今日は久しぶりに“老”中医の独り言を呟いてみたいと思います。
傾聴は軽聴
ひと頃の傾聴ブーム…心の伴わない、形式だけの頷きや相手の言葉の繰り返しが傾聴の手法だとするような短絡的な方法論がまかり通っていた時代でした。
東日本大震災の避難所で「傾聴お断り!」という貼り紙が出されたという話しを聞いて、さもありなんと思っていた私には、やれやれの感があるのですが…
さて、本気で人の話しを聴くにあたって必要なことは何なのでしょう?
いくつか大切なことはあるのですが、私は若い鍼灸師さんによく言うことがあります。それは、「井戸の深さを知ろうと思ったら、それより深いところまで届く綱がなければなりません」という言葉です。
私たち鍼灸師は相手(患者)とまったく同じ経験をするわけではありません。それゆえ完全な理解はできないかも知れませんが、常に自分の経験を深める努力をせねばなりません。
ひとつのことを掘り下げて体験した人は、それを共通因子として多くのことが共感できるようになるでしょう。浅いところで留まっていては、少しのことしか共感できません。
もちろん、相手に対する「わからなさ」(他者性)の尊重も重要です。しかし、だからといって相手の理解をあきらめるわけにはいきません。相手のことを深く知ろうと思えば、自分の経験を深め、それと同時に他者性も尊重することが大切かと思います。
自分自身も含めた深い人間洞察、そして共感と自己了解を通して自己の物語を築き、またその物語を第三者の視点から冷静に見つめ直し、吟味すること、そのどれもが人間が生きていくのに必要不可欠なものです。
それはおそらく、傾聴や治療という枠組みを超えて、人としての真のあり方なのではないかと思います。
三室戸寺のあじさい園
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