MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1496 お月様はどうやってできたのか?

2019年11月21日 | 科学技術


 アメリカの月探査ロケット「アポロ11号」が世界で初めて月着陸船「イーグル」を月面に着陸させたのは、1969年7月20日のこと。アームストロング船長が月面に降り立つ姿は全世界に生中継され、当時小学生だった私も(家族そろって)茶の間の白黒テレビで見たのをしっかりと覚えています。

 それからちょうど半世紀、中国や日本に先駆けて火星探査船を打ち上げるなど急ピッチで宇宙開発を進めるインドが、7月22日に月面への着陸を目指す月探査船「チャンドラヤーン2号」の打ち上げに成功し地球の周回軌道に乗せたとの報道がありました。今後は数度にわたって徐々に高度を上げて月へと進路変更し、約38万4000kmの距離を48日間かけて月面に向かうということです。

 インドが月着陸に挑戦するのは今回が初めて。もしも成功すれば、米国、ソ連、中国に続き世界で4番目に月着陸を成功させた国になる見込みです。

 報道によれば、チャンドラヤーン2には、①月の地形や鉱物学、表面の化学組成、熱物理的特性、大気の研究などを行う、②将来の月面でのミッションに向け、月着陸や探査車の走行といった技術の実証を行う、という2つのミッションが課せられているということです。

 また、特に注目されているのが月における「水」の存在をめぐる探査で、その有無や、埋蔵量、資源として利用できるか否かなどについてデータを集めることとさています。

 水は、生物が生きていくうえで必要不可欠なもので、もしも月に水があり現地調達が可能であれば人類の月探査や移住が大きく進むことから、その成果が期待されているところです。

 さて、地球に暮らす人類にとって、最も身近な天体が月であることは間違いありません。夜空にぽっかり浮かんだお月様を見ると、なんであんな大きくて丸いものが空にあるのか、そして、これほど身近な存在なのにその詳細がよくわかっていないことに改めて驚かされます。

 お月様はどうやってできたのか?なぜ、ぐるぐると地球の周りをまわっているのか?

 7月21日の日本経済新聞では、月に関するこうした基本的な疑問に対し「月の起源は地球のマグマ? 日米グループの新説に注目」と題する興味深い記事を掲載しています。

 記事によれば、天文学者を長く悩ませてきた「月の誕生」のプロセスについて、最近、日米の研究グループが新説を打ち出し「有望な提案だ」と注目されているということです。

 海洋研究開発機構の細野七月特任技術研究員や米エール大学の唐戸俊一郎教授らが英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表した研究論文によると、原始の地球の表面は岩石が溶けたマグマで覆われており、月は主にこの「マグマオーシャン」から造られた可能性があるということです。

 現在、月の誕生を説明する最も有力な学説は「巨大衝突説」というものだそうです。

① 約46億年前、誕生して間もない地球に「火星サイズ」の天体がぶつかった。
② 衝突で天体は粉々になり、地球の表層は超高温のため岩石が蒸発して地球を円盤状に取り巻くガスやちりになった。
③ 円盤は徐々に冷えて固まり、一部が伸びてちぎれて月になった。
というのが「巨大衝突説」が描くシナリオです。

 研究グループでは、この「巨大衝突説」をベースに理化学研究所のスーパーコンピューター「京」で模擬実験を繰り返し、マグマオーシャンという新たな視点を加えることで従来とは違うシナリオにたどり着いたと記事は説明しています。

 そもそも、巨大衝突説が定着した背景には、アポロ計画による月の探査があると記事はしています。

 それ(アポロ11号)以前、月の起源には、
① 原始太陽を取り巻くガスとちりの円盤の中から地球と月が兄弟のような天体として形成されたという「共成長説」
② 高速で自転していた原始地球の一部が飛び出して月になったとする「分裂説」
③ たまたま通りかかった天体が地球の重力で捕らえられたという「捕獲説」
の3つの仮説があったということです。

 ところがアポロ11号が地球に持ち帰った「月の石」の組成を分析してみると、地球の岩石に酷似していることが判り、捕獲説は否定されたと記事は言います。

 また、また月の深部にある中心核の大きさが地球よりはるかに小さい事実や、月の表層部に揮発性の物質が乏しいという観測結果などから、共成長説と分裂説も矛盾点が多いと支持されなくなったということです。

 その点、巨大衝突説はアポロ計画が明らかにした結果と整合性が良かった。しかし、従来の巨大衝突説ではうまく説明できなかったのが、月の石が地球の岩石と似すぎていたことだと記事は説明しています。

 巨大衝突を起こした原始の地球と火星サイズの天体は、原始太陽系の別の場所で誕生したと考えられ地球とは組成が違うはず。つまり、月の岩石は衝突相手の天体の物質が主成分となり地球の岩石の組成とは異るはずだということです。

 一方、細野特任技術研究員らが唱える新説では、原始の地球は微小な天体が衝突し合体を繰り返してできたため、(巨大衝突が起きた当時は)地表にはマグマオーシャンがあったとされています。

 そして、質量が地球の10分の1程度の天体がマグマオーシャンが広がる原始の地球に衝突する「巨大衝突」したとすると、スパコンのシミュレーションからは、原始地球を取り巻くガスとちりの円盤の主成分は地球のマグマオーシャン由来の物質になるということです。

 なお、記事によれば、米国のグループがより激しい巨大衝突を想定してシミュレーションしたところ、原始の地球の岩石はほぼ完全に蒸発してしまい、地球を取り巻くガスとちりの円盤の中で地球の岩石層と月がその中から新たに造り出されたということです。もちろんこの場合も、月の岩石と地球の岩石の組成はほぼ同じになることに変わりはありません。

 思えば、1970年の大阪万国博覧会のアメリカ館の目玉展示として会場の中心近くに最も目立つ形で飾られ、多くの人が何時間も行列したうえで見上げた「月の石」が、こうした形で現在も注目されているのは不思議な感覚です。

 現在、インドばかりでなく、米国の民間企業や中国、ロシア、欧州、そして日本と、世界が、半世紀の歳月を経て再び月を目指し探査を計画しているということです。

 探査や研究の先に何が待っているかはまだわかりませんが、未来の人類の可能性が広がる何か面白いことが始まりそうな、そんな予感がしないでもありません。


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