「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

「Jerry'sギター」代表&編集長「MASH & ハードパンチ編集部」が贈る毎日更新の「痛快!WEB誌」

明石のブルースマン「ハウリンメガネ」が贈る…「どこまでもヴァイナル中毒!」(第25回) 「マニュエル・ゲッチング」編

2020-03-12 14:53:03 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

あー!まったくもう!

失敬。読者諸賢、ハウリンメガネである。

 

右も左もコロナコロナで大騒ぎ、

対談でも触れたが私も出演予定だったイベントが立て続けに中止となり、無聊を囲っている。

 

由々しき事態であることは間違いない。

きちんと恐れるべきだろうし、その意味においてはイベントの自粛、外出の自粛も理解はする(気持ちの問題は別だが)。

 

嫌になるのは世間があまりにもヒステリックになっていることである。

ちょいと咳をしただけで電車の乗客の視線が集まる。

 

開店前のドラッグストアに何人もの人が並ぶ。

ニュースを見れば危機感を煽るだけの見出しが踊る。

 

終いには街の掲示板を覗いたら、どこぞの馬鹿タレが書いたであろうコロナウイルス患者を誹謗中傷するような落書きまで見る始末……

あー!まったくもう!

 

さすがの私も嫌になってしまい、最低限の情報以外はシャットアウトするようにしてしまった。

 

こういう時に何を聴けばいい?

気晴らしに派手な音楽を聴くような柄じゃない。

静かに、頭にこびりついたノイズを払い落とすための、そんな音楽……

 

というわけで、今回紹介する盤はこちら。

ドイツのサイケデリックロックバンド、アシュ・ラ・テンペルのギタリスト、マニュエル・ゲッチングの完全ソロアルバム、「E2-E4」である。

(84年作。おっ!私の生まれ年だ!なお、筆者の所有盤は近年(2016年)のリシュー盤)。

 

何故わざわざ「完全ソロ」などと書いたか?

実はこれ、ゲッチング氏がシーケンサーやシンセサイザー、パーカッション、テープループ、そしてギターを用いて一発録りで収録した一人インプロヴィゼーションアルバムなのである(要するにダビングも何もなしに即興で全てのパートが同時に録音されたということ。これ、やってる人なら分かるが神業といっていいことなのだ)。

 

そもそも私が何故この人を知ったかといえば、筆者のアイドルとしてお馴染み、キング・クリムゾンのロバート・フリップ先生のフリッパートロニクス的な、一人で完結された音楽って他にないのか?という疑問から色々調べた結果たどり着いたのである。

 

(実はゲッチング氏、この盤の前にアシュ・ラ・テンペル名義(この時は実質ソロ)で「インベンション・フォー・エレクトリックギター」というアルバムを出しており、こちらはそのタイトル通り、エレクトリックギターとディレイ(やまびこのようなエコーを付与する機材)だけでギターによるミニマルテクノ、と呼んでいい作品を生み出している)

 

ではそんなゲッチング氏の「E2-E4」はどんなアルバムか。

 

先に述べたとおり、このアルバム、氏がシーケンサー類を使って録音した作品である。

シーケンサーといえば?そう、テクノで使う機材ですな。

 

そう、完全にテクノなのである。

いや、語弊があるかもしれん。

「テクノの原型」なのである(さすがクラフトワークを輩出したドイツ出身!)

 

「インベンション〜」でミニマルなサウンドの面白さに気づいたであろうゲッチング氏が次に取り掛かったのはミニマルの権化である機械とのセッションだったのだ。

 

アナログなので、もちろんA面/B面があるし、一応曲名も9トラック記述されているのだが、先述の通り、全て一発通しで録音された為、実際にはひと繋がりの曲といっていい(A/B面はフェードアウト/インで繋いである。これもテクノ的だなぁ)。

 

面白いのはこのアルバム、ギタリストが作ったにも関わらず、A面の終盤、つまり一曲の中間までまったくギターが登場しない。

 

ひたすら繰り返されるシーケンサーのドラムビートにパーカッションのループを加え、シンセサイザーでシンプルなコードとフレーズを積み重ねていく(なお、このアルバム、おそらくワンコードで構成されており、ある意味、トーキング・ヘッズのリメイン・イン・ライトの先駆けともいえる)。

 

そして、B面からはギターが登場するのだが、これがまったくロック的ではない!(褒め言葉だぞ!)

先程まで積み上げてきたシーケンシャルなテクノサウンドをバックにクリーントーンでフラメンコのようなフレーズや、ジャズ的なフレーズを自由自在に乗せていく!ワンコードのはずなのにギターのフレーズに単調さが皆無!

 

また凄いのはバックのリズムは一定なのに見事にグルーヴが変化すること!バックのリズムに対して自分の弾くタイミングをきちんと操れないとこうは行かない!

 

ひたすら繰り返されるドラムビートに揺られながら、次々に加えられる変化点を聴き逃すまい、と音を追っていると

 

サウナではないが「整った」感があるのだ。

 

そう、こういう気分の時にはこういう自然に音に集中してしまう音楽がいい。

きっとゲッチング氏も、このアルバムを録った時、何も気にならなくなるぐらい集中していたに違いないのだ。

 

ジャケットでお気づきだと思うが、このアルバム、チェスを題材にしている(E2-E4というタイトルもチェスの打ち筋だそうな)。

 

そうだ、こういうパニックの時こそ、冷静なチェスプレイヤーのように何かに集中すべきだ。

 

慌てるな。怯えるな。考えろ。

チェスの一手を打つように。

深く、静かに、チェックメイトだけを狙って。

そこから必ず何かが見えるはずだ。

《ハウリンメガネ 筆》



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