たにしのアブク 風綴り

85歳・たにしの爺。独り徘徊と喪失の日々は永い。

羽根藩に名君の現れ――葉室麟「草笛物語」を読む

2019-08-02 16:57:52 | 本・読書

大型活字で読む時代小説。葉室麟シリーズ―ー、
今回のレビューは「草笛物語」になりました。

これまで葉室作品は「冬姫」「川あかり」「螢草」「潮鳴り」
「蜩ノ記」「散り椿」の読みレポを書きました。
現在、NHK「BS時代劇」で「螢草」が<菜々の剣>として、
清原果耶が主演、菜々の役で放送されています。



「草笛物語」は羽根藩シリーズの最後になる作品です。
九州の豊後地方(大分県)の小藩・羽根藩の跡目騒動劇です。
シリーズの第一作になっている「蜩ノ記」の始末記と言えます。

「蜩ノ記」の主人公・戸田秋谷は蟄居を命じられ、
藩の家譜を執筆して10年後、無実の罪を承知の上、
自刃してから16年の歳月が流れていた。



向山村での蟄居中の秋谷の監視役を命じられていた壇野正三郎。
同じ家に暮らすうちに秋谷の人間性に魅せられ、師と仰ぐようになった。

そして秋谷の娘・薫と夫婦になり、桃と言う娘もいる。
藩の要職に戻ったが相原村にある「薬草園」の番人をしている。

秋谷の嫡男・郁太郎は戸田順右衛門となって中老に就いている
自己にも藩政にも厳しく律し「鵙」(もず)と呼ばれていた。



このような藩の事情を背景に物語は始まる。
江戸屋敷には元服前の世子(藩主の後継者)鍋千代が居る。
小姓役の赤座颯太は同い年で遊び仲間でもあった。

藩主の吉房は病で亡くなる。
鍋千代が若くして藩主を継ぎ吉道と名を改めお国入りとなる。
小姓役の颯太ともに豊後・羽根藩に入る。

気弱な颯太は薬草園の番人・壇野正三郎の下で、
小姓役を務めながら学業・武術を修業することになる。

若き藩主・吉道は規則ばかりのお城暮しに反発、
颯太を通じて城下に度々、野駆けをするようになる。



ある日、秋谷の残した「蜩ノ記」を見たいと言うことで。
壇野正三郎の家を訪問し正三郎から、
秋谷の生き方を聞き、藩の事情も知らされる。

藩内には若き藩主・吉道には組せず、
一門の三浦左近(月の輪様と呼ばれている)を、
藩主に担ぎ出そうと画策する一派が暗躍し出すのだった。

またしても羽根藩のお家騒動が始まる。



秋谷の遺していった姉の薫、妻とした正三郎、娘の桃。
弟の郁太郎・戸田順右衛門。慕う亡き源吉の妹・お春。
逞しくなった小姓・赤座颯太。戸田順右衛門の娘・美雪。

若き藩主・吉道と颯太をはじめ若い小姓たちが、
藩に蔓延る因縁遺恨を乗り越えて成長する姿が清々しい。。
正三郎と順右衛門「われわれはついに名君を……」

草笛が「ピーッ」と響いて、
蜩の鳴く声が空から降るように聞こえる。
羽根藩のお家騒動も大団円の模様です。

誰でも文庫「草笛物語」葉室麟
発行発売 大活字文化普及協会
2018年1月31日 印刷発行

2 コメント

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拝読しました (雨曇子)
2019-08-05 14:49:59
かなり込み入った筋書きを
整然とまとめられましたね。敬服です。
”はっぴいえんど”のようで何よりです。
葉室作品としては、軽いです (谷氏)
2019-08-06 08:52:45
雨量子さん、コメありがとう。
葉室さんの作品としては、物足りないくらいに、
明快すぎます。
「蜩ノ記」が重い作品でしたので、
その後日談として、
秋谷に関わった家族、周辺の人たち、
若き藩主にも秋谷の生きざまが伝わっていった。
羽根藩の行く先に光を見た、
そういう感じでした。
時代劇はいいですね。