武則天 秘史 DVD-BOX1 (7枚組)
リュウ・シャオチン
ビクターエンタテインメント
2015-07-02




総合評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️
脚本 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐︎
配役 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
演出 ⭐️⭐️⭐️
映像 ⭐️⭐️⭐️⭐️
音楽 ⭐️⭐️⭐️⭐️


 
女性的魅力を使って出世する女性はいつの時代にもいます。

若さは女性の武器。その武器を使って、どこまで出世できるものでしょうか。キャサリン紀のような王子の妻になること、王子を産むことが、女性の一番の出世でしょうか?

武則天は、それ以上のことを7世紀にやり遂げてしまいました。豪農の二番目の妻の娘から皇后となり、李一族の唐を乗っとり、自分の国を建国してしまったのです。

武則天は、歴史上、最も出世した女性かもしれませんが、そんな勝者は、幸福を手にし、一族で仲睦まじく、至極の人生を送ったのでしょうか?



武則天は、中国史上、唯一の女帝です。

前漢の呂后、清の西太后と並ぶ、中国三大悪女の1人として有名です。

晩年は、謎の僧侶とのセックススキャンダルを起こし、若い美男子を侍らせたそうです。男性が若い女性を侍らせるのに似て、権力を持つと性差なく女性もハーレムを築くのか、と興味深く思いました。

劇中で武則天は語っていました。「女性が男性と同じように権力を手にしても、男性と同じように幸福を感じられる、とは限らない」と。権力を利用しているように見えますが、権力すら本望ではなかったと否定するこの女性は、何故ここまでの権力を握ってしまったのでしょう。

ファン・ヒビンの武則天は長いですが、こちらはより短く経緯を説明してくれました。



私は武則天の生まれや育ちにその理由を探してしまいました。

武則天の父親は裕福な軍人として描かれていました。父親は1人目の夫人との間に男児を数人もうけ、妻が亡くなると再婚します。武則天は義兄達にいわれのない虐待を受けて育ったのだといいます。この虐待の中で育つという経験が、その後の人生でのサバイバルに役立ったのかもしれません。

彼女は宮廷に才人として迎えられます。後宮には、沢山の美人が集まり、王の寵愛を巡り競い合っていました。武則天は、貴族でもなく身分が低いながら王に見染められかけますが、周りの競争相手達が一人勝ちを許すはずがありませんでした。

後宮で、武家が国を乗っ取るという予言が囁かれます。すると、王は武則天を大事にしつつ疎遠にするようになってしまい武則天の出世は遮られました。

そんな折、後宮で王の息子と出会います。 女性に弱い王子でした。武則天は、事務処理能力を買われ秘書のように王へ仕えながら、自分に好意を持つ長男でもない彼を王に付ける活動に力を入れ始めます。

王の愛を勝ち取れないと、速やかに息子を狙う姿に淡々としている印象をもちました。幼少期に父親を失いトラウマを抱えて情動が麻痺したのか、と察しました。



王の崩御と共に墓へ弔われる女性達には混らず、武則天は寺の尼となり出家街道を開拓しました。

女性としての世俗の出世を諦めるためのコースを彼女は選んだはずですが、反社会的で反抗的な人なので、神仏などへの信仰は彼女にはなかったのでしょう。武則天は、王子様が迎えに来てくれると信じて、僧侶に虐げられながら寺で生き永らえ、機を待っていました。

そして、遂に新しい王になった王子が寺を訪問すると、密会を繰り返し遂には寺で子供を産むのでした。

さすがに寺で子育てをし難かったので、武則天は長男を姉に育ててもらいます。胸の形が崩れるのを嫌がり子供に母乳を与えず、彼女は母親になっても責任を持ちすぎることなく出世のために生きていました。



正妻と側室のバトルを緩和させる名目で、武則天は後宮に呼び戻されますが、側室の地位に甘んじることなく、野心的に勝ち抜いていきます。

王は、正妻の正論に飽き飽きしており、側室の与える音楽やお酒や娯楽に依存していたのです。

そこに、武則天は、安らぎと花、美に加えて、病弱な王の仕事を手伝い王に楽をさせることで、王の信頼と愛情を勝ち取り、子供を次々ともうけます。

しかし、正妻と側室がタッグを組み、武則天を陥れ、傷つけ、身の危険を感じさせます。追い込まれた武則天は、生き延びるには打ち勝つ他ないと競争に囚われていくようになります。

そこで、自分が産んだばかりの娘を殺して、その罪を正妻に着せ、側室と共に追放・殺害して正妻の座をえます。娘殺しについては、私を守ってくれてありがとうと感謝し、彼女は罪や嘘を正当化しました。

彼女は自分の息子にも娘にも愛情を持ち難い人で、自分の生み出した所有物を利用して勝ちぬくことに囚われてしまっているようにみえました。



成人した息子達は、妻を迎えると、男性優位な時代の在り方を学んだからこそ理想的な男性社会を実現しようとします。しかし、武則天にあえなく子供達は虐げられ、打ち負かされ、結局、武則天が王になります。

現実の世界では、学問の理想が通じず、武則天に虐げられて息子達は発狂したり、病にかかったり、自殺したりしました。次々と皇太子や王すら所有物のように容易にすげ替えられ、三男の左遷後、言いなりの四男を王に据えた後、武則天が自ら王となり新しい国を建国します。

彼女が築いた幸福な家庭は、確かに戦いに敗れて暗殺された元正妻や元側室の幽閉された娘達に比べたらマシだったのでしょうけれど、勝ち抜いて建国できても、これは幸福な家庭ではないでしょう。



王が脳梗塞を起こしたのが、武家に唐を支配された敗因でしょう。

親への反発とはいえ、国事を顧みず武則天という女性を選んでしまったのは、この王は性依存症だったのではないか、と疑いました。楊貴妃に傾倒した王も躁病か性依存症なのだろう、と考えたりしますが、女性に容易に操作されやすい王のキャラクターも気になりました。だから武則天に注目されたのか。

武則天が人を愛せない障害を抱えていたから、冷淡に成し遂げられた業績でした。武則天は所有物のような支配や束縛という形の虐待に夫も息子達を従わせることができても、愛情を示せません。武則天から逃げ出したり、反抗したりする家族関係は、全く対等ではなく、過剰な支配関係にあったのでしょう。

国の支配という面や軍人としては恵まれた才能だったとしても、家族にそのコミュニケーションスタイルを持ち込むと、うまくいかなかったのだろう、と察しました。

この支配的で否定的な対人関係が依存症的で、この種の才能を持つ方は、家庭で切り替えがつかず不幸をもたらしてしまう典型例のように見えました。



武則天は反社会性人格障害、サイコパス、何らかの依存症では、と私は疑ってしまいました。

自分が生き延びるため、という最大限の正当化をして、殺した娘に感謝して乗り越えていましたが、普通の人は出世や保身のために娘を殺しません。今の時代なら虐待で犯罪者でしょう。

ただ、こうした軍人にマッチするキャラクターが、冷淡に王の反対勢力を打ち破り、虐げ左遷させてしまえたのでしょう。朝廷で力を得るため、王は武則天をますます重用するようになります。

病弱な王は、脳梗塞を繰り返し、軽い認知症のようになっていき、武則天から権力を取り返すことにことごとく失敗します。遂には、認知症の症状だったのか、性依存症だったのか、王という立場や環境のためなのか、若い女性の愛人を武則天に隠れて次々と探すくらいの反抗に収束します。

武則天の姉、姪にまで王が手をつけるのは常軌を逸しています。通常なら夫を愛する妻は病みそうな状況です。しかし、姉が正妻に憧れて妊娠したところ武則天の側近に毒殺されました。また、復讐に燃えて王の愛人になった姪も武則天の知恵により毒殺されました。彼女はそうして地位を防衛できました。

武則天に運と度量を感じますが、サイコパスだから王や親族の愛情など求めていなかったのではないか、権力を手にするため王や親族を出世の手段に利用しただけではないか、と疑いました。



武則天は、反社会性人格障害のようでした。

正室の権利を侵害し、寺で尼の立場で子供を産む社会的規範に適合しない行動をとり、娘が正室に殺されたと自分の利益のために嘘をつき、衝動的に刃物で自分を傷つけ訴えたり攻撃的。

自分にも息子にもリスクを選ばせ、正当化してばかりで責任をもたない。

15歳以前から素行症があったのか、双極性障害ではなかったのか、という点には疑問が残りますが、いずれにしても、精神的に健康な人ではない印象をうけました。



他の男性の王もそうでしょうけれど、人の上に立つ人材は、正常から偏った存在でもあり、何らかの病理を抱えるものかもしれない、とも考えました。

勝者が常に健康で幸福とは限らず、むしろ病的な人だからこそ周りの人達とは違う偉業を成し遂げるものかもしれません。

何かの優れた能力を得ることは、他の何かを犠牲にしていることもあるものかもしれず、王に相応しいキャラクターや精神病理もあるのだろうか、と考えさせられました。

依存症を抱える男性に支配や否定されすぎて病むことなく共に生きていくには、その男性からの攻撃を全て交わし、敵を片付け、相手の弱みに付け入り支配し返せる程度のパワーや賢さが必要かもしれません。

理想を求めてやり過ぎる快楽主義的な生き方で、華やかな人生を楽しみ、支配権を巡る競争を勝ち抜き、全てを手にしたように見えました。しかし、虚勢や完璧主義な性質を察すると満足して幸福に浸る時間があったのか、疑問が残りました。




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