My Audio Life (趣味のオーディオ)

真空管オーディオを中心に、私のオーディオチューンアップについて書いています。最近はPCオーディオにも取り組んでいます。

年代物のDAC (SONY DAS-703ES)を入手しフル・メンテナンス。~30数年前の名機が蘇る~

2018-12-01 20:52:39 | DAC

年代物の銘DAC SONY DAS-703ES "を入手し、オーバーホール、フルメンテナンスを行いましたので、その内容を書き留めておきます。

これが、先日我が家にやってきたDACのお姿です。往年のSONYのブラックフェースです。
尚、上奥に見えるのはREVOX B226(TDA1541A-S1に換装品)です。

このDACは、1986年頃の発売、当時価格25万円。
今でも人気があり、オークションでも高値で取引されています。

人気の理由は、物量投入、強靭な造り、CDを開発し世に送り出したのSONYの拘りが盛り込まれているからだと思います。DAC単体なのに、重量は16Kgも有ります。

使用されているDAC ICは、Burr Brown製のPCM53JPで、抵抗ラダー型のマルチビットDACです。

私がこのDACに目を付けたのは、1bitΣDACの音が私の好みに合わない事と、マルチビット型の中でも今愛用しているREVOX B226のTDA1541AのDEM型とは、また違うだろう音を聴いてみたかった事(マルチビットDACではフィリップスとバーブラウンが両巨頭)、使用部品への拘りと物量投入されている点、それと2fsオーバーサンプリングも魅力のひとつ(NOSも聴いてみたいが)です。


加えて、CD規格開発のソニーがCDの事は一番熟知しているので、ツボを押さえた設計になっているのだろうと。
また、この頃までが中島 平太郎先生や当初PCM開発メンバーの息が掛っているのかな?と。(勝手な妄想です)

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この後継であるDAS-R1aなども考えましたが、値段が高い事と、光ツインリンクを追加しているために避けました。その性能を試すためには、対応したCDPが必要になります。

この度入手したDAS-703ESは、動作品と言う事で落札したのですが、実際に我が家のシステムに接続して聴いてみると、ぱっと聴きは良いかなと思いましたが、じっくり聴くと何か宜しくないです!? 
音にノイズが乗っている様な。そして、、、長時間聴いていると、ノイズが盛大に混じる様になりました。

まあ、オクだから仕方ないですね。
修理の楽しみと、同時に回路解析の勉強も出来ると前向きに考え、フル・メンテナンスに挑みました。

 

ここからメンテナンスの全貌です。 備忘録として、詳細に書きますので少し長くなります。

~ 開腹作業、内部公開 ~

何はともあれ、開腹作業から開始です。
内部のお披露目です。本体構造上、完全に密封されているので、内部は綺麗でした。

見事なまでの部品群、物量です。しかも整然とレイアウトされていています。眺めていても気持ち良いです。

電源トランスは、左側がアナログ用、右側がデジタル用です。
右側1個だけでCDプレーヤーが作れるような容量です。左側のトランスはアンプが作れそう。トロイダルでしょう。

基板は、左が電源基板、中央がアナログ、銅シールドボックスに覆われた右がデジタルブロック、これらはソニー拘りのES基板が使われているそうです。そして右手前がヘッドフォン・アンプ、右奥がデジタル入力切換と端子部、中央奥がライン出力端子部です。

主要な電解コンデンサは全てELNAのCerafine セラファイン(赤)です。大型電解コンもELNA Cerafine NC NEGATIVE(黒)です。

また音質に影響する部分の抵抗は、大型の抵抗(青)が使われています。これはもしや、いつか見た事のある、既に製造終了の理研のカーボン抵抗"リノケーム" ?

アナログ基板の拡大です。

左側の青い大きな箱は、特注のカップリングコンデンサです。双信製? 
右側のオレンジ・セラミック放熱板の下にあるICがDAC IC PCM53J(Burr Brown製)です。
シールド板でその後のアナログ回路と仕切られています。
左右シンメトリーの部品配置で綺麗に並べられています。気持ちが良いですね。憧れます。
左右chの間に立てられた銅板はグランド・バーです。

信号は、迷走する事なく右から左に流れて、左端からアナログ信号が出力され、シールド線でリアパネルへ戻します。このケーブルにLC-OFCを使っているのでしょう。

PCM53Jの裏側辺りにあるSONY製シリ・パラ変換ICです。SONYは半導体部門も持っているので強いですね。

ヘッドフォン・アンプ部です。

デジタル・ブロックの銅メッキ鋼板のシールド・ボックスを開けたところです。
右側の基板は、デジタル入力端子、入力切替部です。

デジタル基板を取り外し、部品実装面を見たところです。

汎用ロジックICで組まれており、綺麗に並べられています。ディスクリートDIR回路も有ります。
中央の銅バーは+5V電源とグランド・ラインのバーです。
ここにもCerafineの電解コンデンサが使われています。

デジタル入力(SPDIF)端子とその切換基板です。入力の切換はNANDゲートで組まれています。
ここにもCerafineの電解コンデンサが使われています。

電源スイッチ周り。
アナログ用ヒューズは半田で直付けしてありました。接点の音への影響を嫌ったのでしょうか。

フロント・パネル裏です。ランプや切換スイッチ類。

 

~ メンテナンス開始! ~

メンテナンスは、一般的なところから順を追って施して行きました。

<リレーの接点洗浄>

オクに出品されている個体でも、このリレー洗浄、交換したものがあります。接触不良に成り易いのでしょう。
リレーは計6個が使われています。
ミュート用が4個(LINE OUT、HPA)、エンファシス切換用に2個。
エンファシスとは、高域補正用信号で、TOCや各トラックのサブコードにフラグが立てられる様です。今でもこの様なCDが存在するのでしょうか?

この品番のリレーはすでに絶滅品なので、洗浄を施しました。

洗浄には、有名なケイグ(caig)を使用しました。ケイグ塗布後にリレー・クリナーで洗浄。

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ついでにリアパネルの入出力端子もケイグ処理を施しました。

 

<半田打ち、再半田>

続いて、全ての基板、端子に再半田を実施しました。これは、結構時間が掛りました。

基板だけでも、電源/アナログ/デジタル/入力/出力/ヘッドホンアンプ/ランプ/電源スイッチ/ヘッドホン端子があります。
実はもう一枚、デジタル基板上にVCO基板があります。→ 実は、これがクセ者。後で書きます。

半田材料は、アナログ部/電源基板には「ケスター44」を、デジタル部には「アルミット KR-19RMA」を使用しました。
所々、経年劣化に伴う半田クラックが見受けられました。

基板上には、半田ブリッジで繋いでいる箇所も有るので、元の通りに忠実に再半田する必要があります。(パターン・ミス?)

それと、この電源基板やアナログ基板を止めているビスですが、非磁性体の真鍮が使われています。これも拘りですね。

コネクタ類は、一度外して、「リレー・クリーナー」で洗浄しました。

フロント・パネルが外れ難くて苦労しましたが、力尽くで外しました。
経年で貼り付いているだけだった様です。

 

~ 調整 ~

ここまで終わって一旦調整に入ります。

①アナログ・ライン出力段のアイドリング電流の調整

 100Ωの両端の電圧を測定します。
 8~9mAで調整する様に指示がされていますので、半固定VRで調整を行いました。 

 

②ヘッドホン・アンプ出力段のDCバランスの調整

 プッシュプルのDCアンプ構成になっています。0Vになる様に調整しました。 

③ライン・アウトの出力レベル調整

 テストCDを使用して、左右のレベルが一定値かつ同一レベルであるか確認。今の設定で問題なさそう。 

④サンプリング周波数(FS)の調整

 指示通り、2.67 ± 0.02mSに調整しました。はっきり言って調整が難しい。

 

 ここは、後ほど実動作で波形確認しところ、電源投入時や切り替え時に1発出力するだけなので、これはサンプリング周波数モードの選択に使っているだけとわかりました。

 

ここまでやって、音楽を聴いてみます。 暫く聴いていると、やはりノイズが混じり始めます。あ~~⤵。

気合を入れてマニュアルに記載のある全ての波形をオシロスコープで確認することにしました。
脳内アドレナリンが噴き出し始めます(笑)・・・。

すると、やはり異常の個所があります。

異常な波形がありますが、何故異常なのか? 原因の特定が出来ません。
そんな甘くは有りませんでした。
やはり回路構成を理解する必要があります。ここでかなり勉強させて貰いました。 

このDACにはクロック発振回路が2個あります。"RX PLL"と"APT PLL"と言うそうです。

「ジッター追尾型のデジタル用PLL」と「ジッター非追尾型のアナログ用PLL」があり、この性格の異なる2個のPLLを組み合せた高精度なダブルPLLとなっています。

これにより、入力信号にジッターが含まれていても正確にデータを復調し、一方でアナログのサンプル&ホールドは、ジッターの影響を受けない様にしているそうです。
なるほど素晴らしい!私が言うのも烏滸がましいですが、良く考えられています。流石、ソニーのエンジニア!。PCM信号の扱いを熟知しておられます。

RXは"SN74LS624N"と言うVCO IC 1発で作られていますが、APTはディスクリートで組まれたVCOです。わざわざディスクリートで組んである理由はわかりませんが、何か理由があったのでしょう。

そして、このディスクリート回路は、デジタル基板上の小型のシールド・ボックス内に収められています。

もしやと思い、このVCOの出力を見ると、波形が出ていません。発振していません。これだぁ!⤴

デジタル基板からボックス(銀箱)を外して、半田部分を確認します。

やはり、クラックが発生しています。しかもボロボロです。かなり酷い。

元半田部分を熱すると、ブツブツと泡が出てきます。錫がボロボロになってクラックやボイドが発生していたのでしょう。

半田材料にも拘るソニー様が、こんな仕事をするとは思えないので、このブロックだけ外部購入、或いは外注に作らせたのだと勝手に想像します。
ソニーの高級機では、オリジナルで開発したオーディオ専用半田を使用していると、何かの記事で読んだ事があります。

ここは、「アルミット KR-19RMA」で再半田しました。

デジタル基板上に組み直し後は、正常な波形、マニュアル通りの波形になりました。ヨシ!関門突破!!!

  ⇐修理後のVCO波形(歪んでいますがマニュアル通りです)

この状態で暫く音楽を聴きながら様子を見ます。 ノイズの発生も無く、問題は無さそうです。
念のため、さきほど調整したサンプリング周波数、出力レベル等を再確認します。こちらも問題は無さそうです。

 

~ 特性確認 ~

これでひと通りのメンテナンスが終わりましたので、特性を測定してみます。

ライン出力レベルの確認、周波数特性の確認を行いました。

テスト用CDとしては、無線と実験に付録の「2010年5月号付録のMJオーディオチェックCD」を使用しました。

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一枚あると便利ですね。

これ以外にも自作のテスト用CDも使いました。
各周波数、1KHz -60db/-90db、矩形波、ホワイトノイズ、ピンクノイズ(エージング用)なども入れています。

特性測定の結果、問題は無さそうです。

 

と言う事は、今回我が家に到着時点では、VCOが片側しか動作していなかったという事です。
これでは、このDACの特徴であるダブル・クロックでの同期が出来ていなくて、本来の音質が得られていなかった事になります。

道理で、CDトラックの終わり辺り、つまり円盤の外周付近では、同期が外れて(追随出来ていなくて)ノイズが出ていたと想像できます。円盤の外周では、ピックがブレやすく、サーボノイズも多く、ジッターが増加していたとも思われます。

 

~ 試聴 ~

このブログを書きながら聴いていますが、1bitΣ DACには無い、芯の有る骨太な押し出し感のある力強い音です。音密度が濃いけど切れがあります。この音質は人それぞれ好みがあるでしょうが、私が望んでいた期待通りの音の様です。

ジャズや、ボーカルものが、とても気持ちよく聴けます。
しかし、いつもの事ですが聴き込むにつれて評価が変わる可能性は有ります。

 

このDACの特徴は、デジタル部では、CDに刻まれたデータを正確に100%引き出す事に専念、アナログ部ではジッターを含まずにDA変換することに徹しています。まさにデジタル・オーディオ再生の原理原則に基づいた設計となっています。
また部品は高音質部品を採用、電源は余裕ある設計、シャーシは振動を受けない様になっています。配線材料も太く余裕があります。随所にソニーの拘りがあります。

この製品は、回路構成的にも、デザイン的にも、出てくる音に対しても芸術品と言えるでしょう。
今でも充分通用すると思います。

当時として良いと考えられる技術は、すべて盛り込んだ製品だと言う事だそうです。

ハイレゾと言う前に、CD-DA規格(16bit/44.1KHz)でも理屈を抑えれば、ここまでの音が出せるという事を証明する様なDACです。最近のデジタル・オーディオのハイレゾ化競争を再考させられます。

 

【DAS-703ES 技術的ポイントまとめ(私の着目点)】

今回のメンテナンスを終えて、この機種の設計仕様で、私が特に着目したポイントを書きます。
このモデルに関して投稿されている記事などを参考に、色々と勉強をさせて頂きました。

回路構成ポイント 

①内部に発振周波数を固定したクロック振器を持たない。

 入力フォーマットに同期したPLL回路を原発振として必要なクロックを生成している。
 このVCO+PLL回路を2種類持ち、一つは入力データにジッターが含まれていても追尾してデータを正確に復調、もう一つはアナログ変換用でジッターの影響を受けない様にしている。

②DA変換時のデーター書き換わり直後の電流の暴れをグリッチする様に、サンプル&ホールド回路が設けてある。

③2倍オーバーサンプリング。

 この意味するところは、低次にする事で、ジッターやプリ・エコー、ポスト・エコーが抑えられる。

④アナログ出力のアンプが、MOS-FETを使用したディスクリート構成のバッファ・アンプである事。

⑤デジタル部とアナログ変換部は、フォトカプラーを使用して、グランド・リターン・ノイズを遮断している。

 

使用部品 :

写真を見てもわかりますが、専用のオーディオ部品、高級部品、電力的に余裕ある部品が使われています。
相当な物量投入です。

ロジックICはDIPタイプが使われています。信頼性上も有利か。
これらの部品を使って、今の時代に組もうと思うと、幾らかかるのでしょうか?
1986年当時の本体価格が、25万円なので、今なら2倍の50万円???

 

【音質的評価(私の主観、個人的な感想です)】

ストレートかつ明瞭でしっかりと芯の有る音です。特に低音の質感と空間表現が良いです。
ちょっと気になる点としては、音に滑らかさが無く、少し耳障りなところです。長時間聴いていると疲れます。
これは2倍オーバーサンプリングが影響しているのでしょうか?

 

修理後、すでに延べ30時間以上稼働していますが、今のところ動作上の問題はありません。
今回のメンテナンスで、ベースが出来上がりましたので、ここからはエージングと、私なりのチューン・アップを施して音の変化を楽しみたいと思います。主にはデジタルノイズを取り除く改造になると思います。


※お断り:

このブログを見て、「ヨシ、自分もこの製品のジャンク品を購入して修理してやろう!」と言った、無謀な行動は避けてください。
良い子は真似をしないでください(笑)。
年代物ですので、個体より不具合箇所もそれぞれ違います。
修理が必要な場合は、専門業者に依頼して下さい。さもないと単なる置物になる可能性もあります。
ご自身で修理する場合は、それなりの知識、道具、技量、根気が必要です。
そのことを理解した上で、自信がある場合は、自己責任で修理に挑戦されても良いと思いますが、その場合、このブログ内容について一切の責任は待てません。 


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