見もの・読みもの日記

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影響し合う東アジア/美の競演(静嘉堂文庫美術館)

2020-08-04 22:31:23 | 行ったもの(美術館・見仏)

静嘉堂文庫美術館 『美の競演-静嘉堂の名宝-』(2020年6月27日~9月22日)

 三菱創業150周年を記念し、三菱の第2代社長・岩崎彌之助、第4代社長・岩崎小彌太らが蒐集した古典籍や古美術品から名品を精選し展観する。会期が9月までなので、ゆっくり行こうと思っていたら、前後期で展示替えがあると分かり、慌てて前期の最終日である8月2日に見てきた。

 展示室に入ってすぐ、前田青邨『獅子図(旧衝立)』は、色も形も斬新で親しみやすくカッコよく、子ども向けアニメーションのキャラクターみたい。実は小彌太コレクションのおちゃめな三彩獅子俑(唐代)を参考に制作されたのだそうだ。本展は、このように何らかの関係のある作品どうしの「競演」が見どころになっている。ところで、パネルの解説によれば、前田青邨は小彌太夫妻の絵の師匠で、厳しく指導していたというのが面白かった。

 名品揃いの茶道具のうちでも随一の曜変天目(稲葉天目)は、当初この展覧会には出品されない予定だったが、新型コロナの影響で三菱一号館美術館の『三菱の至宝』展が来年に延期になったため、急遽、こちらに出品されることになったのは目出度い。いつもより展示台が低いケースに収められていて(たぶん)見込みを覗き込みやすい。

 「東アジア山水画の競演」は前期限りだというので、見に来てよかった。孫君沢『楼閣山水図』二幅対(元代)は修復後初公開とのこと。左右それぞれ、枝を垂らした松が佇立し、その間に雲とも霧とも靄ともつかない縹渺とした空間が広がる。「文清」印『遠浦帰帆・漁村夕照図』二幅対は朝鮮絵画で、鳥瞰図というか、上空のドローンから見ているような視点。山も島影も夢のようにぼんやり、ふわふわした感じ。雲渓永怡『山水図』(日本・室町時代)はお手本どおりに描いているというか生真面目な印象。

 「信仰の造形」は仏画の名品が並んだ。やっぱり高麗時代の『水月観音像』がよい。表情が優しく全体に丸っこくて、美しくも親しみやすい観音様。足元の珊瑚や蓮華、小さな善財童子も可愛い。実はさらに小さな雷神(!)もいることは、同館のツイッターで初めて知った。日本・南北朝時代の『如意輪観音像』は美しすぎて禍々しいくらい。深緑の荒々しい岩(?)と輝くような紅蓮華の取り合わせも妖艶でドキドキする。南宋時代の『羅漢図』は、羅漢が手にした石が金に変化していくところを描く。よく見ると、羅漢が座っている丸いクッション、隣りの花瓶台の装飾など、豪華で繊細。

 屏風は大和絵系の土佐派と漢画系の狩野派の競演。伝・土佐光信『堅田図』は、大徳寺瑞峯院の襖絵を屏風に改装したもの。地を撫でるような低い樹々、低い家屋、そして低い山並み。日本の風景だなあと思う。高い脚をつけいた百葉箱みたいなものが水辺に並んでいて気になった。伝・狩野元信『韃靼人打毬図』も、もとは襖絵。右隻に露営の準備をしているところか。左隻に馬に乗って打毬に興ずる人々が描かれる。20人(20頭)くらいがぎゅっと固まっている。低い丘の上にはテントがあり、敷物に座って見物している赤い服の男が1人。そのまわりに10人くらいの侍者が立っている。以前、似た作品を見たことがあると思ったのは、狩野宗秀筆『韃靼人狩猟・打毬図屏風』で、綴プロジェクトによる複製品の展示を京都国立博物館で見たのだった。しかし、金の雲を多用している宗秀作品に比べると、こちらはずっと素朴。

 このほか、沈南蘋『老圃秋容図』と原在明『朝顔に双猫図』の競演(どちらも白に黒のブチ猫がいる)、宋版と嵯峨本の競演なども面白かった。

 最後にロビーに飾られた陶磁器(日本と中国)を見ていたら、壁に立派な洋館の大きな写真が飾られていることに気づいた。深川別邸?清澄園? 現在の清澄庭園のことか! 三菱創業者の岩崎弥太郎が土地を買い取り、三菱社員の慰安と賓客接待を目的とした庭園を造成し、弥之助の依頼でジョサイア・コンドル設計による洋館が建てられた。庭園には陳列室が設けられ、岩﨑家がフランシス・ブリンクリーから一括購入した東洋陶磁が展示された。当時、日本人の間では人気のなかった清朝陶磁を含め、西洋人の目で選ばれた品を西洋風に展示するという点で、画期的なものであったという。私は深川に住んで3年以上になるのに、まだ清澄庭園の中に入ったことはない(塀の前は何度か通っている)。三菱創業者の人々を偲んで、今度、行ってみなくては。


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