見もの・読みもの日記

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伝世の名品と出土資料/新・桃山の茶陶(根津美術館)

2018-12-02 23:01:22 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 特別展『新・桃山の茶陶』(2018年10月20日~12月16日)

 和物茶陶ならではの魅力に溢れた「桃山の茶陶」の特別展。「新」を冠するのは、同館が平成元年(1989)にも桃山の茶陶を紹介する展覧会を開催した経験があることを踏まえ、本展では、その後およそ30年間の研究の進展を取り入れ、最新の桃山の茶陶の世界を紹介するためである。30年前の桃山の茶陶展はさすがに見ていない。当時の私は、まだ陶磁器に全く興味がなかった。

 本展は始まりから名品が並ぶ。冒頭には徳川美術館の白天目。黒土の素朴な茶碗に白い釉薬(正確には灰釉が白く発色したもの)をてろりと掛けまわし、金の覆輪を嵌める。腰から高台にかけては素地が見える。貫入多め。釉薬のたまりが緑色を呈しているのも見どころ。ほのぼのと自然で愛らしい姿。次に黒っぽい備前の水指と花生。和物茶陶の中では備前の使用は最も早いそうだ。それから、信楽、黒楽茶碗、黄瀬戸、奥高麗…。

 黄瀬戸の立鼓花入(銘:旅枕)(和泉市久保惣美術館)は珍しい形で面白かった。所蔵者を見ていると、藤田美術館、MOA美術館など各地の名品が集合している中に「個人蔵」がけっこう混じっているのが気になる。茶陶の世界は奥深い。そして国宝の志野茶碗(銘:卯花墻)も来ていた。

 展示室の奥に進むと、何やら見慣れない展示ケースがある。魚の水槽みたいに天井が開いたケースで、仕切られた各区画にみっしり陶器や陶器片が並べられている。これらは京都市内各地の発掘調査で見つかったものだ。特に注目すべきは京都文化博物館の東側一帯で、天正・慶長・元和の頃(16世紀末~17世紀初め)「京都三条瀬戸物屋町」(瀬戸物はやきもの全般を言う)が成立していたことが分かっている。展示は「弁慶石町」「中之町」「下白山町」「福長町」「油屋町」という発掘地点ごとに出土資料を並べている。面白いのは、それぞれ明らかに個性があること。年代の違い、仕入れ先(?)や販路の違いもあるのだろうが、店主の好みのようにも見える。たとえば「中之町」は比較的織部が多く、色もかたちも多様で、柔軟でモダンな感じがするが、「下白山町」は、伊賀・信楽・備前など、武骨で歪みを強調した造形のものが多い。それぞれの店主の顔が想像すると面白い。

 また、古田織部の京屋敷跡である「四坊堀川町」の出土資料も展示されている。織部桐文角皿は、大いに肩の力の抜けた(あまり織部らしくない)うつわ。なぜか石製の永楽通宝模倣品があったのが気になった。こうした発掘調査は、住宅や商業ビルの建設・増築に際して、少しずつ進められているらしい。気を長く持って、その成果が蓄積されていくのを待ちたい。

 後半は、織部、志野、高取、絵唐津など。志野はだんだん好きになって来た。梅文向付がとても可愛かった。10口あって、手描きの絵が少しずつ違う。露草のような草の葉のまわりに五弁の小花を自由に散らしてあるのだが、そもそもほんとに梅文なの?と微笑ましくなる文様。これ個人蔵なんだなあ。いいなあ。鼠志野も好き。織部は黒が好きだ。特にほぼ無地の織部黒茶碗(ひん曲がった沓茶碗)が気に入った。楽茶碗の黒とはまた異なる魅力の黒。でも、やっぱり私は絵唐津がいい。芦文徳利(根津美術館)、松樹文大皿(個人蔵)など伝世品は少なめだったが、出土資料の中に絵唐津らしいものがたくさんあって満足した。

 展示室5は手鑑。展示室6は「茶人の正月 開炉」で、なるべく桃山茶陶を避けて構成しているように思えたが、私の考えすぎだろうか。

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