詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

あどけない足音

2024年03月02日 | 

窓を閉めて風を閉め出すと

夜は静かな箱になる

玄関からリビングまでの廊下

四つの扉に囲まれた細長い空間を

部屋着で裸足で歩く

私の足音が浮き上がり

耳の道に入ってきた

 

あどけないあしおとだった

とがらない

アピールしない

クエスチョンマークの足形の見えそうな

ひっそりした音

 

影が自分から離れてしまう話を聞いたことがある

足音も自分から離れてしまうことがあるのだ

離れないと聞こえない

いつも離れているのにいつもは聞こえない

 

あんたがたどこさ

あたしはひとり

でもあんたがた

は複数だよ

リズミカル

にもなるよ

引きずるようにも

できる

もったいつけたり

連弾したり

いろんな色合いつけて

いろんな連れ合いあるはずなのだけど

わたしのはペタリペタリ

重くもなく軽くもなく無垢

のように

色が

なかった

 

外から見える家々は過去と未来を孕んで

その壁の向こうの棕櫚の葉の形

鮮明に染め抜く夕焼けの町を

永く歩いてきたはずなのに

不意に訪れたあ

し音

あ足音

にはまるで

言葉がなかった

まるでオクターブのように

ふるえながら

離れながら

わたしに連なっていた

この感覚を知っているのはわたしだけかもしれない

わたしも他の誰もそれを確かめることはできない

永遠に

永遠に錯覚しかできない

永遠を前に命は月て

カーテンをそっと開ける

足音は独特の切株を数えている

時計なのかもしれない

 

生まれてからわたしにしかなったことがない

ああ足音はとても弱い

フローリングのひんやりした感触は

サイズをよこしまに変えることもできない

不安という繁みに押されるように作られた道

をほんとうに(という言葉があるならば)

あとへあとへと追いやられて

 

言葉がない世界に

わたしはわたしの論理と年輪を繕って生きている

傷つくより前に樹皮を纏って

急襲に貫かれたことはない

だからまだこんなふうに

無防備な音が出る

だからきっと

本に纏わる埃の匂いを嗅いでいれば

生きられると思ったり

その脇で忙しく怠惰にアリバイ作りに精を出して

何十年を生きてしまいふと

とても静かな人間だった

絶滅危惧種のようだった

まるで、足音だった

(それは身体を追いかけていく影)

 

一瞬で消える

音のつらなりを

足音とわかるのは覚えているから

わたしにまつわる

世界にまつわる

水の流れのような記憶

ペタリペタリと鳴っている

わたしにしかきこえない不安が

ときどき風にはためいている

(不安をきくなんていまやしあわせものだ)

 

遠い電車の音が風に乗って聞こえる夜がある

わたしの中のどんな気象条件がその夜

わたしに足音を届けにきたの

 

まだ論理を踏み固めていない

この先の悲しみや

この先の喜びを

受けとめているのだ

やさしい腐葉土を信じて

いま選ぶ時なのかもしれない

論理ではなく感情を開拓する道を

(それがきっとほんとうに考えるということ)

いつまでもあどけない足音で

いつか耐え忍ぶ

次第におもくなっていく足音

そのときでさえあどけなく

 

 

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感じると考える

2024年02月12日 | 雑記

〜〜*簡単な目次*〜〜

1.ピアノの練習をきっかけに考えたこと

2.目標を持つこと

3.私の「感じる」そして「考える」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

1.ピアノの練習をきっかけに考えたこと

もうすぐピアノの発表会がある。選択した曲は私のレベルではとても難しく、どうしたら少しでも美しく弾けるだろうかと悩みつつ練習している。

 

テンポが早い上に、オクターブでの跳躍も多く、なんとなくの練習ではいつまで経っても弾けるようにならない。音も多い。ペダルも難しい。自然かつ美しい表現ができるようになるには、私のレベルでは、どれほどの細かい配慮と組み立て、それを実現するための練習が必要かと思ってしまう。

 

自宅には電子ピアノしかなく、これで練習することも効果はあると思っていたけれど、今回、その限界をあらためて感じた。

 

そうなると、これまでにも、たくさんの時間を無駄にしてきたのかもしれない、と思えてきた。もし明確な目標を持って取り組んでいたなら、「そこに到達できない」ということによって、練習の仕方のまずさにもっと早く気がつけたかもしれない、と思った。

※発表会間近のいまは、電子ピアノはあまり触らないようにして、実家のアップライトで練習している。

 

2.目標を持つこと

目標を持つことの大切さはよく聞く。

でも私にとっての自然な「感じる」では、あまりその言葉がピンと来なかった。

それは

・目標を持って達成したい何かがなかったからかもしれない。

・目標を持ってまっしぐらになることで見えなくなる散歩道が魅力的に思えてしまう人間だからかもしれない。

 

それとも

・多くの人も訓練によって、目標を持つことが必要だと考え→感じるというレベルにまで引き上げ(引き下げ?)ているのかもしれない。

 

目標を持つことで先ほどの例のように、やり方のまずさに気がつき、効率よくできることは、たくさんあったのかもしれない。理想から逆算してネジを巻いて生きないと、人生はあっという間に終わってしまう。

 

こういう時、「考える」が必要になるのかもしれない。特に、私のように「感じる」に突き動かされることを待ってしまう人間には。自分の「感じる」では見えてこない「目標を持つことの重要性」、それを一つの経験から類推して、敷衍して?他の物事を見てみる。

 

そう考えると、目標……、というより期日を決めるというのは大切なことかも、と感じた。ピアノの発表会という期日があることで、そこに焦点を合わせて、できることできないことの目算をする。これがすごく大事なのだといまさら気がついた。期日を決めることで、いまから自分にできる理想像を考え、それを実現するための練習に時間とエネルギーを集中できる。

 

期日を決めるというのは、夢想の理想像の代わりに現実的に描ける理想像を据えて、現実的な努力ができるようにするための(そしてそれは物事を前に進めるためにとても重要なこと)一番の方法なのかもしれない。

 

そう感じ、思ったならば、「目標とその期日を決める」をしていこうと決めて※、それを習慣にすることができるはず。

※ここで「考える」と書きたくなったけれど、ここはきっと「決める」なのだ。私は「決める」と言うべきところを、「考える」と言い換えて、とかく現状維持を選んでしまう。「決める」ことを躊躇させるのは何だろうか。間違った選択をして無駄な時間を過ごしてしまうこと、何かを見過ごしてしまうこと?でも選択をしないことで無駄にしている時間、見過ごしていることは、もっとずっと多い可能性もある。

 

3.私の「感じる」そして「考える」

さて、私にとっての「考える」とは。何を選択すべきか決めるために「考える」とは。できれば、「時間をかけて揺らしたい」。同じ一つのことを、いろんなタイミングで、手で重さを計るようなイメージで、揺らしてみたい。「いまはどう感じるかな」「いまはどうかな」と、いろんなシチュエーションでいろんな角度で感じてみたい。そうやって「感じる」をたくさん積み重ねると、自分にとってのそのものの適切な重さがわかってくるような気がする。そうなって初めて、「ではこうしよう」。そのように、答えを出したい。

 

とはいえ、「考える」は決めるためだけに使うものではない気がする。長期的に見れば、やはり、それによって何かを決めているのかもしれないけれど、心に浮かんだ疑問、疑問というほどにも形を成していないようなフワフワしたものをも、パッと捨ててしまわずに、自分の中に温めておく、という役割も大いにあるのではないか。それがなんの役に立つか。長い時間をかけて価値観、好き嫌い、より自分らしく、またより良い人間となるための「感じる」を育んでいるのではないだろうか。それらはまた何かを「決める」ときの土台を作っている。

※これが私の人生のテーマなのかもしれないとふと思った。

 

そして私は考える。「文章を書く」は何だろう。私にとっての何だろう。

それはきっと、「感じる」を受け止めて、「考える」につなげるためのトンネル。「考える」が豊かになると、今度は、「感じる」も玉虫色になる。トンネルから思わぬ言葉、もはや言葉を超えて触知するような幻のような言葉が生まれる。そんな夢を見る。

 

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雪の日

2024年02月06日 | 
レースのカーテンを開けて覗くと
予報通りの雪
模様のように降る

困るなぁと思うのに
大人なのに
子どものようにはしゃぐ
隠れた気持ちがある

ちょっと買い物行ってくる なんて
さっきも出かけて帰ってきたばかり

迎え雪
暗くなり始めた空から
バッティングセンターみたいに
白いつぶてがびゅんびゅん飛んでくる
こちらが速いみたい
奥へ奥へ吸い込まれていく
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架空線

2024年01月28日 | 
冬の日
太陽の重みで光の帯が空に上がり

路地は淡い色に沈み始めている

曲がるにつれて

折れるにつれて

壁が金色に塗られたり

梅が咲いたりなどする


文学者二人の対談を聞いていた

寒さに負けていたのか

温かい室内では溶け出した泥のように

わたしはうつらうつらした

書物、形、言葉、心、詩、といった言葉が

うわずみでぐるぐるしていた


外に出ると

雲ひとつない青空に知らされる

冷たい空気と

それを留めさせない風と

縮こまる体にも

よくみると芯に温かさがあって

わたしはろうそく


文学者二人の話を聞きながら

その背景に

ろうそくのような

ペンキのような

粘土のような

でたらめなしみを見た

それがわたしだと思った

いろんな時にいろんな場所に

ベシャッと投げつけられるひろがり


わたしの人生

と光の届かない道で思うと

不思議な気がする

他の誰にとっても

わたしの「わたしの人生」は他愛無い

見えもしない

誰にも見えないわたしの夢

それが暮れ方に向かう

夢というのはどこを見ているのだろう

わたしは生き物なのだろうか

***

2024.1.27

堀江敏幸(作家)・澤直哉(ロシア文学者)

『架空線』刊行記念 トークイベント

「書くことのかたちー文学と書物を再考する」

を聴講して

コメント (2)
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感じる

2024年01月12日 | 雑記

以前、「考える」について書いた。

 

考える - 詩と写真 *ミオ*

少し前、『考える』について、考えていた。『考える』についての考えは、少しずつ発展していったのだけれど、「もっとよく考えて整理したい」と思いながら、別のことに関心...

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その中で、「『考える』は分解していくと、たくさんの小さな『感じる』があるだけなのではないか」と書いた。

 

ところで、先日、布団の中で夢うつつに、「『感じる』はどこから来るのだろう」と思った。

 

みんな、それぞれ自分の感覚が正しいと思うのは仕方がない気がした。みんな、それぞれ感じているのだもの。自分自身でそれを否定することはとても難しい。

 

表面的には、「私は間違っている」と思うこともできるかもしれない。でももっと身体感覚のような、自分では「感じている」とも思っていないような部分で、人は「感じて」しまっているのではないかと思う。フラットになどなれない。

 

そしてそれは種としての生存戦略でもあるのかもしれない。それぞれが違うことを感じるからこそ、誰かしらは生き延びる。

 

つまり、言いたかったことは、自分で考えているつもりでも、そのもっともっと皮膚に近いところで、感じてしまっていることを透明にはできないし、自分がどう感じてしまっているかに気づくことさえ、なかなか難しいのだろうなぁということ。

 

ただ、だからといって、感じるがままでいいわけでもなく、自分がどう感じているか、もしくは、実は何かしらを感じてしまっているということ、に、ときどき意識を向けてみることが必要なのだろうと思う。そして、他の人も、自分なりに、切実に、何かを感じてしまっているのだということも、理解することが大事なのだと思う。

 

「考える」の中には、「別の可能性もあるかもしれない」と思ってみる、という役割もあるのかもしれない。「感じる」からすれば、少し強引に、「感じる」のもっと先の、想像力から逆算した可能性を自分に取り入れることによって、「考え方」が少し変わり、私の「感じる」も、少しずつ変わり得るのかもしれない。

 ※とはいえ、「この別の可能性を考える」を無闇に発動させすぎると、無秩序になり、「考える」がまともにできなくなるので、自分の「感じる」を盲信しないため程度に抑えておくべきかもしれない。やはり、なんだかんだ「考える」にはいろんなテクニックが必要な気がする。

 



 

コメント (2)
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