見もの・読みもの日記

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変わりゆく暮らし/中国古鎮をめぐり、老街をあるく(多田麻美)

2020-05-20 21:23:01 | 読んだもの(書籍)

〇多田麻美;張全(写真)『中国古鎮をめぐり、老街をあるく』 亜紀書房 2019.10

 ステイホームの日々が続いているので、旅の空が恋しい。たまたま書店で見かけて、大好物の「古鎮」と「老街」という文字に吸い寄せられるように購入してしまった。レトロな雰囲気の表紙のデザインもよい。

 紹介されている古鎮・老街は28カ所。北は北京市、河北省、山西省から、南は福建省、奥地の貴州省まで。指折りの観光名所もあれば、全く知らない地名もあった。地図を見ながら、東北地方や陝西省、四川省、雲南省がないことを少し残念に思ったが、欲をいえば切りがないのかもしれない。いずれも短い文章で構成されているので、飽きずにスイスイ読めてしまう。冒頭に少しカラーページがあるが、本文に付随しているのが全て白黒写真である。もっとカラー写真が欲しかったが、そうすると値段の高い本になってしまうのかな。それでもまぶたに鮮やかな天然色の風景が目に浮かび、人々の話し声や風の匂いまで感じられるのは、著者の文章力のなせる業である。

 著者のことは何も知らなかったが、著者紹介によれば、1973年生まれ、京大中国文学科の卒業で、留学中に北の胡同の魅力にとりつかれ、現在はフリーランスのライターとして各種媒体で中国やロシアの文化・芸術に関する記事を執筆しているそうだ。少し足が悪くて松葉杖をついている、という記述が本文中に出てくる。「北京に帰る」という表現があったので、現地(中国)在住かと思ったら、どこかでイルクーツク在住、という記載を見た。写真を添えている張全さんは、文中にはほとんど出てこないが、お二人はご夫婦らしい。

 ちなみに本文中で、私が行ったことのある場所は、山西省晋中市祁県(たぶん私も喬家大院でなく渠家大院を訪ねた)、北京市模式口(壁画で有名な法海寺)、河北省易県忠義村(清東陵、清西陵)、天津市西青区楊柳青鎮(年画のお店を探しまわった)、安徽省黄山市黟県宏村、江西省上饒市婺源県李坑村(徽州古民家めぐり!)など。江西省景徳鎮市、河南省登封市(少林寺)、湖北省赤壁市、浙江省紹興市、江蘇省南京市、重慶市なども行っているのだが、本書に紹介されている古鎮・老街は訪ねていないかなあ。ジは全くなかった。

 ただし、私が職場の夏休みを使って、友人たちと中国各地を旅行していたのは、1990年代からゼロ年代の初めくらいまで。本書に描かれているのは、この10年くらいの記述が主なので、私の記憶の中の中国古鎮とは微妙な齟齬がある。あの頃はまだ、ディヴェロッパーの関与も限定的で、中国人観光客も少なく、のんびりしていた。

 なので、映画の舞台になった老街に集まる若者たち(重慶の十八梯)、日帰り客で賑わう水郷(西塘鎮)などの記事を読むと、しみじみと隔世の感がする。その一方、向かい側の山から大声で道を教えてくれる村人とか、お金のないおじいさんを気軽に相乗りさせる白タクのドライバーとか、方言がきつくて一言も理解できないおばさんに誘われて着いていったらトイレだったとかのエピソードには、ああ変わらないなあと思った。都市を離れると、親切で気前のよい中国人に遇うことが多い。現地のおじいさんが言った「山西省と山東省は誠実な人が多い」という言葉は分かる気がする。そういう土地だと警戒心を緩めて生活できるので、居心地がいい。

 また訪ねてみたいのは、やはり安徽省と江西省の古民家群。貴州はまだ一度も行ったことがないが、本書に紹介されている、紙づくりの里・貴陽市香紙溝にはぜひ行ってみたい。洛陽は何度か行っているが、いつも旧市街でない地区に泊まるせいか、本書の写真のような老街のイメージが全くなかった。まだあるのかなあ。早く行ってみなければ。


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