見もの・読みもの日記

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早崎稉吉の自筆稿とともに/石からうまれた仏たち(永青文庫)

2019-02-17 23:46:15 | 行ったもの(美術館・見仏)
永青文庫 早春展『石からうまれた仏たち-永青文庫の東洋彫刻コレクション-』(2019年1月12日~4月10日)

 永青文庫には、いつも展示室の一角(以前は3階、現在は4階)に置かれている大きな中国の石仏があることは記憶に残っていたが、テーマ展示ができるほど、多数の石仏コレクションがあるという認識はなかった。今回、同文庫が所蔵する東洋彫刻コレクションを一挙展示と聞いて見に行った。

  4階の大展示室には15点ほど。大多数がインドの石彫で、ポスト・グプタ時代(7~8世紀)とパーラ時代(パーラ朝、8世紀後半~12世紀後半)に属する、ヒンドゥー教の神像と仏教の尊像。豊かな乳房のふくらみを持つ肉感的な女尊像もあるが、全体に情感が抑えめで、東アジアの仏像の雰囲気に似ているものが多いように感じた。時代性なのか、細川護立の好みなのかはよく分からない。シルクハットのような縦長の宝冠を戴く宝冠如来は、パーラ朝に特徴的だというが、日本の仏像でもよく見るもの。パーラ朝の片足踏み下げ式の弥勒菩薩坐像は面長の顔立ちも東アジアふうだった。

 ターラー菩薩(多羅菩薩)はチベット密教で信仰される女性の菩薩。胸も豊かだが腹まわりにも肉がついていて、ひねった脇腹にしわが刻まれているのがリアルで面白かった。インドの仏像って、たるんだ肉の表現はしないものだと思っていたのに。文殊菩薩坐像は獅子の背中に腰を下ろしており(蓮華座なし)、組んだ足の膝を頭の上に載せられて迷惑そうな獅子の表情が可愛かった。

 中国・唐時代の石仏が4点。うち3点は展示ケースに入っており、1点はいつもこの展示室の隅に常駐している大型の如来像である。ケース外の1点を含む2点は「玉仏」という呼ばれ方をしている。白大理石を玉と呼んだという説明に納得する。咸亨3年銘の阿弥陀如来坐像は、台座の軸のような円柱?角柱?の四面に丸い人面が刻まれている興味深いもの。あまり洗練されていなくて土着的な造形。まあ塑像に比べれば、石仏ってそういうものかもしれない。

 今回展示の中国の石仏は全て、細川護立が早崎稉吉(1874-1956)から購入したものだという。早崎稉吉の名前は、これまでも何度か聞いたことがあるが、今回、本展を連動した『永青文庫』105号の記事を読んで、初めて人となりを知り、面白い人だなあと思った。けっこう長命だったようで、晩年をどう生きられたかが気になる。

 3階は引き続き、中国の石仏・石彫。北魏・西魏・北周・隋など北朝の小さな四面像や三尊像は、小さなお顔に素朴な微笑みを浮かべていて実に愛らしい。先日、書道博物館で見た南朝と北朝の字姿の対比なども思い出しながら鑑賞した。本展のポスターや『永青文庫』105号の表紙になっている菩薩半跏思惟像は北魏時代の白大理石像。伏し目がちに微笑む少女のようで、左右に装飾の広がる宝冠と豊かなプリーツスカートの間に薄い肉体がうずもれている。

 北魏の道教三尊像はどこかで見たことがあるように思った。拱手して座る中尊。光背の左右に小さな脇侍と宙を舞う天女が描かれる。中尊の左右に手足のない龍のような虎のような変な動物が顔を出している。粘土板に引っ掻いたような曖昧な造形。唐(8世紀前半)の菩薩坐像はかなりしっかりした造形。しかし荘厳の一部として造られたせいか、美化・理想化が徹底していないところが親しみやすくて好き。

 感慨深かったのは早崎稉吉の自筆稿『造像所穫記』で、展示では「宝慶寺造像所穫記」と題した箇所が開けてあった。四百字詰め原稿用紙を二つ折りに綴じてあり、ペン(おそらく)の筆勢は流れるように早い。解説には、昭和3年頃、石仏を売却するための資料として作成したのだろうという。驚くべきは、2018年に永青文庫で発見されたものであること。調べれば、まだこういう重要資料が出てくるものなのだなあ。

 2階は中国・チベットの金銅仏等で、個人蔵のコレクションが特別出品されていた。鍍金のはっきりした如来坐像(十六国時代)とか、1つの台座に並ぶ双観音菩薩立像(北斉)とか面白かった。火焔光背が華やかな如来坐像(永青文庫蔵)は「宋時代」とあって、え?と思ったら南朝の宋(劉宋)のことだった。紛らわしい。

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