見もの・読みもの日記

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台湾と日本の歴史遺産/台北・歴史建築探訪(片倉佳史)

2019-11-20 00:25:57 | 読んだもの(書籍)

〇片倉佳史(文・写真)『台北・歴史建築探訪:日本が遺した建築遺産を歩く:1895-1945』 ウェッジ 2019.3

 台北市内に残る歴史建築を大小200件ほど紹介する。オールカラーの写真が美しく、実に楽しい本。著者は、以前紹介した『東京人』2019年11月号「特集・台湾 ディープ散歩」にも寄稿している台湾在住の日本人作家である。

 台北には日本統治時代(1895-1945)に設けられた多数の建築物が残っている。これらは、日本が台湾の領有権を放棄した後、中華民国の国民党に接収され、日本統治時代の歴史が隠されたり、撤去や改築を受けたりもした。1990年代から民主化が進展し、人々が言論の自由を得たことによって、日本統治時代の半世紀についても、冷静で客観的な視点で評価し、研究が続けられるようになった。この簡潔な紹介は、前掲の雑誌『東京人』に書かれていたことと大体通じている。

 台湾に残る建築遺産を見ることは「日本」を知ることでもある。しかし、ノスタルジックに「日本」を懐かしむだけでなく、台湾の歴史を知り、台湾の今の姿、将来の姿を考える意味もある。本書はそうした視点で編集されているのが好ましい。

 台北市の中心部、つまり「総統府周辺」「国立台湾博物館周辺」「西門町・萬華周辺」の建物は有名なものが多く、どこかで見た記憶のあるものが多かった。しかし外観はともかく、貴重なのは、めったに見られない内部の写真も掲載されていることだ。台北賓館(旧台湾総督官邸)の白壁に金の唐草模様を配したヨーロッパ風の内装、とても東アジアの建築とは思えない。中山堂(旧台北公会堂)の玄関ホールの湾曲した天井も素敵。国立台湾博物館(※表紙写真)は、むかし入ったことがあるはずだが、こんな優美なステンドグラスがあったかしら。

 歴史建築のむかしと今を比べてみると、やっぱり博物館は博物館、学校は学校、郵便局は郵便局のように、用途が変わっていないものが多い。その一方、洋服店が酸梅湯の店になっていたり、女学校が立法院、小学校が内政部警政署など、思わぬ変遷をしていることもある。あと、カフェやレストラン、公設市場や展示空間にリノベーションされて、人々を引きつけている歴史建築も少なくないようだ。

 工場や倉庫、変電所、旧台北鉄道の職員用大浴場、旧台北水源地ポンプ室、送水管、水源地と水管橋など、産業遺産的な歴史建築もかなり収録されている。寺廟、個人商店など、とにかく目配りが広い。そして台北では、これら多数の歴史建築が、わりと狭い地域に密集しているので、その気になれば、短時間でかなりの数を実見することができると思う。

 今回、気づいたのは国立台湾大学や国立台湾師範大学のキャンパスに多数の歴史建築が残っていること。実はまだ行ったことがないので、次の機会には、ぜひ散歩してみたい。写真を見る限りでは、日本国内の旧帝国大学より、建築意匠がオシャレな感じがする。


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