脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

母が来て……

 昼すぎに部屋でひとり、休んでいると、仕切り戸が開いた。泉ピン子に似た母の顔があらわれ、
「おいっす!」
 いかりや長介かい、と心のうちでつぶやきながら、おいっす、と返事した。
 幸町からバスと地下鉄を乗りついで、ようすをみにきたのだ。ぼくは長町南にアパートを借りて介護サービスを利用しながら暮らしている。母が、
「よし、元気があって、よろしい。ん、おお、いい歌きいったな。だれの?」
「幹mikiさんの〈宙そら〉っていうアルバムCDだよ」
 わからない、と母が言う。そんなはずはないとパソコンを立ち上げ、YouTubeで〈仙台ゆりが丘マリアージュアンヴィラCM〉を検索して出してやると、流れる歌に母は耳を傾け、
「ああ、しってるしってる。きれいな声で歌う人だべ」
 そこから昨日、長町の〈びすた~り〉というレストランでいろんなアーチストさんのライブがあって、夕方に移動支援のヘルパーさんを頼んでみに行ったんだよ、という話をした。
 幹mikiさんのCDを買ってきたのは、歌を聴いていると心がおだやかになり、曲に込めた思いやメルヘンチックな話もきけて楽しかったからだ。
「ビールとか飲みながら?」
「うん」
 ぼくの体はいつも意に反してよけいな力が入り、たまに苦しくなるときがある。顔もゆがむ。それが、アルコールが入ると緩和されて、楽になる。ライブも、より楽しんで聴けるようになる。
 泉ピン子に似た顔が、にっこりうなずき、
「それはよかった」
 元気そうな母に、ぼくもホッとしていた。
 母は時計をみて、
「もう、こんな時間だ」
 次のヘルパーさんが来る前に、
泉ピン子は、帰るぜよ」
 といい、母は部屋を出て行った……。