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【第百八話】
 当然のことですが、手が一つの仕事を成就していく時には、必ずその根底に「思い」「イメージ」そして「意志」が息づいています。そのような明瞭な一つの方向があるからこそ、手はそのことで動き、働き、そして結果に到達するのではないでしょうか。
 このようにして何年もの間働きつづけてきた手には、その形や動きの中に意志が体現されているばかりか、そこには莫大な情報と知の集積があります。「触診」や「打診」を可能にしたのはそのような知の集積だったのだろうと思います。
 幼かった頃の私でも、心の底から安心感を覚えたのは、手に潜むそのようなパワーを無心に、それでも何かしら直感で感じとったからかもしれません。たとえ幼くとも、人間っていうのはそういうものだ、という感じがします。