序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

第38回公演「美代松物語」物語紹介2

2019-12-10 14:19:29 | 舞台写真
第二場
伝統ある料亭老松も、市の花柳界の衰退と共にいろいろな問題を抱えています。
その一つの問題は娘咲江の恋愛相手の富田圭介でした。



老松の時江はと圭介の父富田圭吾を異常に憎悪していたのです。
しかし、圭介と咲江の心は親の気持ちを知れば知るほど固く結ばれていくのでした。


咲江 「ワタシ、陰でコソコソ会うこんな付き合い方はもう嫌なの」
圭介 「俺だって同じ気持ちだよ、だけど・・」
咲江 「ねえ、どうにかならない?」
圭介 「それは二人の事をお互いの親に認めさせるしかないよ。ねえ、咲江ちゃん、女将さんに僕の事話した?」
咲江 「それがダメなの、圭介さんの事話そうとしても、富田って名前が出ただけですごく不機嫌になって取り付く島もないの、お母さん」
圭介 「やっぱりそうなんだ。何でなんだべな、ウチのオヤジも老松の女将さんの事になると途端に口が重くなるんだ。オヤジと女将さん何かあったんだべか」
咲江 「なんでかさっぱりわかんない」
圭介 「二人の親があんな調子じゃどっちにしても許しはもらえないな」
咲江 「あたし別れるのはいや」
圭介 「俺だって」



圭介 「よし!こうなったら正面突破だ」
咲江 「えっ、正面突破って」
圭介 「二人の心は決まったんだ。僕、正面からオヤジにぶつかってみるよ」
咲江 「そう・・・そうね。ワタシもお母さんに言うわ」
圭介 「もしそれでダメだったら、いいね」
咲江 「ええ!」

     海に向かって叫ぶ二人。

圭介 「(大声)僕はやるぞ!」
咲江 「ワタシもやるぞ!」


二人の秘密の逢瀬を目撃した美千代でしたが、二人を小さい頃から知っている美千代は二人を応援することにします。


そこへ美千代と共に橋南青年部に所属している大塚君江がきます。
君江は気はいいが大型スピーカーの異名を持つ噂好きなので、咲江と圭介の二人の親の仲を知っているだけに興味深々です。

が、美千代の機転のお陰で事なきを得ました。
美千代は君江の夫の大塚貞二から魚を仕入れていたのでした。


貞二はここ橋南地区の再生に熱心な男で、橋南地区が観光特区なる条例が市議会で可決されたことを美千代から聞かされ狂喜します


貞二 「そうか、あれが通ったのか」
君江 「トオチャン、あんた、なにニヤニヤしてんのさ」
貞二 「カアチャン。お前、分かんねえか」
君江 「・・・分かんねえ」
貞二 「俺が言ってたべよ、今度の議案が通ったら此処の橋南地区が観光特区になるって」
君江 「ああ、そういえば言ってたね。それってどうなるのさ」
貞二 「観光特区になるって事は、この地区整備して積極的に宣伝して売る事になるんだよ」
君江 「そしたらどうなるのさ」
貞二 「・・・だから、観光客がここにたくさん来る様になるって事よ」
君江 「ああそうか・・・だから?」
貞二 「!!・・ああ、もう、鈍いな。お前がやりたがっていた民宿ができるって事だよ」
君江 「エッ!そうなのかい」
貞二 「そうだよ、今まで二人で計画してよ、その為に頑張って頑張って来たべ。それを
実現する時が来たんだよ」
君江 「そうか、そうなんだ。何たって今より悪くなることはないんだからね。やるんな
ら今だね」
貞二 「そうだよ、ここ逃したら次はねえぞ」
君江 「そうだね、トオチャン」
貞二 「やるべ」
君江 「うん、そうすべえ。ああ、ワチ、船降りて民宿の女将さんになれるんだ」
貞二 「そうだよ。お前は宿でお客さんの相手だ。なあ。俺は朝の漁が終わったらよ、午後からは釣り船の船頭よ。うん、日曜日にはよ、泊り客の為に地引網するのよ。それで獲れた獲物で浜辺のバーベキュウだ。これは受けるぞ」
君江 「ねえ、軍資金は?金はどうすんのさ」
貞二 「なあに心配することはねえよ。その手はもう打ってあるんだ。富田の社長さんな。あの人に相談したんだ。これこれこういう事を考えてるんだって話してな、今まで貯めた金の事を洗いざらいぶっちゃけたんだ。そうしたらよ、どうなろうとお前の話に乗ってやるって言ってくれたんだ。だから金の事は心配いらねえんだよ」



     キラキラした眼差しで貞二を見詰める君江。

貞二 「カアチャン、どうした」

     体当たりの様に貞二に抱き付く君江。

君江 「トオチャン、カッコいい!」
貞二 「おい、よせよ。誰か来たらどうすんだよ」
君江 「誰が来ようが関係ないよ、夫婦なんだから」
貞二 「・・・まあ、それはそうだが・・へへ・・」
君江 「ねえ、トオチャン」
貞二 「なんだい、カアチャン」
君江 「ねえ、帰ろう」
貞二 「エッ、だけどまだ片付けが残ってるべや」
君江 「また、戻ってくればいいべさ」
貞二 「・・・うん、そうだな」

     腕を絡ませ歩き出す二人

君江 「ねえ、トオチャン、民宿の名前どうする」
貞二 「ああ、名前な。まあ、普通に考えれば民宿大塚だべな」
君江 「つまんないよ、それは。もっと気の利いた名前にするべ」
貞二 「名前な・・・カアチャン、お前考えろ」
君江 「いいのかい、ワチでいいのかい」


貞二 「ああ、いい、いい」
君江 「トオチャン」
     
     二人行く。
波の音。
     遠くでカラス、「アホー・アホー」
     音楽。
     暗転。

以上3場へ続く。
撮影鏡田伸幸




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