『男はつらいよ 旅と女と寅次郎』(83)(1983.8.22.蒲田ロキシー)
今回は、本物の都はるみと、彼女が演じた歌手のイメージが重なり過ぎて、何だか『男はつらいよ』を見た気がしない。寅さんが脇役になってしまっているのだ。ここまでくると、いよいよ労作尽きた感がある。
マドンナに都はるみ、という話を聞いた時から嫌な予感はしていたのだが、これでは以前よく作られていた歌謡曲映画とあまり変わらない。今までのシリーズが保ってきた味を消してしまったと言っても過言ではない。
一体、山田洋次は何を意図してこの映画を作ったのだろうか。それはシリーズ31作ともなれば、マンネリも、ネタ切れもやむを得ない。むしろ、ここまで一定のレベルを保ってきたこのシリーズの出来には驚くべきものがあるのだが、苦しさのあまりとはいえ、いまさら寅さんの世界に、有名人の孤独や悲哀を描くことに何のプラスがあったのか、という疑問が拭えなかった。