「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

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明石のブルースマン「ハウリンメガネ」が贈る…「どこまでもヴァイナル中毒!」(第21回)「マーク・ボラン編」(Part 2)

2019-11-14 08:50:01 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

読者諸賢、ご健勝?ハウリンメガネである。

ちょいと番外編を挟むこととなったが、

早速前回の続き、T.Rexの話をしよう。

 

ティラノサウルスレックス、もといT.Rexというバンドがそもそもサイケデリックフォークの文脈に属するバンド(デュオ)だったことは前回述べた。

では、なぜ彼らはサイケデリックフォークからグラムロックへとその姿を変えたのか?

その最大の要因を述べよう。

 

「マーク・ボランがエレキギターを持ったから」

……

待て!諸君!私に石を投げようとするな!

今からちゃ〜んと説明するから!

 

4thアルバムである「A Beard of Stars」の段階でエレキギターを一部導入し、エレクトリック化の片鱗を見せていたT.Rex。

そのエレクトリック化における最初の分水嶺となったアルバムが、今回の主題である「Electric Warrior(1971年作。邦題、電気の武者。筆者の所有盤はCube RecordのUKリシュー)」であった。

(今考えても凄い邦題のセンスだよなぁ、武者だぜ?武者。アート集団ヒプノシスがデザインしたジャケットでも有名なこのアルバム、T.Rexといえばこれ!というファンも多いはずだ。なお、筆者の「部屋に飾りたいジャケット百選」にも当然ランクインだ!話が逸れるが、筆者はレコードジャケットというフォーマットこそが20世紀以降、絵(写真も含むが)という美術を一般層まで普及させた最大の発明であったと考える。

アンディ・ウォーホールの作品にも通じるが、商品パッケージであるが故の必然性で、多くの作品を制作された上、それがレコードという大量生産品、つまり、一般層に入手可能なものだった結果、我々の手にアルバムジャケットという"美術品"を所有することができる時代が来たのだと思うのだ。

その意味においてもやはりジャケットってやつはLPサイズであってほしいなぁ、俺は!絵から来る圧が違うぜ!圧が!なお、個人的な特筆点として元クリムゾン、フォリナーのイアン・マクドナルドや、イエスのリック・ウェイクマンが参加しているのも見逃せない。マーク・ボランと彼らの繋がりが分からないのだが、ヴィスコンティの人脈だったのか?)

 

閑話休題。

4thの時点でエレキギターの導入がすでに行われていたことは先にも述べた。

では「A Beard〜」と「Electric〜」の差、サイケデリックフォークからグラムロックへの変化をもたらした最大の差異は一体何か?

先に述べた言葉を正確にいおう。

マーク・ボランの作曲方針がエレキギターに傾いたのである。 

成り行きは分からない。エレキギターを弾き始めたらそれが楽しくなったのかもしれないし、もしかするとプロデューサーのトニー・ヴィスコンティが「いやぁマーク、売れたいならこれからはエレキギターだよ!」と焚き付けたのかも知れぬ(筆者は両方ともありそうな話だとおもっているが)。

 

何はともあれマーク・ボランの興味がエレキギターに向かったのは間違いない。

その結果、何がおこったのか?

T.Rexのソングライターは誰だ?マーク・ボランだ。

そう!ギター弾きならおわかりだろうが、エレキギターとアコースティックギターというものは同じ「ギター」というくくりであってもその性質は大きく異なる。はっきり言えば鳴らし方が違う。自ずと合うフレーズ、曲も変わるのだ。

(本当はもう一歩論を進めると「性質は大きく異なりながらも、いい音を出そうとするとその方法の本質はアコギもエレキも実は同じである」という話になるのだけれど、話が大脱線してその話だけで終わってしまうので、別の機会に……)

勘の鋭いマーク・ボランがエレキギターの特性に気づかないわけがない。

おそらく「A Beard〜」でエレキギターを導入してから「これをメインに使うとどうなる?」とエレキギターに合う曲を書いた結果がこのアルバムに収録された「Mambo Sun」や「Jeepster」、そして「Get it on」であり、それらの曲はこう呼ばれるようになった。

「グラムロック」

そう!まさにこのアルバムこそがグラムロックの始まりだったのだ。(ボウイファンの人、怒らないでね。筆者の独断と偏見なので)

 

面白いことにこの「Electric Warrior」、もろにエレクトリックブギーな曲というのはそんなに収録されていない。

先に述べた「ゲット・イット・オン」などの有名曲が収録されているためグラムロックの名盤と呼ばれているし、ロックのイメージが強いが、実際にはこのアルバム、ティラノサウルスレックス期同様のサイケデリックフォーク路線の曲が半数を占めるし、エレキギター主体の曲でもそこまで派手派手しいサウンドではない(というかロックギターというより、ボ・ディドリーやジョン・リーの音に近い。このあたり、やはりマーク・ボランの趣向がブルース寄りだったのがよく分かる。俗にオーバープロデュースといわれがちなトニー・ヴィスコンティのサウンドメイキングもLPで聴くとおとなしいもので、バンドサウンドをタイトに仕上げた状態でストリングスやサックスの音をちゃんと裏で鳴らしており、必要十分なバランスに収まっている。

どうもこの盤についた"ロック"のイメージやヴィスコンティのプロデュースに対する悪評はCD以降の時代に後付でついてしまったもののような気がしてならない。やはり、アナログで発売されたものを聴くにはアナログが一番いい。その時代の音を捉えるためにも)。

この時期のT.Rexはエレクトリックもいいが、やはりフォーキーな曲が素晴らしい!

個人的にこのアルバムで一番好きなのはB面最後に収録されている「Rip off」なのだが、今でいうローファイミュージックの音像がこの時代、すでに完成されていたことにはもうため息が出る(というかベックやセバドー、フォーク・インプロージョンあたりのローファイ系の人たちの直系の先祖はこの時期のT.Rexやドノヴァンだと思うのだが、如何だろうか)。

このように多面的な要素を含みつつもエレクトリック路線を前面にプッシュしたこのアルバム。実際、大ヒットを飛ばした(イギリスでは1位を獲得、アメリカでもチャートインを達成)。

これに気を良くしたマーク・ボランはこの路線を強く打ち出すことを決め、さらなる大ヒットを狙うのだが……

 

次回!「ザ・スライダー」編!お楽しみに!

ハウリンメガネでした。

《ハウリンメガネ》


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