真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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イスラエルのパレスチナ人殲滅・追放作戦とサイクロン作戦

2024年04月21日 | 国際・政治

 さまざまなメディアが、国連の安全保障理事会で18日、パレスチナの国連加盟を求める決議案に、アメリカが拒否権を行使したことを伝えています。

 パレスチナはこれまで、国連に投票権のない「オブザーバー国家」として参加していましたが、今月2日に正式加盟を申請していたのです。それは、パレスチナのガザ地区やヨルダン川西岸地区でイスラエルの違法な人権侵害や入植活動が長く続いているのみならず、今、激しい武力攻撃を受けているので、国連に正式加盟して、一日も早くパレスチナ国家としてイスラエルと共存する「国家解決」を実現したいということだと思います。

 また、国連安保理の中東情勢に関する閣僚級会合でも、パレスチナは、国連への正式加盟について「我々の地域に平和をもたらすための重要な柱となる」と訴え、加盟を求める決議案への賛成を呼びかけたということです。

 これに対し、イスラエルの国連大使は、「パレスチナ自治政府は平和とは正反対の存在だ」と主張したとのことですが、それは、ネタニヤフ政権の「ハマス殲滅作戦」が、実は、「パレスチナ人殲滅作戦」であり、「パレスチナ人追放作戦」であることがわかると思います。ネタニヤフ政権は、パレスチナの地をイスラエルの地に変え、パレスチナ人の混在しないイスラエルにしたいのだろうと思います

 そして、パレスチナの、国連加盟を求める決議案に拒否権を発動したアメリカのバイデン政権も、ネタニヤフ政権との間に溝があるかのように装いつつ、ほんとうはネタニヤフ政権と一体であることもわかると思います。

 上川外相は、16日、イスラエルによるイラン大使館爆撃やイランのイスラエルに対する報復攻撃を受けて、それぞれの外相との電話会談で、双方に自制を求めたというのですが、イランに対しては、イスラエルのイラン大使館爆撃の時とは違い、「強く非難」をしたということを見逃してはならないと思います。会談は、日本側から呼びかけたということで、自主的な会談であったかのように受け止められていますが、実は、バイデン政権の戦略に基づく会談だった、と私は思います。お手伝い外交だったと思うのです。

 朝日新聞は、この件に関し、”上川氏、イランの報復攻撃非難、G7対応「二重基準」の指摘も”と題する記事を掲載しました。下記は、その前半部分です。

イランが在シリアの大使館への空爆の報復として、イスラエルへの直接攻撃に踏み切った中東情勢をめぐり、日本はイランとの「伝統的な友好関係」を生かした独自外交を描き切れずにいる。イスラエル寄りの米国と共同歩調を取り、主要七カ国(G7)メンバー国としてイランだけを非難する立場をとる日本についても、識者からは「ダブルスタンダード(二重基準)と見られかねない」との指摘が出ている。・・・”

 この記事にも私は問題があると思うのですが、それは、朝日新聞自身の主張が、何もないことです。識者は、二重基準を指摘しているというだけなのです。

 イランは、外交施設へのイスラエルの攻撃は国際法違反として報復攻撃に踏み切ったのに、G7は、その報復攻撃を強く非難する一方、イスラエルによるイラン大使館爆撃や報復に対する報復は非難しないで、イスラエルに連帯を表明しました。それは、人道に反する攻撃を続けるイスラエルを支え、イスラエルの戦争犯罪に加担するものだと思います。欧州連合も臨時の首脳会議を開き、イスラエルへの報復攻撃に踏み切ったイランへの制裁拡大を決定したということなので、同じ姿勢なのだと思います。

 だから、日米欧の首脳からは、イスラエルに批判的な言葉はいろいろ聞こえてきますが、こうした具体的な取り組みが、その言葉を否定していると思います。

 言い換えれば、イスラエルやイスラエルに連帯を表明したG7諸国、イランに対する制裁を決定したEUなどの首脳は、パレスチナの問題を話し合って解決しようとすることなく、イスラエルの「パレスチナ人殲滅・追放作戦」という武力的解決を支持しているということだと思います。そして、それがアメリカの戦略であることは、歴史が示していることだと思います。

 

 これまでアメリカは、世界中の戦争や紛争に介入してきました。そして、その介入の仕方は、いつも同じであったと思います。親米国家や親米組織は支援し、反米国家や反米組織は潰しにかかるということです。問題を、話し合いで解決しようとはしてこなかったともいえます。反米国家や反米組織を潰すためには、自ら「テロ組織」と指定した組織さえ利用してきたのです。それで思い出すのが、アフガニスタンの戦争です。

 

 アフガニスタンでは、1978年に「サウル革命」と呼ばれるクーデターで、共産主義政権が樹立されました。しかしながら、その共産主義政権は、アフガニスタンにおける旧体制の改革の諸問題、民族や部族間の諸問題、周辺諸国との関係の問題、宗教問題などで、混乱が続き安定することがなかったのです。特に、ムジャーヒディーンと呼ばれるイスラム反政府武装勢力との関係は深刻な問題だったといいます。 ムジャーヒディーンは、アミーン政権に対する抵抗運動を展開し、各地でゲリラ戦を繰り広げたため、国内の治安は急速に悪化することになったのです。だから、 1979年、大統領に就任したハフィーズッラー・アミーンは、窮地に陥り、ソ連へ介入を依頼したようですが、ソ連も、アミーン政権の崩壊とムジャーヒディーンの台頭を恐れていたので、介入を決め、アフガニスタンに侵攻したのです。

 問題は、その時に対ソ政策として、アメリカが、ゲリラ戦をくり広げていたムジャーヒディーンに武器や装備を供与し、支援しということです。そして、アメリカによるムジャヒディーンへの支援が、アルカイダのようないわゆる「過激派組織」の台頭をもたらしたと言われていることです。アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディンは、ソ連のアフガニスタン侵攻(1979-1989)に抵抗したムジャヒディーンの一員で、彼はアラブ諸国から義勇兵を募り、資金調達を行う組織を設立して、ソ連軍に対する抵抗運動を支えていたのです。

 

 ムジャヒディンに対する武器や資金の提供をはじめとする計画の立案・実行を主導したのは、CIA の特殊活動部 (SAD)で、SADは、CIAの中でも秘密工作活動の、特に重要な役割を担う部門だといいます。ソ連のアフガニスタン侵攻開始後、SADはムジャヒディンへの支援活動に深く関与し、武器や資金の提供、訓練、情報収集などを行ったと聞いています。だから、その計画には「サイクロン作戦」というコードネームがついていたといわれています。

 

 また、見逃してはならないことは、ソ連軍の侵攻前から、アフガニスタン民主共和国政権とも戦闘を行っていたイスラム武装勢力への支援を、アメリカは強力に推進しており、数十億ドルもの資金を投入してたということです。さらに、それは「ソ連の軍事介入を誘発すること」が目的であったとも言われているのです。冷戦のさなかであったことを考えれば、簡単に否定できることではないと思いますし、ウクライナ戦争でも似たような作戦が展開されたのだおると思います。

 だから、アメリカの対外政策や外交政策は、いつも 親米国家や親米組織は支援し、反米国家や反米組織は潰しにかかるものであったといいたいのです。アメリカは、国際社会の戦争や紛争を、話し合いで解決しようとはしない国であるということです。

 

 先日、国連安保理は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWAについて公開会合を開いたようですが、イスラエルは多くの理事国の主張を退け、UNRWAはイスラム組織ハマスの一部と主張したといいます。でも、その一方的な主張をするイスラエルを支援するアメリカのバイデン政権とイスラエルの関係を、正しく認識する必要があると思います。

 

 パレスチナの地に移住してきたユダヤ人が、パレスチナの地に「イスラエル」というユダヤ人国家を建国し、パレスチナの地から、パレスチナ人を追放しようとしている現実は、きわめて理不尽なことだと思いますが、それを止めることができないのは、アメリカが主導する西側諸国の対外政策や外交政策が、法や道義・道徳に基づいておらず、軍事力や経済力に依拠しているからだと思います。

 そして、それは、アメリカの政策決定におけるユダヤロビーをはじめとするユダヤ人諸団体のの影響力の結果であると思います。

 正確な数字はわかりませんが、現在、アメリカには、イスラエルとそれほど変わらないユダヤ人が住んでいるといいます。そして、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPACアメリカユダヤ人連合会(AJCその他を組織し、ロビイング活動、政治キャンペーンへの支援、有権者教育などを行っているといいます。特に、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)は、毎年多くのロビイストをワシントンD.C.に送り込み、議員や政府職員と会談しているのです。また、ユダヤ系ロビー団体は、シンクタンクやメディアを通じて世論に大きな影響を与えているともいわれています。

 また、富裕層の多いユダヤロビーは、政治献金においても、大きな力を持っており、ユダヤ系献金者は連邦候補者と政党行動委員会に多額の寄付するともいわれています。

 昔、ユダヤ人は「ジュー」(英語で「Jew」)と呼ばれて蔑まれたということですが、それは、ユダヤ人がキリスト教徒が忌み嫌う金融業や貿易を中心とする商業で、成功を収めていたことに由来するといいます。今も、ユダヤ人には、富裕層が多く、大きな政治的影響力を発揮するのは、そういう歴史があるからだろうと思います。

 

 だから、バイデン政権は、決してイスラエルを突き放すことはないと思います。突き放せば、自らの政権が崩壊することになるのだと思います。

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犯罪を犯しているのはイランかイスラエルか

2024年04月16日 | 国際・政治

 先日、朝日新聞は、バイデン大統領がアメリカのスペイン語放送「ユニビジョン」のインタビューに答えた内容の概略を、”バイデン大統領「ネタニヤフ氏は間違っている」”と題して掲載しました。インタビューでバイデン大統領は、「私がイスラエルに求めているのは、停戦して、今後68週間で全ての食料と医薬品が行き渡るようにすることだ」と述べたということです。”医療と食料を人々に提供しない言い訳はできない。今すぐやるべきだ”とも言ったといいます。

 さらに、ブリンケン国務長官も、市民を傷つけずにハマスを攻撃する代替策について、来週にもイスラエル側と協議する見通しを示したといいます。

 朝日新聞は、その意味を読者に示すかのように、”ガザ侵攻、イスラエルと溝深まる”という主題のような見出しもつけていました。

 でも、私は、こうした二人の発言は、アメリカがイスラエルと共有している戦略に基づくものだろうと思います。言い換えれば、高まる国際世論の批判を逸らすためのものだろうと思うのです。

 それは、こうした言葉とは裏腹に、アメリカのバイデン政権が、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸で戦争犯罪を続けるイスラエルのネタニヤフ政権に対して、水面下で戦闘機などの売却を承認していたことが分かったからです。ワシントン・ポスト紙(2004329日)によると、バイデン政権が、25機のステルス戦闘機および2300発以上の爆弾、その他、数十億ドル分相当の兵器の売却を承認していたと報じているのです。ワシントン・ポスト紙は、ガザへの軍事侵攻を続けるイスラエルに対して、バイデン政権が、民間人保護などを強く求めておきながら、水面下では兵器を供与している事実に対し、その矛盾を指摘する声があがっていることも報じているのです。

 また、見逃せないのは、バイデン政権が、過去に議会から武器売却の同意を得ていたということで、今回の武器の売却については、議会に通知していなかったばかりでなく、通常、外国への武器供与は、国防安全保障協力局のウェブサイトで情報公開されることになっているのに、今回の供与は公表されてもいなかった、という事実です。一般市民や国際世論を欺瞞する意図があったのではないか、と疑われます。 

 

 さらに、国連安全保障理事会は8日、パレスチナの国連加盟申請について協議をはじめたといいますが、アメリカはパレスチナの国連加盟に反対しているということも見逃すことはできません。アメリカの反対理由は不当で、法的には通用しないように思います。

 だから、アメリカは、イスラエルと事実上一体であり、決して、イスラエルを突き放し、孤立させることはないのだと思います。

 そういう意味で、私は、”ガザ侵攻、イスラエルと溝深まる”という朝日新聞の記事は、読者を欺瞞するものだと言いたいのです。

 

 アメリカの強いイスラエル支援の姿勢が、イスラエルのイラン大使館空爆につながっているという側面も見逃せません。アメリカがイスラエルに対する支援を止めれば、中東地域における戦いの拡大や、ネタニヤフ政権のラファ地上侵攻作戦も防ぐことができると思われますが、アメリカは、そういうことをしない国であることは、歴史が示していると思います。実態がどうであろうと、アメリカは、親米政権を支援し、反米政権を攻撃・転覆してきたのです。

 

 日本も、アメリカの肩代わりをするかのように、ウクライナ支援を強化したり、日米同盟を強化して、中国をにらんだ自衛隊の「南西シフト」を進めたり、急速な軍事予算の拡大をしたりしなければ、アメリカの戦争支援戦略を止める影響力を発揮することができると思います。

 戦争や紛争は、どちらかを支援したり、攻撃したりするのではなく、法に基づいて、話し合いによる解決を模索することが平和主義だと思います。アメリカに追随すれば、戦争を止めることはできないと思います。

 また、アメリカは、今なお、圧倒的な経済力と軍事力、さらには技術力などをもって、世界を思うように動かしていると思いますが、その衰退は明らかであり、その衰退を止めるためには、ロシアや中国など、非米・反米の国を弱体化するほかなく、戦争をやるしかない状態に陥っていることも、踏まえる必要があると思います。

 

 主要7カ国(G7)の首脳が、イランによるイスラエルへの攻撃を受けてテレビ会議を開き、声明で「直接的かつ前例のない攻撃」について、「最も強い言葉で明確に非難」したとの報道がありました。また、複数の国がイラン革命防衛隊(IRGC)をテロ組織に指定することを検討しているほか、各国で協調した制裁についても協議したと報道されています。イスラエルによるイラン大使館空爆がなかったかのような話で、随分おかしなことだと思いますが、それは、アメリカの覇権の大きさを示しているとも思います。

 イスラエルがイラン大使館を空爆したりしなければ、イランの反撃などはなかったということ、イランによるイスラエルへの報復攻撃を受け、パレスチナ自治区ガザでは14日、多くのパレスチナ人から喝采の声が上がったという事実も、見逃してはならないことだと思います。西側諸国がスラエルを支持し、支援するから、事態は悪化する一方なのだと思います。

 

 また、下記の抜粋文は、イスラエルの「パレスチナ難民救済事業機関(UNRW」敵視の姿勢を明らかにしていますが、イスラエルが、パレスチナ人を狭い地域に閉じ込め、支援なしには生きていけない状況に追い込んでおきながら、支援する組織を敵視しているという構図も見逃してはならないと思います。

  国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWAは、1949年の国連総会決議に基づき設立された組織です。イスラエルのパレスチナ占領によってパレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸のほか、レバノン、ヨルダン、シリアなど近隣諸国に避難し、難民となった多くのパレスチナ人を支援するためにできた組織で、避難所だけでなく、学校や病院も運営しているために、ガザだけで、約13000人のスタッフを雇っているといいます。だから、継続的な支援国の拠出資金が必要なのですが、UNRWAの一部職員がハマスのイスラエル攻撃に関与した疑いが浮上したということで、日本を含む多くの国が、パレスチナ難民救済事業機関(UNRW)に対する支援資金の拠出を停止しました。

 私は、その支援資金拠出停止も、おかしな話だと思います。なぜなら、UNRWAの一部職員がハマスのイスラエル攻撃にどのように関与したのか、また、UNRWAという組織が、そのことをどのように受け止めているのか、まったく不明だからです。どんな調査や聞き取りがなされ、その結果はどうであったのか、何もわかりません。にもかかわらず、支援資金の拠出を停止するということは、支援資金の拠出を停止した国が、パレスチナではなく、難民を生み出したイスラエルの側にあることを示しているように思います。パレスチナの地に、イスラエルというユダヤ人国家の建国を促し、多くのパレスチナ人を難民とし、苦難を強いておきながら、その支援をも断つという対応は、長く中東やアフリカ、アジアや中南米の国々を植民地として支配し続けてきた欧米の対応だと思います。

 イスラエルの「ハマス殲滅作戦」が、実は「パレスチナ人殲滅・追放作戦」であることは、イスラエルの見境のないガザ爆撃、また、イスラエルのリクードの歴史や政治家の言動、ネタニヤフ首相やネタニヤフ政権高官の発言などから察せられると思います。イスラエル軍が、ハマスと一般のパレスチナ人を区別している様子もありません。日本でも、便衣兵の問題が議論になったことがありますが、ガザやヨルダン川西岸地区で、パレスチナとハマスを区別することはできないだろうと思います。極論すれば、イスラエルのネタニヤフ政権にとって、パレスチナ人はすべてハマスなのだろうと思います。そうしたイスラエルのやりたい放題を止めなければ、戦争の拡大は防ぐことができないと思います。イランを支える国も少なくないと思います。

 下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)、から「止まらない自爆テロ」を抜萃しました。

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             第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

 

      止まらない自爆テロ

 ハマスにしろ、PLOにしろイスラエルを共通の敵として、パレスチナ人の権利拡大を図ろうとしている。つまりシャロン政権の強硬な姿勢は、パレスチナ各派をいっそう共闘させることになっているのだ。ハマスと「イスラムのジハード」の拮抗関係はほとんどない。パレスチナの過激派組織、「アル・アクサー殉教団(ファタハ内部の急進的組織)」「ハマス」「イスラムのジハード」などは、そのメンバーたちがイスラエルに対して自爆テロなどの攻撃を行っている。前述のとうり自爆テロは、自発的なもので、確かな指示・命令系統があるとはいえない。

 シャロン政権は結果的にハマスの活動を先鋭化させたり、またパレスチナ人の間におけるハマスのなど求心力を高める方策を取り続けている。シャロン政権の方針は、ガザでのハマスなど急進派の軍事的活動を徹底的に抑圧することにある。20049月終わりからイスラエルはガザ地区北部に対して軍事的制圧を行った。イスラエル軍は、イスラエル南部のゼデロトでハマスのミサイルによってイスラエル人の子どのも2人が殺害されたことへの報復として占領地最大のジャバリーヤ難キャンプ(およそ10万人の住民が住む)に侵攻して、80人のパレスチナ人を殺害したのである。しかし、犠牲者の多くはパレスチナ人のどもたちで、300人以上が負傷した。また、多くのパレスチナ人の家屋や農地が破壊され、数百人のパレスチナ人が家屋を喪失したとみられている。  

 パレスチナ市民の犠牲者は、ハマスや「イスラムのジハード」「アル・アクサー殉教団」などの民兵の犠牲者をはるかに上回っている。ベツレヘムを拠点とするイスラエルの人権団体は、ジャバリーヤ難民キャンプでは5万人のパレスチナ人が軍事的に包囲され、電気や水の提供が遮断され。食料も底をついたと報告した。

 イスラエル政府の公式発表では、ガザ自治区北部への軍事侵攻は、イスラエル南部に対するカッサーム・ロケット弾の発射を封じる事が目的だったという。カッサーム・ロケット弾は、ハマスなどパレスチナの武装勢力の手作りによるもので、イスラエルをてこずらせてきた。ハマスなどによる抵抗はあるものの、イスラエルの近代的な兵器の前にパレスチナ人たちは、ほとんど無力の状態なのだ。シャロン首相は、パレスチナ人の武力抵抗が行われる中で、ガザを放棄したくない。イスラエル軍がガザの抵抗にてこずりながら撤退するのは、イスラエルの威信低下になるからだ。

 2004103日にイスラエルのシャワル・モファズ国防相は、イスラエル軍の人道的な将校団をガザに派遣した。これらの将校とイスラエル国防軍は、ガザの難民キャンプで悲劇の発生を防ぐために活動するという構想を明らかにしたのだ。しかし、こうした構想が実際に有効に機能するとは思われない。いくら「人道支援」のためとはいえ将兵たちが、ガザで武力抵抗に遭った場合、パレスチナ人に対する報復を行ない、一般市民たちが巻き添えとなる可能性がないとはいえないのだから。

 イスラエルの『ハアレツ』紙に関連するインターネットのサイトである「ワッラ」は、世論調査を行ない、カッサーム・ロケット弾にどう対処するかという質問を出したところ、65%が軍事的、あるいはテクノロジーの力で防ぐことができると回答した。14%の人々が、政治的解決、すなわちガザからの撤退がミサイルの発射を防ぐことになるのではないかと答えた。

 ハマスは、イスラエルの人口密集地帯に対して、爆発物や自爆攻撃によって報復し、また、イスラエルの軍事基地を攻撃すると誓った。こうしたハマスの「誓約」がイスラエルの国民を恐怖に陥れていることは間違いない。しかし、イスラエル政府は、国民の批判が自らに向かうことを回避しようとし、国連、特に「パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に非難の矛先が向かうよう仕向けたのである。2004103日、イスラエル政府は、ガザのUNRWAの事務局長であるピーター・ハアンセンの辞任を要求した。イスラエルの主張によると、UNRWAの救急車がガザでカッサーム・ロケット弾の輸送に使われたというものだが、ハンセン事務局長は、「イスラエルがロケット弾だと主張した物体はじつは担架である」と反論した。このようなことから当初はイスラエル・パレスチナ問題に対して中立的な立場だったハンセン事務局長のような人物も、イスラエルにある種の反感を持つようになってしまった。

 ハマスや「イスラムのジハード」などパレスチナのイスラム勢力の活動は中東和平のバロメーターになっている。93年に「暫定自治に関する原則宣言」が成立し、中東和平が進むかに見えた時期、ハマスや「イスラムのジハード」の活動は一時的に影を潜めた。しかし現在、パレスチナのイスラム勢力は、イスラエルシャロン政権の強硬な姿勢に対して、過激な活動を志向するようになっている。イスラエルが力による抑圧を考え続けているうちは、イスラム勢力による自爆テロは決して無くならない。ハマスや「イスラムのジハード」の活動を抑制するには何よりも和平の進行が必要だ。20052月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで、イスラエル・パレスチナ双方の暴力停止宣言があったものの、イスラエルには和平を積極的に進めようとする姿勢が見られない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ハマス殲滅作戦」は「パレスチナ人殲滅・追放作戦」

2024年04月11日 | 国際・政治

 ガザ地区のハマスは、パレスチナ人の人権を無視したイスラエルの政策や、それに抵抗する多数のパレスチナ人の殺害・拘束の結果組織されることになった抵抗組織だと思います。ハマスのメンバーは、生まれながらのテロリストなどではないということです。

 だから、ハマスのメンバーをテロリストとし、ハマスをテロ組織とする対応は、精神病や精神疾患に陥った人たちを、生まれた育った環境や人間関係、社会的状況などを考慮することなく、悪魔憑きであるとか悪霊に憑りつかれた人であると考えた時代の野蛮な対応と言わざるを得ないのです。イスラエルの「ハマス殲滅作戦」は、そういう意味で、精神病や精神疾患の患者に、祈祷やまじないやおはらいで対応していた時代のものだというのです。

 ガザにおいて、イスラエルの戦争犯罪がくり返されているにもかかわらず、いまだに、イスラエルの「ハマス殲滅作戦」を、少しやり過ぎがあるようだが、やむをえない対応だというようなアメリカを中心とする西側諸国の受け止め方は、根本的に間違っていると思います。

 フランスの哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワールは、『第二の性』と題する著書で、「人は女に生まれるのではない。 女になるのだ」と書いていました。「私たち女性は、生まれたときから自動的に女性であるわけではない」というのです。 生まれた育った環境や人間関係、社会的状況のなかで、「女になる」ということだと思います。

 言い換えれば、「人はテロリストに生まれるのではない。テロリストになるのだ」ということだと思います。「生まれたときから、テロリストであるわけではない」ということです。

 そして、ハマスのメンバーをテロリストにした責任のほとんどが、イスラエルにあることは誰にも否定できない事実だと思います。

 そのことを踏まえれば、イスラエルによる「ハマス殲滅作戦」が終わることはないと思います。それは、ハマスが、次々に新しいパレスチナ人メンバーを迎えて、抵抗を続けるからであり、周辺国のアラブ人をはじめとする諸民族が、ハマスに連帯して戦いを始めていることでもわかると思います。 

 ふり返れば、パレスチナの問題は、シオニズム運動の創始者として知られるハンガリー生れのユダヤ人、ヘルツルの呼びかけに応じて、世界中からパレスチナの地に、多数のユダヤ人が移り住んだことからはじまったのだと思います。特に問題は、イギリスの後押しを受けたユダヤ人が、パレスチナの肥沃な土地の大部分を占領し、パレスチナ人を生活困難な狭い地域に追いやって、合意なく、1948年に「イスラエル建国」を宣言してしまったことだと思います。

 多くのユダヤ人が、ヘルツルの呼びかけに応じるかたちで、パレスチナの地に移り住み、何世代にもわたって住み続けてきたパレスチナ人を排除するかたちで、パレスチナの地に、強引にイスラエル国家を建国(1948年)した事実が、現在の戦いにつながっていることを、無視しすることはきないと思います。

 そして、現在イスラエルのネタニヤフ政権は、さらに進んで、パレスチナの地からパレスチナ人を追放するため、「ハマス殲滅作戦」という「パレスチナ人殲滅・追放作戦」を展開しているのだと思います。パレスチナの地に、パレスチナ人がいる限り、イスラエルの安心・安全はないと考えられるからです。現在のイスラエルのガザに対する法を無視した攻撃がそれを示していると思います。

 

 また、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)の、下記の抜萃文も、それを示していると思います。

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           第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

 

 イスラエルの暗殺作戦

 20009月にインティファーダが再開された後、イスラエルによって暗殺されたパレスチナ人の指導者は100人以上を数える。パレスチナ人指導者に対する暗殺は、1980年代の最初のインティファーダの後でも行われた。イスラエルによるパレスチナ人暗殺は長い歴史をもっているのだ。19727月にはPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のジャーナリストであるガッサン・カナファニをベイルートで自動車にしかけた爆弾で殺害した。同じ年の10月には、ファタハ指導者のワイル・ズワイテルをローマで射殺した。19734月には詩人でジャーナリストのカマル・ナセルと他の2人のファタハのメンバー、ムハンマド・ナッジャールとカマル・イドワンをそれぞれベイルートの自宅で暗殺した。同年6月にはPFLPのムハンマド・ブーディアがパリで爆殺されている。そして1992年にはレバノンのヒズボラの事務局長であるアッバース・ムサウィが殺害された。さらに1995年には、パレスチナの「イスラムのジハード」の最高指導者であるファトヒー・シャカーキーがマルタ島で暗殺されたのである。 

 イスラエルはこれらの暗殺の口実を「テロリストの撲滅」としているが、殺害方法と動機はその時々で異なっている。1970年代には小グループによる巧妙な暗殺であったのが、最初のインティファーダ(19871992)の際には、殺害は「ミスタラヴィム」というイスラエル軍の特別部隊によって行われるようになった。2000年に始まるインティファーダでは、狙撃手を使ったり、また戦闘機や軍用ヘリによるミサイル攻撃を行うようになったりした。パレスチナ人指導者の暗殺は、政治的あるいは軍事的に重要な人物である場合に行われている。

 

 こうした暗殺を「イスラエルの文化」と語るパレスチナ人もいる。いずれにせよ、パレスチナ人との和平交渉に消極的なシャロン首相が、パレスチナを混乱状態にさせ続けるために暗殺作戦を展開している意図は否定できない。シャロン首相のガザ返還計画は、「西岸拡張計画」でもある。シャロン首相には、ガザを返還することによって、ヨルダン川西岸ではイスラエルの権益を強く主張したい意向がある。ブッシュ大統領は2003年、西岸を分けるため、シャロン首相が治安のために必要とする分離壁の問題を批判したが、大統領選挙の年である2004年にはことさらその問題に触れようとはしなかった。

 後で詳述するが、アフマド・ヤースィンを暗殺したことで、シャロン首相はその「戦いの場」を西岸・ガザを超えて拡大しようと考えたのかもしれない。イスラエルのハマス研究者はヤースィンの暗殺によって、ハマスは諸外国でもユダヤ人を標的にしたテロを行うようになるかもしれないと語った。実際、この指摘のとうり、200410月にはエジプトのリゾート地タバでイスラエル人観光客をねらったテロが発生し、イスラエル人30人以上が亡くなっている。

 シャロン首相にとっては、ハマスによるテロの拡大は、ブッシュ大統領の「対テロ戦争」の提唱と重なって都合がよいことなのかもかもしれない。ヤースィンを暗殺した後で、シャロン首相は「われわれにとってのビンラディンを殺害した」と発言した。「対テロ戦争」に従事することによって、シャロン首相はガザの軍事的抑圧、西岸の支配地の拡大に正当性が与えられると考えた。また、パレスチナ人がイスラエル人の人口を超すことを防ぐ様々な手段を講ずることも許容されると考えているに違いない。しかし、シャロン首相の手法は、ハマスのテロを長期化させ、パレスチナ情勢を一層悪化させるものであることは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

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イスラエル軍によるハマス創設者ヤースィンの暗殺とアメリカ

2024年04月08日 | 国際・政治

 下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)からの抜萃ですが、これを読めば、もともと敬虔で、もの静かな人物であったヤースィンが、なぜイスラム原理主義的な組織「ハマス」を創設し、武装化を進めたりすることになったのか、ということが理解できるように思います。ヤースィンの思想や戦略は、イスラエルの差別的、攻撃的対応抜きには語れないということです。

 でも、「ハマス殲滅」を意図するイスラエルにとっては、ハマスはイスラエルとは関係のない「テロ組織」であり、話し合いの対象ではなく「絶対悪」でなければならないのだと思います。だから、「絶対悪」のハマス創設者ヤースィンは、イスラエルの存在や圧迫とは無関係のテロリストであり、テロ組織を率いるヤースィンを殺しても罪に問われることはないということで、ヤースィンがガザ路上を、車椅子でモスクの礼拝に向っている時に、チャンス到来とばかりに、軍のヘリコプターのミサイル攻撃によって殺害したのだと思います。また、ヤースィンの他にも、ハマスのリーダーが、イスラエル軍によって殺害されていることも見逃してはならないと思います。

 下記のような文章によって、イスラエルのハマスに対する姿勢や行為を知れば、イスラエルの政党リクードのネタニヤフ政権が、自らの行為や事実を隠してパレスチナ人を殺す、恐ろしい政権だわかるような気がします。

 だから、そんなイスラエルを支えるバイデン米政権も、恐ろしい政権だと思います。

 329日、米紙ワシントン・ポスト(WP)は、世界中でイスラエル批判が高まっているにもかかわらず、バイデン米政権が、同国への爆弾や戦闘機の追加供与を承認していたと伝えました。追加供与は、約25億ドル相当のF35戦闘機25機のほか、MK84爆弾1800発以上、MK82爆弾500発以上が含まれる、というのです。

 また、国連人権理事会(47カ国)は5日、パレスチナ自治区ガザでの停戦を要請し、加盟国にイスラエルへの武器や弾薬、軍需品の売却や移転の停止を求める決議案を採択しましたが、採決では28カ国が賛成し、アメリカやドイツなど売却や移転をしている6カ国が反対、日本を含む13カ国が棄権したといいます。

 バイデン大統領や、ブリンケン国務長官のイスラエルのラファ侵攻にたいする批判や懸念は、本心ではないことを示していると思います。政権や政治家の評価は、言葉ではなく、何をやっているかで下されるべきだと思います。

 

 また、同じようにウクライナのゼレンスキー政権やゼレンスキー政権を支えるアメリカのバイデン政権にとって、ロシアは戦略的に「絶対悪」の侵略国でなければならず、話し合いの対象にすることはできないのだと思います。だから、ロシアの「特別軍事作戦」(ウクライナ侵攻)前の、ロシアに対するアメリカを中心とするNATO諸国の行為その他の対応は隠す必要があって、あらゆる組織や団体からロシア人を排除し、交流や情報のやり取りを遮断したのだと思います。ノルドストリームをめぐる米ロ対立やウクライナの政権転覆に関する問題などを話題にされたくないからだろうと思います。

 その影響を受けて、日本でも、日本人を欺瞞する報道がなされてきたと思います。

 ウクライナ戦争が始まった時、お昼のワイドショウその他のニュース番組にくり返し登場した、ロシアに詳しいジャーナリストやロシア政治、国際政治の専門家といわれる人たちの解説には、現実の米ロ関係を中心とする国際的な国家対立を無視する共通の問題があったと思います。

 それは、ロシアのヨーロッパ諸国に対する影響力の拡大が、アメリカの覇権や利益を損なうと考えているバイデン政権の対ロ戦略を隠し、ウクライナ戦争が、独裁者プーチン大統領個人の妄想によって始まったというような解説にあらわれていたと思います。

 気になった「話」を、いくつか歴史に関するもの、情報統制に関するもの、権力構造に関するもの、戦略に関するものなどに分けて列挙すると、

 

 一、ロシアが欧州からアジアにまたがる「帝国」を形成したのは、18世紀後半にエカテリーナ女帝がウクライナを併合して以降だが、ウクライナに執着するプーチンは、ソ連崩壊後独立したウクライナを再び「小ロシア」として組み込み、同化させた思いが強いと思われる。

 ウクライナ侵攻の背景には、プーチン氏の「ウクライナとロシアは一つの民族」との考えがあり、「偉大な帝国」復活の執念があると思われる。プーチン氏は「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能だ」というようなことを言っている。

 プーチン氏の妄想というべき考えの根底にあるのは、ロシアは欧米とは異なる文明を有する偉大な「帝国」で、「ユーラシア主義」と言われるような偏った歴史観だ。

  ウクライナ戦争は、プーチン大統領が自分の歴史観を前面に押し出して始めたもので、その点で歴史と非常に関わりの深い戦争であるといえる。プーチンの考えは、ウクライナは広い意味でのロシア世界の一部であって、それを取り戻すだけだというものだが、帝政ロシア・ソ連の歴史や歴代の指導者たちの考えをふり返ると、彼の発言は単なる方便ではなく、この戦争が、歴史の中で積み重なってきたいろいろな動機を背負ったものであることがわかる。

 ロシアでは、法治より人治が優先され、強い指導者のもとで、つくられた過去の歴史が、現在の政治と直結させられる傾向がある。

 

 二、プーチン政権下で、重要な祝日と位置づけられている「対独戦勝記念日」が近づき、ロシアでは政権のプロパガンダを国民に刷り込むための様々な行事が開かれている。モスクワの「大祖国戦争中央博物館」で実施されている「真の遺訓」展もその一つだ。

 プーチン大統領は、メディアを使って情報を統制し、あらゆるところで、政権のプロパガンダを流しているので、多くのロシア人が見る世界は、国際社会の認識と大きく異なる。ロシアの人たちが住むのはまるで「アナザーワールド」だ。

 

 三、プーチン氏は、周辺を、パトルシェフ安全保障会議書記ら、旧KGB(ソ連国家保安委員会)出身の「チェキスト」とよばれる強硬派で固めており、強い指導力を発揮している。ロシア国民は声をあげることが難しく、民主化することも簡単ではないだろう。

 

 四、プーチン大統領は、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対する「被害妄想」でウクライナ戦争を始めた。日本もウクライナの代わりに攻撃されていた恐れもある。安全保障を考える時だ。

 プーチン氏は、米国が国内の分断などで指導力が低下した今こそ武力で国際秩序を変更する好機到来とみなしたのだろう。しかし、捏造された情報を口実に他国を侵略するのは、ナチス・ドイツのヒトラーに酷似する。軍事的冒険主義が行き着く先は破滅だと歴史が証明している。

 

 こうした主張を、くり返し、聞いたり読んだりしてきたのですが、プーチン大統領が語っているような、現実の米ロ関係やゼレンスキー政権とロシアの関係が抜け落ちているのです。

 プーチン大統領は確かに、「ウクライナとロシアは一つの民族」とか「ユーラシア主義」と言われるような歴史観を語っていますので、上記のようなとらえ方が、すべて間違っているとは思いませんが、ウクライナ戦争のきっかけは、そうした歴史観によるプーチン大統領個人の妄想ではなく、現実の米ロを中心とする国家関係だと思います。

 プーチン大統領は、くり返しアメリカを中心とするNATO諸国の脅威を語っているのに、それを無視していることが問題だと思うのです。

 

 国際社会の戦争や紛争は、相互の関係の矛盾・対立であり、必ず、経済的利益や領土問題の対立、宗教的対立、あるいは軍事的脅威に関する対立などがあると思います。

 だから、戦争に至る米ロ関係などに目をつぶり、ウクライナ戦争がプーチン大統領個人の妄想で始まったと主張することは、精神病や精神疾患に陥った人たちを、人間関係のなかで考察することなく、悪魔憑きであるとか悪霊に憑りつかれた人であると考え、祈祷やまじないやおはらいで対応しようとしていた時代のレベルだと思うのです。

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           第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

 

                   アフマド・ヤースィンの暗殺

 

 イスラエルは、2004322日にハマスの指導者であるアフマド・ヤースィンを殺害した。ヤースィンは、敬虔で、もの静かな人物で、ハマスの精神的指導者として崇められてきた。イスラエルがヤースィンを殺害したのは、シャロン首相がガザ地区からの撤退を公約するようになり、ガザのハマスの運動を弱体化させることによって、ガザ社会の安定を築きたかったことがある。しかし、こうしたイスラエルのもくろみとは異なって、ハマスの影響力はいっそう高まることになり、またイスラエルはハマスの報復を恐れることになる。ヤースィンの死は、ハマスに深い精神的な衝撃を与えたことは間違いない。それでもヤースィンの死が、ハマスの活動を鈍らせるということはなかった。じつはヤースィンは健康状態の悪化もあって、亡くなる前の数年間は満足な活動ができなかった。

 アフマド・ヤースィン1936年にジュラの町で生まれた。1948年のイスラエル建国後の第

一次中東戦争の際に家族とともに難民としてガザに逃げた。彼は、ユダヤ人が彼の一族の土地を奪ったので戦う決意を持ったことを明らかにしている。さらに。彼のイスラエルへの憤りはガザ地区の貧困とともに増幅しい行った。1952年にサッカーで負傷して以来、残りの人生を身体的な障害を持ちながら送ることになる。

 1950年代の終わりにエジプトに留学し、そこでムスリム同胞団の思想に強い感化を受けるようになり、同胞団の活動に身を投じていった。1962年にガザ地区戻る際に、エジプト当局に拘束されたこともあるが、それはムスリム同胞団との関わりがあったからであった。ヤースィンは、ガザではモスク導師としてイスラム学やアラビア語を教えるようになった。彼は、1948年のパレスチナ喪失は、イスラム共同体が弱体化の傾向を示しているからだと訴えた。その解決のためには、イスラムの政治力を復活させ、また世俗的な力を弱めることだと考えるようになった。彼は、1970年代からイスラム原理主義的な集団をつくるようになり、ヨルダンのムスリム同胞団の支援などによって武装化を進めたこともあった。1984年には逮捕され、13年の懲役刑が言い渡されたが、翌年。PFLPGC(パレスチナ解放人民戦線司令部派)がイスラエル兵を釈放したことと交換に解放された。

 彼は、1987年にアブドゥル・アズィーズ・ランティスとともに、ハマスを創設する。ヤースィンは1989年にイスラエルによって逮捕され、パレスチナ人による暴動とイスラエル兵の殺害を扇動したとして40年の刑期を言い渡された。こうしてヤースィンは八年間獄中で過ごしているうちに、健康を悪化させ、片方の目の視力を失った。ところが1997年に彼は獄中生活から解放される。その釈放は、ヨルダンのフセイン国王が、ヨルダンで活動していたハマスの指導者ハリド・マシャールの殺害を企てたモサドの要員2人を釈放したこととの交換で行なわれた。ガザ地区に戻ったヤースィンの簡素で誠実な生活態度は、パレスチナ自治政府の幹部たちと対照なすものとみられた。20009月に<アル・アクサー・インティファーダ>が発生する前に、米国やイスラエルからの圧力を受けて、パレスチナ自治政府によって、ヤースィンは自宅軟禁されることになった。

 シャロン首相は、米国からの非難以外、国際社会の批判にはそれほど動じない。実際、米国ブッシュ政権のライス安全保障担当大統領補佐官(当時)は、ハマスは「テロリスト集団」であり、ヤースィンはテロに深く関与してきた、とヤースィン暗殺を支持した。また、国務省やホワイトハウスからはヤースィン暗殺についてあからさまな非難の声も聞かれることがなかった。ヤースィン暗殺問題は、国連の安保理に付託されたが、米国は予想どおり拒否権を発動した。

 シャロン政権が長期にわたるほど、家屋の破壊や、パレスチナ人指導者の暗殺を行ない、ガザの状況は悪化することが明らかである。一方で、パレスチナ自治政府にもガザの社会・経済を改善するだけの資産がない。イスラエルは、ブッシュ政権が提唱した和平への道筋であるロードマップを誠実に進行させる意図がなく、ロードマップはほとんど成果をもたらすことはなかった。ヤースィンの暗殺は、イスラエルによるヨルダン川西岸・ガザへの軍事侵攻、家屋の破壊、パレスチナ経済の停滞、和平の政治的イニシアチブに対する非難や拒絶などの意図や行為を表すものだった。

 明らかにシャロン政権はパレスチナ人との和平案を拒否する姿勢を見せている。和平案では、イスラエルが占領を終結させ、またパレスチナ国家の独立を認め、イスラエルとパレスチナは共存していかなければならないとしている。しかし、こうした外交的解決をシャロン政権は決して履行できない。シャロン政権は、ヨルダン川西岸の半分を手にして、またパレスチナ人には限定された自治を与えるのみで、地中海からヨルダン側に至る地域はイスラエル国家としか存在しないようにする意図があると考えられている。

 アフマド・ヤースィンの葬儀におよそ20万人が集まった。ヤースィンの暗殺に対する抗議集会は、イスラエル(イスラエル国内のパレスチナ人)、エジプト、ヨルダン、レバノン、シリア、スーダン、イラクとイランなどで開かれた。従来、ハマスをテロリスト集団と形容していたハビエル・ソラナEU(欧州連合代表)代表も、ヤースィンの暗殺は、和平プロセスにとってたいへん悪いニュースだ、と語ったが、この暗殺が、パレスチナ人たちを自爆攻撃を含む武装闘争支持に駆り立てるのではないかと危惧したのかもしれない。

 ヤースィンの暗殺以前、パレスチナ自治評議会政府やハマスなどパレスチナの各派は、イスラエルがガザから撤退した後、イスラエルに対するガザからの攻撃や、ガザにおける武闘活動を控えることで合意していた。しかし、ハマスの指導者の一人であるアブドゥル・アズィーズ・ランティスは、インティファーダの間、すべての停戦に向けてのイニシアチブに反対していた。こうしたランテスの姿勢は、パレスチナ自治評議会の腐敗に怒るガザの青年層の支持を得るものだった。

 イスラエルがハマスを武力でもって鎮圧しようとする姿勢は、ハマス内部の急進的傾向を強めるものだった。イスラエルによる鎮圧でたいていのハマスの政治部門や軍事部門の指導者たちは捕らわれるか殺害されてきた。イスラエル人がガザから撤退した後に、起こる混乱についてパレスチナ人が懸念している面もある。イスラエルがガザから撤退後も、かりに自爆テロが発生したりすれば、イスラエルはガザを再占領する可能性がある。こうした事態をシャロン首相が望んでいるとパレスチナ人たちは憂慮しているのである。

 ヤースィンが殺害された二日後の324日にパレスチナの新聞『アル・アイヤーム』紙に60人のパレスチナ知識人、また、パレスチナ自治政府関係者の署名入りで声明が出され、ヤースィン暗殺を非難するとともに、パレスチナ人には冷静に対処し、シャロン首相が植民地主義的な野心を起こさないように、平和的なインティファーダを追求するよう求めた。こういった呼びかけがあったものの、ハマスのあるメンバーはパレスチナ人は、イスラエルが占領を終え目的を達成するまで抵抗は続けるだと語った。

 

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アメリカのプロパガンダ発信要員と戦争解説のレベル

2024年04月01日 | 国際・政治

 現在の日本で、ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ戦争を、経済や政治や領土などをめぐる対立関係の問題としてとらえることなく、あれこれ解説する専門家と言われる人たちは、私にはアメリカのプロパガンダ発信要員のように思えます。

 昔の人たちは、精神病や精神疾患に陥った人を、悪魔憑きであるとか、悪霊に憑りつかれた人であると受け止め、祈祷やまじないやおはらいで対応したといいます。でも、文明の発展とともに、徐々に精神病や精神疾患が、複雑な人間関係や環境のなかで、身体の病気と同じような病いに陥いることになったものと理解されるようになり、祈祷やまじないやおはらいではなく、医学的治療の対象とされるようになったといわれます。
 うつ病に代表されるように、人間関係のトラブルや大きなストレスを感じさせる状況を乗り越えることができれば、精神病や精神疾患の多くは、症状が改善できると考えられるようになったのです。
 そのことを確認したいと思っていたら、宮城大学、長岡芳久氏の「精神疾患患者の理解の変遷に関する研究」という論文があり、その文章の中に下記のような記述がありました。
フロイトのこれまでの精神疾患患者の理解と大きく異なる点は、患者が示す精神症状を単にその時点で捉えるだけではなく、症状を発達史的に解釈して主として幼児期の対人関係から説明しようとした。患者の生活歴により重点をおいた考察がなされるようになり、患者を歴史をもった存在として受け止められるようになった。フロイトの患者の内面に深く関心を向ける分析療法は、医師の人間としての存在を通じての患者の人間存在の開示の可能性を生み出し、“精神疾患は人間の病気”であるという確信を強くした。こうしたフロイトの患者を理解していく方法は、現象学や実存哲学主義の影響を受けながら、人間学派とよばれる精神疾患患者の全存在として理解しようとする動きにつながっていく。人間学とは、妄想などの症状を含めて人間関係や葛藤などを生きた生活史としてとらえて精神病者の全存在を理解しようとする立場とされている。
 とありました。

 こうした複雑な人間関係や社会関係のなかで精神病や精神疾患に陥いる人がいるように、世界でくりかえされている戦争や紛争も、国家や組織の複雑な国際関係のなかで起きる病気のようなものだと思います。相互の利益の対立や領土をめぐるトラブル、権利や義務の主張の対立、相手国の軍事攻撃に対する不安等が原因で、戦争や紛争が起きるのだと思います。だから、それを明らかにし、停戦や和解につなげる議論をすることが、学者や専門家の仕事だと思います。また、メディアの責任だと思います。戦争や紛争は、相互の関係に問題があるということであって、アメリカやウクライナやイスラエルが主張するように、相手側が100パーセント悪く、話し合いでは解決できないというようなものでは決してないと思います。
 でも、相互の関係の問題と受け止められたくないアメリカやウクライナは、ロシアを100パーセント悪いことにするために、プーチン大統領を「悪魔のような独裁者」にしたてあげ、ロシアのアスリートをオリンピックから排除するだけでなく、ロシア人をあらゆる組織や団体から切り離し、人的交流や情報のやりとりを遮断しました。プーチン大統領が、「なぜアスリートを政治に巻き込むのか」と非難したことは、どちら側が話し合いでの解決を拒否しているのかということを示していると思います。また、イスラエルが国際司法裁判所の「措置命令」を無視し、「ハマス殲滅」の方針で攻撃継続していることも、イスラエルが話し合いでの解決を受け入れないということを示していると思います。後ろ暗いところがあるように思います。

 メディアにくり返し登場した安全保障の研究者や、国際政治が専門の大学教授などは、ウクライナ戦争に関わる米露のトラブルやウクライナと一体となったNATO諸国の軍事訓練、攻撃体制の準備状況などを隠してウクライナ戦争を語っていたところに、それが窺えると思います。
 また、同じようにパレスチナのハマスが何時どのように結成され、なぜ過激化したのかということについての分析や考察、特に、イスラエルやイスラエルを支援してきたアメリカの諸政策の問題がメディアで取り上げられることはほとんどなかったと思います。そんなことでは、ハマスを理解することはできず、「ハマス殲滅」というイスラエルの方針を変えさせることもできないと思います。ハマスを知れば、「ハマス殲滅」が不可能であり、したがって、「ハマス殲滅」は、イスラエルの攻撃の継続を意味し、「パレスチナ人殲滅」につながる戦争犯罪の追認になってしまうと思います。

 そういう意味で、日本の国際政治や安全保障の専門家・学者は、いまだに、 精神病や精神疾患に陥った人を、悪魔憑きであるとか、悪霊に憑りつかれた人であると受け止め、祈祷やまじないやおはらいで対応しようとしていた時代のレベルの解説をしていると思います。
 現在の戦争の場合は、精神疾患おける祈祷やまじないやおはらいにあたるのが、武器の供与や財政支援という戦争支援策だと思います。 

 国際社会における戦争や紛争も、相互の関係の問題であり、必ず、経済的利益の対立や領土の問題、権利や義務の法律的問題、安全保障の問題その他があるのだと思います。それらを考慮して、理解を深め、戦争や紛争を解決に導くのが、 国際政治や安全保障の専門家・学者の責任であり、それを取り上げるのがメディアの仕事だと思うのです。戦争や紛争当事国の一方の側の支援の必要性を語るような解説や報道などもってのほかだ、と私は思います。はやく、祈祷やまじないやおはらいに夢中になった時代の対処の仕方を乗り越え、平和を取り戻すための議論をすべきだと思います。
 
 宮田律氏が明らかにしている、下記のような事実をきちんと受け止めなければ、ハマスを理解することはできず、イスラエルとパレスチナの戦争を解決することはできないと思います。ハマスを過激化させたのはイスラエルやイスラエルの側につき、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への支援基金拠出を停止した国々だと思います。下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)からの抜萃です。
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           第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

   イスラエルの暗殺作戦
 2000年9月にインティファーダが再開された後、イスラエルによって暗殺されたパレスチナの指導者は100人以上を数える。パレスチナ人指導者に対する暗殺は、1980年代の最初のインティファーダの後でも行われた。イスラエルによりパレスチナ人暗殺は長い歴史を持っているのだ。1972年7月にはPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のジャーナリストであるガッサン・カナファニをベイルートで自動車に仕掛けた爆弾で殺害した。同じ年の10月には、ファタハ指導者のワエル・ズワイテルをローマで射殺した。1973年4月には詩人でジャーナリストのカマル・ナセルと他の2人のファタハのメンー、ムハンマド・ナッジャールとカマル・イトワンをそれぞれベイルートの自宅で暗殺した。同年6月にはPFLPのムハンマド・ブーディアがパリで爆殺されている。そして1992年にはレバノンのヒズボラの事務局長であるアッバース・ムサウィが殺害された。さらに1995年には、パレスチナの「イスラムのジハード」の最高指導者であるファトフィー・シャカーキーがマルタ島で殺害されたのである。
 
イスラエルはこれらの暗殺の口実を「テロリストの撲滅」としているが、殺害方法と動機はその時々で異なっている。1970年代には小グループによる巧妙な暗殺であったのが、最初のインティファーダ(1987~1992)の際には、殺害は「ミスタラヴィム」というイスラエル軍の特別部隊によって行われるようになった。2000年に始まるインティファーダでは、狙撃手を使ったり、また戦闘機や軍用ヘリによるミサイル攻撃を行うようになったりした。パレスチナ人指導者の暗殺は、政治的、あるいは軍事的に重要な人物である場合に行われている。
 こうした暗殺を「イスラエルの文化」と語るパレスチナ人もいる。いずれにせよ、パレスチナ人との和平交渉に消極的なシャロン首相が、パレスチナを混乱状態でさせ続けるために暗殺作戦を展開している意図は否定できない。シャロン首相のガザ返還計画は、西岸拡張計画」でもある。シャロン首相には、ガザを返還することによって、ヨルダン川西岸ではイスラエルの権益を強く主張したい意向がある。ブッシュ大統領は2003年、西岸を分けるため、シャロン首相が治安のために必要とする分離壁の問題を批判したが、大統領選挙の年である2004年にはことさらその問題に触れようとはしなかった。後で詳述するが、アフマド・ヤースィンを暗殺したことで、シャロン首相はその「戦いの場」を西岸・ガザを超えて拡大しようと考えたのかもしれない。イスラエルのハマス研究者は、ヤースィンの暗殺によって、ハマスは諸外国でもユダヤ人を標的にしたテロを行うようになるかもしれないと語った。実際、この指摘のとうり、2004年10月にはエジプトのリゾート地タバで、イスラエル人観光客をねらったテロが発生し、イスラエル人30人以上がなくなっている。
 シャロン首相にとっては、ハマスによるテロの拡大は、ブッシュ大統領の「対テロ戦争」の提唱と重なって都合がよいのことなのかもしれない。ヤースィンを暗殺した後で、シャロン首相は「われわれにとってのビンラディンを殺害した」と発言した。「対テロ戦争」に従事することによって、シャロン首相は、ガザでの軍事的抑圧、西岸の支配地の拡大に正当性が与えられると考えた。パレスチナ人がイスラエル人の人口を越すことを防ぐさまざまな手段を講じることとも許容れると考えているに違いない。しかし、シャロン首相の手法は、ハマスのテロを長期化させ、パレスチナ情勢を一層悪化させるものであることは間違いない。 

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ロシアコンサート会場襲撃事件とISISとアメリカ

2024年03月28日 | 国際・政治
 モスクワ郊外のコンサート会場であった襲撃事件は、手当ての甲斐なく死んだ人も含めると死者が140人にのぼり、過激派組織「イスラム国」(IS)が、アマーク通信で動画を公開したといいます。

 そして、ホワイトハウスのジャン=ピエール報道官は、「ISは共通の敵であり、どこにいようと打ち負かさなければならない」との声明を発表したといいます。

 また、米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は、「ウクライナの関与は一切なかった」と述べたと伝えられています。でも、こうしたアメリカの主張を、私は誤魔化しではないかと疑います。

 日本を含む西側諸国は、ウクライナや西側諸国と実行犯とのつながりを示唆するロシアの主張を受け入れず、ISの単独犯行説を意図的に広めているように思うのです。ロシアが容疑者からどういう情報を得たか、正確のことはわかりませんが、容疑者11人をウクライナ国境の手前100キロほどの地点で拘束したと言っているのです。そして、その中に実行犯4人が含まれていたとロシアの連邦保安局が発表しているのです。その実行犯は、テレグラムというメッセーアプリで指示を受け、50万ルーブルを約束されたともいうのです。

 すでに裁判が開始され、24日時点で2人は罪を認め、金銭目的でやったことを告白したともいいます。そのロシアの主張を受け入れず、アメリカの発表を何の疑いも持たずに受け入れるのは、やはり、日本のメディアが、アメリカのバイデン政権の影響下に置かれていることを示していると思います。

 先日、笹川平和財団主任研究員、畔蒜泰助氏は、想像を逞しくし、「団結に利用 再動員の可能性も」と題して、下記のようにプーチン大統領を危険視する主張をしていました。でも、その主張の大部分が、具体的な根拠が不明なので、わたしは、アメリカのメディア戦略に基づく情報を、日本で広め定着させようとする意図を感じました。

ロシアのプーチン大統領は23日の演説で、ウクライナの関与があるかのような発言をした。プーチン氏は大統領戦後の19日にあったロシア連邦保安局(FSB)の幹部会で、「ウクライナは、西側諸国の支援を受けながらテロ戦術に移行している」などと発言している。併せて考えると、ロシア政権は今後、事件の裏には米国やウクライナの存在があり、ロシアを弱体化させるために行ったものだという解釈に向かっていく可能性がある。

 テロを防げなかったのはプーチン政権の失策だ。ダメージを最小限にするためにも、事件はウクライナが関係しているという情報を広げるのではないか。それは、愛国心の下にロシア国民の団結を狙うプーチン氏の方針を一層、強化することにつながるだろう。

 ロシアのペスコフ大統領報道官は22日に公表された報道で、「我々は戦争状態にある」と発言。ジョイグ国防相も21日、ロシア軍に新部隊を設置する方針を示した。これまで部分的動員と志願兵で兵力をまかなっていたが、国民の団結を背景に再動員へと踏み切る可能性もある。前線においてもウクライナの首都や民間インフラへの攻撃など、一層のエスカレーションへと向かうことが予想される。(聞き手・星井麻紀) ”

 

 また、朝日新聞は、プーチン大統領が23日のビデオ演説で、これらの人物がウクライナ国内に逃亡を計画していたとして、”根拠を示さずに「ウクライナ側に越境のための窓口が用意されていた”と報じていました。”根拠を示さずに…” などと、ロシアの主張はことごとく疑問視し、アメリカやウクライナの主張は、根拠が示されていなくても疑問を呈することなく、真実として報道するその姿勢には、ほんとうにあきれます。

 

 中東の紛争をよく知る人たちが、アルカイダやイスラム国の武装勢力を育てたのはアメリカだと言っていたことを思い出します。

 数年前の話ですが、「ワシントン・ポスト」紙が、”アメリカのトランプ大統領がCIAが行ってきたシリアの「穏健な反体制派」への武器供給・訓練事業の終了を決定した”と報じたことがありました。

 アメリカ政府は、シリア紛争勃発後に、アサド政権の転覆のために、「反体制派」を支援していたのです。トランプ大統領は、その事業の停止を決定したということです。

 

 公益財団法人中東調査会主席研究員、髙岡豊氏によると、

欧米諸国の政府や報道機関が期待をかけていた「穏健な反体制派」は、2012年中ごろにはシリアの民心を失った上、イスラーム過激派諸派に従属的な立場でしか存在しえないものだった

 といいます。そのアメリカが支援したシリアの「穏健な反体制派」が、イスラム国に武器や戦闘員を提供するようになったため、「イスラム国」は急速に勢力を拡大したというのです。

 アメリカが反米的な国の反体制派を支援したり、極秘裏に軍事訓練をして育てた組織が、その後「アメリカの敵」に変貌したケースは、「イスラム国」だけではないということです。

 

 さらにさかのぼれば、アメリカが湾岸戦争やイラク戦争で、スンニ派のサダム・フセインを捕らえ、処刑したことが、スンニ派を中心とする中東の勢力バランスを崩し、混乱をもたらすことになったという側面も見逃せないと思います。武力行使の結果は民主化などではなく、混乱がもたらされたのです。

 

 だから、アメリカによる、アメリカのための戦略が、あちこちで、悲惨なテロや紛争を惹起させることになったといえると思います。

 アメリカが反米的なロシアを弱体化させるために、イスラム過激派組織を利用することもあり得ることだ、と私は思います。

  アメリカ国防総省が、「シリア反対制派の武装勢力を訓練して、イスラム国と戦わせる」という作戦を進めているとか、「アメリカがトルコとヨルダン北部の訓練基地でシリアの反政府武装勢力を訓練している」(「ワールド・ネット・デイリー」)と報道されたこともあったのです。

 中東を知る多くの人たちが、アメリカ特殊部隊が、秘密裏に特訓した組織が、現在の「イスラム国」その他のテロ組織になったと指摘していることを忘れてはならないと思います。

 だから、今回のホワイトハウスのジャン=ピエール報道官や米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官が語った内容は、似たようなアメリカの対ロ作戦を隠すためのものではないか、と私は疑うのです。

 

 藤原直哉氏は、下記をTwitterで取り上げていました。

伝えられるところによると、ウクライナ兵士はテレビ放送中にISISの記章を着けているところを捕ら”えられたという。彼らはモサドの工作員なのか、それともCIAの訓練を受けた特殊な目的のための工作員なのか?

 というのです(https://twitter.com/search?q=%E8%97%A4%E5%8E%9F%E7%9B%B4%E5%93%89%E3%80%80ISIS&src=typed_query&f=top)

 下記は前回に続いて、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)からの抜萃です。こうした理不尽な特権を得ているアメリカと日本の関係にも、 モスクワ郊外のコンサート会場であった襲撃事件に連なる問題を感じます。

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                  4 米軍の優先使用、協力を義務化

                      ──第六~八条 十条、二十一~二十三条

 

                  三、気象情報の提供。自動車に関する特権

  1 気象情報の提供

 地位協定第八条は、気象業務に関して日本側が米軍に与える強力について定めている。

 軍事活動にとって、気象情報は最も重要な情報の一つである。日本政府は、①地上および海上からの気象観測、②気象資料 ③航空機の安全かつ正確な運行のために必要な気象情報を報ずる電気通信業務、④地震観測の資料などを米軍に提供しなければならないと義務付けられている(第八条)。さらに、日米合同委員会での合意によって、公表されていない気象資料や気象観測の原簿などを米軍に提供する義務をはじめ、広範囲の義務が定められている。なお、米軍が自ら行う気象情報収集活動は、軍隊の当然の機能の一つであると考えられており、協定上、当然認められると解釈されている。

 

  2 自動車に関する米軍の特権

 地位協定第十条は米軍人の運転免許の効力などについて定めている。

 地位協定は、アメリカが軍事・軍属およびその家族に対して発給した運転免許証などを、試験または手数料を課さないで日本でも有効なものとして承認している(第十条一項)。米軍および軍属用の公用車両には、識別できる番号票などをつけることになっている(二項)。軍人にとって車両運転は重要な軍事活動の一つであり、軍隊は各国を移動するためその効率的な活動確保のうえで、煩瑣(ハンサ)な試験などうけていられない、というのが理由になっている。アメリカで発給された運転免許証あるいは米軍の運転免許証を持っている軍人、軍属および家族は、日本の運転免許証がなくても、日本での運転を認めるという趣旨である。このため、彼らが交通違反を行っても、アメリカが発給する運転免許証については、日本側は免許の取消し、停止などの行政処分はできない。

 車両には識別番号票を日米地位協定でもつけなければならないことになっているが、実際には米軍車両と識別できるような票はつけられていない。このため、米軍車両が交通事故を起こした場合でも、車両の特定を困難にしている。沖縄県の地位協定見直し要請は、「軍用車両には、県民が容易に識別できるような番号票または記号が付いておらず、さらに夜間になると番号標または記号そのものが見えない場合が多い」と指摘し、「県民が容易に識別できる軍用車両の番号標の基準を示すこと」を要求している。あまりにも当然のことである。

 また、これらの車両には道路運送車両法、自動車損害賠償補償法などの法令も適用されない。したがって、道路運送法の安全輸送に関する規定の適用がないため、ジェット燃料などの危険物がなんの規制もなく輸送されている。

・・・(中略)

 なお、最近になって、国民の批判の高まりによって米軍車両について車両を識別できるプレートの装着と交通事故損害保険の加入が行われるようになった。

 

 3 郵便局の設置の自由

 地位協定第21条は、アメリカの軍事郵便局の設置・運用について規定している。

 公共事業等の利用優先の箇所でみたように、アメリカ側は、軍人・軍属およびその家族が利用する米国軍事郵便局を、日本にある米国軍事郵便局間およびこれらの軍事郵便局と他の米国郵便局とのあいだにおける郵便物の送達のため、施設・区域のなかに設置・運営することができる(第21条)。アメリカの在日外交官、軍事顧問団員など、通常海外で同様の特権が与えられているアメリカ政府のその他の官吏および職員も、この軍事郵便局を利用できる(日米の合意議事録)。これら軍事郵便局については、郵政大臣はいっさいの管理権をもたない(郵便局法特例法)。この郵便局は、軍事郵便局相互および軍事郵便局と他の在日アメリカ郵便局とのあいだの郵便業務を主とするが、日本の郵便局との交換業務をもおこなう。(日本国郵便局とアメリカ合衆国軍事郵便局とのあいだに交換する郵便物の取り扱いに関する規則)。外国為替管理令などにかする臨時特例法によって、軍事郵便局にたいして、対外支払手段などの集中の例外、外国向け送金の制限の免除なども認められている。

 なお、地位協定第22条は、在日米人の軍事訓練について定めている。これは、日本における。米軍の編成、訓練の自由を保障しているものである。

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「もしトラ」に備えるメディアの真実の報道

2024年03月21日 | 国際・政治
 先日、朝日新聞で、今までにない二つの記事を目にしました。一つはウクライナの実態を伝える記事であり、もう一つはロシアの実態を伝える記事です。
 ウクライナの実態を伝える記事の内容は、兵士の家族や親族が、「前線で戦う兵士には休息が必要だ」ということで、軍務に期限を設けるよう抗議の声をあげているということ、また、従軍する兵士の除隊時期を明確に示すよう政府に求めて抗議デモをしている人たちもいるということ、そして、ウクライナからこれまでに2万人近くが徴兵を逃れるために国外に出国したようだということ、さらに、川を泳いだり、夜間に徒歩で国境を越えたりして国外に逃れようとしたウクライナ人が、およそ2万1千人もウクライナ当局に拘束されたというようなことでした。
 ウクライナでは、ロシアの「特別軍事作戦」開始直後に、総動員令が出され、18歳から60歳の男性が徴兵の対象となって出国が禁じられましたが、ロシアとの戦いを望まないウクライナ人が、徴兵を逃れるために賄賂を贈るなどの汚職も後を絶たず、社会問題となっていて、兵員の確保が難しくなっているというようなことでした。ウクライナにおける汚職は、それ以前からいろいろあったようですが、それにしても、こうしたウクライナの現在の実態が報道されることは、今までにないことだと思います。SNSでは、ウクライナ当局が、抵抗する男性を暴力をもって連れ去るというような徴兵の動画をたびたび目にしましたが、やはりウクライナでは、そういうこともあったのだろうと思います。

 もう一つは、ロシアにはロシア軍を支えるボランティア団体が多数あり、さまざまな取り組みをしているという記事です。ボランティア団体はおよそ二万団体、数十億円規模ではないかということです。例として、ウクライナの前線に送る迷彩ネットをつくる人たち、兵士に送る伝統料理をつくる人たち、戦闘服や靴下をつくる人たち、ドローンを前線に送る人たちなどのボランティア団体があるということです。無料の軍事訓練コースを開いている人たちさえあるということです。そして、「政府が(ウクライナ侵攻で生じた)政策の『穴』をふさぐには時間が必要だ。政府を助け、問題を早急に解決するために生まれたのがボランティアだ」と関係者が話しているということです。

 私は、ウクライナ戦争におけるウクライナの勝利は遠のくばかりで、ウクライナとウクライナを支援するアメリカを中心とするNATO諸国が、いよいよ追い詰められてきたからではないかと想像します。
  先日、フランスのマクロン大統領が、「我が国の兵士をウクライナに送る可能性を排除しない」と発言したことが報じられましたが、それは、深刻な兵士不足に直面するウクライナの勝利が事実上ありえないことを示していると思います。
 だから、「停戦」を考慮せざるをえない状況になりつつなるのに、ゼレンスキー政権支持やアメリカのバイデン政権戦争支援戦略一辺倒の報道では、「停戦」に対応できないということではないかと思うのです。また、「自分が大統領になったら24時間でこの戦争を終わらせる」と公言しているトランプ氏が大統領になる可能性が、現実のものになりつつあるからではないかと思います。
 もし、「停戦」後に、ウクライナの実態が知られることになれば、報道の偏りに対する批判を受け、信用を失うことになる心配があるから、「もしトラ」に備えるための報道を始めたということだろうと想像しています。

 そしてそれは、日本のメディアが、アメリカのバイデン政権の影響下にあることを示しているのであって、ウクライナ戦争が、民主主義と専制主義の戦いなどではないこと、また、イスラエル・パレスチナ戦争が、テロとの戦いなどではなく、アメリカを中心とする西側諸国の覇権と利益のための戦いであることを物語っていると思います。

 そんなことを考えるのは、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」に存在するはずの米軍の日本における振る舞いが、あまりに非民主的で理不尽であること、また、現実的には、アメリカの利益と覇権の維持のために存在するような活動が展開されていると考えられるからです。
 下記は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)から、「公益事業などの利用優先権」に関する部分を抜萃しましたが、日本に駐留する米兵のみならず、その家族も、生活のあらゆる面で、日本の国内法を守る義務を免除されたり、優遇されたりしているのです。
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             4 米軍の優先使用、協力を義務化
                 ──第六~八条 十条、二十一~二十三条


  二 公益事業などの利用優先権
 地位協定第七条は、米軍による公益事業の利用について定めている。米軍は、「日本国政府の各省その他の機関に当該時に適用されている条件」よりも不利でない条件で、「日本国政府が有し、管理し、又は規制するすべての公益事業および公共の役務」を利用することができ、ならびにその利用における優先権を享有する(第7条)。
「公共の事業及び公益の役務」とは、日本政府が法令上、「有し、管理し、又は規制する公共サービスをさし、国が自ら所有し、おこなっている事業、例えば郵便ばかりでなく、公社が行っている業務、電気、電気通信、水道、電気、ガス、交通事業、放送、道路など国が法令によって規制している私的企業をもふくむいっさいの公共的な事業と役務がふくまれる。
「日本国政府の各省その他の機関に当該時に適用されている条件」より不利でない条件とは、政府によれば、日本政府の官庁(地方公共団体などの機関は除く)に一般的に適用されている条件よりも不利でないという意味であり。優先権の享有をとくに米軍に認めているものではないと説明されている。しかし、実際には、公共的事業と役務の具体的な利用の取り決めなどにおいて、米軍が国内の一般人や団体よりも優先権を得ている事例が多い。

  米軍は、旧国有鉄道とのあいだに「公務鉄道輸送支払い手続き設定のための日本国有鉄道とアメリカ合衆国との間の協定」を結び、通常料金よりも安く輸送できるようになっていたといわれている。 また、ジェット燃料などについては、米軍からの貸渡車によって輸送しており、急を要する場合は米軍の貨物が、「公益上の必要あるとき」(鉄道営業法第九条)という扱いで他の輸送に優先されている。国鉄がJRに替わっても優先的取り扱いを認める協定は、JRにひきつがれ、基本的には変わっていないと思われる。1967年8月、新宿駅構内でタンク車が炎上して問題になったジェット燃料輸送は、66年には年間18,852両(約54万トン)となっており、一日に換算すると90両以上のジェット燃料が当時の国鉄南武線や中央線を運行していた。その輸送料は、民間の危険物輸送料の二分の一程度だといわれていた(『法律時報』69年5月号臨時増刊「安保条約」参照)。


 電気通信施設については、日米合同委員会において、第一に施設・区域内の電気通信施設は、米軍が必要な措置を取れること、第二に、施設・区域外においても日本の電気通信施設の優先利用権を米軍が有し、その施設へ米軍が自由に入りする権利があること、また、「日本防衛」のため必要な場合は、米軍みずからが施設を建設、運用、維持できることなどが合意されている(前掲「法律時報」臨時増刊号参照)。
 電話料金については、71年5月の日米合同委員会の合意により、電電公社(当時)の一般施設については一般専用回線と同じ料金で、占領中に終戦処理費で米軍のためにつくった施設と、米軍のリロケーション(配置転換)のため安保諸費でつくった施設については回線費用は無償とし、日本側による施設の保守・修理に要する実費相当額のみを支払うことになったとされている。
 電気ガスについては、電気、ガス会社と米軍との契約にもとづいて供給され、料金が支払われているが、供給についての具体的な優遇の内容はまだその実態が分かっていない。
郵便については、米軍関係の郵便は一般郵便とは同一の扱いをされていない。米軍独自の郵便局の設置、運営も認められている。国外向けの米軍郵便物については、米軍がみずから取り扱いをおこなっている。また、日本の郵便局経由の日本国内間での米軍関係郵便についても、一般郵便物とは別の取り扱いがされている。
放送業務についても、日米合同委員会において郵政省、各放送会社と米軍とのあいだの直接交渉の決定にもとづいて米軍が広報業務をおこなうこと、周波数の配分や妨害除去についてなども合意されている。また、電話監視についても日米が協同して処置をとることが合意されているとのことである。
 
 上水道は、戦後日本に上陸した占領軍が旧日本軍の専用水道のある基地ではそれを使用し、新たに基地が建設されたところでは水道施設が作られ、地方公共団体から給水された。占領軍は1946年1月、日本政府に「対日指令書」を発し、占領軍への「優先的給水義務」を課した。そのうえ、上水道建設費と上水道料金は、日本国民の租税(終戦処理費という名の占領費)から支払われた。
 旧安保条約・行政協定発効の52年4月以後、米軍と地方公共団体との間で、ユーティリティ・サービス・コントラクトという名の給水契約が、行政協定第七条を「根拠」に結ばれるようになった。
 料金の支払いは別として、米軍の各種特権を容認する従属的な給水契約であるが、その基本的な内容は以下の通りである。
 第一は、契約書の正文を英文テキストとしていることである。
 第二は、緊急給水の義務付けと断水の場合の基本料金の減額規定の明記である。
 第三は、給水契約を事実上、地方公共団体の給水条例に優先させていることである。
 第四は、両当事者間に紛争が生じた場合、米軍の契約官が事実上の決定権を持ち、地方公共団体の権利が無視されていることである。
 第五は、料金についてである。契約書では地位協定第七条を引き合いに出して、日本の官庁に適用されている最低料金を云々しているが、日本にはこのような事例はないから、米軍に特別料金を適用していない。これは当然のことである。(岩国市では73年4月、米軍への特恵料金廃止に踏み切った。しかし、神奈川県横須賀市のように用途別料金体系を取っていないところでは、それを採用している自治体と比べて米軍給水が安価になっていることに注意しなければならない。(以上、詳しくは佐藤昌一郎『反核の時代』10章参照 青木書店84年)。」
 これらは日本の水道法・水道条例に反する従属的なものであり、廃棄するのが当然であった。 しかし、米軍の強制、自治体の屈服、日本政府の黙認のなかで継続してきた。
 この従属的な給水契約を拒否する動きが70年代にあらわれる。地方自治の観点からも注目すべきことなので、やや具体的に論じておきたい。
 その第一は、71年東京都内の米軍住宅(グラント・ハイツとグリーン・パーク)を横田基地に移す計画に起因する問題である。横田基地では地下水を汲み上げ、米軍が専用水道としていたが、住宅=人口増と永年にわたる汲み上げで必要地下水の確保が困難となり、防衛施設庁は当初立川市に給水を要請した(71年5月)。しかしその後、音沙汰なしなので、立川市が調査したところ、基地内に口径350ミリ、深さ350メートルの深井戸が掘られ、揚水試験をするばかりになっていることが判明した。阿部行蔵市長は地下水汲み上げの中止を施設長に要求し(71年11月)、東京都も同じく要求し、断念させた。これが第一の成果である。施設長と米軍は阿部革新市長へ給水申し込みをやめ、武蔵村山市にくらがえして東京防衛施設局長名で同市長に給水依頼を行った(71年12月末)。
 市長はその契約を専決事項として処理しようとしたが、市議会での革新議員の追及を先頭とする不平等契約反対の合意、市民運動の展開などの諸要求の結合で、前述した従属的内容を一掃する給水契約をかちとった(詳しくは佐藤昌一郎「水道事業と地位協定〔下〕」法政大学『経営志林11巻2号、75年1月参照)。この時の米軍契約担当官はその合意のゆえに更迭されたといわれるが、米軍は武蔵村山市からの給水施設を日本側の負担で作らせながら、同市からの給水を受けず、当時基地との共存を掲げていた福生市に給水依頼をするのである(東京防衛施設局が74年9月福生市に要請)。
 第二は、沖縄の場合である。・・・以下略


 下水道は、これまで上水道ほど論議されてはいないが、福生市、武蔵村山市は基地内の住宅(現在約1400戸)に79年(福生市)、87年(武蔵村山市)、米軍の覚書で汚水排出量が増えるにつれて料金が上がる累進制をとっている大口需要者から基地をはずしているために、前者が94年度約4800万円、後者が最大で同額の減少になっている。福生市は16年間で約6億円の「値引き」である。佐世保市や宜野湾市はこのような措置をとっていない。(朝日新聞95年10月20日付夕刊)。
 自治体の主体性が問われているのである。
 また、基地内のゴミ処理問題、米軍の自治体との「消防援助協定」も多くの問題をはらんでおり、批判しなければならない。













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善悪を逆さに見せるアメリカをとらえる

2024年03月16日 | 国際・政治
 2020年10月、当時の菅義偉首相は、日本学術会議の新会員候補六人の任命を拒否しました。その具体的理由を語らず、「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」とくり返しました。でも、総合的、俯瞰的観点で判断すれば、その任命拒否は誤りである、と私は思いました。
 そして、現在、日本の政府や自民党、主要メディアに一番欠けているのが、総合的、俯瞰的な視点で、世界情勢をとらえることだと思います。


 先日、朝日新聞に「ロシアの戦争観」と題する記事が掲載されました。ウクライナ戦争に関して、現代史家の大木毅氏とエストニア高裁防衛保障センター研究員の保坂三四郎氏に、話を聞いた記事でした(聞き手・中島鉄郎)。
 私は、その内容のみならず、見出しが、すでに総合的、俯瞰的視点を欠いていると思いました。「服従せぬ相手消し去る世界観」と「権力中枢に諜報機関 軍も監視」という見出しです。
 また、囲みで
目前に迫ったロシア大統領選での勝利も確実視され、「プーチンの戦争」は止まる気配がない。一般市民の虐殺や民間施設への空爆、兵士の生命を顧みないような前線投入など、冷酷さと異様さが際立つロシアの戦争スタイル。歴史観や権力構造から考えた
 とありました。
 ウクライナ戦争の経緯や、アメリカをはじめとしたNATO諸国の、ヤヌコビッチ政権転覆をはじめとしたウクライナの内政に対する関与は、無かったものとして論じられているからです。
 文中には、”プーチン政権は、この2年、第二次世界大戦で攻め込んだきたナチスドイツを撃退して勝利した「独ソ戦」(1941~45)に、よく言及しています”という聞き手の問いに、大木毅氏は、”今回の戦争はどう見てもウクライナ戦争への侵略戦争ですから、それを祖国防衛戦争に等値するという議論は荒唐無稽です”と答えています。また、今回も「世界観戦争」の要素はありますか。という問いには、”独ソ戦とは全く違います。ただ、ロシア軍によるブチャでの虐殺で組織的な準備が推測された時点で、その可能性を感じました。軍隊の突発的な残虐行為ではなく、ウクライナ『国民』を消滅させ、ロシア化に服さぬ『まつろわぬ民』は消し去るという、プーチン大統領の世界観が原点にあるのではないか、世界をどう認識し、どう在るべきかと考えているかと言えば、その重心は『ロシア化』『ロシア人』でしょう。”などと答えているのです。
 私は、客観的事実に立脚しない「妄想」のように思いました。
 選挙で選ばれたプーチン大統領を、あたかも、世襲の独裁的天皇や皇帝として見るかのような、「まつろわぬ民」などという古い言葉を使っているところにも、それがあらわれているように思いました。それは、ロシアの国民や軍に支えられた「特別軍事作戦」の考え方や実態を、隠そうとする意図があるからだろうと思いました。


 以前、取り上げましたが、報道(https://parstoday.ir/ja/news/iran) によると、イラン政府報道官・バハードリー・ジャフロミー氏が、「アメリカ は善悪を逆さに見せることにおいて先端を走っている」と語り、「アメリカが見せるやり口のうち、最も得意とする強力なもののひとつに、虚言がある。この国は、嘘を真実に、真実を嘘に見せかけるのである」というようなことを言っています。そして、「言動・行動の両方において善悪を逆さに見せることはアメリカのお家芸である」とし、「アメリカは、様々な時代において真実を実際とは間逆に見せて、直接・間接的に戦争の中心的存在となってきた」と述べたということです
 ふり返れば、捏造文書に基づく大量破壊兵器を根拠としたイラクに対する猛烈な爆撃をはじめとして、思い当たることがいろいろあるのです。
 また、「ブチャの虐殺」には、さまざまな疑惑が語られているにもかかわかず、そうした情報には見向きもせず、客観的事実として取り上げ、プーチン大統領の世界観と結びつけています。でも、「ブチャの虐殺」は、プーチン大統領を「悪魔のような独裁者」に仕立て上げ、ロシアを孤立化させ、弱体化させるために、アメリカとウクライナによって仕組まれた可能性がきわめて大きいのです。その根拠を、kla.tv(https://www.kla.tv)などが、いろいろ指摘していることを見逃してはならないと思います。

 さらに、現在、パレスチナのガザで、爆撃や攻撃を続けるイスラエルを支援するアメリカは再び、善悪を逆様に見せる取り組みを展開していると私は思います。
 安保理のガザ停戦決議に拒否権を発動しておきながら、アメリカは、援助物資を空中投下したり、海路を通じて搬入をしたりして、あたかも人道国家のような姿勢を見せています。でも、ICJの判断を尊重し、残虐犯罪の拡大を防ぎ、犯罪的な爆撃や攻撃を終わらせることが何より大事であり、また、国際組織による人道援助の安全な輸送を妨げるイスラエルの搬入制限を解除することが求められているのだと思います。
 ガザ地区の支援を担っているUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関に対する資金援助の停止を続けながら、援助物資を空中投下したり、海路を通じて搬入をしたりしていることも、善悪を逆様に見せるためなのではないかと思います。
 本気で人道危機を回避しようとしているとは思えないのです。


 アメリカが「善悪を逆様に見せる国」であることは、日本人なら、日米安保条約日米地位協定の内容、そして、米軍の実態を検証すればわかると思います。アメリカは日本の主権を侵害し、基地周辺の住民の人権を無視し続けているのです。
 相次ぐ事故の深刻な疑念が残されているにもかかわらず、オスプレイの飛行再開が強行されるようです。

 だから、そうしたことも含めて、総合的、俯瞰的に世界情勢をとらえることが大事だと思うのです。
 下記は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)から、日本の航空管制が、米軍優先であることに関する部分を抜萃しました。

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             4 米軍の優先使用、協力を義務化
                 ──第六~八条 十条、二十一~二十三条


           一 安保の目的達成に従属する航空管制業務
 空の大量交通手段となっている飛行機の安全な運行は、ひとたび事故が発生すれば、一度に何百人の命が失われかねないだけに、きわめて重要な問題となっている。航空交通を管理する管制機関は、その安全を確保するうえで決定的な位置をしめている。
 最近、沖縄・普天間基地の米ヘリコプター部隊の嘉手納基地移転が問題になったが、米軍は、ヘリコプターと戦闘機という二つの異なった種類の航空管制を同時におこなうは複雑でむずしいとのべ、難色を示したことがあった。航空機の安全な運行にとって、航空管制がいかに重要な位置をしめているかを示す事実である。
 航空管制は、国内の民間機に対してのみおこなわれるのではない。自衛隊機の場合も、米軍機の場合も、この航空管制のもとに統一的に管理されなければならない。そうでなければ空の交通は大混乱におちいらざるをえない。
 軍用と民間の航空交通管理をおこなう場合、民間機優先れなければならないことはいうまでもない。現に戦闘行為がおきているような場合ならともかく、通常はどの国でも民間優先であり、もちろん管制権は自国が掌握している。領土主権とともに空の主権は、一国の安全にとって欠くことができないからである。
 しかし、日本では、この管制権の重要な一部が米軍に握られている。日本の航空機が、自国の飛行場への離着陸のさい、外国の管制に従わなければならない、ということほど異常なことはない。日本の航空交通管制は、普通の主権国家にはない、世界でもまれな従属的な状態におかれているのである。それを取り決めているのが地位協定の第六条である。
 地位協定第六条一項は、航空交通管制および通信体系を、安保条約の目的達成に「整合」させることを、次のように確認している。
 「すべての非軍用および軍用の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、かつ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るための必要な手続き及びそれに対するその後の変更は、両政府の当局間の取極めによって定める」


  1  航空管制の最優先権を米軍に与える
 飛行機の航空管制は、離陸する飛行機を管制する飛行場管制をへて、空港と空港を結ぶターミナル区域での進入管制を通って空路に出て空路管制を受け、目的空港の進入管制をへて。着陸地の飛行場管制にしたうことになっている。我が国における航空交通管制は、地位協定の規定にもとづいて、本土では、1959年まで、沖縄では復帰二年後まで、米軍が一元的に実施してきた。現在でも、米軍基地がある東京、沖縄などの飛行場とその周辺における飛行場管制と進入管制は、米軍が支配している。
  新安保条約・地位協定が締結される以前の59年までの航空管制は、日米合同委員会の合意によれば、「日本側による実施が可能となるまでの間、米軍が軍の施設で行う管制業務を利用して民間航空機の安全を確保する」とされ、復帰後二年間の沖縄については、「二年間は暫定的に米国政府が。ICAO (国際民間航空機関)基準に準拠した方式により、航空交通管制業務を実施する」となっていた。日米地位協定の締結によって、こうした米軍の全土に及ぶ一元的管理がなくなったが。米軍基地及びその周辺の飛行場管制と進入管制がひきつづき米軍によっておこわれているのも、同趣旨の合意があるからである。
 しかも、防空任務に従事する米軍軍用機にたいしては、航空管制上、最優先券をあえる旨も日米政府間で合意されている。(61年3月、日米合同委員会合意要旨第二項)。また、防空上、緊急の必要があるときは、日米の防空担当機関が「安保管制」をおなこう旨の合意がされている(同四項)。「安保管制」とは、軍事的必要時には民間機の航行を制限する管制といわれている。防空担当機関とは、アメリカ側は第五空軍、日本側は防衛庁長官をさすとされている(外務省秘密文書「日米地位協定の考え方」外務省条約局・アメリカ局編)。
 さらに米軍の要求にもとづき、民間・軍を問わず、すべての航空機の航行に米軍機の軍事行動を優先させる区域制限を、アメリカの管制本部におこなわせる、という合意が存在している(59年6月4日、第三付属書第三部J)。これによって米軍は、いわゆる「アルトラブ」という、特定の飛行区域を米軍機以外の他の航空機が飛行しないよう隔離する管制上の措置、空域の「一時的留保」の措置をとることができる。そのうえ、日米両国政府の合意によって、米軍が日本の国土の側図飛行を自由におこなうことができるものとされ、また、第三国の航空機の日本領空への飛来を許可するときは、日本政府は当該航空機の経路、空港、時期を含めて在日米軍と相互に意見の一致をはかることなども取り決められている。日本の主権を自ら制限するような内容の合意を行っているのである。
 72年5月の沖縄復帰にともない、日米合同委員会は「航空交通管制に関する合意」をおこなったが、従来の米軍管制空域を追認する内容でしかなかった。
 航空管制業務を米軍に求める根拠は国内法令ではない。地位協定第六条の規定による両国政府の合意によってのみ航空管制はおこなわれているのである。
 以下、具体的事実の紹介によって、航空管制および民間航空の安全に、どのような問題が生じているかみてみたい。


  2 関東空域を複雑にする米軍横田空域の存在
 横田エリアは、横田米空軍基地の進入管制空域で、横田基地を基点とする東京、神奈川、静岡、山梨、長野、新潟などの各県をまたがった高度2万3000フィートに達する米軍管制空域である。同エリアを航行する民間機は、北陸、中国、九州方面行のもので、羽田空港から出発する241機のうち106機(44%)にのぼる。これらの機は、米軍横田管制の許可がなければ「横田エリア」を飛行することはできない。許可されないときは、羽田上空での空中待機や地上待機を余儀なくされる。
・・・
 関東地域の区域がこのように複雑で危険なものになっている最大の原因は、横田空域のためである。横田空域は、戦後50年を経過した今日でも、安保条約・地位協定によって米軍に管理されたままとなっている。羽田空港や成田空域は相も変わらず、横田空域の高くて厚い「西の壁」にはばまれ、ぎゅうぎゅう詰めの状態で放置されているというのに、西側は米軍区域として優先的に米軍用に保護され、米軍は広い空気をゆったりと使っている。しかも、この空域を通過する全交通量のうち民間機は7割を締めるのに、区域内にある横田基地などへの離着陸機はたった3割にすぎない。
・・・
 こうした状態のため、関東上空の幹線航空路は、北海道方面と中国・北九州方面については、ニqミスや空中衝突の危険性を軽減するため、航空機の対面交通を避け、一方交通方式を採用している。しかし、四国・南九州方面、沖縄方面に向かう航空機は一方交通方式が取れず。やむなく高度差による対面交通方式を採用している。横田空域が返還され、羽田空域が広がれば、四国・南九州・沖縄方面に向かう航空路も、一方交通方式とすることが可能となる。 航空交通の安全性の確保に多大な寄与となる。
・・・
  3 米軍が管制業務を掌握している岩国と嘉手納
 同様に、米軍が進入管制業務を行っている岩国、嘉手納についても深刻な問題が生じている。岩国では、米軍海兵航空隊の管制空域が四国南部から山陰の日本海沿岸まで広がっており、この広大な岩国空域に広島、高松、松山の各空域が圧迫されている。松山空港から五マイルまでは運省省が管制するが、その外側は米海兵隊が管制している。広島空港も離着陸許可を米軍から得ている状態である。
 嘉手納では、嘉手納進入管制(カデナ・ラプコン=Radio aprorch contorpll)空域との関係で多くの問題を抱えている。カデナ・ラプコンとは、嘉手納基地を中心に半径50マイル高度2万フィートの米軍管制区空域である。那覇空港への進入管制は米軍に独占されている為、航空法で空港の飛行管制のおよぶ範囲は、半径9kmの円内の高度900m以下と決められているにもかかわらず、平面で半径1km、高度で300mも狭められている。
 那覇空港の北向き着陸コースは、嘉手納、普天間の両米軍基地への侵入コースと斜めに交差するため、進入・出発とも約27kmという長いああいだ、ジャンボ機も含め、わずか高度300mという、文字どうり海面すれすれをはうような低空飛行を強いられている。これについて飛行パイロットは、ジェット機の飛び方の原理に反する低空飛行であると指摘している。
・・・
 沖縄周辺には、そのほかにも、「W(ウォーニHグ)エリア」と呼ばれる米軍専用制限空域が16カ所設定されている。総面積は9万2000㎢で、沖縄本島の76倍にもなる広大さである。これは本土復帰前に、設定されたものがそのまま残ったものである。この空域では、空対空、空対地などの実弾射撃訓練や各種戦闘訓練が実施され、一般民間機は、この空域を避けて航行することを余儀なくされている。総工費10億円をかけて1500mの滑走路を整備した伊江島空港は75年に完成したが、完成直後から制限空域「W1ー178」があるため、事実上廃校に追い込まれている。
 また、沖縄では、Wエリアと別に、米軍の要請で空域を「一時保留」する。「アルトラブ」が設定されている。このアラトラブは、航空路地図にも出てこない。米軍の一方的な要請で任意に設定される空域は年間1000件にものぼっている。
 全運輸沖縄航空支部の座間味優委員長は、「Wエリアやアルトラブで空域せばめられているため、民間機を針の目をかいくぐるかのように飛行させている。一日も早くWエリアやアルトラブをなくし、軍事優先をあらためさせなければ、空の安全を守れない」と訴えている。


  4 外国軍隊が民間機を管制している例はあるか
 このように、外国軍隊によって、自国の空が支配されている状態について、運輸省OBや著名な航空評論家は、われわれの質問にたいして、「発展途上国についてはすべて情報があるというわけではないが、他国の軍隊が民間航空機の航空管制をしている話は、欧米では聞いたことがない。その国の軍隊が民間航空機の航空管制をしているところはたとえば韓国などがある。ヨーロッパでも、2万5千フィート以上の上空についてはユーロコントロールとよばれており、一部に軍も入った組織が航空管制をしている可能性はある。しかし、外国軍隊が航空管制しているとは聞いたことはない」と述べている。
 ・・・
 地位協定からも逸脱して展開されている日本各地での米軍機による超低空飛行訓練に見られるように、空の安全のために制定されたはずの航空法は、安保条約と日米地位協定に基づく航空法特例法によって、この肝心の部分が米軍に適用されていない。しかも、日米合同委員会の合意に基づいて、日本の空の管制が米軍に一部委ねられていることによって、日本の航空の安全が脅かされている。
 まず、地位協定の規定をも逸脱している米軍機による超低空飛行訓練は、ただちにその中止を求めるべきである。さらに、少なくとも航空法特例法によって、日本の航空法を米軍に幅広く適用除外している規定を廃止し、米軍による進入管制の廃止、沖縄周辺の空については占領時代をそのまま継続するような取り扱いの是正、この三点の是正が最小限必要である。



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トランプとメディアとディープステート、そして日米地位協定

2024年03月10日 | 国際・政治

 私は、朝日新聞から多くのことを学んできたのですが、ウクライナ戦争以降、毎日のように苛立ちを感じる記事を目にします。
 先日、朝日新聞の「考論」という欄に、神戸大学大学院の蓑原俊洋教授の「トランプ氏取りこぼし影響注視」と題する記事が掲載されました(聞き手・根本晃)。
 朝日新聞が、中立的な立場を放棄し、アメリカのバイデン政権の戦略に追随していることを、自ら表明しているような記事だと思いました。下記は、その一部です。
トランプ氏はほぼ全ての州で圧勝したものの、多くの州で当初の得票予想を数%ずつ下回った。こうした「取りこぼし」が、接戦が予想される本選にどのような影響を及ぼすのか注視する必要がある。  
 ・・・ 
 もしトランプ氏が勝利すれば、1期目同様にアジア情勢を軽視する可能性は否定できず、そうなれば日本は米国頼りの姿勢からの転換を余儀なくされる。欧州や韓国、オーストラリアなどとの経済安全保障面での連携を多面的・重層的に深める必要がある。(戦闘が続く)ウクライナやパレスチナの人々は見捨てられるだろう。トランプ氏の行動基準は、自分にとって利益があるか否かだ。バイデン氏はウクライナ侵攻を『自由主義を専制主義から守るための戦い』と位置づけて支援を訴えているが、トランプ氏がそのような崇高な理念を踏襲する可能性はない。” 
 バイデン政権の継続を期待し、トランプ氏を貶める内容だと思いました。確かにトランプ氏は、人類が多くの犠牲を払って進歩させてきた法や道義・道徳を軽視する傾向があり、危うさを感じます。でも、ウクライナ戦争を止めようとせず、また、イスラエルの一方的なパレスチナに対する攻撃、学校や病院、避難所に対する爆撃による多くの子どもや女性の殺害、餓死者を出すような支援物資の制限というイスラエルの戦争犯罪を止めようとせず、国連安保理のガザ停戦決議案拒否権を発動し、イスラエル支援を続けるバイデン大統領が、民主主義の崇高な理念で動いているなどというのは、読者を欺瞞する内容だと思います。

 また、別のところには、”移民締め出し「最大の作戦」■ロシアの侵略 既成事実化”と題する記事が掲載されていました(ワシントン=望月洋嗣)。こちらも、バイデン政権の戦略、さらに言えば、トランプ氏を貶めるために持ち出した「ディープステート(影の政府)」の戦略に追随していることを表明しているような記事だと思います。
 「ディープステート(影の政府)」は、確かに、実態のはっきりしない曖昧なものだと思います。でも、最近のアメリカの軍事費は、8,000億ドルを超えるといいます。そして、それが世界の軍事に関する総支出に占める比率はおよそ38%前後だともいうのです。だから、ロッキード・マーティンやボーイング、 レイセオンなどに代表されるアメリカの軍事産業が、自らの利益のために、バイデン政権国防総省陸海空の米軍組織CIAなどの情報機関大手メディアなどといろいろなつながりをもって、アメリカの政策に関与しているであろうことは、当然、予想できることだと思います。それを「ディープステート」と呼んでいいかどうかは、私にはわかりませんが、間違いなく、そうしたものの力は働いているであろうと思います。アメリカが戦争をくり返してきたこと、また、さまざまな国の内政に関与し武力行使をしたり、紛争を話し合いで解決するのではなく、武力的な戦いの一方側の側を支援してきたことが、そうしたことを物語っていると思います。
 日本でも、大手企業が自民党への多額の献金を続けています。それが、企業の社会的責任に基づくもので、日本の政策決定とは関係がないと断言できるでしょうか。私は、あり得ないと思います。

 現に、2017年、トランプ氏が大統領に就任する数週間前に行われたインタビューにおいて、上院民主党の院内総務であったチャック・シューマー氏は、CIA批判を繰り返してきたトランプ氏を「本当に間抜けだ」と罵り「言っておくが、情報機関を敵に回すと徹底的な復讐にあうぞ」と述べたと伝えられました。
 そして、アメリカ自由人権協会(ACLU)を含む、さまざまなメディアのコメンテーターが、この発言を「ディープステート(影の政府)」の存在を示す証拠として指摘したともいいます。
 それを、トランプ氏が、”「陰謀論」を背景に「ディープステート(影の政府)の解体」といった主張を重ねてきた”などと、断言できるのでしょうか。私は、「ディープステート」を「陰謀論」扱いし切って捨てるその姿勢が、かえって、「ディープステート」の存在を隠しつつ、「ディープステート」に追随するメディアの姿ではないかと想像します。
 なぜなら、CNN MSNBC ニューヨークタイムズ ワシントンポストなどのアメリカの大手メディアが、トランプ氏が指摘していたように、中立的な立場を放棄して、バイデン政権を支えるような報道を続けているよういに思えるからです。そして、日本の大手メディアも、ほとんど同じような報道を続けているように思います。
 ウクライナ戦争に関して、ロシア側の主張は、ほとんど報道されませんでした。
 先日、さまざまな困難を乗り越えてロシアを訪れ、プーチン大統領に長時間のインタビューした元FOXのタッカーカールソン氏について、日本のメディアは、トランプよりのジャーナリストであるとして、その内容は、ほとんど伝えていません。
 ウクライナ戦争の停戦に極めて重要な意味を持つものだと思いますが、その内容は、ほとんど報道されていないと思います。受け入れ難いことです。

 下記は、朝日新聞の、その記事の全文です。
 ”トランプ氏は前回の大統領選の敗北を認めず。陰謀論を背景に「ディープステート(影の政府)の解体」といった主張を重ねてきた。もし再び大統領に選ばれれば「ディープステート」への攻撃に名を借りて、政敵への「報復」を図りかねない。
 政策面で「2期目」に最も力を入れようとしているのが、米国に入ってくる移民への対応だ。5日夜の集会所も「国境を閉鎖する」と宣言。強制送還を含む「史上最大の作戦」を実施する考えを示す。
 一方、米国の対外介入には否定的だ。短期的な視点から二国間の「取引(ディール)」で成果を得ようとする傾向があり、多国間外交の枠組みや同盟国は大きく揺さぶられる。「大統領になれば、ウクライナでの戦争を24時間で片付ける」と語り、ロシアとウクライナの停戦仲介に乗り出す意向を示しているが、実行すれば、ロシアの侵略を既成事実として認めることになる。
 中東では親イスラエルの姿勢をさらに強め、イランや、その支援を受けるイスラム組織にはより強硬な姿勢を取る。1期目にほのめかしていた北大西洋条約機構(NATO)からの脱退に踏み込めば、欧州の安全保障環境が根本的に変わる。
 米国の製造業や米国製品を保護する施策として、外国製品に一律10%の関税をかける考えも示す。日本など友好的な貿易相手国にも経済的打撃を与え、国際的な供給網に大きな混乱をもたらすことになる。
 中国に対しては対決姿勢を強めそうだ。中国製品への関税の税率を上げるほか、世界貿易機関(WTO)ルールの基本である最恵国待遇の打ち切りを示唆している。一方、習近平国家主席との直接交渉で、目先の利益を優先しした妥協を進めかねない危うさもある。台湾有事への対応は明言していない。対日関係は重視しつつも、在日米軍の駐留経費をさらに多く負担することなどを可能性も高い。

 バイデン大統領が、ほんとうに崇高な理念に基づいて『自由主義を専制主義から守るための戦い』をしていると言うのであれば、なぜ、明らかに日本の主権を侵害し、人権を蔑ろするような「日米安保条約」や「日米地位協定」が、いまだに改定されず放置されているのか、私は、神戸大学大学院の蓑原俊洋教授に教えてほしいと思うのです。
 下記は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)からの抜萃です。
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           3 出入国とと移動、民間施設使用を保障する条項──第五、九条

     一 日本の空港、港湾への出入りとその使用(第五条一項、三項)
 地位協定第五条一項、三項は、日本の空港、港湾への米軍の船舶と航空機の出入りについて、次のような規定をおいている。
 「合衆国および合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によって合衆国のために、又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入することができる」(一項)
 「港に入る場合には、通常の状態においては、日本国の当局に適当な通告をしなければならない。その船舶は、強制水先を免除される」(三項)
 文言からも明らかなように、第一項は、米軍の船舶と航空機が日本の空港、港湾に出入りする場合、空港使用料や入港料を免除することをとりきめたものである。在日米軍に対する支援経費の総額は、1996年度に約6400億円に達しているが、それ以外にも、このような免除措置により、事実上の財政支援がおこなわれているのである。米軍による空港の使用は年間で1000回近くあり(資料10)、艦船の寄港使用も少なくない(資料11)。免除総額についての政府資料は存在しないが、ボーイング747程度の航空機が成田空港を一回(一日)使用しただけで約95万円になることからみて、莫大な額であることは疑いない。
 第三項は、米軍が港湾を利用する場合の通告義務と、その際の水先の免除を定めたものである。国籍不明の戦闘機や艦船が突如として空港、港湾にあらわれれば、航空管制や水先案内が大混乱におちいるわけであり、当然の規定といえる。航空機の場合の通告が書かれていないのは、航空管制が免除されることは安全上ありえないからであり、通告が不要だというものではない。

  1 米軍の出入りと日本政府の許可 
 ・・・
 実際に、航空機や艦船を日本の空港、港湾に出入りさせるにあたって、米軍が日本側に許可を求めてくることはない。空港、港湾の管理者にたいして、ただ通告がおこわれるだけである。その通告にしても、「民間機は二ヶ月ほど前に運行計画が提出されるが、米軍機はその日の朝に連絡がある」(九州のある空港長)という程度のものにすぎない。
 しかし、憲法上の疑義がある民有地の基地としての提供(いまの沖縄問題の焦点)でさえ、提供にあたっては法的な手続きを必要としている。基地として提供されていない日本の施設の使用権を、国内法でなんの根拠づけがされていないにもかかわらず、アメリカが全面的にもっており、日本側に拒否する権限がないとするのは、憲法と国内法を真っ向からじゅうりんする見解である。
 実際、第五条一項のどこにも、米軍の権利という用語が出てくるわけではない。これはNATO軍地位協定の補足協定(93年改定のドイツ補足協定)の対応する条項(第57条第一項a)が「NATO軍は)車両、船舶及び航空機で連邦共和国に入国し、又はその連邦領域内の内部もしくは上空を移動する権利を有する」として、明文で権利を認めていることも異なる。しかも、ドイツ捕捉協定が権利としているのは、ドイツへの入国と移動に限ってのことであり、国内施設の利用までをも権利であると規定しているわけではない。
 さらにいえば、たとえ日本の施設への出入りは米軍の権利だとする立場にたったとしても、それがただちに日本側の許可は不要だ、ということにつながるわけでもない。NATO軍の出入りを権利であると明記したドイツ補足協定でさえ「連邦政府による承認」がその条件であることを明確にしている。米軍の権利を認めることと日本側の承認を必要とすることは、矛盾しないのである。
 米軍の出入国に日本側が個別に承認を与えるべきだとする立場に立つなら、その主体は、いうまでもなく日本政府である。同時に、入国に際して、米軍に提供されている施設でなく、我が国の空港、港湾を使うなら、その管理者にも、使用許可し、あるいは拒否する権限があるということになる。

 この点で重要なことは、空港の管理権は国に属している場合が少なくないが(自治体管理空港もある)、港湾にかんする管理権は、戦前は国家に属していたが、戦後、自治体のものになったことである。この管理権のなかには、危険物を運ぶ船舶の規制などもふくまれる(港則法第四章)。自治体には、演習のための武器、弾薬を満載した米軍艦船の寄港を、港湾の安全の確保などを根拠に拒否する権限があることは明白であろう。神戸市は、入港する艦船に非核証明書の提出を義務づけ、提出しない艦船の寄港を認めていない。これに高知県もつづこうとしている。政府がこれを違法措置であるといえないことは、現行の地位協定のもとでも、米軍にどのような権利があるといっても自治体の管理権を侵すことはできないことを、実際には意味しているといえる。
 
  2 空港、港湾の使用目的の制限 
 地位協定第五条による民間の空港、港湾を利用した出入りがありうるとはいえ、米軍が基本的に使用するのは、第二条にもとづき提供された専用基地であるのは当然である。したがって、民間施設の利用はおのずから限定されたものでなければならない 
 まず、どの空港、港湾を使えるのかという面での限定がある。米軍の構成員・軍属・家族の出入国にかんする1952年5月の日米合同委員会の合意は、「開港又は米軍の管理する空港」については米軍が使用できるとしている。開港とは、「外国船舶の出入りが許されている港のことで、関税法施行令で定められた120近い港のことをいう。米軍が管理する空港とは、地位協定第二条で提供されている基地のうち、空港施設をもつものである。要するに、港湾については日本のものを一般に使用できるが、空港については米軍基地を使用するのが基本ということである。合同委員会の合意は、「緊急の場合は、他のいずれの日本国の港又は空港にも入ることができる」とされており、開港でない港湾、日本の施設である空港を利用できる道を開いてはいる。しかしこれは、合意にあるように、「緊急の場合」しか使えないのである。
 ・・・
  地位協定第二条で恒常的に提供している基地(極東の平和目的で使用できる基地)であっても、戦闘作戦行動のために使用する場合や核兵器を持ち込む場合は、無条件には使用できない。安保条約第六条に関する交換公文により、日本政府との事前協議が必要とされる。ましてや、基地として提供されているわけではない日本の施設の使用が、目的のいかんを問わず許されるということは絶対にありえない。「緊急の場合」にしか使えないというのが、当然の法理である。この観点でみれば、海兵隊の実弾演習を移転するための空港、港湾の使用は、「緊急の場合」でないという点でも、また極東の範囲を超えて展開する部隊によるものであるという点でも、許されないことは明白であろう。
 ところが、実際の使用実態が。このような制約を踏み越えるものとなっていることは、極めて重大である。…
ーーー
        二 提供施設、民間施設間の移動(第五条二項)
 地位協定第五条二項は、軍の装備と軍人、家族について、「合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入りし、これらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる」ことも定めている。また、この項では、「移動には道路使用料その他の課徴金を課さない」と明記している。この結果、米軍の有料道路使用料の免除額は、年間で7億円を超えるにいたっている。

  1 移動の定義と交通秩序との衝突
 日本国に入国した米軍とその構成員が、提供した基地や入国の際に利用した空港、港湾にとじこもって一歩も外に出ないことは考えられず、これらの間を移動することはありうることである。したがって、その範囲で適用されるなら、いわば当然のとりきめとあるといえる。ところが実際には、道路などを使った訓練が、「移動」と称しておこなわれている。その代表が、沖縄で問題になってきた海兵隊の行軍訓練である。
 行軍訓練とは、ときとして完全に武装した海兵隊が一般県道、一般国道を行軍するものであり、周辺住民に非常な不安を与えている。海兵隊報道部の発表によれば、部隊の即応体制の維持などが目的とされている。 
 ・・・
 …60年の日米合意議事録は、地位協定の第五条にかかわって、「この条に特に定めのある場合を除くほか、日本国の法令が適用される」と明確に述べている。その根拠は、外務省が日米地位協定にかんする解釈を極秘裏にまとめた「日米地位協定の考え方」(73年)によれば、「米軍のわが国内の通行は、直接わが国の交通秩序に関わるものであり、かかる場合にはわが国の法令が遵守されるべきは当然」ということである。米軍だからといって信号を無視してよいなどとなれば大変なことにあるのであり、当たり前のことであろう。
 この規定にしたがって、陸と海の交通秩序にかんする国内法については、適用が除外されていない。…ところが、空の交通秩序を規定する航空法については、米軍のための特例法をつくり、適用を除外しているのである。…
…米軍が極東の平和にとって必要だといえば、地位協定で許されていようがいまいが、日本の上空であっても米軍機の訓練はできるというのである。
 しかし。米軍機の低空飛行が国内の交通秩序に密接にかかわるものであることには変わりはない。また、日本の空は最近もVFR(有視界飛行規則)で飛ぶ航空機同士の衝突が起きるなど、交通秩序の維持がますます重要になってきている。空だけを特例扱いしているのは、まさに米軍の戦略的な要請があるからに他ならないが(本書4「米軍の優先使用、協力を義務化」を参照のこと)、日本国民にとって死活的な空の交通の安全という面から見れば、この特例はただちになくさなければならないであろう。 


  2 車輛制限令の適用除外の問題点
 ・・・
 車両制限レートは、道路法(第47条)が、道路の構造保全と交通の危険防止のため、車両の幅や重量を制限するとしていることにもとづき、その最高限度を定めた政令である。法律で通常は通行が許されない米軍の大型の危険車両が、自由に道路を使用する結果、少なくない事故がおきている。たとえば、1985年3月、沖縄では一ヶ月で四件もの米軍特殊車両による事故が連続し、県議会が「米軍特殊車両の通行および事故防止に関する決議・意見書」を全会一致で採択したこともあった。
 実は、車両制限令は、以前は米軍に適用除外されていなかった。ベトナム侵略戦争の遂行のために、日米両国政府が強行したものである。
 ・・・
 もう一つは、 日本国内を通行する米軍車両に火薬取り締まり法が完全には適用されないことである。砲弾や火薬類など、どんな爆発物を運んでも、「米軍自体の安全規則の順守、そういうものにゆだねられており、(72年、衆議院決算委員会)、国内法では規制できないことである。
 火薬取り締まり法は、火薬類を運搬する場合には、都道府県公安委員会に届け出、運搬証明書の交付をうける義務などを課している。ところが、60年の日米合同委員会合意「米軍の火薬類運搬上の処置」は、その特例を定めている。
 火薬類を運搬する米軍車両は、「火薬」と記載した標識をつけることは義務づけられている。しかし、2000ポンド以上の米軍の火薬類の輸送について、日本の運搬業者が運搬する時には「日本の法令で要求されるすべての手続きを行わなければならない」としつつ、「これの手続きは、米軍所有の軍用車については必要としない」として、米軍自身が輸送する場合は、法律の適用除外している。県当局にたいする通知も「可能な限り」おこなえばよいだけである。都道府県公安委員会は、危険な火薬類をチェックすることもできない。 
ーーー
          三 軍構成員等の出入国管理と検疫問題(第九条)
1 出入国管理の広範な免除の問題点
 通常、外国人が日本に入国するには、自国政府が発行する有効な旅券を所持し、その旅券に日本の在外公館で査証(ビザ)をうけ、上陸にあたっては検疫をうけ、上陸審査を経ることが必要とされる。入国後も、外国人は、在留資格にもとづき一定の在留期間に限って活動できるものとされ、資格外の活動をしたり、期間を延長する場合は、法務大臣の許可をとらなければならない。また、上陸後60日以内には外国人登録法にもとづく登録申請をおこなわなければならず、住所などを変更したときは申請する義務があり、違反したときには処罰されることになっている。
 ところが地位協定第九条は、「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員および軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される」と規定する。つまり、軍構成員は、旅券・査証・登録・管理のすべての法令の適用が免除され、軍属・家族は登録・管理の法令が免除されるということである。 軍構成員とは、協定第一条で述べているように、「日本国の領域にある間におけるアメリカ合衆国の陸軍・海軍または空軍に属する人員で現に服役中のものである。同様に、軍属とは、「合衆国の国籍を有する文民で、日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するものであり、家族とは「配偶者および21歳未満の子」「父、母及び21歳以上の子で、その生計費の半額以上を合衆国軍隊の構成員または軍属に依存するものである。
 この結果、日本側はどういう名前の米国人が、どの基地にいるのかさえ、まったくつかめない状態になっている。 … 
 出国も入国も米軍の思うがままにおこなわれることで、国民生活とのかかわりでいつも問題になるのは、犯罪を犯した米兵が、日本側の知らぬ間に出国してしまうことである。

  2 地位協定で明記されていない検疫
 人および動植物の検疫は、出入国管理の一環をなす重要問題である。ところが、日米地位協定はこの問題を規律する条項がない。それならば、日本の国内法を順守し、どこから入国しようとも日本の検疫所の検疫を受けるべきであるが、政府は地位協定に書いていないから国内法の適用はしないとの態度をとっている 
 ・・・
 …しかし、人と動物の検疫に関しては、基本的な構造はまったく変わっておらず、米軍の検査官が認めれば日本側は何もいえないままである。

 

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日米地位協定と日本の主権

2024年03月02日 | 国際・政治

 ”2月初め、朝日新聞は、「時時刻刻」という欄に、”基地発PFAS汚染「例外」の日本”と題する長文の記事を掲載しました。”調査に応じない米側■対策費住民負担”という副題がついていました。
 そして、
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(総称PFAS)が日本国内の米軍基地周辺で検出され、住民生活への影響が懸念されている。米国で問題が広がり、米政府は国内向けに規制を強め、大規模な対策予算を投じる。だが、日本国内では対策に積極的と言えず、住民は不信感を強めている。
 というサマリーがついていました。
 また、記事の脇に、”化学物質PFASなにが問題? 体内に長く蓄積され、発がん性も指摘されている”と題する化学物質PFASに関する具体的な説明も付けられていました。
 かなりの長文で、実態や問題点をきちんと把握し、告発するような思い切った記事だと思いました。
 でもこの記事は、”どうすべきか” ということには踏み込んでいません。朝日新聞の中枢は、これ以上踏み込んだことは、日本政府の批判、そして、米軍の批判、さらにはアメリカ政府の批判につながるので書かせないのではないかと想像します。
 だからそれが、現在、朝日新聞を中心とする日本の現場記者の記事の限界になっているような気がします。実態や問題点は指摘しても、”どうすべきか” ということには踏み込めないということです。

 先日、朝日新聞社説は、ウクライナ侵攻2年ということで、”長期化見すえ持続的支援を” と題する記事を掲載しました。この記事は、前記の「時時刻刻」の記事とは対照的に、”どうすべきか” ということが、そのまま「見出し」になっているのです。
 それは、アメリカや日本の政府に抱き込まれた朝日新聞中枢の、政治的立場を示しているのだと思います。

 社説は、下記のような書き出しで始まっているかなりの長文です。
ロシアが国際規範をふみにじり、隣国ウクライナへの全面的な侵略を始めて、きょうで2年になる。 ロシアが一方的に始めた戦争を終わらせられるのは、ロシアだけだ。プーチン大統領に改めて求める。直ちに停戦し、ウクライナ領土から全軍を撤退させよ、と。
 私たちも、認識を新たにしたい。
 この戦争は今後も長く続く可能性があること。その結果、侵略者が得をする事態に至れば、模倣する勢力が後に続き、力と恐怖が支配する世界が現出しかねないこと。私たちの未来のためにも、息長くウクライナを支えていく責務があることを。
 この書き出しでわかるように、朝日新聞中枢は、完全にアメリカの戦略に基づいた考え方をしていると思います。「停戦協議」を求めるのではなく、「全軍撤退」を求め、撤退しない場合は、戦いを続けるべきだというアメリカの戦略です。
 ロシアを敵視しつつ、ウクライナに関わっていたアメリカやNATO諸国の動きを隠し、戦争の経緯を完全に無視して、100パーセントロシアが 悪いという主張であり、また、話し合いではなく、アメリカを中心とするNATO諸国の主張に従わなければ、戦争(殺し合い)を続ける必要がある、という恐ろしい考え方だと思います。これが民主主義を掲げるアメリカや日本の姿勢なのです。 


 私は、”侵略者が得をする事態に至れば、模倣する勢力が後に続き、力と恐怖が支配する世界が現出しかねない” などというのも、くり返し軍事力を行使し、覇権や利益を維持・拡大してきた西側諸国、特に、アメリカの政治家や軍の高官の利己的な妄想だと思います。そんな「妄想」に乗せられて、攻撃的な姿勢を見せるから、抵抗する国や集団が、次々に出てくるのだと思います。
 また逆に、日本のように、主権を放棄して、アメリカに追随する国も出てくるのだと思います。
 
 下記は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)から、”2 「排他的使用権」を容認する反国民的規定──第三条” の”2 「排他的使用権」国土と環境破壊”と”3 日本の法令による規制の排除”を抜萃しました。有機フッ素化合物であるPFAS(ピーファス)の問題は、同書では、まだ直接扱うに至っていなかったようですが、米軍駐留に基づく、深刻な「環境破壊」や「人権侵害」が、PFASの他にもいいろいろあることが分かります。

 アメリカでは、PFASの環境汚染対策に5年間で、90億ドル(1兆3000億円)の予算を投じる方針だといいます。日本でも、嘉手納基地厚木基地、横須賀基地、横田基地、三沢基地などで、PFASが検出されたリ、流出が分かっているのに、なぜ放置されるのか、なぜ、その費用を住民が負担することになるのか、きちんと受け止めて対応すべきだと思います。

 記事の片隅に、”他国で調査・浄化進む”と題した記事があり、”ドイツの米軍基地では米軍負担でPFAS汚染の調査を実施し、浄化作業も実施している”とあります。また、米軍の環境汚染を取材する英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェルさんは、日本の状況は「例外的」との認識だといいます。
 その理由は、日本の政治が、戦後まもなく、アメリカの公職追放解除のおかげで、第一線に復帰しすることのできた戦争指導層によって進められてきたからだと思います。常に、アメリカ追随で、当たり前のことも、アメリカ相手の場合は要求しないからだと思います。だから、現在の自民党政権は、自ら主権を放棄していると言えるのではないかと思います。
 相手がアメリカであっても、きちんと要求すべきは要求し、拒否されたり、理不尽な対応をされたりしたら、それなりの対応をすべきだと思います。
 また、いつまでも軍事同盟など維持しないで、主権を取り戻すために、日米地位協定や日米安保条約の解消・破棄も検討すべきだ、と私は思います。

 日本の米軍基地は、下記のような日米安保条約の条文に反し、くり返しアメリカの利益と覇権のための戦争に使われてきたと思います。ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争をふり返れば、分かると思います。日本国の安全に寄与し、極東における国際の平和及び安全の維持に寄与してはいないと思います。

   日米安保条約

第一条 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。”
 

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            2 「排他的使用権」を容認する反国民的規定──第三条

 2 「排他的使用権」国土と環境破壊
<基地の造成>
 アメリカは、田畑をつぶし、町を破壊し、山林を崩し、海を埋め立てるなどして基地を造成し、分厚いコンクリートを敷きつめて滑走路を設置したり、その他さまざまな施設を築造してきた。それ自体、重大な環境破壊をもたらすものである。
《実弾演習による国土と環境の破壊》
 演習場では、米軍は無数の実弾を打ち込み、山林を焼きつくし、数え切れない不発弾を放置してきた。たとえば、キャップ・ハンセン演習場では、1972年の本土復帰から95年12月1日までの間に、256日、163回の155mm榴弾砲などの実弾演習が実施され、着弾数は40,823発と膨大な数にのぼっている。このような実弾演習は、県道を封鎖して、住宅地から700mというすぐ近くで実施されておりものすごい発射音や炸裂音、そして激しい振動が周辺住民に多大な不安と恐怖、生活妨害など、さまざまな被害を与えている。現に、実弾演習による被弾・流弾事故は、金武町の記録だけでも、復帰後17件も発生しており、89年にも高速道路のサービスエリアの給与所やトイレの窓ガラスなどの被弾事故が起こっている。のみならず、着弾区域となっている恩納連山は山肌が一面削り取られてハゲ山となり、山林火災もたびたび発生している。演習場内の自然が破壊され、赤土流出による河川や海域汚染の原因となっている。そして、漁業にも多大な被害をあたえている。(金武町の報告 前掲『調査報告 沖縄の米軍基地被害』)。
 沖縄本島北部の山岳地帯は、世界的にも貴重な動植物が数多く生息する自然の宝庫といわれている。国際鳥類保護会議(ICBP)や世界野生動物基金(WWF)から「絶滅の危機」にある種に指定され、その保護が国際的にも求められている特別天然記念物のノグチゲラ、国指定の天然記念物のヤンバルクイナ、リュウキュウヤマガメなどが生息している。この山岳地帯である北部訓練場では、海兵隊がジャングル戦や掃討戦、陸海空にまたがる総合演習をくりかえし、自然破壊を続けている(安仁屋政昭ほか著『沖縄はなぜ基地を拒否するのか』新日本出版社、96年参照) 

 《有害物質の不安と被害》
 他方、基地からは、毒ガス、廃油、ジェット燃料、排気ガスや放射能などさまざまな有害物質が放出・流出されてきた。
 たとえば、沖縄では、屎尿などの汚染やオイル、廃油などの流出は、復帰以降1994年までに65回発生し、県民の飲料水を取水している河川や海域が汚染された。嘉手納町では、復帰前、基地内のジェット燃料が地中を伝わって民家の井戸に流入「燃える井戸」として大問題となったり、キャンプ端慶覧をかかえる北谷町では、海域に流出した廃油が養殖漁場を直撃し、大きな被害を出した。東京・横田基地の周辺、昭島市や立川市などでも、ジェット燃料が住宅の井戸から発見されるなど同様の問題が発生している。さらに、PCBが嘉手納基地に大量に野積みされ、漏出していたなどの問題も発生している。(前掲『沖縄はなぜ基地を拒否するのか』、「東京横田基地」編集委員会編『東京横田基地』連合出版86年参照)
 なかでも横須賀基地、佐世保基地、沖縄県ホワイトビーチは、原子力艦の寄港地であり、寄港時に、通常以上の放射能が検出されたりして、周辺住民らに大きな不安と被害を与えている。横田基地でも核兵器の貯蔵庫の存在が確認され、核事故たいする特別訓練が行われている。
 97年2月には、沖縄の鳥島射爆場で米海兵隊の攻撃機が1500を超える劣化ウランの機銃弾を撃ち込んでいた事実が明らかになった。米側は「誤射」と説明しているが、この劣化ウラン弾は放射能を帯びているものであり、米国内の特定の射撃爆場以外での使用は禁じられているという。しかも、これを使用した事実が一年間以上も秘匿され、日本政府にすら報告されてこなかったのである。日本国民を無視する米側の無法ぶりはここでも明らかにされている。

《騒音被害》
 基地に離発着する航空機騒音やエンジンテストなどの地上音による被害も深刻である。耳をつんざくようなジェット機による金属音をはじめ、100デシベルを超える騒音に四六時中悩まされ続けている。これは、地下鉄の構内で電車が発する騒音以上のものである。そのような爆音が一日に100回、200回と頭上からたたきつけるように、建物を振動させ、住民に襲いかかる。その都度、墜落事故などの恐怖に襲われるのである。
 基地周辺住民が受け続ける被害は、夜間飛行による睡眠妨害を始め、会話・電話・だんらん・育児など日常生活の妨害、学校の授業の中断、自宅での学習の妨害、イライラ・ストレスさらには難聴や高血圧など健康被害にまでおよんでいる。これらの騒音被害をもたらす米軍機の飛行などは違法であり、日本政府が被害住民に損害賠償責任を負うことが横田基地の最高裁判決で確定している(1993年2月25日、第一小法廷判決)。嘉手納基地や厚木基地でも、それぞれ同様の判断が裁判所で出されている。
  ところが、裁判所は、米軍が基地の管理権を有すること、日本政府が米軍に対して基地の管理運営権限を規制し活動制限する権限がないことを理由にして、夜間飛行の差し止めを認めず、せめて夜だけは静かに眠らせてほしいという住民の要求をしりぞけてきたのである。(前記横田基地公害訴訟最高裁判決など)。日本政府は、最高裁判所が判決を出したのちに、ようやく厚木基地と同様に横田基地についてもアメリカ政府との合同委員会で、夜10時から朝6時までの飛行を規制する合意を行った。しかし、この合意も遵守されておらず、騒音被害は改善されていない。しかも、たとえば、横田基地についての東京都環境保全局の調査では、1994年に環境基準を達成した日は、年間わずか14日に過ぎないと報告されている。
 これに対して95年3月1日に発表した「アメリカと日本の安全保障関係にかんする報告書」(国防省)では、在日米軍施設は、アメリカあるいは日本のいずれかのきびしいほうの環境基準を満たしていると報告している。米軍は、日本の最高裁の確定判決をも無視し、違法な騒音被害をみずからまきき散らしつづける実態をいつわり、公然と虚偽の報告を行っている。これでは、騒音被害が改善されるはずがない。

   3 日本の法令による規制の排除
 米軍基地においては、日本の法令による規制は排除され、ないがしろにされている。たとえば、建物を建築する場合でも、宅地造成法や建築基準法などの適用はされず、弾薬庫の設置にも火薬類取締法は適用されず、埋め立てにも公有水面埋め立て法などの適用されず、米軍は勝手に日本の国土を利用してきた。騒音規制法その他さまざま環境基準なども、無視しつづけてきた。
 普天間基地の「返還」に関連して、基地機能を維持し、移設するため、嘉手納弾薬庫地区での1500メートルの滑走路を有する基地新設が提起されたが、そこでも自然環境の破壊がいっそう拡大される点が指摘された。環境保護という視点は、日本の政府にはまったく考慮されていないのである。その後、この基地の新設は、同規模の海上ヘリポート建設案に変更されているが、その場合でも、海洋汚染や漁業への被害など深刻な問題が発生することが予想され、地域住民が強く反発している。
 このように日本政府は、本来適用されてしかるべき日本の法令の遵守を米軍に求めず、地位協定上、明記されている制限(地位協定第三条第三項「公共の安全に妥当な考慮を払う」など)すらこれを遵守させようとしていないのである。 
 前述のように米軍基地の航空機騒音が基地周辺住民に多大な被害をあたえつづけているにもかかわらず、夜間飛行の規制すら米軍に要求せず、また、沖縄での実弾演習を初めとするさまざまな被害についても、これを放置しつづけてきたことに、日本政府の姿勢が端的に示されている。
 沖縄県は、地位協定第三条を見直し、「地域の住民に大きな影響を与える航空機騒音および環境保護に関しては、施設・区域内でも国内法を適用すること」を政府に要請している。県民の生活と権利を守る立場からの当然の要求である。これに応じようとしない日本政府の態度には、国民の生活・権利を犠牲にして日米安保や軍事・米軍の利益を最優先させる反国民的姿勢が露呈されている。 

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