美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

野中光正&村山耕二展 2023/11/20Mon.~26Sun. 11:00~18:00 杜の未来舎ぎゃらりい

2023-11-06 18:57:21 | レビュー/感想

静寂と躍動。

抽象画の登場によって、絵画は対象やテーマの呪縛から解き放たれて音楽と同じ力を持つようになった。野中氏の個人史においては、20代終わり、60年になんなんとする画業の初期にこの転換は起こった。幼年期にすでにカラーチップで飽かず遊んでいるような子供であったそうだから、それは遅すぎる発露だったのかもしれない。

楽器で心の赴くまま即興的に音を鳴らすように、抽象画にはまったく自由に色彩とフォルムを置いて、コンポジションを形づくる喜びがある。水平と垂直の矩形が交差する画家の作品に特徴的なシンプルなフォルムは、物思わしげな形がつくってしまうお定まりの具象風景や俗な物語世界に流れ、抽象画の基準線から逸脱してしまうことを拒んでいる。

自作の絵の具によるオリジナルな色とその物質感、和紙特有の色彩の重なりが生み出す絶妙な予期せぬ奥行き、そしてブラシタッチや木版刷りの強弱が織りなす躍動感。そこには温もりのある和の伝統的テーストを感じさせながらも、純粋な抽象画、それ自体が持つ普遍的な魅力が溢れている。

江戸とモダンが調和する浅草に住む画家が日頃感じる外界の変化や心の波立ちがどれほど反映されているのかは知るべくもないが、ときに私情を超えたところから来る、静かな喜びの訪れとでも言いたくなる瞬間が刻印されている作品と出会う。鑑賞のテーブルについて、画家が具現した得難い美の世界を垣間見、共有できる幸せを思う。

MIXED MEDIA NONAKA MITSUMASA

1949年東京都鳥越生まれ、現在元浅草在住。78年木版画展(現代版画センター)、84~95年ゆーじん画廊(東京)、89-91年新潟高柳町移住、紙漉きを学ぶ、2001年~新潟絵屋、2009年〜杜の未来舎ぎゃらりい(仙台)、2010年〜ギャラリーアビアント、2011年~ギャラリー枝香庵(以上東京都)などで毎年個展開催。制作を午前中の日課にして、15年前から淡々と門出の和紙を支持体にした抽象作品を作り続けている。

●野中光正在廊日 11/23(木)~24(金)

野中光正の版画及びミックスドメディア作品のご購入は下記サイトで

杜の未来舎ぎゃらりい

 

 

 

 

 

地球とのコラボ。

村山氏の非凡な造形力は、オブジェからグラスまで、作品の安定したフォルムの美しさに余すところなく示されてる。日用の器であればその美は奇を衒ったものではなく、いわゆる使える、あるいは使いたくなる器としての「用の美」を満たしている。

一方、作品の原素材である岩石へのラディカルな探究心に作家の特異性が際立つ。サハラから月山まで土地固有の砂のエレメントを抽出したユニークなガラス作品、そして地底世界の動的メカニズムを模して、白熱のガラス玉の中に自然石を閉じ込め、その変化のプロセスを作品化する営為、近年の「ジオロジカルグラス」もこの熱情から生まれた。それはまるで外在性としてある美という名の生き物が、作家の手を介して高熱の流動体であるガラスのうちに一瞬のうちに捕獲された様を見るようでもある。アートと地球科学を融合するプロジェクトから次は何が飛び出してくるか楽しみ。

GLASS WORKS MURAYAMA KOUJI 

1967年山形市生まれ。1996年仙台市秋保に海馬ガラス工房設立。2007年モロッコ王国・王室への作品献上。土地土地の砂の特質を生かしたユニークな造形作法で知られる。

村山耕二のオブジェ及びガラス作品のご購入は下記サイトで

杜の未来舎ぎゃらりい