小説西寺物語 18話 807年空海真言宗を立ち上げる

 平城天皇が天皇に即位して半年後の807年1月中旬のころ朝廷内では20年間の予定で唐国に留学していた最澄と空海が第19次遣唐船の帰りの船に乗っているという噂が流れた。その噂の出どことは遣唐船が対馬沖で嵐にあい第三船と第四船のニ隻が難破したが、その難破した第四船の乗組員が板切れに掴まって3日ほど漂流していたが、対馬の漁船に救助されて助かっていた。

 その乗組員が遭難の事件を難波港の遣唐船事務所に
知らせようと対馬から下関、下関から瀬戸内の漁船に乗り継いで帰ってきたという。その遭難の事実を難波の役人が朝廷に手紙で知らせたが、この手紙には比叡山の高僧2名は遭難していない第一船、第ニ船に乗っていたという記述があったからだ。これより先に第19次遣唐船の遣唐大使の従三位藤原広活を平城天皇の勅使として唐国にいる最澄、空海に対して20年以内の帰国は許可しない、もし日本に帰ってきた場合は両名の官位を剥奪した上に最澄を5年間比叡山に幽閉、空海は太宰府の観世音寺に5年間幽閉という重い処罰を申し渡していたが、それを無視して日本に帰ってくるという。

 これを察知した薬子は太宰府の長官の従三位藤原常嗣に平城天皇の命令として空海を5年間太宰府の観世音寺に幽閉するようにと手紙を送っていた。さらに難破港の貿易事務所の所長には最澄上陸後はただちに比叡山まで役人が監視して送り届けることを平城天皇の命令としていた。さらに薬子はこれら最澄と空海に入れ知恵している稲荷神社の加持祈祷師の伊呂具の動きを封鎖する良い方法はないかと、奈良仏教系貴族の従三位藤原宗茂に相談していたが、宗茂は、
「稲荷神社の宮司には官位もありません。それに公卿や貴族からの寄進、寄付もありません。つまり、完全民営のために朝廷としては口も手も出せません」

 その稲荷神社の伊呂具にも最澄、空海が日本に向かっている情報は届いていたが、これは最澄、空海らの元々の計画だった。この計画を官営西寺東寺造寺司の守敏僧都は知っていたのか、知らなかったは不明だが、807年2月1日付で東寺塔頭30ヶ寺の建立を認めていた。これは今まで塔頭の建立を認めていなかった訳ではないが、東寺の官主に内定していた空海が日本にいなかったために工事の着工の許可を出すのを忘れていたためで何ら意図はないと朝廷に説明をしていた。

 この話しは奈良仏教はもちろん比叡山で20年間の予定で修行している比叡山の1000名の修行僧にもその日内に伝わり修行僧は一斉に歓声を挙げていた。この1000名の修行僧は日々の修行の他に比叡山にある樹齢500~900年の檜や杉を伐採して乾燥させ柱や板に加工して備蓄していた。さらに30万枚の瓦を焼く登り窯で使う薪なども大量に備蓄していた。これは空海が官営東寺の官主になれば当然必要になる東寺境内の30ヶ寺の塔頭の木材になる用意を修行僧はこれも大事な修行として空海から命じられていたからだ。

 一方の奈良仏教の西寺塔頭建造工事の再見積もりを作成していた西寺塔頭建造責任者の明心は次々報告されてくる見積もり価格の金額に愕然としていた。たとえば瓦は当初の東山の瓦では一枚30文で30万枚とすれば9000貫(銭1000文で1貫)だったが、淡路島産では一枚90文もする。これは淡路島から船で難破港まで運び、ここから小さな船に積み替えて淀川を上ぼり、山崎港から陸路西寺までの輸送費用がかかり総額2万7000貫という。木材は丹波の山で伐採されて保津峡から嵐山、そして三条通りの運河から都の中心朱雀大路三条に運ばれるが、この木材の問屋価格も当初予算の5倍にもなっていた。

 さらに宮大工の建設費用も西寺塔頭の再工事と同時に建造されるために宮大工不足からくる値上げでこれも倍にもなった。明心はこれらの見積もり合計を60万貫としたが、この見積もり書を持って奈良仏教代表の道慈に会うのは心苦しいと思ってはいたが、やむを得ず明心は大安寺に向かった。道慈はその見積もり書を見ていたが、さほど顔色を変えずに、明心に、
「ご苦労さま、随分高いが、これで進めてほしい」と道慈はいうが、明心は、
「あの~六万貫ではなく~………」
と、口を濁していると、道慈ももう一度見積もり書を見て、絶句していた。

 この明心が積算した西寺塔頭の見積もり60万貫に仰天して奈良仏教六宗派七大寺院の幹部会が緊急に開催されて明心も強制参加させられていた。代表の道慈は明心になんとか安くする方法はないのか?、明心は、
「安くなる方法は4つあります。まず一つ目は、奈良で保管している元平城京の宮殿、その関連施設、公卿や貴族の屋敷を解体してそれを塔頭に転用すれば建設費は半分になります」

 これについては、
「解体すれば奈良に都を遷都なされようとしている平城天皇の宮殿や皇族の屋敷がなくなることになるので反対とされた」
 明心の二つ目は、「西寺塔頭予定30ヶ寺を半分にすれば建設費は半分になります」
 これについては、
「残りの塔頭15ヶ寺に比叡山が入れば西寺まで比叡山に取られて奈良仏教は地方の一宗派になるから反対とされた」
 三つ目は、
「寺領(荘園)の年貢を5割から7割5分にすれば5年で塔頭建設費は半分になります。または平城天皇に寺領を現在の1、5倍にしてもらえば5年で建設費は半分になります」
 これについては、七名の幹部からはなんら意見が出なかったので明心は最後の四つ目の提案をしていた。それは、
「奈良仏教が今までに貯め込んだ金、銀、財宝などが推定120万貫あります。これの半分を塔頭建設費に回せはすべて解決いたします。塔頭が建設された暁には京の都で積極的な布教活動をすればまた金や銀は貯まります」
 これに対して道慈が、
「お主…いつから守敏僧都や稲荷神社の手先になった」
「いやいや、私は道慈さまから塔頭の見積もり依頼を頼まれただけでこの件を誰かに相談したことはありません」

 明心はこの夜から大安寺で足止めされて奈良仏教の結論を待っていたが、京と連絡のやり取りをしているのかもう5日も経つが返事がないので明心は都に帰ろうと身支度をしていた時に道慈から部屋に来るようにという僧侶の使いがあった。
 道慈は、
「平城天皇は都を京から奈良へ遷都される決意をなされました。したがって京の官営西寺東寺の工事を中止して今ある建造物は解体され奈良に運ばれることになった」
 その上で、
「守敏僧都と明心は奈良仏教から破門する。そして西寺に派遣されている僧侶350名は即刻各本山に帰るように命じてある」

 明心はやむを得ず京に帰るが、大和街道を上がる道筋では奈良に帰る僧侶とは一人も会わなかった。午後六時ごろ西寺の南大門から入り講堂前まで来ると守敏僧都がそこにいた。そして講堂の中に案内されるとそこには350名の僧侶の拍手が待っていた。

 守敏は明心に
「空海宗祖が長崎の大宝寺で真言宗を立ち上げられました。三輪宗九州別格本山傘下の末寺125ヶ寺も三輪宗から改宗して真言宗の寺院になりました。私の源光寺も源氏さまの許可をもらって無宗派の寺から真言宗127番目の寺になりました。そしてここにいる奈良仏教の僧侶350名のすべてが改宗して源光寺の僧侶になるが、明心殿はいかがなされますか?」

 明心はこの急劇な展開についてはいけず、ただただ涙して頷くだけだった。さらに、守敏僧都は、
「この西寺の塔頭跡地だが、この土地のすべてを皇太子の源神野さまから源光寺に寄贈されました。この土地には真言宗源光寺の末寺として30ヶ寺を建立いたします。そして30ヶ寺建造責任者には明心を任命いたします。さらに建造の木材や瓦は比叡山が調達してくれます。この官営西寺東寺の建造工事が中止になりましたが、これらに携わった多くの宮大工さんから西七条村、九条村からも無償の労役の申し入れがあります」

 こうして官営西寺東寺の建造工事は平城天皇の手で中止させられたが、東寺の塔頭建造工事は空海が唐国から帰ったことから建造工事が始まり、源光寺の末寺の工事とともに西寺東寺とも工事による活気は元に戻っていた。ただ、空海はこれから5年間は太宰府の観世音寺で幽閉されることになる。

 

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