*** june typhoon tokyo ***

近況注意報 0619 音楽篇


 忘れた頃にやってくる身勝手音楽セレクション、水無月篇。

 独断と偏見で突っ走る、気まぐれにもほどがあるマイ・フェイヴァリットな音楽セレクト・エントリー「近況注意報 音楽篇」シリーズ。この4年くらいトンとご無沙汰だったものの、コロナウィルス禍での手持ち無沙汰もいい方向に働いて(?)、4月に「近況注意報 0416 音楽篇」と「近況注意報 0425 音楽篇」の2記事をエントリー。5月に独断「#StayHome #Staysafe #うちで過ごそう」企画フェス「〈***june typhoon tokyo*** Music Festival〉Day 1」「〈***june typhoon tokyo*** Music Festival〉Day 2」を挟んでの、2020年「近況注意報 音楽篇」第3弾をお送りする。

 “お送りする”などというと、何か知識豊富なキュレーター的な発言に聞こえてしまうかもしれないが、そんな高尚なものは全く持ってナッシングで、実態は近年(特に昨年の2019年)の自分が好みにしているジャンルの音楽シーンにさえ疎くなっていた自分への“音楽リハビリ”に過ぎないゆえ、2020年も半分過ぎようとしているのに今更2019年の音楽チェックしてコンシェルジュ気取りかよ? みたいな指摘は結果的にあながち間違ってなかったにせよ受け付ける度量もないのであしからず(←これ自体が何様)。

 くだらない前置きはこの程度にしておいて、今回も10タイトルにプラスαで構成。ということで、それでは、どんと見据えて!(Don' miss it!)

◇◇◇

aimi / Sorry
Blanche J / Discovery(feat. Heyzeus)
edbl / The Way Things Were(feat. Isaac Waddington)
Hana / Fantasy
Harleighblu & Bluestaeb / Queeen Dem(feat. Janne Robinson)
Joe Hertz / Cross My Mind(feat. Sophie Faith)
K.ZIA / Goosebumps
Louam / Like 90's R&B
MMYYKK / Better(For the Love)
Taylor McFerrin / Memory Digital(feat. Anna Wise)

Le Flex / Falling / Move With Me / 1000 Nights

◇◇◇

■ aimi / Sorry



 まずは、期待すべき日本の新鋭から。千葉県成田市出身のシンガー・ソングライター、向原愛海のプロジェクト“aimi”が今年5月に放った1st EP『Water Me』からの一曲。幼少期にソウルやディスコ・ミュージックに触れ、90ʼs〜00ʼsのR&Bに影響を受けたというaimiは、留学先の英・マンチェスターでのオーディションでアジア人として初優勝して歌手へと邁進したとのこと。日本のR&Bシンガーというと、出だしは期待を持たせても、結局のところバラディアーやらオーセンティックなポップ路線、あるいはエレクトロなダンスへといつの間にやらR&B濃度が薄まってしまって……というパターンが少なくない(特にネオソウル系はそう)が、歌い上げすぎることのない気怠さと美的な色香が漂うヴォーカルとチル/オルタナティヴR&Bマナーの曲風は、目立ち過ぎずに浸透力が高く、刺激を与えるという、たとえば、シザ(SZA)やシド(syd)、H.E.R.、ジェネイ・アイコあたりの個人的な好物路線をなぞらえそうなタイプ。この「Sorry」はタイトルよろしく謝罪ソングながらも、仄かなヴォーカルの“やさぐれ”感があっていい。EP『Water Me』は、加藤ミリヤ、清水翔太、青山テルマ、當山みれい、向井太一など良くも悪くも日本のR&Bやヒップホップの潮流を構築するピースとなってきたプロデューサー、Shingo.Sが全曲プロデュースしているというから、今後のShingo.Sの音楽的着想にも注目していきたい。


■ Blanche J / Discovery(feat. Heyzeus)



 米・フロリダ州ワイルドウッド出身のインディ・ソウル/R&Bシンガー・ソングライター、ブランシュ・Jことブランシュ・ジョンソン(Blanche Johnson)が、ヘイゼウスを迎えた2019年発表曲。ソングライターでプロデューサーのミッキー・ミラー(Micki Miller)とのタッグによるこの「ディスカヴァリー」は、温かみが伝わる彩色豊かな曲風ながらも、微かなセンチメンタルが過ぎるような琴線に触れるメロディラインが魅力。いい意味でスカッと晴れやかにならない、どこか切なさが垣間見える音色は、USというよりUK寄りにも感じられる。2nd EPの『ヴォイス・メモズA』が英グローバルソウルチャートで3週間連続1位、2019年間チャートの5位となり、『ヴォイス・メモズB』が英グラウンド・ブレイキンの最優秀女性アーティスト、最優秀ソウルEPにノミネートされたという流れも、作風から頷けるか。


■ edbl / The Way Things Were(feat. Isaac Waddington)



 英・チェスター出身のシンガー・ソングライター/ギタリスト、エドワード・ブラック(Edward Black)のプロジェクトがedblで、2019年に発表されたのが「ザ・ウェイ・シングス・ワー」。個人的にUKのシンガーは色気というか艶っぽさが漂う率が高い印象があるのだが、このedblも多分に漏れず、優男っぽくはあるもののセクシーなヴォーカルワークゆえ、女性ファンの割合が高そうだがどうだろう。ローファイ・ヒップホップ・マナーの下地に、洗練されたモータウン・マナーとも言えそうなヴォーカルを乗せて、ハートウォームなソウル・ポップに仕立てている。トリップホップ/R&Bの影響下にあるオックスフォード出身で西ロンドンを拠点とするティリー・ヴァレンタインと、バーミンガム出身のシンガー・ソングライター/プロデューサーのブラン・マッツを迎えた「テーブル・フォー・トゥー」(Table for two)は、可憐さを伴ったまた違ったテイストで美味。


■ Hana / Fantasy



 2019年12月にYouTubeにアップされていたのが、ハナによる「ファンタジー」。ヴィデオでは友人と思しきクリエイター(エリオット・ドラモンド、ジュリエット・アレックス)とともに出演するハナ・ヤズ(Hana Yazz)がその人か。何しろ情報がほとんど掴めず。判っているのは英・南ロンドン出身で、2018年にシングル「ビー・ウィズ・ユー」(Be with U)を発表しているということ(Spotify、SoundCloudにて)。歌唱もラップもイケるようで、その意味ではエステル的ともいえようか。コンテンポラリーなR&Bをベースにしたクールなポップネスが魅力。近いうちに書き溜めた楽曲をまとめたEPがリリースされるだろうから、その時点でじっくりと聴いてみたい。


■ Harleighblu & Bluestaeb / Queeen Dem(feat. Janne Robinson)



 今回は(意図的ではないのだが)UK発のアーティストを多くセレクトしているが、こちらも同様。英・ロンドンを拠点とするソウル・ヴォーカリストのハーレイブルーとジャカルタのネオソウル/ヒップホップ系ビートメイカーのブルーステップが、“ビート詩人”のヤンネ・ロビンソンを迎えて制作したのが「クイーン・デム」。2019年末にリリースしたアルバム『シー』(She)に収められたこの曲は、何といってもハーレイブルーの燻りのあるパンチの効いたヴォーカルが耳に飛び込んでくる。メイシー・グレイやミッシー・エリオット風のボトムにジャズミン・サリヴァンを隠し味にプラスしたようなユニークな声色で歌う“Q U E E E N / This is for the Queeen Dem”というフックが絶妙。そして、クリセット・ミッシェルのデビュー作『アイ・アム』あたりのヴィンテージ感あるジャジー・ネオソウルな曲調も秀逸。ブルーステップによるファットなビートとメロウなテイストのトラックとの有機的な結合が見事にハマった、モダンでアーバンな一品。


■ Joe Hertz / Cross My Mind(feat. Sophie Faith)



 バレアリックサウンドの第一人者とされる伝説的DJのピート・トン(Pete Tong)を父に持つ、ロンドンのDJ/R&Bプロデューサー、ジョー・ハーツが、同郷のシンガーのソフィー・フェイス(Sophie Faith)を迎えた「クロス・マイ・マインド」。全体を通底する冷ややかなトラックの上で、ややハスキーでメランコリックな肌あたりのヴォーカルが強い意志で進んでいく展開は、メジャー・コードでは出せないアングラ感と妖艶さで覆われていて、怠惰に潜む美と官能が伝わってくる。ところどころでエレピやワウギターなどのソウルネスが顔を出すノスタルジー漂うエッセンスは、ブレイクビーツやヒップホップ経由のエレクトロニック・ソウル作風でもあり、ムラ・マサらとの親和性も感じる。この「クロス・マイ・マインド」のリリック・ヴィデオでも“stop”で“停止”、“nothing else but you”で“君だけ”と日本語が登場したりと、どうやら日本に関心が強いのもムラ・マサと似ている。SIRUPの2020年3月リリースの3rd EP『CIY』収録の「MAIGO」に客演するなど、今後の来日も期待出来そうだ。


■ K.ZIA / Goosebumps



 K・ジアは、1993年生まれのベルギー・ブリュッセル出身で、独・ベルリン在住のシンガー・ソングライター。本名がケジア・ルイ・アモール・クレメンス・ドルヌ・ケンタール(Kezia Louise Amour Clemence Daulne Quental)で、ドルヌの名に引っ掛かって調べたところ、ベルギーの音楽プロジェクトのザップ・ママ(Zap Mama)を率いるマリー・ドルヌ(Marie Daulne)の娘ということが判明。2017年よりインディ歌手としての活動をスタートさせ、2018年にデビューEP『レッド』(RED)をリリース。この「グーズバンプス」は2020年に発表され、母マリー・ドルヌが嗜好するネオソウルやオーガニックR&Bを透過したエスニック要素も薫るフューチャーソウル・マナーの作風が魅力。アフロ・アーバンとも呼べそうなエスニックでモダンなソウル・ポップを軸としているが、それほど民族的楽曲やルーツ音楽へのアプローチ濃度が高くないところが、しっかりとフューチャーソウル/R&Bとして具現化されている理由の一つといえそうだ。


■ Louam / Like 90's R&B



 タイトルで示すように90年代R&Bへの愛着を詰め込んだ「ライク・ナインティーズ・R&B」を歌うのは、ノルウェーのR&Bシンガー・ソングライターのルーアム。米メディアでもフィーチャーされ、2019年に『レックレス・ラヴ』(Wreckless Love)でアルバム・デビュー。メアリー・J.ブライジやキーシャ・コールらが90年代R&Bの要素にフォーカスしながら手掛けそうなヒップホップ・ソウル作の「ライク・ナインティーズ・R&B」だが、アルバム『レックレス・ラヴ』には「メアリー・J.ブライジ」(Mary J. Blige)というそのものズバリなタイトルの楽曲が収録されていて、驚いた。自称“モダンでメロディックな〈ゴールドスクール〉R&B”とのことで、90年代R&Bラヴァ―はスルー出来ない存在になりそう。


■ MMYYKK / Better(For the Love)



 米・カリフォルニア州南部、リバーサイドとサンバーナーディーノを中心とするインランドエンパイア出身で、その後はミネソタ州ミネアポリスを拠点とするマルチインストゥルメンタリスト/シンガー・ソングライターの“マイク”は、2016年にEP『ラヴ(イン・シンセシス)』(Love [In Synthesis])でソロキャリアをスタート。ヒップホップ・コレクティヴのアストラルブラック(Astralblak, ex. ZULUZULUU)のメンバーでもある。この「ベター(フォー・ザ・ラヴ)」は2019年の2nd EP『エレクトロソウル』(ElectroSoul)の冒頭に収録されたコズミックなジャズ・ファンクで、ジェシー・ボーイキンス3世やサー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズなどの漆黒のファンクと、エレピのアレンジなどでも窺えるドゥウェレやマイロンあたりのネオソウルが融合した、クールなスペース・ディスコといったところか。フライング・ロータスやサンダーキャット好きにも響きそう。


■ Taylor McFerrin / Memory Digital(feat. Anna Wise)



 米・ロサンゼルスのフライング・ロータス主宰のレーベル〈ブレインフィーダー〉から2014年にフル・アルバム『アーリー・ライザー』(Early Riser)をリリースしたDJ/プロデューサーで、父にボビー・マクファーリンを持つテイラー・マクファーリン。「メモリー・デジタル」は2019年のアルバム『ラヴズ・ラスト・チャンス』からの2ndシングルで、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』(To Pimp a Butterfly)への参加で話題を呼び、グラミーウィナーとなったシンガー、アンナ・ワイズ(Anna Wise)をフィーチャーした一曲。
 オペラ歌手の祖父ロバート・マクファーリン、そして異端のジャズ歌手の父ボビーとの遺伝子を明確に描出するヴォーカルではないが、その分ジャズを基盤にエレクトロやビート・ミュージックに寄り添った“クラブ・ソウル“と言い換えてもいい洒脱なサウンドメイクを構築する才能を発揮。ロバート・グラスパーが“ジャズ・ミーツ・ブラック・ミュージック”とするなら、テイラー・マクファーリンは“ジャズ・ミーツ・ネオソウル&クラブ”といった体裁か。多彩ながらも過度な装飾を削ぎ落したエレガントなサウンドワークが白眉。


■ Le Flex / Falling / Move With Me / 1000 Nights





 最後は、一昨年あたりから気になっていたDJ/プロデューサーのル・フレックスをフォーカスしてみたい。こちらも英・ロンドンを拠点に活動しており、2016年の『ザ・ダンスフロア・スイート』からEPを重ね、2020年にはアルバム『フレックサリティ』(Flexuality)をリリース。同作から「フォーリング」「ムーヴ・ウィズ・ミー」を、2019年の『アー・ウィー・ゼア・イエット?』(Are We There yet?)から「1000ナイツ」をピックアップ。
 80年代のポップ・ミュージックへの愛情が深く、シンセポップやディスコ周辺のサウンドをレトロな彩色で描くセンスが抜群という一方で、ややひ弱でナルシスト度高めなジョージ・マイケル(笑)を想起させるナヨ系のソウルフルなヴォーカルが、80年代のシンセポップ/レアグルーヴを再現するには効果的に働いている気も。

 「フォーリング」はミュージックヴィデオは青空広がる昼間を舞台にしているが、楽曲自体はナイト・クラヴィングやナイトドライヴに相応しいスタイリッシュなアーバン・ポップを展開。ナイーヴながらもパッションが伝わるグルーヴィなヴォーカルもグッド。
 「ムーヴ・ウィズ・ミー」はブイブイと跳ねるベースライン、煌びやかなシンセ、絶妙に飛び込んでくるヴォーカル・エフェクトと胸を躍らせる要素満載のダンス・グルーヴァーで、tofubeats「WHAT YOU GOT」あたりが好きな人にも響きそう。ヴィデオでのラジカセを前にしての演奏、SONYの旧型テレビ、カラフルなポップ・デザインは、ペシスト&ペシスタ(Especiaのファン)には確実に“刺さる”はず。
 そして、個人的に一番好みなのが「1000ナイツ」。モニター前でセクシーに誘うチャットガール(?)に悶絶する男というちょっぴりR-指定のコミカルなヴィデオも楽しいが、近年のシティポップ・ムーヴメントに便乗した“らしい“楽曲群を吹き飛ばすような、80年代オマージュだけにとどまらずに現代のレトロ・フューチャー・モダンとして成立させた、ソフィスティケートなシンセポップ・サウンドが見事。モテない版ジョージ・マイケルが歌うハイセンスなアーバン・ポップという、ポップ好きスルー不可避の楽曲といえそうだ。

◇◇◇

 いかがだっただろうか。今回は意図せずUK出身が多いラインナップとなったが、また、新たな発見をし、気まぐれに紹介出来たら、第4弾をエントリーしようかと思う次第(いつも気まぐれ、カーマはきまぐれ)。逆にこれを聴いてみては?という曲やアーティストがあれば(このサイトにアクセスするという世界的に奇特な方がいたら)気軽に伝えてもらえるとありがたい。これらの楽曲が音楽ライフのひとときに加わることになればハッピーDEATH。


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