小説西寺物語 29話 第52代嵯峨天皇即位、最澄、空海復活へ
都に天災や火災が起こった時にすぐに仮の宮殿として使えるために旧平城宮を奈良仏教が保存してきた。現存する建物は天皇の住まいの大内裏、天皇が執務をする大極殿のみで奈良仏教は官女、侍女のための屋敷を新築していた。宮殿の入口の朱雀門も鮮やかな朱に塗る修繕もしていていたが、平城宮の敷地面積は三分の一に縮小されてそれを粗末な土塀で囲っていた。
宮殿内にあった地泉回遊式庭園は土塀の外にあり農業用水の溜池になっていた。元の宮殿の三分ニは農地に転用されて上皇の新しい住まいの平城宮は広大な田園の中の島で朱雀門の朱色が南へ一里離れた東大寺からも艶やかに見えた。朱雀門に向かう都大路の朱雀大路は道路幅80メートルもあったが、両端から農民に畑にするために侵食されて幅は3メートルほどの朱雀小路になっていた。
その宮殿に呼ばれていたのは奈良仏教の代表で大安寺の従六位の恵慈、元代表で東大寺の権燥、それに興福寺、元興寺、西大寺、薬師寺、法隆寺の各貫主の七名になる。この七名は大極殿の大正殿控えの間で従三位の藤原忠成から平城上皇への接見のための説明を受けていた。
忠成は、
「上皇に接見できるのは従七位以上なので恵慈のみとするが、他の六名はこの部屋から上皇さまのお話しは聞けます。また上皇と会話ができるのは従四位以上ですから恵慈は上皇に対しては「ありがとうございます」と「おそれいります」以外の言葉は発してはならない」
こうして恵慈は大正殿に案内された。大正殿は50畳ほどの板張りでその正面には一尺ほど高い舞台があり、上皇が座る場所はさらに三寸ほど高くてニ畳ほどありここのみ畳が敷いてあった。恵慈は板の間の中央に座らされて頭を下げたままで上皇のお出ましを待っていた。すると忠成が左側に座り、薬子が右側に座ったと同時に上皇が現れた。そして、
「奈良仏教会は平城宮の整備に尽力されたことを私は嬉しく思う」
恵慈は頭を下げたままで、
「おそれいります」
「私はこの平城宮で政治をいたすが、この奈良の町をまた以前のような賑わいのある日本国の東の都にしたいが、奈良仏教会は私の考えに賛同していただけるのであれば大安寺を国営西寺、東大寺を国営東寺としたいが、いかがか?」
「ありがとう存じます」
「そか、それなら恵慈を正六位に昇格、権燥を従七位とする」
恵慈はこの上皇の質問や真意も理解ができないまま「ありがとうございます」
とはいいながら、その一瞬だが上皇を上目で見ると上皇は色白で細面の顔立ちでそして薬子を見たが、
「ん?、た、ただの白い厚化粧のおばはんだが、この女が上皇を陰で操っているのか?」
と心の中で思っていた。
恵慈ら7名の貫主は上皇との接見を終わって幹部会をいつもなら大安寺で開催するが、なにせ大安寺には朝廷の見張り役の従三位藤原冬嗣とその配下の順法が常勤しているので宮殿から西の西大寺で開催することになった。恵慈は人払いをして奥の間で会議をするが、なにせこの西大寺の若手僧侶らも順法らの西寺工作僧侶から思想教育を受けて奈良仏教の将来を案じてこの会議を密かに聞いていた。
上皇から直接声を掛けられたのは恵慈だけだったが、大正殿と控えの間は板張りで上皇の声は聞こえていた。その上皇が発した言葉の意味が今ひとつわからないので復習をしていた、
平城上皇は、
「私はこの平城宮で政治をいたすが、この奈良の町をまた以前のような賑わいのある日本国の東の都にしたいが、奈良仏教会は私の考えに賛同していただけるのであれば大安寺を国営西寺、東大寺を国営東寺としたいが、いかがか?」
これに対して権燥は、
「東の都にしたいと上皇はおっしゃるが、日本国に西の都も東の都もなく都は一つしかない。それをあえていわれるのが私には理解ができない」
それに対して西大寺の貫主長元は、
「これは「一国ニ天皇制」または「一所ニ天皇制」になるが、どちらに組しても戦争になる恐れがあります」
さらに恵慈は、
「官営の寺も日本国に二つも必要ないが、上皇はそれをあえていわれるのは、日本国を東と西に分断されるのか?」
そして権燥は、
「しかし、恵慈も私にも官位を与えられたが、その条件は上皇の東の都に賛同したからで今更それを覆せば私も恵慈の首も確実に胴体と分離することになる」
そこで薬師寺の創源は、
「我々七名は西寺の守敏僧都から奈良仏教改革を理由に若手に貫主を譲るように半ば脅迫されているが、恵慈も権燥も国営の官主となればそれを理由に貫主を譲ることはないが、我々はそれもできない」
恵慈は、
「何をいっている。私も権燥も自坊の住職の身分を保障されるなら貫主を退くつもりだった」
さらに元興寺の元春は、
「この際、大安寺も東大寺も官営の寺院になったのだから奈良仏教会から脱退していただいたらいかがか?。我々はそんな「一国ニ天皇制」なんて危険なものには巻き込まれたくはない。それに川原寺と唐招提寺が奈良仏教会に加盟したいとの申し入れがあるが、それを認めて新奈良仏教六宗派七大寺院とした上で守敏僧都からの要請の貫主譲渡にはそれぞれの貫主が決めたらいい」
この元春の意見に反対したのは恵慈と権燥だけで残りの5名は賛成した。結局のところ貫主を辞めたい恵慈と権燥は残り、貫主の座にしがみついていた貫主が上皇の「一国ニ天皇制」に危険を感じて貫主を退くことをこの会議の決定として順法に伝えられた。
この平城上皇と奈良仏教会との接見と同じ時間に今日(807年5月18日)から第52代目嵯峨天皇になる仮の儀式が執り行われていた。そして嵯峨天皇は就任初の勅命を出された。それによると、
官営西寺東寺の建造工事を再開する。これらの最高責任者の造寺司は守敏僧都として守敏僧都の官位従六位を復活させる。比叡山仏教の最澄の幽閉を解除して官位従六位を復活させる。同じく空海の幽閉を解除して官位従六位を復活させる。
この嵯峨天皇の勅命を聞いた平城宮の薬子は、
「おのれ~私が発令した勅命を静野(嵯峨天皇)は私に一言の相談のないまま覆すのは上皇に弓を弾くのと同じ」と怒鳴り散らしていたが、上皇が平城宮に連れてきた公卿や貴族はなんの反応も見せなかった」
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