ねこ庭の独り言

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大本営 - 4 ( 森松氏と富田氏の、遺言 )

2019-05-19 22:11:17 | 徒然の記
 「大本営」の第4回目です。核心部分に入ります。それでもまだ、4ページにいます。
 
 「大本営は、統帥機関であり、」「統帥権は国務から独立し、」「政府の輔弼(ほさ・補佐)の外にあった。」「これがため、統帥と国務の調和、」「すなわち政戦両略の、一致を図ることが極めて重要である。」「この機構上の不統一は、制度の運用の妙に待たねばならない。」
 
 他国に、王と呼ばれる方は何人もおられますが、建国以来、変わることのない血統の君主は天皇陛下だけです。簒奪したり、されたり、殺したり殺されたり、他の国々の王位は、変遷と消長を繰り返しています。
 
 日本では民を宝と思われる天皇と、天皇を敬愛する国民が、一つの国としてまとまり歴史を刻んできました。神代から続く天皇が在位され、神聖不可侵の存在とされ、統帥権が天皇ある・・、おそらくここが、戦前の日本を語る日本の特異性でしょう。
 
 国民の幸福と国の平和を守るため、「天皇」と「軍」をどのように位置づけるか。ここを忘れて憲法を改正すれば、戦前の失敗を繰り返すことになります。森松氏は、間接的にこれを強調しています。
 
 「大本営が、政戦両略一致に努めれば、務めるほど、」「統帥の活動域を脱し、国務の分野に立ち入り、」「戦争指導にも、大きくて寄与することとなった。」
 
 国務は政治、統帥は軍務と、簡単に言えばそうなります。元々不可分のものを、分けようとするのですから、曖昧さとせめぎ合いが生じます。まして軍の内部で陸軍と海軍が対立しているですから、国論のまとまる方が不思議です。結局氏は、次のように述べます。
 
 「統帥部主導の国策遂行、戦争指導は、」「返って、政略と戦略のバランスを崩し、」「国家意志が、常に分裂するという弊を生じた。」
 
 昨年の3月に、富田健治氏の著『敗戦日本の内側』を、読みました。森松氏の言葉と合わせて考えますと、別の意味が生まれてきます。息子たちのため自分がブログを遺しているように、富田氏と森松氏も、子孫である私たちに遺言をしていたのだと、思えてきました。
 
 富田氏の言葉を、再度紹介いたします。
 
 「昨今、現行日本国憲法の再検討が云々されており、」「その重要な点の一つに、再軍備の問題がある。」「再軍備問題は、」「今日の国内の国民感情、特に婦人層、並びに青年層の考え方や、」「国家財政の上から、いろいろ問題があるけれど、」「私は独立国として、いつの日にか、」「軍備を持たねばならぬことを思う。」
 
 「その時一番心しなければならないことは、」「軍の統帥を、絶対に国務から独立させてはならない、ということである。」「統帥を国務からの独立を許したことが、」「支那事変を拡大し、大東亜戦争に発展せしめ、」「これが敗戦を導いたと断じてよいと、私は信ずるものである。」
 
 富田氏は、近衛内閣の官房長官を務め、最後まで公を支えた政治家です。敗戦後の暗い世相を語る日本を語る氏の著書でしたが、「渓流」に触れたような清涼感を得ました。森松氏の意見に接した今、さらに同じ気持ちになります。表現は違いますが、両氏が同じことを語っていると思えてなりません。並べて紹介するので、息子たちもしっかり読み比べてください。
 
 森松氏・・・「統帥部主導の国策遂行、戦争指導は、」「返って、政略と戦略のバランスを崩し、」「国家意志が、常に分裂するという弊を生じた。」
 
富田氏・・・「一番心しなければならないことは、」「軍の統帥を、絶対に国務から独立させてはならない、ということである。」
 
 森松氏の次の叙述に、今後の憲法改正の重要事が示唆されていると感じました。
 
 「大本営は、陸海軍の策応協同を図るのを、重要な任務とした。」「陸海軍の、協同一致が困難なので、このような措置を必要としたのである。」
 
 つまり陸・海軍の協同ができていれば、大本営という組織は要らなかった、ということです。これからの憲法改正にあたり、この問題が解決されているかどうかが、一つの鍵になります。そんなことは、昔の話でないかと、冷笑する声が聞こえますが、森松氏の意見を、もう少し聞いてみましょう。
 
 「陸海軍の対立抗争は、根深いものがあり、」「単なる勢力争いでなく、」「戦略思想の相違、機構上の分立、体質の異同など本質的な問題があった。」
 
 自衛隊になったからといって、歴史を背にした陸海軍の対立が解消していると考えるのは、門外漢の楽観論である気がします。長く続いた歴史と文化、あるいは風土、つまり陸軍と海軍の対立感情は、簡単に変わらないのではないかという危惧です。杞憂であることを願いながら、富田氏の意見を紹介します。
 
 「第二次近衛内閣の、一番の使命は、支那事変の早期解決であった。」「先ず実行しなければならなかったことは、」「極度に対立、混乱の様相を呈している、国内の諸勢力の一本化であった。」
 
 「対立の第一番目は、国務と統帥の対立、」「否むしろ、統帥(軍部)の、国務(政府)に対する、干渉、専横ということであった。」「総理大臣の知らぬ間に、欲せざるまま、」「陸軍がどんどん支那事変を拡大しているのが、当時の実情であった。」「近衛公は、第一次近衛内閣の苦い経験に基づいて、」「このことを、一番意識していたのである。」
 
 しかし歴史が証明したように、陸軍と海軍は軍内で対立していても、政府を攻撃するときは歩調を合わせました。近衛公は、軍部の干渉と専横に負け、政権を投げ出してしまいました。森松・富田両氏に教えられる、憲法改正の留意事項は次の二点です。
 
  1.   軍の統帥を、絶対に国務から独立させてはならない、ということ。
  2.  陸軍と海軍の内部対立を、解決しておくこと。
 
 本来なら国会で与野党が政争に時間を空費するのでなく、憲法論議をすべき時です。選良と言われる議員諸氏は、何を勘違いしているのでしょうか。
 
 こんな調子でいきますと、「ねこ庭」を訪問される方がゼロになるような、そんな予感がしてきました。しかした富田氏と森松氏の遺言を思うと、止めるわけにいかなくなります。
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2 コメント

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「丸山発言」を通して感じたこと (成田あいる)
2019-05-21 20:48:21
お疲れ様です。
今、丸山穂高議員の「領土を戦争で奪い返す」発言が「炎上」していますが。。。
日本社会、と言うより左派が「戦争アレルギー」が根強いせいか、一斉に袋叩きのようです。
それでも、丸山氏は「辞職勧告」「けん責決議案」まで突きつけられても、少しも怯む姿勢を見せていないのが救いです。

今回の発言では「戦争」という言葉で過剰反応したようです。
が、今の日本、戦争しようとしても簡単にできないことは明白です。
丸山議員だって、「戦争やって奪い返そう」と本気で発言したわけではないと思います。
戦争なんて、自衛隊と在日米軍が組んでも、簡単に出来っこありません。
命令系統や「軍」としての「組織」、内閣や総理大臣との関係、身分などが関連し合って、「戦争」が出来る「軍」になるのだと思います。

とは言え、丸山議員のような議員、そして事件を起こしてしまったと言うことで、維新にも隙があったと思います。
自民党もまた、立憲民主を諌めることもできず情けないものです。
このような不毛で低レベルなことで時間を費やすよりも、「憲法改正」の議論の方が重要だと思います。
丸山議員の発言 (onecat01)
2019-05-22 00:06:10
成田あいるさん。

 こんばんわ。他の人のブログで、初めて丸山議員の発言と、一連の騒動を知りました。

 発言自体は、問題と思いませんが、丸山氏は時と場所を、間違いました。しかも禁酒中の軽率な行動なので、同情はいたしません。保守議員として正論を述べているのですから、反日勢力から、常に狙われていると言う自覚が必要です。

 「戦争」と言う言葉だけで、大騒ぎする野党と、扇動するマスコミと、いつものパータンですね。もうすぐ選挙ですから、国民はしっかりと観察し、反日議員と、低レベルの議員を落選させなくてなりません。たとえ自民党の議員でも、獅子身中の虫は、情けをかけないようにいたしましょう。

 ラブロフ外相の発言は、居直り強盗の脅しですから、丸山議員の怒りは当然です。しかし、時と場所と、酒の間違いは、氏の致命傷です。

 コメントをありがとうございます。

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