見もの・読みもの日記

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個人コレクションの奥深さ/顕われた神々(金沢文庫)

2018-12-09 22:10:26 | 行ったもの(美術館・見仏)
神奈川県立金沢文庫 特別展『顕われた神々-中世の霊場と唱導-』(2018年月11月16日~2019年1月14日)

 予想以上にあやしくて(褒めてる)すごい展覧会だった。国宝・称名寺聖教に含まれる唱導資料(儀礼や説教の台本)と関連する美術作品によって、伊勢神宮や春日大社、八幡宮など様々な神々のすがたをを紹介する。主催者である金沢文庫の立場からは唱導資料を主としているが、見る者としては、やはり仏画や仏像に関心が向く。

 まず1階の展示室に入ったところに3躯の仏像・神像。烏帽子姿で指貫の上で袈裟をまとった銅造の男神像が伊豆山権現立像(伊豆山神社)であるのはすぐ分かった。近年(2016年頃)の保存修理で錆が除去され、面目を一新したそうだ。確かに私が2006年にこの像を見たときの記録には「表情も分からないほどの緑青に覆われ」と書いている。

 隣りに素地仕上げの十一面観音像(平安時代、小田原文化財団)。丸顔で目が一文字のように細く、唇がぽってり厚い。頭上は高く盛り上がり、十一面は全く彫刻を施さず、ただ卵形の物体が並んでいて、南国の植物のようだ。膝下と足のつけねあたりにU字形の天衣が二重にかかっている。しばらく眺めて、今回のポスターになっている仏像だと気づいた。本像は神像=本地仏として造立された可能性が高く、白山社の本地仏と考えるのも一案であるとのこと。その関連か、隣りには銅造の男神像(個人蔵、美濃の長滝白山神社伝来)も並んでいた。山岳信仰関係の神体に銅造のものが多く見られるのは、仏像を意識したためと考えられる。逆に本地仏は木造の神像と同様、素地仕上げや衣文の省略が見られるというのが、とても面白い。

 2階に上がると、所狭しと並んだ仏画・仏像。『伊勢参詣曼荼羅』2幅(小田原文化財団、室町~桃山時代)はかなり古風でのどかな素朴絵ふうでよい。外宮の側に金色の日輪、内宮の側に胡粉を塗った月輪(?)が描かれる。春日宮曼荼羅、鹿曼荼羅、富士参詣曼荼羅など。あまり見た記憶のない「個人蔵」が多くて、ドキドキする。

 大将軍神社ふうの男神坐像、腹の前でだらりと拱手した男神立像(つぶれた烏帽子が印象的)、左手に弓を握り、どんぐり眼で正面を凝視する随神坐像(体つきが自然でリアル)が全て「個人蔵」なのにも驚いた。以上は全て平安時代で、素地仕上げの神像である。鮮やかな彩色の残る、男神1と女神2の三神坐像、美豆良(みずら)頭の童子形の(八幡)若宮坐像は鎌倉時代。これらも個人蔵。あと、八幡神(僧形)と仲津姫命の正面像をそれぞれ描いた1対の華鬘(南北朝時代)も面白かった。こんなものがあるのか。図録の解説に「薬師寺八幡宮で所用されたものが巷間に伝わったのかもしれない」という。現在は個人蔵。

 いや別に、これらが全てひとりの「個人」に帰すわけではないのかもしれないが…美術館や博物館が所蔵しているのって、美術品全体のほんの一部なんだな、ということを実感した。金沢文庫は2016年にも、『称名寺聖教・金沢文庫文書』の国宝指定を記念して「普段あまり見る機会の少ない個人蔵の神像や仏像、仏画などの仏教美術作品」を紹介する展覧会を開催してくれているし、こういう活動はとても嬉しい。

 仏画は、茨城・妙安寺の『春日赤童子像』(室町時代)、茨城・千妙寺の『騎馬護法童子像』(鎌倉時代)、伊山文庫の『雨宝童子像』(室町時代)、神奈川・正念寺の『熊野権現影向図』(室町時代)なども面白かった。南北朝時代の『大黒天像』は、大股で歩む大黒天がかついだ袋の円の中に八臂弁財天と十五童子を描く。隅の方に白狐に乗った荼枳尼天もいるという、何だか分からない図像で南北朝らしい。現地では大黒天の姿が見えにくかったが図録で把握。

 どうしても仏画と仏像に目を奪われてしまうが、唱導資料の文書もかなり興味深いものが出ていた。今では忘れられた信仰と伝承の面白さ。天竺月氏国の島が飛来してきて富士山になったとか、諏訪明神は天竺から渡来したとか、『大神宮本縁』によれば、イザナギとイザナミが天玉鉾を下ろして五角の嶋を見出すと「一面六臂赤色咲怒之王」が登場して金輪王と名乗り、国土を譲られたとか。『日本得名』によれば、伊勢の二見浦の海底には「大日本国」という銘の入った金札があるという。こういう混沌とした中世の神話世界、好きだ。記紀神話もいいけど、日本人は記紀神話だけで生きてきたわけじゃないのよねえ。

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