見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

咒師の作法/声明公演・薬師寺の花会式(国立劇場)

2020-02-16 23:12:48 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 第57回声明公演 薬師寺国宝東塔大修理落慶記念『薬師寺の花会式:修二会薬師悔過法要』(2020年2月15日、13:00~)

 奈良・薬師寺の修二会薬師悔過法要(通称・花会式)は、毎年3月25日~31日に行われる。学生の頃、たまたま花会式期間中の薬師寺を訪ねた記憶はあるのだが、その後は縁がなく(何しろ年度末の1週間!)、声明が行われているという認識もなかった。東大寺の修二会は何度も聴聞しているのに、大きな違いである。

 舞台の幕が上がると、巨大な薬師三尊像(立体感など、かなり本物に似せた絵)と朱色の柱が立ち、金堂の雰囲気が再現されている。中央には礼盤(高座)、その左右に八の字型に4人ずつの席を置く。また、沓(くつ)音を響かせるためか、内陣をめぐって須弥壇の裏に消える四角形の板張り(?)の通路がしつらえられていた。2階の最前列の席だったのでよく見えた。

 はじめに薬師寺管主の加藤朝胤さんが登場して、薬師寺と花会式について20分ほどお話をされた。薬師悔過法要が今のようなかたちになったのは、堀河天皇の皇后さまの病気平癒を祈願し、平癒のお礼に宮中の女官たちが造花をお供えしたのが始まりであること。造花は薬草で染めているので、水に漬けて飲めば薬になること。造花と壇供(お供えの餅)は、法要が終わると参拝者に与えられるが、みんな壇供を好むのが「花より壇供(団子)」の由来であることなど。やっぱり薬師寺のお坊さんは話が巧い。

 解説のあと、いったん休憩が入り、開演した。幕が上がると全ての照明が消えて真っ暗闇になる。須弥壇の裏側から、堂童子頭(赤い袍)と白丁が本物の火を持って現れ、ろうそくに灯をともすと、舞台が再び明るくなった。続いて8人の練行衆が着座する。

 左列の上座から2番目の僧侶が礼壇に上り(時導師)、残りの7人との掛け合いで、供養文や称名悔過、礼仏懺悔などを唱える。管主が「大きな声でしっかり仏様に謝り、それからお願いごとをする」とおっしゃっていたとおり、かなり騒がしい場面もある。花会式を見た中学生が「花会式 坊主ワイワイ 鐘の音」という俳句をつくったというのも納得である。時導師は、礼盤に立ち上がり、大きく背中を反らせて天を仰ぎ、また小さく腰をかがめる動作を何度も繰り返すので、大変だなあと思った。散華行道、心経行道、牛王加持行道など、全員で内陣をめぐる場面もあり、高らかにひびく沓の音が心地よかった。薬師如来の宝号が「南無薬(なむやー)」なのを初めて知った。

 時導師が席に戻ると、入れ替わりに、左列の最も上座の僧侶が登壇した(大導師)。袈裟の色(黒い枠に黄色)を見て、最初に解説をした加藤管主であることに気づいた。以下の「大導師作法」は、いろいろ特徴的で面白かった。たとえば仏の三十二相を申し述べる詞章があり、字幕スクリーンを追っていたが、「舌相広長覆面相」でちょっと笑ってしまった。リズムをとるのにカスタネットのような小さな楽器(鈸)を使うのも楽しかった。

 この法要は、日本語(漢文読み下し調)の唱えごとが比較的多いと感じた。「神分(じんぶん)」は、この法要のために来臨影向している神々に功徳を回向するもので、日本国主天照大神のほか、道馬権現、大津聖霊、天満天神、法相擁護春日権現など、気になる神名が挙げられている。

 大導師作法がだいぶ進んだところで、右列の右端の僧侶が合図の音を立てて、須弥壇の裏にいる堂童子頭を呼び、右列2番目の僧侶の足元に草履(?)を用意させた。何が始まるのかと思ったら、字幕に「咒師作法」という表示が出た。え、咒師(しゅし)!? 急に緊張して見ていたら、それまで何の変わったところもなかったそのお坊さんが、厳かに陀羅尼を唱え、袖の中で印を結び(たぶん)、銅鈴を振り鳴らす。乾いた音色は、東大寺修二会の咒師鈴と同じだ。

 おもむろに立ち上がった咒師は、足音のしない履き物を履いて、速足で内陣の周りをまわり、諸尊を勧請する。「四天王勧請」では、大声で四天王を呼ばわり、その場でくるりと一回転して、次の場へ急いだ。「乱声」では、舞台が暗くなり、法螺貝が吹き鳴らされ、鉦や太鼓が激しく打ち鳴らされる。咒師は時計回りに須弥壇の裏に消えたと思ったら、上手側から現れたときは、額に日の丸をつけた三角帽子を目深に被り、両手に抜き身の剣を構える異様ないでたちだった。反射的に思い出したのは、『風の谷のナウシカ』の二刀流剣士のユパ様である。はじめは二本の剣を頭上で交差させ(持剣指天)、次は剣先を下げて膝の前で交差させ(持剣指地)、最後は互い違いに構えた状態(持剣指天地)で登場した。その後も印を結んだり、鈴を鳴らしたりしながら、何度も何度も内陣を巡った。そして乱声が止み、何事もなかったように咒師が席に戻ると、短い作法があって、全ての供養が終わった。

 面白かった。薬師寺の花会式を、これまで一度も聴聞しなかった不明を悔やんだ。私は刀剣に興味がないので気づかなかったが、2016年には薬師寺で『仏教と刀』『噂の刀』展が開催されており、咒師作法の写真を使ったポスターが、一部では話題になっていたらしい(参考:Internet Museum)。

参考:綴る奈良 Vol.4:薬師寺花会式/登大路ホテル(これもなかなかいい写真!)


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 趣味から学問へ/古物を守り... | トップ | 文化人将軍の役割/天下泰平... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの2(講演・公演)」カテゴリの最新記事