油屋種吉の独り言

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MAY  その62

2020-08-11 02:44:47 | 小説
 数日後、メイの住む森にニッキが乗った宇
宙船が再び到着した。
 そのことを最初にメイに知らせてくれたの
は、ジェーンだった。
 久しぶりに会った二人は、思わず互いの無
事を喜びあった。
 「ジェーン。帰って来てくれたのね。わた
しとっても嬉しい」
 メイの目がしらがたちまちうるんだ。
 「そんなに喜んでくれるなんて。わたしな
んだか恥ずかしいわ。きょうだい姉妹まであ
なたの家でやっかいになってしまい、わたし
とっても肩身がせまかったし、それに世間が
あなたの家庭の誰かが敵と通じているんじゃ
ないかって。ことさらにわるくいいだしたか
らわたしまで……。メイちゃん、うたぐって
わるかったわ」
 ジェーンの声がうわずり、もう少しで彼女
は泣き出してしまうところだった。
 ジェーンのスカートのすそを、右と左で引っ
ぱっているふたりの妹ジルとミルも泣き顔に
なった。
 ふいに、みゃあおおっと猫が鳴いた。
 あらら、と、メイは思わず声を出し、その
場にしゃがみこむと、
 「猫ちゃんも来てくれたんだ。おいでおい
で。どこにいるの。ほら、こっちよ」
 大きな明るい声で呼んだ。
 「わたしたち、一度はもうメイんちでやっ
かいになるまいって決めたんだけどね。うち
には潮も砂糖も何もかもまったくなくなって
しまうし、頼れるところも、もともとほかに
ないし」
 ジェーンはうなだれた。
 「いいの、いいのよ。ジェーンちは大変な
んだもの。ところであなたのお母さん、どう?
元気になった?」
 「うん、ちょっとずつだけど。でもね。ま
だ立って歩けるような状態じゃないの」
 「そう。だったら、だんだんに良くなるわ。
良かったらずっとわたしんちにいていいのよ。
モンクおじさんだって、メリカおばさんだっ
て元気で働いてくださってるしね。ふたりと
もジェーンがまた来てくれたって、きっと喜
ぶわ。さあ、いつまでも戸口で突っ立ってな
いで。中にはいって。メリカおばさんはちょっ
と離れた友だちのところに行っててね。わた
しひとりで留守番よ。外は寒かったでしょ?
この間なんか初雪がちらついたもの」
 「ええ、そうだったわね、森の泉に水をく
みに行ってるからわかったわ。でもね、なん
だか前ほど泉がわかなくなったし、暖かくな
るまで山菜もとれないし……。ああそうそう
ここに来る途中で、わたし宇宙船見たわ。森
の中に着陸したみたかったけど。低空で飛ん
でたし。きっとわたしたちを発見したと思う
んだけど、危害を加えなかったわ。きっと味
方の船ね」
 「それって、きっとあの方の船だわ」
 メイが眼を輝やかせた。
 「知ってるんだ、メイ。あの人って、誰?
教えて。わたしの知ってる人?」
 「たぶん」
 メイは、その船がニッキのものにちがいな
いと思った。
 ジェーンに、ニッキの船よって、率直に答
えるのを、メイはなぜかためらってしまった。
 メイはジルとメイを見た。
 彼らの飼い猫はあちこちせわしげに歩きま
わっては、ものに彼の鼻を近づけた。
 「行儀がわるくってごめんね、メイ」
 「いいのよ。いいの」
 ちょうどそのとき、ジルのおなかがぐうっ
と鳴った。
 「台所に行きましょ、みんなでね。さっき
焼いたパンが残ってるから」
 ふたりの姉妹は、わあっと叫んで、メイの
あとについて行った。
 テーブルのわきにすわるなり、メイは三人
分のパンを皿に盛った。
 ジルとミルがパンをちぎりちぎり食べだし
たのを見て、ジェーンは眼をほそめた。
 「ありがとう、メイ。ほんと、うれしいわ。
でも、さっきのあの宇宙船ね。いったい誰が
乗ってるの?知ってるんならわたしにも教え
てくれればいいのに。ひょっとしてメイ。わ
たしに何か隠してない?とってもうれしそう
なんだもの」
 「知らないわ。だって、わたし、その宇宙
船、じかに見ないとわからないもの」
 「そうかもね。でもちょっと変よ。メイっ
たら」
 そうかしら、とメイはジェーンに答えた。
 喜びがこれ以上顔にあらわれるのを、メイ
は必死でこらえた。
 (あの船に夢にまでみた父が乗っているか
もしれない。それに母にも、きっと会えるわ。
小学校の運動場の土手や、わたしがあぶない
ときに、かげになりひなたになり、ずっとわ
たしを見守ってくれた。あの人がきっとわた
しのお母さん)
 そのうちに、そのうちにという思いが、メ
イのこころの中で大きくなってきた。
 メイの息があらくなった。
 
  
 
 
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