのグランド・デザイン』 三宅理一
を読んだ。

花の都と呼ばれる大都市・パリの、都市計画の源流をみていくのが中心の本。
アンリ四世からルイ十六世まで、
ざっと五代の王の時代の建築と都市整備をたどります。

まず本書は、リシュリュー枢機卿という人物からはじまります。
鉤鼻で、権謀術数にたける策士といった風貌で、
デュマの『三銃士』では悪役として描かれていますが、
まあ、実際は権力争いで苦労しながらも生き延びた人でもあるようなので、
実際、政治力があった人物なのでしょうが、
その名もリシュリューという小さな町をつくっていて、
その街のすぐれた美的であり機能的であるデザインこそが、
その後のパリの都市整備(当時は「美装」と呼んだそうですが)の
源流と位置付けられそうなのでした。
いわば、結果的に、リシュリューは、
その後のパリの都市計画にむけた先駆的なイメージを持っていた。

建築も都市整備も、
そこに住んだり行き交ったりすることになる人々の動線を考えるし、
建物や街並みのデザインの美しさ・芸術性も考えて、
などなどいろいろな面をミックスして、
建築家の思う「これだ!」という良いところで落とし合わせて案として完成する。
そして建築アカデミーの会員たちのそういった案を集めたコンペ(設計競技)で、
実際に施工するデザインを決めているのですが、
そこには、権力争いや利権も絡んでいる場合もあったようです。

読んでいてふと思い浮かんだのは、
20年くらい前までが最後だろうか、
いい車を持っていることがステイタスっていう価値観がありましたよね。
そういうのを遡っていくと、
王様だとか宮廷貴族による宮殿などの建設、
つまり建築こそが、ステイタスを誇るいちばんの手段というところに行き着くなあと。
でも、一呼吸置いて再度、あたまの中をめぐらしてみると、
ステイタスを誇ることは確かにあっても、
芸術をそこに作りあげる欲望、美的な渇望があるなあとわかってきました。

また、話は逸れるけれど、こういうのがありました。
「効率を最大限とする近代的な合理性の考え方」なる一文が出てきて、
著者は「中庸の思想といえばそれまでだが」と引き取っているのだけど、
なぜそれが中庸かといえば、
合理性で失われるものを思考の内に入れているからですね。
たとえば豊かさを失しているわけです。

効率重視の合理化で
「お金が節約できたじゃないか!」
「時間が節約できたじゃないか!」
などの面ばかりを掲げて人々にそれしか見せないような現代において、
それが染みついてしまいほかに注意が向きにくくなっている中では、
自分たちの効率化の考えが中庸なものだとはなかなか気付けないわけですよ。

合理化を行使したことによってすべてを得られたんだ、
っていう感覚ってあると思うのです。
欲張りである我らの、その欲っするものすべてが手に入ったような錯覚。
それも最短で、というような。
そこのところをぐわあっと俯瞰して、
トレードオフの視点で見てみると、
やっとのことで「なんて中庸なんだろう」と気付けるのかもしれない。

そうなんですよね、
トレードオフっていう、
「何かを手に入れるとき」だとか
「何かを選択するとき」だとかに、
何を失うのか、なにが手に入れられないのかをしっかり意識しておく視点は、
木を見て森を見ずを回避するのに役立ちますよね。

閑話休題。

その時代時代で、いろいろな建築家が才能を弾けさせている一方で、
そういった建築家を抜擢する過程で政治があり、
事情があり、
うまく潮流にのって才能を形にできた人もいれば、
歴史に残らなかったけれど、
好人物だったり個性的だったりした人もいたかもしれない。
人の世とはそういうものだなあと最近は思いもするんですよ。
本書は表立ったところの、
パリが都市として成立するその風を感じられる感があります。

建築なんてほとんど追ったことのない分野ですが、
たまにそういう方面に触れてみるのも面白い読書体験になりました。
最後に一言ですが、
パリは下水施設の成立が遅く、汚くて臭かったという話を
たとえば『ブラタモリ』で聞きましたし、
それは本当だということですが、
そのあたりの話はありませんでした。
視覚的な部分に重きをおいた、パリの都市計画のお話でした。


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