*** june typhoon tokyo ***

MURA MASA @Zepp DiverCity TOKYO


 漲る才知と絶えないグルーヴを肌身に感じた、鼓動高鳴る“ベッドルーム”アクト。

 「シブヤ」(Shibuya)や「ハラジュク」(Harajuku)というタイトルの楽曲を作り、ポケモンや宮崎駿作品、BABYMETAL、きゃりーぱみゅぱみゅ、マキシマム ザ ホルモンなどを見聴きして育ったという、1996年生まれ、英領・ジャージー島出身の音楽プロデューサー/マルチプレイヤー、アレックス・クロッサンのソロ・プロジェクト“ムラ・マサ”。切れ味鋭い名刀「村正」から拝借したと思われるプロジェクト名からも日本文化に愛着を持っていることが分かるが、そのムラ・マサが2018年1月の初来日公演から同年冬のジャパンツアーを経て、2019年11月に早くも再来日が決定。来日公演全てがソールドアウトとなっている(自分も初来日公演はチケットが獲れず)人気ぶりだが、今回はチケット確保に成功。冬らしい寒さが身に染みてきたウィークデーの台場での1日限りの東京公演を観賞してきた。

 デーモン・アルバーン(ゴリラズ / ブラー)やエイサップ・ロッキー、チャーリー・XCX、デザイナー、ジェイミー・リデル、ネイオ、ボンザイらを迎えた、2017年のデビュー・アルバム『ムラ・マサ』は、翌2018年の第60回グラミー賞最優秀ダンス/エレクトロニックアルバム、同最優秀レコーディングパッケージにノミネートされ、音楽性と芸術性で評価を得たという俊英。同アルバムはエレクトロニック/クラブ・ミュージック・サウンドを下敷きとはするものの、トラップやヒップホップ、ハウス、ディスコ、ガラージ、トロピカルなど多彩なアプローチで楽曲を制作。どこかに拠りどころを持つのではなく、さまざまな音色をパッチワークのように当て嵌めながら、融通性の高い独自のサウンドスケープを構築するというスタイルがユニークだ。
 そのように一つの音楽性に根を張らず、雑食性というかユーティリティが魅力でもあるゆえ、2020年1月リリースの次なるアルバム『R.Y.C』はデビュー作とは異なり、ロック/パンク色の強い作品との情報が入ってきた。個人的には趣向しないジャンルゆえ、『R.Y.C』主軸のステージになる可能性にやや不安も過ぎったが、同作のうち披露されたのはクレイロとコラボレーションした先行シングル「アイ・ドント・シンク・アイ・キャン・ドゥ・ディス・アゲイン」のみで、初作『ムラ・マサ』をベースにした楽曲構成のパフォーマンスに。個人的な不安はあっという間に杞憂に変わった。

 ステージは中央の高台にキーボード、パーカッション、ギターなどマルチプレイヤーに違わぬ楽器が置かれるのみで、インスト楽曲以外はヴォーカルのフリスがステージを所狭しとパフォーマンス。だが、バックのスクリーンと効果的に光を放つライティングによって、物寂しさを感じないステージ演出となっていた。オープニングアクトのTohjiが30分でフロアに熱を注入した後、19時50分を刻んだ頃に暗転。アンニュイなトラックと歓声が暗闇で混ざり合うなか、ムラ・マサのステージの時を迎えた。

 ハイトーンなヴォーカルとポスト・ダブステップ的なビートが印象的な「メッシ―・ラヴ」からメドレー風にフリスがヴォーカルとエネルギッシュなダンスで盛り上げる「ナゲッツ」でオーディエンスとコール&レスポンス。続けざまにトロピカルなスティールパンの音色が南国感を醸し出す「1ナイト」へ移行し、瞬時にフロアに集ったオーディエンスたちのハートを“ロック”すると、2nd『R.Y.C』からの先行シングル「アイ・ドント・シンク・アイ・キャン・ドゥ・ディス・アゲイン」へ。原曲はオルタナティヴロック作風だが、しっかりとポップネスを携えながらアウトプットさせているゆえ、“ノラせる”という意味でのキャッチーな感覚が備わり、冒頭からの流れに違和感は覚えず。ダンス・ミュージックはもちろんのこと、ダブステップ、オルタナティヴ、R&B、ヒップホップ、トロピカルハウスなどのEDMまで、多種多彩な音鳴りを包括するだけのフレキシブルなビートメイクがそうさせているのだろう。

 ステージのグルーヴと高揚をさらに高めていたのは、やはりヴォーカルのフリスの存在が大きい。原曲はさまざまな客演によるものだが、楽曲によって熱量やグルーヴネスの差異を生み出さない汎用性の高いヴォーカルワークとフロアを的確に煽るダンスで、本来の客演陣とは色を異にしながらも、訴求力としては全く引けを取らないフリスとムラ・マサのコンビネーションならではの世界を創り上げていた。さらに背後のスクリーンに美しい風景や人間模様を切り取った映像を映し出し、音と映像を重ね合わせることで、日常と非日常が脳裏で渦巻くような美空間を構築し、フロアのヴォルテージをより高めていった。


 その盛り上がりをより加速させていたのは、「ロータス・イーター」「ヘル」といったインストゥルメンタル楽曲や、「アー・ユー・ゼア?」「フー・イズ・イット・ゴナ・ビー」といったアンビエントR&Bやポスト・ダブステップ路線のダークネスと浮遊感を有した楽曲群。ボトムが堅固に走らせていることもあり、アッパー楽曲群とテンポはガラリと変化しても、ビートやグルーヴは連続性をもって展開。メリハリをつけながらも全体的に心地よい刺激を与えるスタンスを維持しているから、微睡みを漂わせるようなムードでも飽きや暗澹たる感覚が芽生えることはなし。ベッドルームでの作曲生活で生み出した音楽の特色とそれと相反するようなクリエイティヴィティが楽曲や演奏に同居していることも納得出来るような音楽性が、ステージのあちらこちらに広がっていたような気もした。大雑把に言うならば、さまざまなジャンルの楽曲をつまみ食いする好奇心を、創造性豊かに、しかしながら、マニアックやニッチなベクトルへ特化せず、常にポピュラリティが発露するように咀嚼、描出しているからに他ならないとでも言おうか。

 などとやや堅苦しい言葉を並べて置きながら言うのも憚れるが、そのクリエイティヴィティへの探求を生々しく感じさせない、フットワークの軽快なサウンドメイクと興奮を呼び覚ますヴァイブスが横溢しているのも魅力。単に言えば“ノリ”をもたらしているということ。楽曲とフリスの情熱的なパフォーマンスとが、スタイリッシュでエキサイティングな波長をフロア狭しと行き渡らせていた。


 本編のクライマックス「ホワット・イフ・アイ・ゴー?」「ラヴシック」の興奮冷めやらぬまま、アンコールはポエティックなムードで綴る「ブルー」から。文字通りの青い照明でステージが覆われるなか、ギターを弾きながら、緩やかに恍惚へといざなうハイトーン・ヴォーカルを披露しながら、おもむろにステージ前方へ歩を進めると、仰向けに横たわるパフォーマンス。微睡みを呼ぶような浮遊感が漂う楽曲に自らが身を委ねるという演出で、東京のステージの居心地の良さを表現していたのかもしれない。ラストは小粒でリズミカルなシロフォンの音とともに幕を開ける「ファイアフライ」へ。再びフリスが登場して声高に叫ぶと、自発的にシンガロングやコール&レスポンスも生まれ、一旦「ブルー」で築いた息を呑むような静寂と美麗な世界が、一転して熱気と歓声に包まれるステージへと変貌していった。

 想像以上にグルーヴを感じ、興奮が沸き出したアクトとなった、初のムラ・マサのライヴ観賞。作品の度に豪華なコラボレーションや客演陣が集っているが、彼らがムラ・マサのオファーに応える理由が何となく解かるようなクオリティの高い楽曲性や、視覚と聴覚を巧みに用いた表現力に感嘆。日常における美的な心象風景を具現化したような、濃縮度の高いステージングが痛快だった。

◇◇◇

<SET LIST>
01 INTRO?
02 Messy Love
03 Nuggets
04 1 Night
05 I Don't Think I Can Do This Again
06 Complicated
07 All Around The World
08 Lotus Eater
09 Hell
10 Low
11 Night Swimmers(Mura Masa Edit)(Original by Foals)
12 Second 2 None
13 Who Is It Gonna B
14 Move Me
15 Are U There?
16 What If I Go?
17 Love$ick
≪ENCORE≫
18 Blu
19 Firefly

<MEMBER>
Mura Masa(Alex Crossan)

Fliss(vo)


◇◇◇




◇◇◇


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事