ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

今の惨めな自分が許せない?

2020-07-02 07:53:19 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「歴史に学ばず」6月26日
 連載企画『この国はどこへ コロナの時代に』は、歴史学者與那覇潤氏へのインタビューでした。その中で與那覇氏は、『以前は「もっと歴史から学べ」という考えだったが、うつの体験を経て考え方が少し変わってきた』と語っていらっしゃいます。
 そしてその理由として、『うつの時に何が一番つらいかと言うと、病気になる前の自分と今とを比べることなんです。あれもできた、これもできた、なのに今はと思うと本当に苦しい。今の日本人も同じで、昔を振り返れば過去の栄光しか思い出さない。昭和の高度成長や前回の東京オリンピックの感動、自民党を下野させた平成の政権交代。それらはもう忘れて、今だけ考えましょうという方が生きやすい』と述べていらっしゃいました。
 とても斬新な指摘だと感じました。一方で、疑問も感じました。私は與那覇氏が例示した「過去の栄光」を実体験してきた世代です。つれあいとも、「自分たちは、戦争もなく、大きな災害にも合わず(阪神淡路大震災も、東日本大震災も東京にいて直接に被害を免れました)、正規職員で就職するのが当たり前で、給料が上がるのも当たり前。20代で持ち家に住み~」というような話をよくします。世界第2位の経済大国、アジア唯一、有色人種唯一の先進国。東京五輪の東洋の魔女の偉業を生で見、大阪万博の原子力の電気も誇らしい気分でニュースを見つめたものです。
 そんな私たちであれば、凋落した現状と比べてしまうので過去は思い出したくないという感情をもつことはあり得るでしょうが、生まれてこの方、経済は低調が続き、中国に追い越され、やっと職を得ても非正規雇用で不安定、という若い世代が、過去を振り返りたもくない、と考えるのはおかしな話です。與那覇氏の考え方に沿うならば、惨めな過去を経験してきた若い世代ほど、現実社会に少しでも上向きの兆候を見出せば、過去を振り返り、「自分たちはあの惨めな過去から抜け出してきたんだ」という誇りや満足感を覚えるため、積極的に過去を知ろうとすることになります。
 もちろん、惨めから脱却したと過度の誇りをもつことは、中国や韓国を見れば明らかなように、間違ったナショナリズムを助長する危険があり、望ましいことばかりではありませんが、歴史を知ろうとする姿勢は悪いものではありません。
 しかし、與那覇氏自身が、『若い世代の短期記憶が落ちたとする説もある。忘れっぽさや歴史の軽視は日本に限らず、世界の傾向だが~』と述べ、歴史軽視は若い世代に顕著だと指摘なさっている通り、若者の歴史離れが目立つのが現実です。若者の歴史軽視の要因は何か、與那覇説だけでなく、きちんと検証することが必要です。そしてその是正に学校教育は、歴史教育はどのような貢献ができるのかが問われていると思います。

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