高校時代に知り合い結婚したラファエル(フランソワ・シビル)とオリヴィア(ジョセフィーヌ・ジャピ)。だが、結婚10年目を迎え、SF作家として成功したラファエルと小さなピアノ教室を開くオリヴィアとの間ではすれ違いが続き、ある日2人は大ゲンカをする。
翌朝、目覚めたラファエルは、自分がしがない中学教師で、オリヴィアが人気ピアニストになった“もう一つの世界”に迷い込んだことを知る、というパラレルワールド話。
ユーゴ・ジェラン監督は、フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』(46)やハロルド・ライミスの『恋はデ・ジャブ』(93)、リチャード・カーティスの『アバウト・タイム~愛しい時間について~』(13)などを参考にしたという。
ただ、別世界では妻は自分を知らない。彼女の魅力を再発見して、必死に振り向かせようとする主人公の奮闘ぶりを見せる、という点では、ブレット・ラトナーの『天使がくれた時間』(00)、あるいはジャック・フィニイの小説『夢の10セント銀貨』の方が近いかもしれない。
そうしたアメリカ映画を参考にしたためか、フランス映画にありがちな理屈っほさや皮肉がなく、サラリと見られるところがいい。こういう話は、軽い感じで見られないと、現実がちらついてきて、つらくなるところがあるからだ。シューベルト、ショパン、バッハなどのクラシックの引用も効果的に使われていた。
そして、こうしたパラレルワールド話の肝は、実は主人公の秘密を知る理解者の存在にあるのだが、この映画でも、主役の2人(ジャピがチャーミング!)に加えて、ラファエルの秘密を知っている親友役を演じたバンジャマン・ラヴェルネがいい味を出していた。