物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

『物理数学散歩』の目次

2025-02-24 12:00:00 | 物理学
小著『物理数学散歩』(国土社)の目次をここに挙げておこう。

1. 単振動の合成
2. 立体角
3. 自然対数の底eの近似値
4. arcsin x+arccos x=n/2を理解する
5. 微分をして、積分を求める
6. 母関数の方法
7. 関数の定義
8. ラプラス演算子の極座標表示
9. Legendre変換
10. 分岐点の定義
11. 積分公式の場合分けはいらない?
12. ベクトル積の成分表示
13. ベクトルの3重積の公式の導出
14. rot rot A=grad divA-ΔAの導出
15. テンソル解析の学習における問題点
16. 「Levi-Civita」再論
17. 「Levi-Civitaの記号の縮約」再々論

である。

この本はアマゾンコムでもAmazonのマーケットプレイスに出品されているものであるが、自著でもある。委託して販売をお願いしたのであるが、本当はとても役立つ本だと思う。

出版社との関係からうまく売り出せていない。まずはお披露目したい。売価2,200円は安い。安いと価値がないと思われるのが、残念だが値段以上の価値があると思っている。

内容の一部紹介をしておこう。

(2. 立体角)
だれにでもわかる立体角の説明はいまでは各所でみられるようになったが、私が書いたころには立体角の説明はほとんどなかった。いまでは「予備ノリたくみ」さんの本には私の本よりも詳しい説明がある。しかし、本質的なところは逃してはいないつもりである。

(5.  微分をして、積分を求める)
これは『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(岩波書店)のある章のエピソードをエッセイの書く動機としたものだが、そういう動機づけが面白いと自分では思っている。この同じことをエッセイとして取り扱った本やエッセイもぼつぼつ現れてきている。

私も「数学・物理通信」に3つほどその後同じタイトルでエッセイを書いている。関心のある方はインターネットで検索してみてほしい。

(6.  母関数の方法)
これは伏見康治先生の本『伏見康治著作集』(みすず書房)のある巻のエッセイからヒントを得て書いたエッセイであるが、中身は量子力学でも出てくるエルミートの多項式について述べている。要するに母関数の方法が重要だとの認識を伏見先生に教えてもらったから書いた。エルミートの多項式は母関数の方法の使えるほんの一例にすぎないが。

(7. 関数の定義)
高校の数学の先生なら、「ははあ、関数をブラックボックスと見るという関数の定義だな」と推察されるだろうが、そういう見方だけではなくもっと広い関数の定義について述べている。

もっともそれを知っていて、高校で数学を教えるときに役立つかなどと功利的な考えの人にはまったく役立たないだろう。だが、いろいろの関数の定義のしかたがあるのを楽しむ余裕のある人には世界が広がるかもしれない。

最近では若い人は私のような老人とはちがって特殊関数のことをあまり学ばないとか言われている。なんでもコンピュータが計算してくれるからだとか。

(8. ラプラス演算子の球座標表示)
量子力学、特に、水素原子の電子の状態やエネルギー準位を求めるときに球座標表示(3次元の極座標表示のこと)を使う。もっとも直交座標から球座標にラプラス演算子に変換するのは一苦労である。普通には一度直交座標系から円柱座標系にしておいて、それから続いて極座標系に変換する方法が用いられる(注1)。

だが、そういう便法を使わないで直接に直交座標表示から球座標表示にするのが正道の方法ではないかという思いにとりつかれてしまった。

このやり方でその途中の計算をきちんと書いた本は最近はないわけではないが、昔はそんな面倒な計算を書いた本などなかった。これはE大学に勤めるようになってから、佐々木重吉先生ご本人から先生の著書『微分方程式概論 下』(槙書店)に書いてあると教わったが、それを参考にしている。

だいぶん後になってだが、上の方針でまともに計算したエッセイを読まれた、場の量子論で高名なN先生にこういう計算を学生にやらせるのは数学嫌いを助長するのではないかとのご批判をいただいた。もっともである。

その後、「数学・物理通信」に類似のエッセイをいくつか書いている。そしてそれらの中には、肝を冷やすようで面倒なこの種の計算を少し簡潔にできる方法で述べているものもある。関心のある方はインターネットで検索してほしい。

(9. Legendre変換)
Legendre変換の一番よく知られた例は解析力学のラグランジアン L からハミルトニアン H への変換である。H=p \dot{q}-Lだったかな。

もっとも解析力学を学んだ頃はそういうことはまったく知らなかった。ハミルトニアン Hへの変換は変な変換だなという印象しかない。 これがLegendre変換であることを知ったのは大学に勤めるようになってからである。このことは後年私も訳者の一人となったゴールドスタイン『古典力学』(吉岡書店)の初版を読んで知った。

だが、それよりも熱力学の第2法則での内部エネルギーUから、エンタルピーH=U+pVへの変換、ヘルムホルツの自由エネルギーF=U-TSとかギッブスの自由エネルギーG=H-TSへの変換がLegendre変換だとは物理化学の本でようやく知った。これらは物理化学でも天下りで定義として、教えられているのではないだろうか。

これはムーアの『物理化学』上(東京化学同人)を読んでようやく知ったことである。熱力学を学ぶのは物理化学の本からがわかりやすくてよいとは伏見康治先生のご自身の経験による教えだったらしいが。

(10. 分岐点の定義)
私のような頭のわるい者には複素解析の本に書いてある分岐点の定義はわからなかった。それがようやくわかったという、お粗末噺である。

だが、世の中の人はみんな頭がよくてわかってしまうらしい。

(12. ベクトル積の成分表示)
ベクトル積の成分表示を求める方法を書いている。最近ではこういうことを書いた本もときどき見かけるようになった。特に外国語の翻訳書に多く見かけるような気がする。私は原島鮮先生の力学の本から知ったと思う。『Feynman物理学』III(岩波書店)でもこの謎は解けないが。

(13. ベクトルの3重積の公式の導出)
ベクトルの3重積の公式 A*(B*C)=B(A・C)ーC(A・B)いわゆるbac-cabルールをどうやって導くか(注)。この公式の発見法的な導びき方を書いた本はいまではないわけではない。私はこれを原島鮮先生の力学の本から知った。最近ではこれについて書いた本もぽつぽつあるが、まだ一般的ではないのは残念である。

またここには書いていないが、ベクトルの3重積の公式の記憶法としては中央項ルールというのもある。記憶法は単なる記憶法ではあるが、計算するときには役立つ。

(注)bac-cabルールはA*(B*C)=B(A・C)ーC(A・B)の記憶法の一つである。同じベクトル三重積(A*B)*C=B(A・C)ーA(B・C)をどう覚えるか。これにも役立つのが中央項ルールである。この中央項ルールの説明も「数学・物理通信」に掲載してある。インターネットで検索してみてほしい。

(14. rot rot A=grad divA-ΔAの導出)
これは『Feynman物理学』のFeynmanの発見法的な導き方と伝統的な、ただ公式を既知の事実として、その両辺を比べて正しいことを検証する方法とを並べて書いた。

なお、表題の公式の導出にはLevi-Civitaの記号を用いた方法が、Feynmanの発見法的な導出法以外にもある。

これは(15. テンソル解析の学習における問題点)の(3節 ベクトル解析への応用)で述べてある。ただし、Levi-Civitaの記号をフルに使ってではあるが。

(15.-17. 「ベクトル解析」関係)
標題はテンソル解析とかあったりするが、実は応用としてベクトル解析のベクトル代数関係には「Levi-Civitaの記号の縮約」再論とか再々論とかが役立つし、その前の「テンソル解析の学習における問題点」なども大いに役立つ。

この薄い本がすべてのことに役立つはずもないが、ベクトル解析の一部にはとても役立つ。ただ、あまりこの本の存在が知られていないのは出版社には、この書の価値がまるでわかっていないから。それよりもあまりに価格が低くて出版社の利益が出なかったことが理由だったかもしれない。

しかし、私のような多くの普通の人たちには目から鱗が落ちるような衝撃を与えるだろう。

(注1)学生だったころにラプラス演算子の極座標表示に挑戦してみたことがある。1週間ほど頑張ってみたが、どうも計算がなかなかあわず残念ながら断念してしまった記憶がある。円柱座標を経由して球座標(3次元極座標系のこと)に変換する方法は当時学んだ高橋健人『物理数学』(培風館)に載っていたので、こちらの方は簡単にチェックできたと思う。

(注)日本人は自分を自慢するのはいけない、慎むべきこととなっている。私自身も日本人だからそういうことも思わないでもない。しかし、外国人にとっては自己PRは普通のことである。そういう観点から自己PRすることにした。鼻につくと思う方はそう思えばいい。その覚悟はある。むしろ控えめであって他の人に役立たないよりは。

(2023.7.26付記) 実はこの本『物理数学散歩』と『数学散歩』にはかなり多くのpdf文書を無料配布するというサイトができた。これは自慢しているわけではなく、事実を述べているだけである。

3,000円もしない本の無料pdf配布のサイトができたのはなぜなのか。多分、大学での数学のある分野に役立つからと思われたからであろう。そのときに著者の私のところには数百部の本が在庫していたというのに。これははっきり言って流通の問題であった。だれが価値がない本を誰がそのpdf資料を配布したりするだろうか。

古本で一時14,000円などという高値がついていたこともある。そういう高い値段がつくのは著者としては心外であるが、「安かろう、悪かろう」の本ではないのだ。

昔、外国で出版された書籍を国内で闇で印刷して売るという海賊版があった。これはその当時日本円はとても弱くてそういう外国で出版された本など購入することが普通の日本人にはできなかったからである。いまでは私たちも外国の書籍をちょっと無理すれば、購入できる時代になった。だが、国内で『物理数学散歩』のような安価な書籍の海賊版が横行するとは信じられなかった。

(2023.7.27付記) ご注意を頂いたので付記しておく。『物理数学散歩』がインターネットで14,000円もの高値がつくのなら、2,200円で何冊かを買い占めてそれを14,000円で売ることを考える人がいるのではないかという心配である。もっともなご心配だが、そういうよからぬことを考える人は成功しないことを知っておいてほしい。私は買っていただくことには反対はしないが。

ちょっと考えたらわかることだが、いくらいい本だと言っても、これは値段との相談であって、14,000円も出してこの本を買う人はいない。2,200円ならお買い得品であるが、そこを間違えてはいけない。私は14,000円という値段をつけた人がいたとは言ったが、それが売れたとは思わない。私だってたとえ喉から手が出るほど欲しくても値段を考えてやめにするからである。

小著『四元数の発見』(海鳴社)もpdf版が出回ったことがあった。いまは出まわってはいないと思うが。いまどき2,200円で買える本などあまりない。税込みだともっとすこし高いが。それだのに無料のpdf版が出回るとはどういうことだろうか。日本の文化のために嘆かわしいことである。

安ければ価値がないと思わないでほしい。価値のあることを安くても提供していることもあるのだから。

(2023.9.2付記) 以前にaoyamaまで寄せられたコメントをここに添付する。ご参考にしてください。

amazon 高い (jogi.akatuy)
2019-11-07 02:44:51
偶々このサイトに出会い『四元数の発見』をアマゾンで購入。さらに『物理数学散歩』も読みたいと思ったが、なんと古書で29、000円の値付け。 隠居には手がでない。

Unknown (aoyama)
2019-11-08 13:09:07
『四元数の発見』の購入を御礼申し上げます。

まずはこれについて御礼を申し上げなくてはいけなかったですね。

 一日おいてからそのことを思いつくなんてちょっとずれていますね。

『物理数学散歩』購入希望 (TJ)
2019-12-04 22:45:02
私も『四元数の発見』を購入しました。
 数学の本でこんなにわかりやすかったのはこの本がはじめてでしたので、『物理数学散歩』も是非読みたいと思いました。アマゾンで古書で購入しようか迷っておりましたが、「送料込み1,000円でお分けできます」に驚きました。入手方法を教えていただければ幸いです。

Unknown (並木伸爾)
2020-03-05 00:39:58
webでLevi-civitaの記号で「ベクトル解析の初歩を1.」を読みました。大学で落第した物理を3.11を機に学び始めています。Weinbergの宇宙論が理解できればと相対論を勉強し始めています。ベクトル解析で引っかかり、先に進めません。初歩1を読みもしかしたらきっかけができると矢野先生の論考に興味を持ちました。四元数は中古がありましたので発注しました。物理数学を購入させていただきたいと思います。

物理数学散歩購入希望 (英治)
2020-03-14 11:49:34
物理数学散歩を購入したく存じます。お手数ですが手続きについてご教示くださいませ。

Unknown (aoyama)
2020-03-16 11:50:12
2回続けて『物理数学散歩』を購入したいという意向を表明された方がおられたが、どうも私の個人情報をこのコメントにさらすことを意図されておられるようなので、不信感を抱いている。

それでコメントとして私のコメントを3日で削除することにした。

 本当に当該の書を購入したいのかもしれないが、どうもそうとも思われない。人の心をもてあそぶのはいい加減にしてもらいたい。

『物理数学散歩』購入希望 (へいさん)
2020-04-10 08:58:11
大昔に教育学部で物理を勉強して以来,中学教員を定年から再任用。仕事をリタイヤしたら,もう一度物理をふりかえってみようと思います。本の購入希望と,もうひとつ「数学・物理通信」の購読方法を教えてください。

(2023.9.7付記)
一番最後の方、平さんから尋ねられた「数学・物理通信」の購読方法だが、これは無料でメール配布している。それに現在までのバックナンバーは名古屋大学の谷村先生のサイトにありますので、「数学・物理通信」で検索してみてください。

「数学・物理通信」はまったくのボランティアの仕事です。これで購読料を取るといったことがどこかであるなら、編集・発行人までご連絡ください。

フレデリックとイレーヌ・ジョリオ - キュリー夫妻

2024-04-23 15:37:39 | 物理学
フレデリックとイレーヌ・ジョリオ - キュリー夫妻の簡単な評伝についてはセグレ『X線からクォークまで』(みすず書房)237-243ページを読んでほしい。またフレデリックについては参考文献の『ジョリオ・キュリー遺稿集』(法政大学出版局)を参照してください。

イレーヌは言わずと知れた有名なキュリー夫人の長女であり、体つきも性格も母親そっくりであったという。血筋とその母親からの教育によって母親と同じ放射線科学の研究に入った。

一方、フレデリックは物理学者ランジュバンの学生であったが、その並外れた技術的な才能を買われてキュリー夫人の助手として推薦された。彼は陽気で活発な上に気持もやさしくまた想像力にも富んだ人物であった。

彼らは後にチャドウィックが中性子の発見をするきっかけとなる現象を発見した。また1938年の核分裂反応の発見にきわめて近いところにいたが、この発見も逃している。しかし、1934年には人工放射能を持った物質を創成することに成功して1935年のノーベル化学賞を夫妻で受賞した。

フレデリック等はハーンの核分裂反応の発見後、すぐにその追試に成功し、また、その核分裂の際に2個以上の中性子が放出されることを発表した。すなわち原子核からエネルギーを取り出せることを示し、このことを機密にしておこうと思っていたシーラドたちを大いに慌てさせたのであった。

(注)ジョリオ - キュリーはドイツ語でいえばドッペル・ナーメ(英語でならdouble name)である。

日本ではそういう人はいないのだが、たとえば私が生まれは田中という姓名だとして、鈴木という女性と結婚したとする。こういうときに田中-鈴木という二重の姓名を名乗ることがあるのだ。

日本の法律ではそういうことが許されないのだろうが、そういうことをすることが少なくともヨーロッパではままある。

もちろん、キュリーはすでに世界的に有名な家柄として認識されていただろうから、ジョリオとキュリーとを合わせた二重の姓名を名乗ったのであろう。

上野和之『ベクトル解析』

2024-04-22 10:27:07 | 数学
現在のところベクトル解析に関心を持っている。それで昨夜も読み返したのが、表題にも書いた上野和之『ベクトル解析』(共立出版)である。

この本が抜群にいい。現時点における、ベクトル解析のテクストの決定版であると言っていいであろう。もし、これからベクトル解析を学ぶという人がいたら、絶対にこの本を推薦したい。

ちょっと気になったのはテンソル積のルールが例示されているだけで説明がないことである。

しかし、その欠点は何ほどのことがあろうか。この本のいいところと比べれば。本の定価は税抜きで2,300円だから高くはない。こういういい本は売れてほしいし、きっと売れているだろう。ひょっとして、数万部単位のベストセラーかもしれない。

字も大きいし、印刷もその図を含めた構成もきれいである。読んでいて気持ちがよい。頭の明瞭な方なのであろう。上野さんという方は。

続、ただ塾の先生

2024-04-21 18:01:02 | 数学
ただ(無料)塾の先生であることに問題が起きた。私とかに支障が出たわけでも、生徒さんに問題があるわけでもないのだが、いままで2年間の数学の復習をすばやくする必要が生じた。

どこが生徒さんにとって困難な点かも短期間で判断しなくてはならない。そういう事態だとは全く思ってなかった。場合によっては小学校の算数の復習もしなくてはならないかもしれない。そういう事態らしいことがわかった。

まずは負の数の導入の必然性とかをどうやって教えるのか、そのことが問題だと思っている。それもごてごてした難しい議論なしにである。

いまの私の考えでは負の数がないと引き算ができない場合が生じるということで負数を導入したらどうかと考えている。たとえば、3-5を負の数という概念を知らないと答えが出せない。

3-5=-2という引き算は負の数を知っている私たちにはなんでもないが、負の数の概念がないとどうやって引き算の答をだしたらいいのか。そういうことで負の数を導入しようと考えている。

それに合わせて0を導入しなくてはならないが、それらをどう説明するか。
   

シラード (Leo Szilard) 

2024-04-21 11:05:58 | 物理学
シラードについては参考文献『シラードの証言』(みすず書房)を参照してください。 またローズの『原子爆弾の誕生』(紀伊国屋書店)はシラードに焦点をあてて描かれているので、大なり小なりシラードの人物像に迫れるかもしれない。

とても機知に富んだ逆説的思考のできる発想の豊かな独自の気風と見解をもつ科学者であった。また、連鎖反応から核エネルギーを取り出せるのではないかと考えた核科学者の一人であった。 

伏見康治は『シラードの証言』のあとがきの中でつぎのように述べている。

『シラードは第一流の学者、たとえばハイゼンベルク、と並べては気の毒な科学者である。しかし、いささかの才気があり、新しいアイデァアを出すことを人生最高の目標としている。同じ質のことを繰り返してそれを組織化し、体系化するというようなことには、あまり価値を認めない男である。

その男がたまたま原子核反応が、化学反応と同じように、エネルギーの生産やその他のことに使えるはずだというアイディアにとりつかれていた。そして、そこへ、ハーンとマイトナーのウラン核分裂の発見のニュースが飛び込んできた。

シラードはナチスドイツから追い出されて、流浪の末にアメリカに来て、そのドイツが原爆を先につくりあげて世界征服に乗り出すのではないかという政治的なアイディアにとりつかれた。

その結果が、アインシュタインを説いて、アメリカに原爆計画のイニシアティブをとらせることになった。ーーー

ナチスドイツが壊滅して、シラードとしては用のなくなった原爆を使わせまいとして、再度黒幕として政治の水面下で働いたが、今度はうまくいかなかった。

彼は「原爆をつくらせようとして成功し、使わせまいとして失敗した男」なのだが、その失敗にもかかわららず、アイディアの創出こそ人生の価値だとする彼の信念は揺るがなかったようである』

シラードは科学を相当に学んだ人でも、現在では知らない人が多いのではないかと思う。残念である。

ただ塾の先生3日目

2024-04-20 16:36:03 | 本と雑誌
ただ塾の先生3日目というよりは3回目といった方が正しいだろうか。4月6日に始まったが今回で3回目であった。

生徒さんは2人である。それも1時間ごとの交代である。それに先生は私も含めて2人である。先生の方が多いという。こういう塾はあまりないのではなかろうか。

成功とか不成功とかはまだわからない。あまり成功とは言えない塾となるのであろうか。なかなか先は読めない。

エンリコ・フェルミ3

2024-04-19 10:28:41 | 物理学
エンリコ・フェルミ1と2とはフェルミの学問的業績に触れたが、彼らの教育的業績については触れなかった。それについては優れた彼の学生であり、かつノーベル賞受賞者のC. N. Yangの文章から引用しておこう。

『よく知られたているように、フェルミは水際だったすばらしい講義をした。これは彼の特徴的なやり方であるが、それぞれの題目について彼はいつでも、最初のところから出発して、単純な例をとりあげ、できるだけ「形式主義」を避けた(彼はよくこみ入った理論形式は「えらいお坊さま」たちのものだと冗談を言った)。

彼の論証は非常にすっきりしているので、ちっとも努力をしていない印象を与えた。しかし、この印象はまちがっている。すっきりしているのは、注意深い準備と、いろいろの異なった表現の仕方のうちどれを選ぶかを慎重に考慮した結果のためであった。ーーー

週に1-2回、大学院生のために非公式の、準備なしの講義をしてくれるのがフェルミの習慣だったた。グループは彼の部屋に集まり、フェルミ自身か、ときには学生の誰かが、その日の討論のために特別の題目を提起した。

フェルミは、綿密に見出しのついた自分のノートを探し回って、その題目に関するノートを見つけ出し、われわれに講義してくれるのだった。---討論は初歩的水準に保たれた。題目の本質的、実質的部分が強調された。大抵いつも、分析的ではなく、直観的、幾何学的な取り組みであった』

このようなすばらしい教育を受けた人たちが羨ましい。またフェルミはいくつかの講義ノートを残しており、それらはいまでも学生に読み継がれている。

(エンリコ・フェルミ完)

エンリコ・フェルミ2

2024-04-18 12:38:24 | 物理学
(エンリコ・フェルミ 1のつづき)

フェルミの講義録である『原子核物理学』(吉岡書店)はさすがに内容が少し古くなってきたが、原著はシカゴ大学出版局から、訳書は吉岡書店からいまも出版されている。日本版の訳者の故小林稔先生(京都大学名誉教授)はまえがきでつぎのように述べている。

『イタリアの生んだ鬼才エンリコ・フェルミ教授はいうまでもなく原子核物理学の第一人者であり、人類が第二の火すなわち原子力を発見したのも主として彼の研究に負うものであって、彼は歴史上永久に名をとどめる数少ない物理学者の一人であることは疑いのないところである。

フェルミ教授は実験および理論の両方面に卓越した才能をもち、その業績も有名なフェルミ統計、ベータ崩壊の理論、量子電磁気学など理論的なものから、中性子衝撃による人工放射能、遅い中性子の選択吸収、さらに原子力解放の緒となった核分裂の現象、その連鎖反応など行くとして可ならざるものはなく、しかもいずれも物理学の根本問題を衝き、その自然認識の深さの非凡さは驚嘆のほかない。

イタリアにおいては僅かの放射性物質とパラフィンのみの実験室でよく世界の原子核研究に伍し、中性子の性質の探求にあざやかな業績をあげており、アメリカに移ってからはまさに鬼に金棒、現在もシカゴ大学の大サイクロトロンを主宰し、有能な同僚と弟子たちと共に原子核研究の推進に非凡の精力を注いでいる』

これはフェルミが亡くなる直前に書かれた彼のプロフィールである。ここにはフェルミの研究業績についてほとんど余すところはない。

(フェルミ3に続く)

エンリコ・フェルミ1

2024-04-17 09:37:31 | 物理学
エンリコ フェルミEnrico Fermiについてはセグレ『エンリコ・フェルミ伝』(みすず書房)を読んでほしい。また、フェルミ夫人である、ラウラ(Laura)の著したラウラ・フェルミ(崎川訳)『フェルミの生涯ー家族の中の原子』(法政大学出版局)が夫人の眼から見たエンリコの伝記である。

セグレによれば、フェルミのもっとも優れた業績を3つ挙げれば。次の通りである。

 1.フェルミ統計の発見
 2.ベータ崩壊の理論
 3.中性子の実験的研究

この中でもベータ崩壊の理論を私はもっとも重要なフェルミの業績と考えているが、フェルミがノーベル賞をもらったのは中性子の実験的研究、特に遅い中性子による核反応の研究に関係のである。

今世紀最大の理論物理学者の一人のランダウは「理論物理学者にして実験物理学者であった最後の人フェルミ」と評している。

(続く)

講義ノート

2024-04-16 18:16:48 | 本と雑誌
国立大学法人化のためであったかどうかは忘れたが、定年退職が近くなったときに歴史の先生の代わりというか、歴史の講義まがいのことをしたことがある。

題して「技術と科学の歴史を考える」というコースの第2部である。前期は私の知っている情報工学科の教授のNさんがコンピュータの歴史の講義をして、後期は私にバトンタッチされた。しかたがないので、ー原爆製造の歴史と原子核物理ーというサブタイトルで15回の講義をした。

そのときに資料として学生に27ページほどの私の書いたメモを講義録の代わりに渡した。そのほかにこのブログにもご披露した「ドイツ語圏世界の科学者」を付録としてつけた。これが11ページほどである。

当時の学生から資料を読んで面白かったというような反応はまったく聞いていないが、最近この講義資料を見つけて読んでみると結構おもしろい。

細かなことはさておいてもどういうことを話したのかのタイトルだけでもここに載せておきたい。
 1.原爆製造の歴史を何故考えるか 。自己紹介を兼ねて
 2.原子物理学の発展ーーX線、放射能、電子、中性子
 3.核分裂反応と連鎖反応、その発見者たちの人物像
 4.原爆の製造
 5.原子炉の原理と原子力発電
 6.放射線障害と原子力の将来
 7.核と政治
である。この中にOtto Hahn, Enrico Fremi, Leo Szilard, Frederic et Irene Joliot-Curieの話も含まれている。

機会があれば、このブログで5人の話を書いてみたい。



微分形式のわかる本

2024-04-15 12:33:52 | 数学
微分形式のわかる本とは私の読んでという意味である。私は頭が悪いから他の人が読んで理解できることがなかなかわからない。

この微分形式もそういった一つの数学の分野である。微分形式がもしわかるとベクトル解析の中心定理である、ストークスの定理だとかガウスの定理がわかるという。

そして、さらにそれらが微分積分学の基本定理の拡張になっているということがわかっている。それでこれらを私の納得のいくように説明された本があるかどうかを探している。

昨日からどうかと思って探しているのだが、スウ『ベクトル解析』(森北出版)の第10章 「微分形式」345-380の35ページを読めばいいかなと思い始めている。

第10章はこの本の最後の章にはなっているが、それほど難しくはなさそうである。この箇所を拡大コピーして読んでみたらどうかと思いはじめている。問題はこのページを見終える間くらい私の気力が続くかどうかである。私は根気がなくて、すぐに息切れしてしまい、読み続けられないことが多いので。

微分形式に関した数学エッセイを一部書いた自分の原稿を見つけたので、こういうことを思いついたのである。例によって最後まで書けていないから今のところこの原稿は有用性がない。


4月の子規の俳句

2024-04-14 10:15:31 | 本と雑誌
今日は4月14日で四月も中旬である。

忘れてはいけないので恒例の子規の俳句を紹介する。

 若草に坐ってみゆや川いくつ  子規

 sitting on the fresh grass
    counting the streams
    I can see                                      Shiki 1895

E大学校友会発行のカレンダーでは小田川の筏流しの写真がでている。連なった筏の上に8人の筏師が棹をもって筏を制御している、なんとも勇壮な写真である。

こういうお祭りがあるのだろうか。

子規の俳句にもどれば、英訳ではstreamsと訳されているので、小さな小川であろうか。それを一つ、二つと数えているのであろう。

この頃は

2024-04-13 16:06:25 | 本と雑誌
この頃は毎日、「『物理数学散歩』の目次」のブログにこの本の内容の一部を紹介した記事を書き加えている。

私自身がこの本を書いておきながら、やはり十分にこの本の価値を分かっていなかったのではないかと、ここ数日は反省しきりである。

私にはこの本があまり体系的でないとの意識があって、自分の書いた本でありながら、十分にPRできていなかった。もちろん、この本が体系的でないのはたしかに残念ではある。しかし、世の中で無料の(?)のPDF文書が配布されたりしていたのはやはりその理由があり、また需要があるということだったのだろう。

前書の『数学散歩』(国土社)は少部数の発行ながらけっこう売れて私の手元にももう数部しか残っていない。もっとも『数学散歩』の方は小学校とか中学校くらいの数学にも触れていたが、『物理数学散歩』はそういう初等的な内容は入っていない。

『物理数学散歩』は理系の大学生にもっと読まれることを願った出版だったのだが、国土社は教育系の出版社で大学の理系の学生に向けた本などほとんど出版していないのと、出版に関係した人にはその価値がわからなかったのであろう。これは致し方がなかった。

車、スマホ、USBメモリ

2024-04-12 11:17:01 | 本と雑誌
「車、スマホ、USBメモリ」とはまたまた三題噺めくが、妻がいつも依存している大事なものである。

妻にはこれらのどれが欠けても大騒ぎである。昨日も「USBメモリがない、ない」と大騒ぎであった。しかし、よく考えて見ると、これを必要があってある方に預けていたという話であった。これでは自分の家をどれだけ探しても出てくるはずはない。

スマホもなしでは済まされないらしい。最近では紐をスマホにつけて常時肩から架けている。

車もどこかに行くのに欠かせない。特に自分以外につきあいのある友人、知人の要望でどこかにその知人とか友人とかを連れて行ったりすることが多くなっている。

これは車に乗らない老人が増えていることがその理由であろうか。もっとももともと車に乗っていたのに止めたという人ではないらしい。何と妻の人のいいこと。いい加減にした方がいいと私はひそかに思っている。

そういう私もまだ車の免許を返納していないが、妻に車に乗せてもらうことが多い。

数学・物理通信14巻2号の発行

2024-04-11 15:35:07 | 数学
先ほど一日遅れで数学・物理通信14巻2号のを発行した。

昨日発行する予定であったが、他の用事をしているうちに忘れてしまった。こういうこともある。

編集作業はいつもと同じくらいの回数をしたと思うが、今回もだが共同編集人のSさんのおかげでだが、いつものに比べて努力感が少なくてすんだように思う。

きょうの新聞にヒッグス博士の逝去が報じられていた。素粒子物理学の分野では知らない人はいないだろう。94歳だったというから、ちょうど私と10歳だけ歳がちがっている。

私も94歳まで生きたいと思っているが、はてさて実際はどうなるか誰もわからない。