透水の 『俳句ワールド』

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芭蕉の発句アラカルト(24) 高橋透水

2024年02月11日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
 狂句木枯の身は竹斎に似たるかな 芭蕉

 『野ざらし紀行』の前書きに「名古屋に入る道の程、風吟ス」とあることから、貞享元年十月に名古屋で詠まれたもの。同行者木因との道すがらの句だろう。
 いうまでもなく、「竹斎」とは、仮名草子「竹斎」の主人公で藪医者のことだが、貧乏ながら狂歌を歌いつつ各地を転々とした。芭蕉は名古屋に着き、自らの俳諧の生き方を竹斎に擬え当地の句会の挨拶句とした。
 名古屋蕉門の山本荷兮が編集した俳諧七部集の第一集「冬の日」貞享二年刊の冒頭にも置かれた句でもあり、それの詞書によると、
「笠は長途の雨にほころび、帋子はとまりとまりのあらしにもめたり。侘びつくしたるわび人、我さへあはれにおぼえける。むかし狂歌の才士、此国にたどりし事を、不図おもひ出て申し侍る。」とある。
 芭蕉は自らのやつれた姿と俳諧に掛ける尋常ならざる想いを竹斎の風狂になぞらえたわけだが、芭蕉特有の戯言の世界だ。ちなみに木因の道行の句は
  歌物狂二人木枯らし姿かな
である。が、この旅の風狂は芭蕉俳諧の一大転機になっており、訪れた名古屋の門弟に見せる並々ならぬ自信とするのが定説だ。すなわち冒頭の「狂句」は、芭蕉のこれからの決意を示す宣言であり、敢えて砕けた「狂句」という自虐的な言い方をしたのであろう。
 「狂句木枯」の脇句は、
そやとばしるかさの山茶花  野水
 山茶花の散りかかる風流な笠を着て来られた侘び人は、いったいどこのどなたでしょうか、と芭蕉の発句に対する答礼の脇で、竹斎に擬した客人に山茶花の風雅を添え、風狂人を引き立てたもので芭蕉の意にかなった。
 さらに、
有明の主水に酒屋つくらせて  荷兮
  かしらの露をふるふあかむま  重五
と続く。『冬の日』は全巻を通して風狂の相を基調としており、安らかな句体へと移行しつつある。門弟との息も合い、後年蕉風開眼の書と位置づけれることとなった。

『ビッグバン通信句会』が正式に開始 高橋透水

2024年02月06日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
『ビッグバン通信句会』参加のみなさま
2024年より1月より都区現代俳句協会主催の
『ビッグバン通信句会』が正式に開始しました。

協会・結社にこだわりません。どなたでも参加できます。
(東京都区以外の道府県の方も都区協の会員になれます)
●応募規定 (必ず2句出句)
当季雑詠 1句
詠込句  1句  (「野」を詠み込んでください)
●投句先パソコン : (下記URLをクリックしてください)
    ↓    ↓
https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
スマホ専用 :
https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
投句締切は 2024年3月20日
(纏まり次第選句用の作品をメールします)
選句締切は 3月30日

◇投句方法のわからないかたは
acenet@cap.ocn.ne.jp  にメールください。
『ビッグバン通信句会』担当:高橋透水


芭蕉の発句アラカルト(23) 高橋透水

2024年01月09日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
 曙や白魚白きこと一寸  芭蕉

 「野ざらしを心に風のしむ身かな」の決意で江戸を出発した芭蕉の旅も、大垣で「死にもせぬ旅寝の果てよ秋の暮」の句を作り、木因邸にしばらく滞在した。おそらく最初から木因のいる大垣を目指したのだろう。
 野ざらし紀行の本文にあるように、「大垣に泊まりける夜は木因が家を主とす」はそれだけ木因をたより絶大な信頼をよせていたのだ。そしてそこで行なわれた句会は俳諧師としてつぎの旅への路銀ともなった。
 野ざらし紀行を大きくわけるとすると、大垣までが第一部としてよい。その後、木因は芭蕉と連れ立って桑名から熱田まで同行するが「曙や」の句は、桑名の東郊にある浜の地蔵堂付近で作られたという。
 紀行文の本文では、
  草の枕に寝あきて、まだほの暗きうちに、浜のかなたに出でて、
   曙や白魚白きこと一寸
とある。
 句意は、ほの暗い光の中にいま漁師によって掬い上げられた白魚が新鮮な生命を浮き上がらせている。刻々変わる海の明るさは誠に趣のある情景ではないか、ということだろう。
 ところで、杜甫はこの魚を「天然二寸ノ魚」と詠じた。杜甫の詩の「白小」に、
  「入肆銀花亂、傾箱雪片虚」。
  細微水族に霑(うるほひ)、
  風俗園蔬(ゑんそ)に當(あ)つ。
  肆に入いれば銀花 亂れ、
  箱を傾くれば雪片虚なり。
があるが、芭蕉はこの詩を意識したことは確かだ。つまり初案が「雪薄し白魚しろきこと一寸」であったのは杜甫の「雪片」からの草案だったことが納得できよう。
 さらに「雪薄し」の作句時の実際の時刻は、芭蕉が桑名の句会のあとに海上に繰り出し木因たち門弟と舟遊びに興じているころである。それが「野ざらし紀行」では曙の句となった。こうした時間的なずれ情景の取り換えは芭蕉の改案に多くみられる。いずれにせよ新展開の旅が大垣から始まったのである。

◆『ビッグバーン通信句会』2024年1月より開始!!

2023年12月31日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
◆『ビッグバーン通信句会』2024年1月より開始!!
協会・結社にこだわりません。どなたでも参加できます。
(東京都区以外の道府県の方も都区協の会員になれます)
●応募規定 (必ず2句出句)
当季雑詠 1句
詠込句  1句  (「願」を詠み込んでください)
●投句先パソコン : (下記URLをクリックしてください)
    ↓    ↓
https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
スマホ専用 :
https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
投句締切は 2024年1月20日
(纏まり次第選句用の作品をメールします)
選句締切は 1月30日

◇投句方法のわからないかたは
acenet@cap.ocn.ne.jp  にメールください。
担当:高橋透水
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『ビッグバン通信句会』
【規約案内】
☆投句者は現代俳句協会所属の方にかぎりません。結社や団体を超えた新しい俳句をモットーに、広く募集いたします。ベテランの方だけでなくぜひとも若い方々の新鮮な俳句と忌憚の無いご意見をお待ちしております。
☆相互選句や講評をしていただき互いの研鑽の場をめざします。
●参加申込:フォームズまたはメールによる投句・選句に限ります。
(郵送、FAXは不可)問合は acenet@cap.ocn.ne.jp
携帯 090-3231-0241 高橋透水へ

●投  句:兼題または詠込1句+当季雑詠1句、計2句
●投句締切:初回は1月20日。(奇数月の開催で、毎回20日が投句締切)
●互  選:参加者には後日、清記表をメールで送付。
当季雑詠は3句選(内1句特選) 詠込句は2句選(内1句特選)
◇特選コメント記入。フォームズまたはメールによる選句
(将来は数人の特別選者・あるいは輪番制とすることも考えています)
●結  果:当月末~次月頭頃に句会報を発行する。(メール等で発表)
●参 加 費:500円/1回、ただし1年分(6回分)一括払い3000円のみ受付。
  途中から参加は回数割。但し、途中から不参加の場合でも返金はしません。
※途中参加の場合は当該月以降の年間参加費をお支払い願います。
      投句と年間参加費の受領確認をもって参加とします。(20日厳守)
      振込は下記長谷川寛子の口座にお願いいたします。
   申し込み時に、氏名、携帯番号、メールアドレスを明記してください。
●メールからの投 句 先:高橋透水 E-mail  acenet@cap.ocn.ne.jp

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(推奨)フォームズでの投句  https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
    スマホ専用    https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
●振込口座:郵貯口座00130-5-636092
長谷川寛子 ハセガワヒロコ 
「ビッグバン通信句会」会費と明記してください。
(なお振込手数料はご負担願います。)

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芭蕉の発句アラカルト(22)  高橋透水

2023年11月17日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
死にもせぬ旅寝の果てよ秋の暮 芭蕉

 貞亨1(1684年9月下旬)、四一歳の芭蕉は『野ざらし紀行』の旅の途次、美濃の谷木因らを訪問して長期滞在している。
 『野ざらし紀行』の本文では、
  大垣に泊りける夜は、木因が家をあるじとす。武蔵野を出づる時、野ざらしを心におもひて旅立ければ、
   しにもせぬ旅寝の果よ秋の暮
とある。不慮の死というのも念頭にあっただろうが、〈野ざらしを心に風のしむ身かな〉もそうだが、少し大仰で大袈裟な表現は芭蕉の特色だ。
 「死にもせぬ」は木因に対しての挨拶か、自嘲の独白か。いやそうでなく、「旅寝」を重ねた末にやっと大垣にたどり着いたことで芭蕉は心の区切り、俳諧に新たな境地を拓くきっかけになった。「旅寝の果てよ」がその心境をあらわしているとみてよい。ちなみに、山本健吉によれば、「この句を境としての旅中の句は、それ以前は悽愴(せいそう)の調べが強く、以後は風狂の傾向が強い」(芭蕉全発句)と述べているが参考になるだろう。
 木因は正保3年生れ、大垣の船問屋を生業にしていた。季吟門であった関係から以前より芭蕉と親交があった。後に談林風にうつり、芭蕉の感化をうけて蕉門にはいった。また芭蕉と木因は以前から手紙をやりとりしていたが、そんななかで、おもしろいエピソードあるので紹介したい。
 1682(天和2)年,木因の所へ芭蕉から手紙が届いた。この書簡は、芭蕉から木因に宛てた『鳶の評論』として知られるものであるが、芭蕉は、附け句に同字・同物の鳶を入れたが、これは連句としては禁則である。それを作者を隠してわざと木因に意見を求めているのである。これは木因の力をためそうと難しい句の意味を尋ねるものであったが、木因はみごとなこたえを返したので芭蕉はすっかり感心したという。これをきっかけとして木因と芭蕉の交流がはじまり、また木因の働きもあって武士や町人の文化が栄えていた大垣の俳諧はますます盛んになったという。

つぐみ集2023年8月のエッセイ

2023年11月12日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
【エッセイ】水の音

古池や蛙飛びこむ水の音  芭蕉
 まず「蛙飛びこむ水の音」が芭蕉の頭
に浮かんだが、それだけでは句にならな
い。「水の音」をどう句に反映するか。つ
まり鳴いていない蛙の存在をどう表現す
るか。さらに幽玄の世界を音で表現する
にはどうするか。
 鈴木大拙は、芭蕉の古池は「時間なき
時間」を有する永久の彼岸に、横たわっ
ている。それはこれ以上「古い」ものの
ない「古さ」である。どんな規模の意識
もこれを量ることはできぬ。それは万物
の生ずるところであり、この差別世界の
根源である。(『禅と日本文化』)
のなかの「禅と俳句」の一節である。
 大拙の解釈は、古池を「時間なき時間」
とみなすことは無限の空間を表すことに
もなろう。
 確かに芭蕉の目指したのは「水の音」
からくる無限で幽玄の世界である。だが
俳諧表現イコール禅世界でない。まして
俳諧は他者との共有する世界が求められ、
そのためには道具立てが必要になる。こ
の句の場合それが古池だ。


『ビッグバーン通信句会』開始!!

2023年10月27日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
協会・結社にこだわりません。どなたでも参加できます。
★『俳句のWA』・『ビッグバーン通信句会』
   俳句祭り!無料受付中です。
11月分まで投句料は無料ですので是非ともご参加ください。
◎特選賞 各選者の特選句より
◎詠込優秀賞
◎『俳句のWA』賞
◎その他サプライズ賞
●応募規定 (必ず2句出句)
当季雑詠 1句
詠込句  1句  (赤)
●投句先パソコン : (下記URLをクリックしてください)
https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
スマホ専用 :
https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
投句締切は 11月20日
(纏まり次第選句用の作品をメールします)
選句締切は 11月30日

宇宙よりこんにちは   高橋透水

2023年09月30日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
宇宙よりこんにちは   高橋透水
宇宙より母の心音初蝶来
春泥や正義のボタン掛け違い
フクシマの伸び放題の蓬かな
葉桜や朝の看護師発光す
リハビリのカスタネットや夏近し
子燕の顔を無くして口開く
反戦のゴスペル響く夕薄暑
ロシアの血混じる二世や麦を刈る
青東風や信号のなき恋をして
黒ぶどう騙されている快感よ
遠雷や野戦の臭い街に満つ 
老年の罪ある舌が桃啜る 
UHOに恋をしてゐる案山子かな 
ぼろ市の鏡の奥に戦あり
陽光の浮力を恃む冬の蝶 
独楽止まり「平和」の文字現れる

芭蕉の発句アラカルト(20) 高橋透水

2023年08月22日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
手にとらば消んなみだぞあつき秋の霜 芭蕉
 
 出典は『野ざらし紀行』。貞享元年、秋の句。江戸住まいが長くしばらく帰郷していなかった芭蕉だが、『野ざらし紀行』によれば、貞享元年八月、門人千里を伴い、伊勢神宮に詣でた後で伊賀上野に帰郷した。前年亡くなった母の墓参を済まし、その足で大和・吉野・美濃を巡り、翌年四月江戸に戻っている。
 さらにその後、貞享四年十月に江戸を旅立ち、尾張・伊勢桑名を経て、年の暮れに伊賀上野に帰郷し、実家で新年を迎えている。このとき、芭蕉は故郷へ万感の思いを込めて、「古里や 臍(へそ)のをに泣く としのくれ」と詠んでいる。それはさておき「手にとらば」の句であるが、『俳諧一葉集』に「母の白髪おがみて」と前書きがある。それをみてみると、
 長月の初、古郷に歸りて、北堂の萱草も霜枯果て、今は跡だになし。何事も昔に替りて、はらからの鬢白く、眉皺寄て、ただ「命有て」とのみ云て言葉はなきに、兄(このかみ)の守袋をほどきて、「母の白髪おがめよ、浦島の子が玉手箱、汝がまゆもやゝ老たり」と、しばらくなきて、「手にとらば消んなみだぞあつき秋の霜」とある。
 兄半左衛門と芭蕉の何年かぶりの対面は印象的である。兄は決して高飛車でなく、弟を懐かしく丁重に迎えている。芭蕉も熱い泪をみせている。故郷とは伊賀の国小田郷赤坂のことで、父与左衛門は福地家系の人で上野の「農民町」に家宅を持ったという。この父は、芭蕉が十三歳の年に病没している。母は伊賀名張の生まれ、祖先は、藤堂高虎の伊賀転封に同行した伊予宇和島の桃地氏という。
 さて「秋の霜」は母の白髪のことで、熱い涙を霜の上、つまり手にした母の白髪の上に落としたら、消えてしまうだろうと詠ったのだ。このことからも芭蕉が長年帰郷をしていなかったことが推測できる。ただし当時の藤堂藩では出国後五年目に藩の役所に出頭することが義務付けられていたが、芭蕉はこの義務は遂行している。つまり芭蕉は藤堂藩から抜けだすような単なる俳諧師ではなかった。

★2023年『俳句のWA』 6月俳句祭りの結果

2023年08月03日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
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★2023年『俳句のWA』 6月俳句祭りの結果
◎高得点作品
不器用な生き方が好き蝸牛  風間典雄

◎詠み込み(宝・夢)高得点作品
姿なき夢魔に魘され熱帯夜  戸矢一斗

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★2023年『俳句のWA』 9月俳句祭り開始 !!
投句締切は 9月20日
8月20日より受け付けます。
◎特選賞 各選者の特選句より3名
◎詠込優秀賞
◎『俳句のWA』賞
◎その他サプライズ賞
各賞の該当者には賞品券をお送りします。
●応募規定
当季雑詠 2句
詠込み句 1句(真または増)
●投句先 パソコン :
https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
スマホ専用 :
https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
あなたの会心の句をお待ちしています!!

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芭蕉の発句アラカルト(19) 高橋透水

2023年07月05日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
芋洗ふ女西行ならば歌よまむ  芭蕉

 『野ざらし紀行』の芭蕉の旅はいよいよ伊勢路にはいった。紀行文は、「松葉屋風瀑が伊勢に有けるを尋音信(たづねおとづれ)て、十日計足をとヾむ。」とあり、夕に下宮に詣でている。さらに紀行文をみてみると、
  暮て外宮(げくう)に詣で侍りけるに、一の鳥居の陰ほのくらく、御燈処々に見えて、「また上もなき峯の松風」身にしむ計(ばかり)、ふかき心を起して、
   みそか月なし千とせの杉を抱く嵐
につづいて、
 西行谷の麓に流あり。をんなどもの芋をあらふを見るに、
   芋洗ふ女西行ならば歌よまむ
 とある。これは西行谷にて西行と遊女の歌を意識しての句であることは容易に理解できる。この江口の里での西行と遊女の掛け合いは有名であるが、つぎのような噺であった。
 往昔、西行は、天王寺詣での途次俄に雨のふりければ、江口の里の遊女に一夜の宿を所望したところ貸し侍らざりければ、よみ侍ける。「世の中を厭ふまでこそ難からめ仮の宿りを惜しむきみかな」という歌を詠んだところ、この遊女はすかさず「世を厭ふ人とし聞けば仮の宿に心とむなと思ふばかりぞ」と詠み返してきた。(謡曲集『江口』)
 まさしく「芋洗ふ」は謡曲「江口」のエピソードを踏まえたとされる一句であり、敬愛する西行への挨拶句でもあることは明らかだ。
 つまり句意は、「西行法師なら川で芋を洗う女達を見たら歌を詠んで語りかけたことであろう、また自分が西行ならば女達は歌を詠んで返してくれたであろうに」くらいだろうか。西行谷は西行が晩年、庵を結んだと言われる地。「二見」と「宇治」の二ヶ所説があるが、ここでは芭蕉が訪れたのは「宇治」。神路山の南の谷である。
 ところで「歌よまむ」は誰を指すかで解釈が異なる。芭蕉は自分が西行だったら歌を詠んだろうとするか、芋洗う光景をみているのが西行だったら女たちは返歌を詠んだろうにとするかだが、後者が自然のようである。

写生句は類句の山か  高橋透水

2023年06月11日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
写生句は類句の山か  高橋透水

リアリズムという言葉が政治や経済の用語として世界の社会状況の論議の指標になっているが、俳句界ではリアリズムという用語はほとんど聞かれない。いまころリアリズム俳句などというのは時代錯誤なのだろうか、などとと思っていたらそうでもない。
角川の『俳句』(2022年9月号)に浅川芳直が「悲観的写生説とリアリズム」のタイトルで評論していた。写生を悲観的にとらえてはならないということだが、詳しい内容は本書を一読していただくとして、そのなかで写生と類句のことだけでなく、リアリティー俳句の問題点を論じているに注目した。
リアリズム俳句の類似性であるが、歴史をみると確かに、新興俳句やその後の特異であるはずの戦場からの俳句には富澤赤黄男や長谷川素逝に独自性があったものの、大方は類想を避けられなかった。戦時下の言論統制もあったろうが、戦禍相貌俳句・銃後俳句は似非リアリズムでしかない。これは赤城さかえが火付け役になった戦後リアリズム俳句の勃興期でも、その後の偏った社会主義的リアリズム運動としても限界があり、ここでも類句類相は避けえなかった。
ところで、子規没後すでに百二十年経つ。虚子を引き継いだ「ホトトギス」はいまでも華やかに俳壇の一角を占めている。写生や花鳥諷詠を唱えた伝統は途絶えることなく連綿と受け継がれている。これは句作に写生は基本であることの表れである。結社では写生を重んじた句作が励行され、そうした写生俳句が高い評価を受けることも当然のことである。また写生俳句は類句の要因と評されることが多いが、必ずしもそうでない。句作の態度と意識が問題であるだけだ。
もう一つ類句の一因に季語重視が考えられる。思うに季語は舞台設定で、まさに季節や環境、また時代など詠み手と読み手の共通の時間や空間を構成する道具である。歌枕、名所旧跡、歴史的できごとなど読者と共有できることが前提であり、つまり時間性や歴史の共通認識と考える。季題はそれだけで重みがあるのだから、季語という大きな背景に今を詠むことだ。そのうえで出来たら現代の時間空間を意識した写実的でリアリティある俳句が望まれよう。


芭蕉の発句アラカルト(18)高橋透水

2023年06月02日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり   芭蕉 

 句だけでは、鑑賞に困難な点があるので、まず句の前書きをみてみると、「二十日余りの月かすかに見えて、山の根ぎはいと闇きに、馬上に鞭を垂れて、数里いまだ鶏鳴ならず。杜牧が早行の残夢、小夜の中山に到りて忽ち驚く」とある。
 これの簡単な解釈はつぎのようになろう。
 「二十日過ぎの明けきらぬうちに宿を出て、馬上でうとうとして夢見心地でいたら、ハッと目が覚めた。気づくと、山際には月がかかり、里の家々から茶を煮る煙が立ちのぼっている」くらいの意で、「茶を煮る煙」とは茶農家が茶葉を蒸すときの煙のことである。
 さて前書きにある「杜牧が早行の残夢」というのは、杜牧の『早行詩』のことだが、これも次に紹介してみると、「垂鞭信馬行/数里未鶏鳴/林下帯残夢/葉飛時忽驚/霜凝孤鶴迴/月暁遠山横/僮僕休辞険/何時世時平」であり、その意訳は
 「鞭を垂れて馬にまかせて進んで行く。数里来たがまだ鶏鳴は聞こえない。林の道をうとうとしていると、木の葉の飛ぶ音に驚かされる。霜は凝り固まって、かなたに鶴が一羽と、有明の月の向こうの山々が見える。僮僕よ、この先の厳しさを言わないでくれ。いつの日か平和な世が来るだろう」となる。
 これを見ても分かるように、芭蕉の句は杜牧の漢詩が土台になっていることがうかがわれる。山本健吉は、「発想はほとんど杜牧の詩に依拠していて、実景によるよりは杜牧の詩の焼き直しといってよい。過去の詩人たちとの詩心の時間的交通の上に築かれているのだ」といっている。ここでは「茶のけぶり」だけが、馬上で覚めて確かに認めたイメージなのである。つまり借りものの世界と現実、虚と実との交錯、夢と現実が重なり合った世界を一句にしたもので、芭蕉の言う「黄金を延べたような句」とはとてもいえない。虚実の世界を組み合わせて工夫はされているが、この句も漢詩からの影響をまだ十分に脱していないとみてよいだろう。したがって芭蕉の新境地を探る旅はまだまだ続くのである。

2023年『俳句のWA』3月度選句結果

2023年05月13日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
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『俳句のWA』主宰
3月の俳句祭り!の結果のお報せです。
2023年『俳句のWA』3月度選句結果
☆特選賞 
玉田美絵  春の野を詰めてクレヨン十二色
小林たけし 真実は人によりけりしゃぼん玉
高橋透水   アンパンの臍にゴマあり木の芽風
☆詠込優秀賞 1名
大工原一彦 定年の無き天職よ畑を打つ
☆『俳句のWA』賞 1名
萩谷タカ彦
授賞理由 俳句を自由に楽しんでいる空気感が
伝わってきます。
これからも俳句を大いに楽しんでください。
★サプライズ賞 風間爺句
 授賞理由 俳歴は浅いということですが、俳句の
神髄を掴んでいます。
他の投句欄でも地方色のある句が魅力的です。
と決定しました。めでとうございます。
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★『俳句のWA』6月俳句祭り!開催のお知らせ。
◎特選賞 各選者の特選句より3名
◎詠込優秀賞 
◎『俳句のWA』賞 
◎その他サプライズ賞
 各賞の該当者には賞品券をお送りします。
●応募規定 (必ず3句出句)
当季雑詠 2句
詠込句 1句  (宝または夢)
●投句先パソコン :
https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
スマホ専用 :
https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
投句締切は 6月20日
力作お待ちしております。
主催代表:高橋透水
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★『俳句のWA』3月俳句祭り!

2023年02月28日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
2023年
★『俳句のWA』3月俳句祭り!
3月1日より受付開始!!
商品券総額5万円
特選賞 各選者の特選句より3名
詠込優秀賞 1名
『俳句のWA』賞 1名
●応募規定 (必ず3句出句)
当季雑詠 2句
詠込句 1句  (天または地)

●投句先パソコン : https://ws.formzu.net/fgen/S31510800/
スマホ専用 : https://ws.formzu.net/sfgen/S31510800/
投句締切は 3月20日
  (投句期間は3月1日から3月20日まで)
メールからの質問は、
 acenet@cap.ocn.ne.jp
主催代表:高橋透水

◎互選の結果発表は、4月にメール(WEB上)にて発表します。
なお『俳句のWA』の3月俳句祭りは新作未発表の句のみで、
結果はFBなどで公開となりますので、ご了承ください。
したがって二重投句など応募には充分お気をつけください。
よろしくお願いいたします。