大学と学生の力を帰宅困難者対策へ!大学における宿泊サバイバル体験報告

※2019年1月7日付け東京新聞朝刊社会面で、本訓練の様子が紹介されました。関連リンクなどは下記をご覧ください。

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2018年12月1日(土)から2日(日)にかけて、東洋大学白山キャンパスで「宿泊サバイバル体験」が実施され、フィールドワークや体験プログラムの指導を担当させていただきました。本稿では体験の様子などを踏まえて、大学における宿泊訓練の意義や学生の帰宅滞留についてご紹介します。

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きっかけは警視庁による大学生向け宿泊訓練

本企画は東洋大学ボランティア支援室さんによるものですが、同大学職員の方や学生さんが、下記で紹介している警視庁警備部災害対策課による宿泊訓練に参加してくださったことがきっかけです。同訓練では学生が自主的・主体的に取り組める環境をつくり、安全に支障がない範囲で可能な限り実践的に行っています。こうした訓練をぜひ学内でも、という意見が学生の中からも出てきたことで今回の訓練につながりました。

プログラム

体験プログラムは大きく分けて4部制になっていて、以下の流れで行いました。

  1. 起震車・煙ハウス体験
  2. 普通救命講習
  3. 宿泊サバイバル体験
  4. 避難所運営ゲーム(HUG)大学施設版

また、最後には「振り返り」ということで、訓練全体をまとめる時間を担当させていただきました。本稿では3.宿泊サバイバル体験と、4.避難所運営ゲーム(HUG)大学施設版、振り返りの部分についてご紹介します。

宿泊サバイバル体験

宿泊サバイバル体験は、大きく分けて「オリエンテーション(アイスブレイク)/事前講義/フィールドワーク/体験プログラム」の4つで構成されます。それぞれについてご紹介します。

オリエンテーション(アイスブレイク)

第3部となる本編、宿泊サバイバル体験ではまず大学職員の方からオリエンテーションということで企画趣旨などについて説明があった後、アイスブレイクや自己紹介などが行われました。顔見知りの学生もいますが、はじめましての学生も多いため、一晩一緒に過ごすことになる仲間とスムーズにコミュニケーションがとれるようなアクティビティは重要です。身体的、精神的につらい状況になった際に、気兼ねなく相談できる仲間、友人、教職員がいるかどうかは、厳しい帰宅滞留生活(避難生活)において心身の健康に大きく影響します。緊張をほぐしたり、近くにいる人と気軽に話せるようになるアイスブレイク手法を知っておくと、いざという時に役立ちます。

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(大学職員の方によるアイスブレイクのようす)

事前講義(首都直下地震の被害想定と帰宅困難者対策、学生にできること)

続いて、筆者から『首都直下地震発生!その時私たちにできること』をテーマに30分ほどのミニ講義を行いました。冒頭に東日本大震災当時の状況や、首都直下地震の被害想定シミュレーションなどを映像資料で見てもらい、これから自分たちが体験するプログラムの状況を具体的にイメージしてもらいました。その後、帰宅困難者問題について、800-1,000万人近い帰宅困難者が想定されていることや、歩道で起きる混雑に伴う集団転倒・パニックなどの危険性、道路渋滞に伴う消防救急機能の低下などについて紹介しました。

特に強調したのは「なぜ宿泊(大学に滞留する)が必要なのか」という点です。

企業の方は小さい子どもがいるなど「親世代」の方も多く、いち早く帰宅を迫られる場合があります。また企業活動の復旧やBCP(事業継続計画)の要員として会社に留まるor出勤せざるを得ない方もいます。これに比較して大学生は「子世代」であり、家庭等で重要な責務があり、どうしても帰宅しなければならないという人は限られます。特に一人暮らしの場合は、直後に無理に帰宅しようとすることによる負傷・体調不良時のケアが困難、普段関わりのない地域の避難所で孤立してしまうといったリスクも想定されます。

混雑や渋滞の影響は、1日経過すると大幅に減ると想定されています。従って、大学生(特に1人暮らしや両親・家族が帰宅困難な場合)が、首都直下地震発生時に安全・安心を確保するには「慌てて帰宅せず、1日程度は大学に滞留し、災害情報をよく確認して、翌日以降に対応行動を考える」ことが、最悪の事態(外傷・疾病等による死傷)を防ぐ対策であると言えます。

ただし、大学はもともと「避難所」としての機能を求められているわけではありませんし、教職員の人数も在学生に比して少数です。つまり「ただ教室に座って待っていれば、教職員の人が何とかしてくれる」という状況にはならない(また、昨今の大学生なら積極的に行動しょうとする人も多いはず)と想定されます。そこで、学生自身が自らの安全・安心を確保するためにも、まずどのようなことをしなければならないかを知っておく、どうやってそれを実行すればいいのかを考えておく、体験しておくことがポイントになります。

東洋大学一泊サバイバル体験
(東日本大震災直後の都内大学で行ったチーム編成事例と「Span of Control(管理・監督限界)」の紹介)

フィールドワーク(滞留学生・教職員・帰宅困難者の受け入れ場所協議、備蓄配布検討、倉庫確認)

フィールドワークでは、実際にチームに分かれていくつかのテーマでディスカッション・見学をしてもらいました。写真で示すような状況想定を行い、実際の大学の構内図や収容人数が記載されたメモ、備蓄倉庫・備蓄品の一覧表などを用いて、具体的に「どのような人を、何人くらい、どこへ誘導し滞留してもらうか」や「備蓄品のうち、何を、どれくらい、どこから搬出して配布するか」などを協議してもらいました。各グループで協議した後、リーダーの方を中心に全員で意見をまとめるためのディスカッションも行いました。

東洋大学一泊サバイバル体験
(被害・状況想定。東北地方太平洋沖地震では首都圏のライフラインは長期停止しなかったので、違いは強調しました。)

東洋大学一泊サバイバル体験
(グループ討議後の全体ディスカッション。黒板にそれぞれの意見を出し、ひとつの結論を導きます)

東洋大学一泊サバイバル体験
(備蓄倉庫の見学と品目の確認。大量の備蓄が各所に散在する状況でどこから何をどう使うか、一緒に考えました)

体験プログラム(仮設/ダンボールトイレづくり、食事づくり、就寝スペースづくり)

実際の滞留スペースや備蓄品配布などの流れを確認したら、実際に自分たちが滞留・宿泊するための準備を整えます。ダンボールや新聞紙、アルミックシート、各種非常食、飲料水など最低限の備品を使って、チームに分かれて作業していきます。作業手順や作業時間は全て学生自身が判断して決めていきます。

東洋大学一泊サバイバル体験
(訓練用の非常食は豪華です。実際の備蓄からはレーション(圧縮ビスケット)を。どちらも「おいしい!」と好評でした)

また、訓練は停電も発生しているという想定で行いましたので、スマートフォンの充電はコンセントでは行えないルールになっています(モバイルバッテリーによる充電は可能)。その状況で「シークレットミッション」として予め伝えずに作業中に教室の照明を全て落とす停電状況をつくりました。スマートフォンのライトを活用したり、ペットボトルを使ってランタンを作るなど、それぞれが持っている知識や経験で、対応していました。

東洋大学一泊サバイバル体験
(「どこかで見た」知識も実践してみることで、実践に基づく経験へと変わります)

就寝スペースは大学大教室・固定式机というフラットスペースが限られた環境でいろいろな工夫をして準備していました。教室の構造上、かなり気密性は高いのですが、それでも夜間じっとしているとかなり体が冷えてきます。ダンボールやアルミックシートを活用して「体温をできるだけ逃さず、保温しつづける」ことの大切さを伝えて作業してもらいました。翌朝は8時30分までに朝食や片付けを済ませておくように、とだけ伝えて、午前0時ころに消灯しました。

ちなみに筆者(184cm/100kg)は、机の椅子を3席使い、そのうえに横になって寝ました。なんとかギリギリ足まで入り、熟睡とまではいきませんでしたが、とりあえず体調を維持するのに必要なだけの睡眠は得られました。

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東洋大学一泊サバイバル体験
(消灯・就寝直前のようす)

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(消灯時。ヘッドライト着用。非常灯の明るさが際立ちます。)

避難所運営ゲーム(HUG)大学施設版

翌朝、9時からは学生が進行・指導を担当する「避難所運営ゲーム(HUG:ハグ)」が行われました。行政から大学に対し避難所の開設要請があり、大学の一部施設を開放して避難者を受け入れる、というシナリオで実施されました。実際に平成30年7月豪雨等でボランティア活動に参加したり、卒業論文のテーマに災害時要配慮者支援を取り上げた学生さんが、自身の体験なども交えて進行しました。避難所運営ゲームについては他記事でも紹介していますので「HUGをはじめて知った!」という方は併せてご確認ください。

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(体育館や教室を使う想定でカードを配置していきます)

振り返り ~明日からできる「防災アクション」~

最後に、これまでの体験をとおして「明日からできる防災アクション」を書き出して発表してもらいました。ひとりひとり、それぞれが一番印象に残ったことや、考えたこと、感じたことを言葉にしてくれました。ただ感想を述べるだけでなく、具体的な行動に落とし込んで言葉にする、可視化する、宣言する、という過程が今後につながればと思います。

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最後に「これまでの災害で犠牲となった方々、そのご家族の方々は、何をしてでもその命を守りたかった。でも、それは叶いませんでした。助けてくださいと祈るだけでは、誰の命も救えません。できたらいいなと願うだけでは、何も起こりません。現場の状況を、結果を変えることができるのは、確かな意思に基づく”行動”だけです。その行動が”正解”かどうかは分かりません。でも行動しなければ状況は良くならないのです。日頃から防災アクションを意識して”行動”できるようになってください」と伝えました。

まとめ ~ 大学と学生の力を帰宅困難者対策へ ~

もしこうした訓練や様々な講座・研修、学生団体の活動が積極的に行われ、首都直下地震発生時に大学と学生が一体となって、1日~3日程度の帰宅滞留や、地域での応急的な支援活動が安全に行えるようになったとしたら?


第1に、ある程度の混雑抑制効果があると考えられます。通常の授業期間であれば数十万人規模の大学生がいると想定されますので、その多くが無理に帰ろうとするか、1日は滞留しようと考えるかは、全体の帰宅困難者対策に影響を与えることでしょう。大学で適切な帰宅困難者対応ができれば、一般の方も滞留しやすくなります。

第2に、大学生が学内外の災害対応で活躍できる可能性があります。但し、ケガや体調不良のリスクと隣り合わせのため、安否確認、本訓練でも行ったようなトイレ・食事・就寝スペース等の確保、安全管理の徹底などが前提となります。筆者は、大学と学生が協力して備えていけば、災害時にも対応できる環境(学生団体による平時からの防災活動など)は十分にあると考えています。滞留している学生から「何かしたい」という声は必ず出てくるでしょう。その力を安全に配慮してどう活かすかが課題となります。

第3に、近隣の地域住民や帰宅困難者、何よりも学生・教職員から安心できる・信頼される大学として高く評価されるのではないでしょうか。施設規模、人数を考慮すれば相当な困難が予想されますが、課題を明らかにし、ひとつひとつ対策を講じていくことはできます。


以上は、都内の多くの大学で「災害救援ボランティア講座」を開催していただいていること、各大学の学生団体などが積極的に防災活動に参加していること、大学職員向けの災害対応研修なども行われつつあることを鑑みての筆者の私見ですが、これから大学としての防災対策、学生・教職員にできることを考えたいという皆さまの参考になれば幸いです。

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