*** june typhoon tokyo ***

FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』


 普遍的なソウル・ポップへの可能性を抱く、良質なアイドル・バブルガム・ソウル。

 私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする米作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『さらば愛しき女よ』(村上春樹訳版では『さよなら、愛しい人』)の原題「Farewell, My Lovely」を名前の由来の一つとした、“フェアラブ”の愛称で知られる名古屋発のガールズ・ダンス&ヴォーカル・ユニット、FAREWELL, MY L.u.v(フェアウェル マイ ラブ)。2015年9月に始動した後、メンバーチェンジを重ねて、2020年2月以降は児玉律子と2019年3月にタイロン・ウッズの仮名でサポートメンバーとなったもり きこまるの2名体制へと移行している。本作は、そのフェアラブが約1年前の2019年6月にリリースした初の全国流通盤CD『DONT TOUCH MY RADIO』で、ジャケットにスヌーピー風の少女が3体描かれているのは、CD発表当時は児玉律子、杉浦杏(あんず)、タイロン・ウッズの3名体制だったゆえ。

 FAREWELL, MY L.u.v(以下、フェアラブ)については、拙ブログにて2018年のアルバムを総括する記事「MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018」をエントリーした際、〈ブライテストホープ賞〉として期待の若手の一組として名を挙げたのだが、その後ライヴでの生観賞も叶わずままにだいぶ時が過ぎ、リリースから1年ほど経ってようやく『DONT TOUCH MY RADIO』を入手したという体たらく。しかしながら、個人的なアルバム評を残しておきたかったこともあり、“遅ればせながら……”も過ぎるタイミングではあるが、記事としてエントリーした次第。

 本作『DONT TOUCH MY RADIO』は、拙ブログ記事「MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018」で言及した「gloomy girl」や「Good Day」を軸に、後半はそれらのリミックスやボーナス・トラック「ちき☆Cheeky☆Daisy」をプラスした、オリジナル5曲、リミックス4曲の全9曲で構成。内容的にはEPという位置づけだろうか。

 オリジナル5曲中4曲の作編曲を担当し、本作の構成の軸となっているのがYASUSHI WATANABE(渡辺泰司)で、嵐、Kis-My-Ft2のジャニーズやAKB48をはじめとする48グループ、℃-ute、鈴木愛理らハロプロ系といったアイドル勢、AFTERSCHOOL、ORANGE CARAMELらK-POP、さらにはアニメ・ゲーム・ソングなど幅広く楽曲を提供している。どこかで名前を見た気がすると思い返してみたら、JAMOSAのミニ・アルバム『ZIP』収録の「BABY」の作・編曲を務めていたようだ(この前後くらいからJAMOSAをとんと聴かなくなってしまい、自分と唯一の接点だったであろう「BABY」も今となってはほとんど印象がない……)。これまで手掛けてきたYASUSHI WATANABEの作風や音楽的ルーツは分からないが、フェアラブの本作を聴くと、ソウル、R&B、ヒップホップをベースに、スタイリッシュなダンスやハウス、レゲトンなどへの相性の良さや親和性も内包した、90年~00年代のR&Bをサウンドの中核としている節も感じられる。


 オープナーは、灼熱の時が終わり、沈む夕日とともに浜辺に寄せる波音を聴きながら、人に溢れた日中の喧騒を思い返すといった光景を思い起こさせるラヴァーズロック歌謡の「Good Day」。興奮から落ち着きを取り戻し、切なさが交わり始める黄昏時がピッタリなレゲエ調ミッドスローでゆったりとした時の流れを作りかけたところで、グルーヴィなヒップホップ・ソウル的アプローチのR&Bダンサー「gloomy girl」へ。休日が終わりを告げ、目覚めとともに残酷にも現実の日常へと否応なく引き戻される……という緩急激しい展開に。続いて、ニュージャックスウィング期以降のブラコン要素も垣間見える、ヒップホップ・ビートを下敷きにしたシンセ・サウンドが強調された「UP DOWN」、そして、ドッドッドッドッと力感を持って刻むビートとせわしく這うファットなボトムが推進力を高めるダンサブルなアッパー「ByByByE」へと進んでいく。

 後半は「Good Day」をさらにレゲエ・スタイルへと濃度を高めたS.A.L. as ROMANTIC PRODUCTIONによるダブ・リミックス「Dub Day」、Takeshiによる「gloomy girl」「NAGOYA ZOO」のリミックス2曲と、ローファイ・アイドル・ヒップホップ・ユニットのO'CHAWANZを迎えた「7 DAYS FOCUS」のリミックス「8 DAYS A WEEK - feat. O'CHAWANZ」といったリミックス曲で構成。吉田由香里の詞&メロディにInagiがアレンジ&ミックスを施した洒落たファンキー・ポップ「ちき☆Cheeky☆Daisy」がボーナス・トラックとしてラストを飾る。

 キッズやティーン、あるいはいわゆる日本でいうところの“アイドル”が年相応に感じない(と周囲やメディアなどから言及される)楽曲を歌うという“ギャップの面白さ”を魅力の一つにするスタイルは、これまでも結構ポピュラーな方法論として実践されてきた。大人びた楽曲性や詞世界をフレッシュなキッズやティーンが歌うというタイプなどはまさにその主流ともいえるが、フェアラブは彼女らの等身大の日常を、その日常とは乖離しない普段着の言葉をもって成立させているところが特徴的。たとえば、憂鬱な雨の月曜の心の浮き沈みを歌った「gloomy girl」では、〈スヌーズ止めた〉朝から始まり、〈チャイムが鳴る前に Dash 急がなきゃ遅刻かも〉で学校へ滑り込み、〈教科書のかたすみに書く イニシャル〉と素直な気持ちを伝えられない乙女心を綴る。「UP DOWN」では〈教科書並べて教わる因数分解〉や〈#キミと話すと #素直になれる ツイートしても届かないね〉など友情が愛情へと傾く気持ちを歌うが、それぞれカッコいいフレーズで描こうとせずに、良質な楽曲に乗せることで結果的にスタイリッシュなバブルガム・ソウルへと昇華させているところに好感が持てる。


 ところで、いくら良質で完成された楽曲を宛がってギャップを生み出そうとしても、それがキッズやティーンはもちろん、大人たちにもウケるという広汎性がなければ、楽曲としての魅力は半減してしまう。70年代以降数々のキッズ・グループを生む端緒になったジャクソン5をはじめ、その後にバブルガム・ポップに繋がったマーカス・ヒューストン(当時はバットマン)率いるイマチュア、オマリオン擁するB2K(Boys of the New Millennium)、平均18歳のソウル・フォー・リアルらは、気難しさは極力抑えて、老若男女に愛されるポピュラリティやキャッチーな要素を備えていたからこそ、成功例となったのだと思う。日本でもジャクソン5を意識したフィンガー5のほか、Folder、Dream5らがポップス・シーンを沸かせたが、たとえば、フィンガー5「学園天国」などは、いまだにさまざまな形で若い世代にも浸透している。
 特にアイドル・シーンなどでは十数年前ではあまり見受けられなかったパンクやヘヴィロック、テクノなどのさまざまなジャンルを取り込み、従来のアイドル楽曲のイメージを覆すグループなども登場してきたが、やはり全世代に通じるキャッチーな要素を有した楽曲は多くの人の心に刺激を与えるし、理屈抜きでエンジョイ出来るエンターテインメントとしての訴求力も高い。

 そういう意味を踏まえると、フェアラブの音楽性は、バブルガム・ポップやそこから派生してR&B/ソウルへのアプローチを見せたバブルガム・ソウルのスタンスも感じられ、アーティストとして非常に楽しみな存在だ。中高生の日常を等身大の言葉で描いて共感を呼ぶ詞世界とモータウン、ディスコ・ソウル、R&Bからハウス/ダンスなどの多彩なジャンルを、良質なソウル・ポップ・ミュージックとしての側面を具現化しながら、決してレトロやヴィンテージにとどまらない、新旧を往来するような温故知新的なサウンドに落とし込めているところも耳が惹かれる。ボーナスとして収められた「ちき☆Cheeky☆Daisy」は、グルーヴィなギターやシンセによる高揚を呼ぶホーン・サウンドなど、シティポップや80年代のファンキー歌謡のエッセンスを背景にした愛らしい歌唱が琴線に触れる甘酸っぱさを伝えていて、それこそ「ABC」や「アイ・ウォント・ユー・バック」などにも繋がる、煌びやかでスウィートなポップネスも醸し出している。


 ただ、一つ課題とするならば、この普遍的な良質ソウル・ポップをさらに高める条件の大きな一つとしては、歌唱力や表現力の向上は問われるところだろう。圧倒的な声量やら凛とした神々しいような透明感などのスキルは必要ないが、ピッチの安定感やコーラスのバランス、メリハリを効かせた歌唱表現などが備われば、“歌える”楽曲の幅も広がるはずだ。
 とはいえ、まだ全国流通盤も本作のみという段階。中高生の成長は他の時代とは異なって思いがけない成長を遂げることも少なくない。大人の思惑に流されず個性を保ちながら、さまざまなことを多角的に吸収し、次なるステップへと歩んでもらいたい。是非、フル・アルバムを期待したいところだ。

◇◇◇

■FAREWELL, MY L.u.v / DONT TOUCH MY RADIO(2019/6/26)
FWML-004

01 Good Day
02 gloomy girl
03 UP DOWN
04 ByByByE
05 Dub Day(Good Day Remix)- FAREWELL, MY D.u.b
06 gloomy girl Remix
07 NAGOYA ZOOOooo(NAGOYA ZOO Remix)- FAREWELL, MY D.u.b
08 8 DAY A WEEK feat. O’CHAWANZ(7 DAYS FOCUS Remix)
09 ちき☆Cheeky☆Daisy 〈Bonus trac〉


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