脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

前頭葉機能低下?ー「忘れる」のではなく

2020年06月03日 | 前頭葉の働き
「検索」するつもりで、パソコンの前に座る。ちょっと「コロナどうなってるかしら」とニュースをクリック。または、未読メールをチェック。
そうこうしているうちに、「そうだ!検索、検索」と思い出したのに「あれ?何を検索するのだったか・・・」という話を前記事に書きました。
(今日の写真は5/28バガテル公園)

そうしたら中学校時代の同級生からコメントがありました。
「検索する時にノートが立ち上がる迄に何を検索するか、忘れてしまいます。メモをとるかスマホに話しかけるようにしています、老人ボケですね」
実は、この同級生はいつかこのブログの「かくしゃくヒント」に登場してもらいたいと思っているような生活ぶりなのです。楽しみごとも、友人との交流も、ボランティアも実にバランスがいいのです。そうそうポタリングも趣味で、しまなみ海道走破するくらい。
つまり、「老人ボケですね」に対しては、安心して「違います」といっていいのです。もっと言えば、検索を忘れることに対して「メモを取るかスマホに話しかけるか」ということを判断してるのですから、前頭葉はよく働いています。
が、私もコメントを返しました。
「微妙なところです(笑)自分で許せるかどうかという点がカギだと思います」

何故、わざわざこんな返事を書いたか理由はあります。せっかく前頭葉機能に関して低下を実感しているのなら、そのことを重視することの意味を、考えてもらいたかったからです。

講演会の時に、会場に向かって問いかけるときがあります。
「わざわざ2階へ行って、何をしに来たか忘れてしまうことはありませんか?」
「冷蔵庫の前に立って『あれ?何を取ろうとしたのかしら』と思うことは?」
「ヤカンをかけて、一つ用事をする。例えば洗濯物を取り込みに庭に出る。すると草が目についてちょっとだけと取り始めると…そう空焚きになってしまうのですね」
「町へ出かけて、『三つ用事を片付けよう』と思っていたのに、一つは忘れてしまうようなことは?」
「忘れちゃあいけないと思ってメモを書いたのに、そのメモを忘れてしまう…」このくらい続けざまに言うと、会場は笑いに包まれます。

認知症予防講演会ですから、会場はある程度高齢の方が中心です。
皆さん、思い当たるから笑いがこぼれる。そこで解説を始めます。
「このような時『忘れて』といいませんか?『用事を忘れてしまって』『ヤカンをかけていたのを忘れて』。たしかに『忘れて』といいますが、実はこれは『記憶』の問題ではないのです。前頭葉の問題です」

前頭葉を「三頭建馬車の御者」というのは、とても良い例えだと思います。自分らしく生きていくことができるのは、まさに自分の前頭葉が絶え間なく情報をキャッチし、状況を判断し、行動を決定してくれるおかげなのですから。「脳の司令塔」とも表現します。
前頭葉機能をあげてみましょうか。
洞察、推理、決断、修正、発想、計画性、自発性、想像力、創造力、創意工夫、好奇心、感動、抑制・・・その人らしさを表す源です。
これらの前頭葉が機能するときに、一番大切な働きが注意集中力と注意分配力です。(正確にいうとさらにその前提には意欲が必要です)
前にあげた失敗の数々は、「記憶していない」のではなく「必要なことに、注意力を集中、また持続をさせられていない」のです。
なぜか?「注意力を分配できないから」。

ヤカンをかけていることと、洗濯物を取り込むことと、草を抜くこと、という三つのミッションを同時に注意力を分配しながら遂行してゆく、その力が足りない。一つに取り掛かるとその他への注意力、気配りが消えてしまうのです。
この注意集中・分配力は、20歳代をピークにした一峰性のカーブを持っています。
つまり、年齢とともに注意集中・分配力は低下していく!
ショックを受けた方がいるかもしれませんが、「どこかをピークに年齢とともに低下していく」ということは、私たちが生きていくときの宿命ともいえるのではないでしょうか?体力しかり、骨、筋肉しかり、内臓機能も免疫力も全部、加齢と主に低下していくものですね。見た目も年齢に相応した変化があります。

その能力低下は悲しむべきものではなく、当たり前のものとして受け入れなくてはいけないのですが、「年齢相応の低下」ということに注意を払っておく必要があります。
前頭葉が右脳、左脳、運動の脳に対して、自分らしくなおかつ楽しく生きるように指令を出し続ける状態での能力低下は、何の問題もありません。問題にすべきは、前頭葉の使い方が足りないときです。いいかえれば、自分が自分らしく生きているという実感に欠けるとき(それを決定するのも前頭葉の役割です)前頭葉は老化を加速し始めます。

脳の老化が加速し始めるときに、一番最初に明らかになるのが注意集中・分配力の低下です。
その時に起きる「事件」を列挙してきました。
「だんだん加齢とともに事件が増えてきてるけど、まあこんなものだろう」と思えるとき、つまり事件といっても大したことがなく、頻度も特別急増というのでもないときは、自分の中でも笑い話(正確には苦笑話)で処理できているはずです。
前ブログで書いたように、たった一草の間違いでも自分でびっくりするのなら、これは黄信号をとらえた方がいい。
検索テーマを忘れてしまうのも、同様ですね。私の場合はこちらは苦笑話に近いと感じてます。年齢相応ではないかと思ってるのですが、ちょっと多すぎかとやや気になってるというのが正直なところでしょうか。

認知症には3段階あります。小ボケ(社会生活だけトラブルあり)、中ボケ(言訳のうまい幼稚園児)、大ボケ(セルフケアもできない)
最初は前頭葉機能だけが老化を速めて不合格になった状態。エイジングライフ研究所では小ボケといっています。家庭生活には問題なく社会生活に支障が起きてくる段階です。ここで気づけばいくらでも回復させることができるのですがこの段階についてわかっている方々はほとんどいないのです。
まさに歳のせいなのか、老化の加速が起きているのかは、ごく初期ならば本人が自覚できます。少し経つと脳機能検査をして初めて、ここまで前頭葉機能が低下してしまっているのか…とびっくりすることになります。本当にお話だけ聞いていると全く問題はないようなのですよ。

「かくしゃくヒント」候補生の同級生に、「微妙なところです」とわざわざ書いたのは、前頭葉機能がちょっとしたことで(例えば今回のStay Home、ケガや体調不良が続くとか、心配事が起きてしまうとか)、今までとは刺激の質量ともに変わってしまうと、前頭葉が、正常老化の道ではなくて老化を加速させる道の方を向いてしまうことを知ってほしかったからです。
そしてその最初は必ず自覚があります。
もしも将来、またこのように前頭葉機能の低下が起きた自覚があったら、そのまま、ボケの道に進むというのではなく、逆にそのような自覚があったときにはもう一度生活を見直して、自分の前頭葉が満足できるものを見つけなおす作業にかかってください。

庭仕事も、毎月欠かさないお墓参りも続けているし、今日も自動車に自転車をのせて遠出してのポタリングを楽しんだようですね。やっぱりさすが「かくしゃくヒント」の候補生です。
検索がわからなくなるのは、単なる歳のせいに違いないと思います。同級生の私にも起きているし、友人たちに聞けばきっとみんな笑いながらうなずくでしょう。
とにかくコロナが落ち着いて、少しでも早く皆さんと楽しい時間を共有できる元の生活に戻れますように。

もうひとつ届いたコメントも紹介しましょう。
「ステイホームで前頭葉機能低下、思い当たることが!実家行きキャンセルのため、えきねっと予約切符を解約しなくてはいけないのにそのままに。けっきょく購入のはめに。こんなこと今までしたことないのに!いま自分にカツを入れました」
まさに前頭葉、注意集中・分配力の低下です。まだ若いので、「認知症」は頭にないからこそ、余計素直に事件を前頭葉の機能低下と理解できたのでしょう。
この友人は、30年位前に「通販生活」の特集記事取材で来られたM坂さん。その後フリーライター。宝飾への興味関心が深まりベルギーにダイアモンド鑑定を学ぶため留学までした、パワフルで魅力的な友人です。
書くお仕事ですから、図書館で調べものをすることはどうしても必要ですよね。ようやく開館した江戸東京博物館図書館でのできごとを今日のフェイスブックにあげていました。
「来ていたキッチンカーで海老トマトクリームパスタのランチを。値段700円に725円を出しておにいさんに困惑される。ん?消費税3%で計算してる自分にビックリ!」

私の推理。700円の7から3を思い浮かべてしまったのではないかなあ。税金がなければ1000円だと300円おつり。ほら3が出てくるでしょう。本来なら、7から3を思い出す前に「テイクアウトだから8%。プラス56円」と苦もなく暗算していたはずです。
きっと、見つかった本を早く読みたかったか、もう少し本を探したかったか、帰りの用事を思っていたか、とにかく注意力は、お弁当の売買ではないところに大部分が振り分けられてしまっていたということです。
それを「上の空」って言いますね。前頭葉がうまく働いていない状態のことです。

今日のブログでお話したかったことをまとめておきます。
1.前頭葉機能、特に注意集中・分配力は年齢とともに能力が低下する性質がある(正常老化)
2.生きがいも趣味もなく、交遊も運動もしない生活。自分らしくイキイキと前頭葉を使わない生活を続けると、老化が加速されてしまう。
3.老化が加速され始めるときは自覚がある。
4.状況に応じた工夫をして、できるだけ従前の生活、または新しい楽しみごとを見つける生活に変えることで改善は容易である。

今日お話した認知症はアルツハイマー型認知症といって60歳を超えた高齢者の問題です。







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