今回は、「大社会」に続く「家族国家」です。今度は最初から、言葉の説明が入っています。
「家族国家・・・弱肉強食の大社会と対比をなす、平穏と安全と保護の世界。」ここで「大社会」の意味が、もう一つ加えられていますが省略します。
「こうした混乱と不安に対し、統治勢力は、本家、分家、同族団の類比を用いて、天皇家は本家、国民は赤子(せきし)と言う家族国家のイメージを、設定した。」「そしてこのイメージは初等中等教育における、政治教育の重要な内容となった。」
どうやら、明治政府の国民統治政策、政治教育に関する説明らしいと理解しました。
「国民に集合体のイメージを供与し、同じ日本人という一体感と、連帯感を醸成し、一君万民の形で、国民の忠誠を村や藩から天皇に集中する、その結果内戦から政権抗争の色彩を薄め、統治勢力の主体性を、保全する、」「こうした趣旨である。」
国際社会の熾烈さを知る、明治政府は、富国強兵策の根本に天皇を中心とする国民を作ろうとしましたから、こんな見方もできないではありません。
「日清戦争、日露戦争という、日本の安全と独立の危機に際して、特に国民の臣従を強めた明治天皇は、赤子に対する大御心の源泉として、このイメージを体現した。」
昭和の時代は私の人生そのものですから、昭和天皇を良く知っていますが、明治天皇については、関連する本も読んだことがありませんので実感がありません。軍服姿の厳しい明治天皇しか記憶にありませんから、氏の叙述にうなづくだけです。
「家族国家のイメージと並んで、人心不安の吸収を志向したのは、教育勅語である。」「憲法体制における基本法典の一つとして、明治政府は、明治23年教育勅語を公布した。」「その内容は、皇祖皇宗の遺訓を根拠に、親孝行、夫婦和合から、護憲遵法、従軍の義務に至るまで、社会生活の徳目を列挙、説示した。」
「この教育勅語は、大社会の生活に適合した徳目を持ち合わせない、国家神道を補完するものであり、その後、初等・中等教育における、社会化の基準となった。」
いい加減な説明をし、思いつきで著作を書いているように見えますが、さすがに氏は、大学教授です。読者を自分の意図する方向へ、導いています。
1. 立憲体制により生まれた、三つの新しい職業。 ( 政治家、官僚、マスコミ )
2. 大社会
3. 家族国家
4. 教育勅語 ・・・ときて、最後は
5. 国民倫理 です。独特な論理に丸め込まれないように、注意しながら読みました。
「教育勅語を基準とする修身科は、当然のことながら、大社会における、市民的な倫理の培養も、指向していた。」
と言って、氏はここで四つの重要事を取り上げ、簡単に説明しています。
1. 成功の倫理の強調
「少年よ、大志を抱けと、各々その志を遂げるという企業精神が奨励され、進取の気象と自立自営の工夫が説かれた。」
2. 欠乏の倫理、勤労と倹約と貯蓄の倫理の強調
「経済の拡大再生産のためには、労働の濃密化 ( 勤労 ) 、消費の切りつめ ( 倹約 )、余剰に再投資 ( 貯蓄 )が必要である。」
3. 契約順守の倫理の強調
「大社会での分業体制を組織し、運用するためには、全ての関係者が、契約を守ることが大事である。」「全ての個人を平等に扱い、正札商法を守ること ( 正直 ) が必要である。 」
4. 知識を世界に求める、国際的開放性の強調
「日常生活では、舶来崇拝が育っている。」「舶来輸入品の中には、革命理論まで含まれているから、国際化の行き過ぎを戒め、国粋、国体を唱道すること。」「伝統保全と文明移転との両立、あるいは東西文明の融合、ないし総合が、日本の使命とされることとなった。」
今回のブログで一番注目したところは、「2. 欠乏の倫理、勤労と倹約と貯蓄の倫理の強調」の部分です。使われている言葉に、引っ掛かりました。
「経済の拡大再生産」「余剰に再投資」という言葉は、資本論を読まなければ、出てこない言葉でないかと思うからです。このシリーズの最初の回で、私は次のように述べました。
悪書とする理由は、
1. ここまで分厚い本を書きながら、日本における一番の重要事に、ほとんど言及していない。
(1) 皇室 (2) 大東亜戦争 (3) 東京裁判 (4) 現行憲法
全く触れていないわけではありません。次回は、そのわずかな叙述について、述べたいと思います。反日左翼ではないが、日本を愛している訳でもない氏の姿が、息子たちにも見えるのではないかと、期待します。