見もの・読みもの日記

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赤壁図屏風で祝再開/モノクロームの冒険(根津美術館)

2020-09-23 22:32:50 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『モノクロームの冒険-日本近世の水墨と白描』(2020年9月19日~11月3日)

 新型コロナの影響でずっと休館していた根津美術館がようやく再開したので、1月末に企画展『〈対〉(つい)で見る絵画』を見に行って以来8か月ぶりの参観に行ってきた。長かったなあ。前日にホームページを見たら「ご来館前日までに日時指定入館券をご購入ください」という案内が掲載されていたので、慌てて購入した。行ってみたら、アプローチの先(屋外)に特別な受付が設置されていて、日時指定入館券を購入せずに来てしまった人にも対応しているようではあった(同館でおなじみのおじさんの姿を見て懐かしかった)。

 本展は、墨の可能性を追求してきた水墨と白描の魅力を、日本近世の作例によって紹介するコレクション展。展示室1には屏風、軸物、画巻などの水墨画17件。伝・宗達筆『老子図』は、明確な線で構成された老子の肖像と、たらしこみのせいで溶け出しそうな墨色の牛の対比が面白い。狩野山雪筆『梟鶏図』2幅は大好きな作品なので再会を喜ぶ。目つきの悪いニワトリとかわいいフクロウ。あさってのほうを向いているフクロウの視線がよい。大阪の『奇才』展でも山雪をたくさん見たが、ほんとに振れ幅の大きい絵師だと感じる。

 展示室に入った瞬間に気づいていたのだが、壁面の大部分を占領していたのが、長沢芦雪筆『赤壁図屏風』。六曲一双で、屏風の一枚がタタミ一畳分くらいある。昨年、出光美術館の『名勝八景』で初めて見たのだが、あのときは展示室のかどを利用して、右隻と左隻を90度の角度で展示していなかったかしら。今回は左右に並べているので、規格外の大きさが際立つ。端から端まで歩いてみて、その遠さに笑ってしまう。大画面の左右に展開する幻想的な岩壁。幽霊の行進みたいな松の木。水上に浮かぶ小さな船、数名の文人たち。船のトモでは、縦長の涼炉に茶瓶を掛けている様子なのが、江戸の煎茶趣味を反映しているようで面白い。いま気づいたが、今回の展覧会のポスターは、この『赤壁図屏風』じゃないか。欲しい!

 海北友松の『呂洞賓・鷺・鶴図』3幅対は、オバQみたいな白抜きの鷺図がかわいかった。点目が愛らしい呂洞賓は、抜き身の剣に立って宙を飛んでいる。中国の仙術の定番のひとつだ。『牧谿瀟湘八景図模本』は同館の水墨画コレクションでは欠かせない名品だが、私はむしろ狩野常信筆『瀟湘八景図巻』が気に入った。モノクロームの世界だが、むかし見た江南の風景がよみがえる。雨を含んで重たそうな竹の緑、黒い瓦に白壁の村など。

 展示室2は白描画。『伊勢物語・源氏物語図屏風』のほか、『鳥獣戯画断簡模本』(ウサギとサルの競べ馬。江戸期の摸本だが巧すぎてそう見えない)、冷泉為恭、吉川霊華、安田靫彦の作品など、多彩だった。

 展示室3(仏教美術)は、木造彩色の増長天立像(平安時代、12世紀)をこのコーナーでは初めて見るような気がした。どこか力の抜けたやさしい造形。2019年の企画展『優しいほとけ・怖いほとけ』では見たものかもしれない。展示室5は「陶片から学ぶ-中国陶磁編」を特集。根津美術館、こういうコレクションも持っているんだ、と認識を新たにする。展示室6は「秋寂の茶」。寂しいけれど華やかな名品が揃っていて、再開記念の気持ちを込めたセレクションではないかと思った。

 展示室の中ほどに設置されていた展示ケースやベンチを減らして、空間を広くするなど、感染症予防に配慮した会場づくりだった。何事もなく、再開が続きますように。


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