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【レビュー】たおやかに輪をえがいて:窪美澄

 

 

たおやかに輪をえがいて:窪美澄著のレビューです。

たおやかに輪をえがいて (単行本)

たおやかに輪をえがいて (単行本)

  • 作者:窪 美澄
  • 発売日: 2020/02/18
  • メディア: 単行本
 

 

平凡な人物を小説という舞台で輝かせる窪作品の凄み!

 

物語の主人公が個性的な人物なら、その個性を武器に描いていくことができるだろうけど、平凡な人物を描く場合はどうだろう。特徴がない人物だと、どうしても「平凡な会社員」「平凡な主婦」などという言葉で物語が進んでいくことが多い。読む側もその言葉を記憶しながら読み進めて行く。

 

しかし、窪美澄の作品は、その「平凡」というひとつの言葉で片づけられる部分を、これでもかと言うほど丁寧に、ある意味執拗に積み重ねて描いて行く。のっぺらぼうだった人物に空気を入れて膨らましていくかのごとく、どんどん主人公の女性が身近な人物に変化していく。この過程が実にリアル、実に素晴らしい。

 

本書の主人公は「平凡な50代の主婦」なのですが、冒頭からその主婦の日常、家族、容姿等々、きめ細やかに描かれていて、一気に惹き込まれた。

 

全体的にはとくに大きなヒネリもなく、ある意味予想通りの展開で、若干物足りなさはあったけれども、今回はとにかく、平凡な女性の心理や変化を見る楽しさの方が勝った。これは男性作家には書けないだろうな。時々、心当たりがあるドキッとするシーンが何度もあった。

 

 

 

さて、主人公は結婚20年の主婦・絵里子。娘と夫と3人暮らし。パートをしながら、このまま穏やかに生活が続いて行くと思っていたが、ある日、夫が風俗に通っているらしきものを発見。その後、娘もかなり年上の男性と恋愛をしている姿を目撃。

 

ということで、家族関係が一気に転落。江里子は同窓会で再会した同級生に相談し、やがて、彼女が経営するお店を手伝いながら、彼女の所有するマンションに住ませてもらうことに。

 

整形、同性愛、お店の経営など、今まで自分と全く違った道を生きて来た同級生の価値観、そして、旅に出た時、ほんの束の間知り合いになった乳がんを患った老女の生き方等々、家を出たことによって江里子は様々な刺激を受けつつ、自分と向き合い変化していく。・・・というベタな展開なんだけれども、読後感も良いし、何といっても前述した通り、女性たちの細やかな描写にグイグイ惹きこまれるのです。

 

そして、個人的に窪さんの小説のスパイスであると感じている人生の先輩、年を重ねた素敵な老人の存在。今回もやはり登場し、主人公の行方にそっと光を挿す。

 

江里子のケースは逃げ場があったという点でも、とても恵まれたケースであることは確かだし、現実はそんな上手くいくとは限らないということも頭の片隅にあるけれども、これだけスピーディーに一気に読ませたという窪さんの筆力は本当にスゴイと思う。

 

「たおやか」。普段あまり使わないけど、いい言葉。読み終わってこの意味を考えたくなる小説でもあった。