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次は台湾が危ない…香港の陥落が示した、習近平「終身皇帝」への道(長谷川 幸洋 ジャーナリスト)

2020-07-05 | 中国の歴史・中国情勢
2020.07.03
Photo by gettyimages

外国人でも盗聴・監視できる

中国が香港に「国家安全維持法」を導入した。それだけでなく最近、中国は沖縄県・尖閣諸島や南シナ海、ヒマラヤ山脈の国境などで極めて好戦的になっている。ここ数年では例がないほど、異常なレベルで相次ぐ挑発だ。これが「不吉な前兆」でなければいいが。

まず、国家安全維持法の中身を見よう。

香港や中国に対する国家分裂の試みや破壊行為を取り締まるのは、彼らの立場では当然だろう。だが、読売新聞が7月2日に報じた概要によれば、香港人だけでなく、外国人や外国組織に対しても取り締まりや監視の強化を盛り込んでいる。

たとえば「外国あるいは本土外の勢力と結託して国家安全に危害をもたらす罪」を定めたうえで、当局に強力な捜査権を付与した。具体的には「香港政府の国家安全維持部門は、海外の政治的組織、当局に資料提供を要求できる。行政長官の許可を得て、疑いのある者に対し、通信傍受や秘密捜査ができる」という。

つまり、当局が必要と思えば、外国人や企業、団体に対して情報提供を求めるだけでなく、公然と「通信傍受や秘密捜査もするぞ」と宣言したのだ。大使館などの盗聴は周知の事実だったが、これからは「睨まれたら盗聴される」と考えたほうがいい。

また「国家安全維持公署は、外務省の出先機関などとともに、香港駐在の海外組織、NGO、メディアへの管理とサービスを強化する」という条文もある。NGO職員や新聞、テレビの特派員たちは、これまで以上に監視されるだろう。盗聴はもちろんだ。

一般企業やその社員たちも、けっして安心とは言えない。香港当局に「私たちも監視対象になるのでしょうか」などと問い合わせても無駄だ。

「国家安全維持公署とその職員の職務執行は、香港政府の管轄を受けない」「香港の現地法と規定が本法と一致しない場合、本法の規定を適用する」と明記されている。具体的にどんなケースで、どんな運用をするかは「すべて北京のご意向次第」なのだ。

なぜ「香港の価値」を捨てたのか

中国がこれほど香港に厳しい措置に出たのは、なぜか。1つには、各メディアが報じているように、香港の議会に相当する立法会選挙の立候補届け出締め切りが7月18日に迫っていた事情があるだろう。ただ、それだけとも思えない。

香港には「国際金融センター」「世界と中国を結ぶ貿易の中継地」という、中国にとっては他に代えがたいメリットがあった。それを切り捨てても、習近平政権が強硬措置に踏み切ったのは、それほど「政権の強い姿勢」を内外に示す必要に迫られていたからだ。

新型コロナウイルスの感染拡大で、中国は欧米などから厳しく責任を追及され、巨額の損害賠償訴訟も起こされていた。海外からの批判だけでなく、国内でも習近平体制の足元を揺るがすような動きが出ていた。

たとえば、ナンバー2の李克強首相は全国人民代表大会(全人代)後の記者会見で「中国には月収1000元(約1万5000円)の貧困層が6億人もいる」と暴露した。2020年の成長率目標も示せなかった。自画自賛が普通の中国では、異例の出来事である。

そんな四面楚歌状態を習氏は強硬策で突破し、政治的求心力を取り戻そうとしたのではないか。そんな見方を補強する材料もある。強硬姿勢は香港だけではないのだ。

中国の暴走は止まりそうにない

尖閣諸島周辺の海域には連日、中国の武装公船が侵入している。7月2日時点で80日連続となり、日本が2012年9月に尖閣諸島を国有化して以来、最長連続記録を更新した。5月8日には、中国海警局の公船が日本漁船を追尾し、威嚇した。

南シナ海では、やはり海警局の公船が4月2日、ベトナムの漁船を追い回したうえ衝突し、沈没させる事件が起きた。その直後、中国が南シナ海に「南沙区」と「西沙区」という新たな行政区を勝手に設置したことも明らかになった。

ハイライトは6月16日だった。

ヒマラヤ山脈の国境をはさんで対峙していた中国の人民解放軍とインド軍が衝突し、少なくともインド側に20人の死傷者が出たのだ。中国側にも死者が出たもようだが、中国は発表していない。両国の衝突で死者が出たのは、実に45年ぶりである。

一連の事態は一見、場所もバラバラで相互に関係がないかのように見える。だが、全体主義国家で武装した実力組織が権力者の意向に背いて動くのはありえない。少なくとも、現場には「実力を行使しても、処罰されることはない」という認識があったのではないか。

いや、より積極的に「ここで、ひと騒ぎ起こせば、オレの手柄になる」くらいの気分が実力組織の間に蔓延していた可能性がある。人民解放軍や海警局はいわば、かつて満州で大暴れした日本の「関東軍」のような状態になっているかもしれないのだ。

いずれにせよ、ここ数ヵ月で強まった習近平体制の「イケイケドンドン」姿勢を見ていると、強硬方針はさらに加速する可能性がある。私が心配するのは、香港が「落ちた」以上、次は台湾が要注意だ。習氏にとって、台湾を落とせば、これ以上の戦果はない。まさに終身皇帝は完全に正統化されるだろう。

人民解放軍「ワクチン試験」真の狙い

もう1つ、気になる動きもある。

中国の人民解放軍が新型コロナ・ワクチンの試験接種を始めたのだ。米ニューヨーク・タイムズは6月29日、ロイター電を転載し「中国の人民解放軍が自身の研究ユニットとカンシノ・バイオロジックスが共同開発したワクチンを試験接種することを認められた」と報じた。

この話がなぜ重要かと言えば、ワクチンは単なる医療品ではないからだ。それは軍事的な戦略物資でもある。ライバル国に先駆けてワクチンを開発し、自国兵士に接種すれば、ワクチンがない相手に比べて圧倒的に有利になる点を考えれば、理解できるだろう。

米国や中国は軍が感染症研究に関わり、ワクチン開発を同時に進めている。もちろん、軍事的優位を獲得するためだ。人民解放軍が接種するワクチンも、最初から軍の研究ユニットが開発に関わっていた。軍が最初に試すのは当然なのだ。

中国は「ワクチンは国際公共財。各国に分配する」などと言っているが、これはまったくの綺麗事、詭弁にすぎない。ホンネは「ワクチンを分けてやるから、オレの子分になれ」という話である。ワクチンを自力開発できない途上国に「オレと組むか、それとも米国と組むか」と踏み絵を迫り、自分たちの勢力下に組み入れる。それが真の狙いである。

一言で言えば「ワクチン同盟」の形成こそが、ワクチン開発の最重要目的なのだ。

そんなワクチンを、中国は人民解放軍に試験接種する段階にまでこぎつけた。これは「グッド・ニュース」ではない。脅威のレベルが一段上がった、という話である。

日本が「日の丸ワクチン」を必要とするのも、根本的には以上の事情からだ。いくら日本が欧米からのワクチン提供を望んだとしても、自前のワクチンを持っているのと、いないのとでは「天と地ほどの違い」がある。交渉現場を想像すれば、すぐ分かるだろう。

「オマエは何も持ってないな」と相手に見透かされてしまえば、分けてもらいたいワクチンの値段は跳ね上がる。だが「オレも自前で持ってるんだ」となれば「それなら、オレのと交換するか」という話にもなる。交渉の余地が出てきて、値段は安くなり、同盟関係も強くなるのだ。

長谷川 幸洋(ジャーナリスト)

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