今シーズン序盤から好調を維持し、ソフトバンクとの激しい首位争いが続いている千葉ロッテマリーンズ
ロッテは12球団では最もリーグの年間勝率1位から遠ざかっている球団であり、46年間リーグ勝率1位になった経験がありません。終止符を打つためにも、オフから積極的な補強を行い、ブルペン運用に関しても厳格なルールの下で起用を続け、高い評価を受けています。
またシーズン中には巨人から澤村拓一を獲得するなど、例年になく積極的な姿勢で動いている印象です。
しかし一方で外国人選手で見ると、ジェイ・ジャクソンが退団。ブランドン・レアードが腰のケガで今季中の復帰は難しく、フランク・ハーマンが指のケガで離脱するなど1軍の外国人枠が空いている状況。
しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響で、MLBではマイナーリーグの開催が中止。また入国に関しても2週間の隔離措置が必要ということもあり、9月30日までの補強期限で外国人選手の新規獲得は難しい印象でした。
そんな中で9月21日、千葉ロッテマリーンズが中日やボルチモア・オリオールズなどで日米通算95勝を挙げたチェン・ウェインを獲得したことを発表しました。
ロッテが元中日チェン獲得 10・5以降に入団会見(日刊スポーツ)
ロッテは21日、元中日で米大リーグでもプレーした台湾出身の左腕、チェン・ウェイン投手(35)を獲得したと発表した。
背番号は58。19日に来日しており、2週間の隔離期間が終了する10月5日以降に入団会見を予定している。
NPB通算127試合36勝30敗1セーブ、防御率2.59。MLB通算219試合59勝51敗、防御率4.18の実績を持つ。
球団を通じて「マリーンズに入団できて、とてもうれしく思います。日本一になれるように全力で頑張ります。マリーンズは10年に日本シリーズで負けた時の印象が強いです。悔しかったです。あと応援がすごく独特だったのを覚えています。ZOZOマリンスタジアムはなんといっても風ですね。風をうまく生かした投球ができればと思います。対戦したい打者はたくさんいますが、1人挙げるとすればホークスの柳田選手です。とにかくチームの勝利に貢献できるように精いっぱい、頑張ります」とコメントを発表した。
今回は、ロッテに入団が決まったチェン・ウェイン投手について書いていきます
日米で通算4度の2桁勝利を達成 ここ数年は故障の影響で成績不振が続く
チェン・ウェインは台湾・高雄市出身の35歳。
2003年末に中日ドラゴンズに入団。2005年には10試合に登板し、プロ初セーブをマークしたが、2006年に左肘の靭帯断裂、疲労骨折で手術を受け、2007年は育成選手として契約し、リハビリに専念。
2008年は怪我が完治したことで支配下選手として契約。4月2日巨人戦で来日初勝利、7月16日巨人戦では先発で初勝利するなど、39試合7勝6敗12ホールド、防御率2.90を記録。
2009年は開幕ローテ入りし、8月の月間MVPを受賞。24試合8勝4敗、防御率1.54で、最優秀防御率賞を受賞した。
2010年はリーグ優勝に貢献し、自身初の2桁勝利を達成。29試合13勝10敗1ホールド、防御率2.87を記録。
2011年は左足の故障や援護に恵まれなかったが、25試合8勝10敗、防御率2.69を記録。またオフにはメジャー挑戦の意思が尊重され、自由契約。2012年1月にボルチモア・オリオールズと3年1200万ドルで契約を結んだ。
2012年は前半戦で7勝をマークし、32試合12勝11敗、防御率4.02とチーム最多勝を挙げ、新人王投票では4位に入った。
2013年は開幕ローテ2番手を担うも右脇腹のケガで離脱し、23試合7勝7敗、防御率4.07を記録。
2014年は先発ローテーションを守り抜き、31試合16勝6敗、防御率3.54、勝率.727とキャリアハイとなる好成績を挙げた。
2015年はチーム1位の191.1イニングを投げ、31試合11勝8敗、防御率3.34をマークし、11月2日にFAとなった。
2016年はマイアミ・マーリンズと5年総額8000万ドルの契約を結び、移籍。台湾人選手では史上二人目となる開幕投手を担ったが、7月に左肘の故障で離脱するなど22試合5勝5敗、防御率4.96と前年を下回る成績となった。
2017年は5月に肘の怪我で約4か月間離脱し、9月に復帰するも肘の違和感で再度離脱。9試合2勝1敗、防御率3.82を記録。オフには3年総額6000万ドルの契約を結びなおして、残留した。
2018年は4月末に復帰し、先発ローテを担ったが26試合6勝12敗、防御率4.19と大きく負け越した。
2019年はリリーフに配置転換。45試合に登板するも0勝1敗3H、防御率6.59、WHIP1.54と低迷。契約が1年残る中でオフにDFAとなり、11月25日には自由契約となった。
2020年は2月にシアトル・マリナーズとマイナー契約を結び、スプリングトレーニングに招待選手として参加。しかし新型コロナウイルスの影響で開幕が延期となると、6月27日に自由契約となり、退団した。
成績で読み解く
上記は、チェン・ウェインのMLBでの8シーズンの成績です。
オリオールズでプレーした2012年から2015年は先発ローテの一角として活躍し、3度の2桁勝利と大きな実績を残しています。
しかし超大型契約を結んでマーリンズへ移籍した2016年に左肘を故障して以降は、成績が低迷。2019年はリリーフに転向しますが、結果を乗せなかったことで1年の契約を残したまま放出されてしまいます。
今季はマリナーズとマイナー契約を結び、オープン戦でも2試合0勝1敗、防御率10.80、WHIP2.70と打ち込まれています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で実戦登板からかなりの期間から離れていますが、チェン本人のFacebookに「7月末には代理人が日米の球団からオファーを持ってきてくれた」という趣旨の書き込みをしており、代理人を通じての売り込みに加え、オファーを引き出せるほどの状態だったと思われます。
肘のケガ以降、軸となるストレートの質が変化 この部分が成績不振に直結
上記はチェン・ウェインの年度別球種成績です。
オリオールズ時代に3度の2桁勝利を挙げた頃のストレートは縦回転を示すzMovが常時10を超えていて、ホップ成分が高く、浮き上がるような球質です。
平均球速は150キロに到達していませんが、ノビのあるストレートが大きな武器であり、この軸を主体に各種変化球が機能していたという印象です。
しかし2016年に左肘を負傷し、靭帯の部分断裂と診断されましたが保存療法であるPRP療法を選択。しかし翌年も左肘の怪我で離脱が続くなど状態の改善が見られず、この結果ストレートの球質変化を招くことになります。
上記はチェン・ウェインの2015年と2019年のストレートの変化量を示したグラフです。
近年はトラックマンなどの観測機器が登場。感覚的だったボールの質に対する評価がより科学的に評価できる時代となりました。
このグラフは縦方向は上方向への変化量が大きいほど、打者が「ノビのある」ボールと感じ、横方向は正の値がシュート成分、負の値がスライド成分(スライダーのように手元でカットするような変化)を示しています。
オレンジ色で示した2015年のストレートはホップ成分が高く、浮き上がるような質を持ったボール。一方で2019年のストレートは、明らかに横の変化量が増加し、スライド回転するいわゆる「真っスラ」に変化。
この真っスラも打者の手元でカットするような軌道になるため、ゴロを打たせやすいというメリットがありますが近年のMLBにおいてはフライボール革命によって強いフライを打つというのがトレンド化。そのためか手元で変化するストレートは被打率や空振り率が悪化し、またストレートのスライド成分増加の余波で、スライダーの変化に近づいてしまったことで、スライダーも被打率が悪化しています。
現状ストレートの質がどうなっているのかというのは分かりませんが、2か月という短期間で貢献するには、ストレートの縦方向への変化量を取り戻すか真っスラの質を生かしてツーシーム系の割合を増やし、ゴロを打たせるスタイルに変化するかの2択となりそうです。
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昨年はリリーフに転向したものの、苦しんだチェンですが井口監督は先発として起用する方針を示しています。
一方で2週間の隔離期間もあるため、プレーできるのは10月、11月の2か月間という短い期間で適応、対応出来なければならないという難しさもあります。
年齢を考えれば、全盛期ほどの輝きを見せることは難しいでしょうが、先も上げたようにストレートの質をどのように生かすのかというのが最大の焦点であり、その部分がクリアされればリーグ優勝、その先のCSや日本シリーズ制覇を目指すチームにとっては大きな戦力となりえます。
大きな賭けに出たロッテがどのような2か月の戦いを見せるか注目していきたいところです。