序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

第38回公演「美代松物語」物語紹介3

2019-12-11 16:38:36 | 舞台写真
第三場
老松が抱える問題の一番の大きいものは時江自身にありました。
老舗料亭の娘であり、抱えの芸者として育ってきた時江には、先祖から受け継いだ他とは違うという強烈なプライドがありました。
そのプライドが現実を見る目を曇らせているのでした。


時江 「これはどういったカラクリだい」
寛治 「ですから、女将さんが保証人になっていた木山商店が自己破産したんですよ。それで、あそこが借りていた金融会社の債権をウチが譲り受けて、保証人の女将さんのところへ出向いて来た。そういうことです」
時江 「するとあたしはここに書かれてある金額をあんたんとこに払わなきゃいけないって事かい」
寛治 「そういうことになりますね」
時江 「それにしても随分な額だね」
寛治 「ええ、木山さんよっぽど資金繰りに切羽詰まっていた様で、トイチの闇金に手を出したんですよ、で、その額に」
時江 「あんたんとこもトイチって事かい?」
寛治 「とんでもない。昔と違ってウチは真っ当な金融会社ですよ。法定通り年利二十パーセントでやらして貰っています」
時江 「真っ当ね・・・そうかい」


寛治 「女将さんに取っちゃあ寝耳に水の話でしょうから、お支払いの件は如何様にもご相談に乗らせていただきますとウチの社長の口上です」
時江 「ホウ、寛十さんが・・・それと引き換えに何をお望みだい」
寛治 「・・・さあ、それは。・・女将さん、ワタシを苛めないでください」
時江 「ああ、ゴメンよ。あたしが金貸し寛十とどんな因縁があろうが息子のあんたは別もんだ」


寛治 「なんだいお二人さん、盗み聞きってやつかい」
大吉 「えっ、なに・・・」
寛治 「フン、すっ呆けやがって」
スエ 「あんた、この老松にちょっかいかけないよね」
     寛治、二人を睨め回す。
寛治 「さあ、どうですかね」
大吉 「権藤さん、あんた・・・」
     寛治、大吉の耳元で。
権藤 「大さん・・・知っての通り俺のオヤジは金貸し勘十だ。どう転んだってあんたの目には俺は極道だろう」
大吉 「寛治、お前・・・」
     不敵な笑いを残して寛治去る。


大吉 「失礼します。・・・女将さん、大丈夫ですか」
時江 「ええ。心配かけちゃったわね」
大吉 「どうなってるんですか」
時江 「みんなあたしの甘さの所為さ。ほら、知ってるだろう、木山商店」
大吉 「ええ、あの蟹問屋の」
時江 「そう。あそことは先代からの付き合いだからつい気を許しちゃって、その口車に乗っちまったさ」
大吉 「って言いますと」
時江 「去年の事さ。木山の二代目が来てね、ロシアのカニ漁の規制が強まるっていう秘密の情報を手に入れたって言うのさ。しかもうまい伝手が出来たからこの規制が施行される前に大量のタラバを仕入れれば大儲けになる事は受け合います。つきましては資金の調達をしたいので保証人になってくれないかって言われたのさ」
大吉 「ああ、ありましたね、そんな話が」
時江 「絶対にうまく行くからなんて調子の良い事を言われてさ。ついつい保証人の判を押しちゃったんだよ」
大吉 「・・・そ、それで」
時江 「木山商店は騙されて自己破産したんだそうだ」
大吉 「それじゃ、女将さんが木山商店の借金を被るってことですか」
時江 「そう。その上その債権は権藤金融に渡ったのさ」
大吉 「そりゃ、大変だ」


大吉 「僭越ですが、如何ほど・・」
時江 「まあ、それはいいじゃないか。でも金額聞いてあたしもちょいと驚いたわね。トイチってのはすごいものね、元金の何倍にもなってるんだから」
スエ 「トイチ!利子が?」
大吉 「トイチと云えば十日で一割じゃないですかい。払うんですか」
時江 「しょうがないじゃない」
大吉 「女将さん、そんなのは云う事聞くことはありやせんよ、法律違反なんだから」
スエ 「そうですよ。四の五の言ったら訴えちゃえばいいんだよ、あんな奴」
時江 「そうはいかないよ、トイチは木山に貸した闇金の利息さ、権藤はその債権を手に入れただけなんだから。それにね、そんなはした金で騒ぎになっちゃ老松の暖簾に傷が付くわ。それにね、もう手を打ってあるの。昨日権藤から電話があった後、大栄産業の吉野会長に連絡してね、援助してもらう事にしたの、この際きれいごと言ってられないからね」
大吉 「ああ、そうですか。吉野会長だったら先代からご贔屓だし、女将のお家の御家来筋だ」
時江 「だから心配しないで」
スエ 「じゃ、大丈夫なんですね」
時江 「ええ、大丈夫」


     悠然と構えていた時江、突然自分の頭を殴る。
時江 「バカ!バカバカ!バカ!」
     倒れ伏し泣く時江。

第4場に続く。
撮影鏡田伸幸



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