走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

抑制について薬物編

2019年09月16日 | 仕事
シリーズ4日目

Chemical Restrain と言われる薬物による鎮静は必要最低限で、治療にとって有効であるというのが最低限のルール。

例えば先日私の患者が呼吸苦で救急へ行きました。過呼吸、蒼白、頻脈。SATと呼ばれる血中の酸素飽和度は80%。挿管をする事が決まりました。意識のある人に管を挿入する、し続けるというのは、皆さんも考えただけでわかるように、それ自体が苦痛を与える行為になってしまいます。しかし手術の時のように鎮静をかけると挿管をすんなり受け入れられるという事。私の患者は鎮静と挿管をしただけで、頻脈は収まりSATも上昇となりました。

しかしテレビで扱われていたのはもっと救急性の低い状態だったと思います。
もし自分の愛する人が認知症で不穏状態で貴方の存在も言うことも理解できない状態だったら、抑制帯でベッドに繋がれているのと、薬でウトウトする状態とどちらを選びますか?
私なら後者を選びます。もちろん以前書いたように音楽療法やレクリエーション療法をした上です。

ケミカルがベターとは断言していません。ケースバイケースですが、どちらかと言えばケミカルの方が人間らしさを存続させてくれる面が多いと私は思います。抑制帯の「繋がれる」「縛られる」はどうしても動物以下の扱いに思えてしまいます。

ケミカルはさじ加減が非常に重要です。やり過ぎれば呼吸や心臓に影響を与えるし、意識の消失もあるという事です。もしくはボーッとまるで魂を抜け取られた感じに見える事もあります。だから鎮静できる最小限の量を使用する、という事は処方者として肝に命じておかなければなりません。

そしてもっとも大事なのが家族も含むチームの中でのコミュニケーション。医療は全てベネフィットとハーム(害となるもの)を両天秤にかけてどちらが優位になるかを吟味しなければなりません。その吟味する過程で家族を含むチームと話し合う事で天秤がクリアで誤解をする事の無いようにしなければなりません。また、そのようなコミュニケーションを通し家族の意見をケア計画に活かす事ができ、不安の軽減にも繋がります。

最近は不穏のケアとして、急性期に音楽療法を取り込んだり、ペットサービス、夜の雑音の軽減などいろいろな事が取り組まれています。ケミカルを使う必要がなければそれがベストです。しかしありとあらゆる事をしても、不穏行動が続く、そんな場合に最後の手段的に、最大の注意を払って使う。そして家族を含むチームでケアカンファレンスを行う。つまり使って良い悪いのニ極の討論ではなく、色々な角度で検討していく、そんな過程が不穏のケアで最も大切なのではないでしょうか。

シリーズ終わり


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