ポポロ通信舎

(旧・ポポロの広場)姿勢は低く、理想は高く。真理は常に少数から・・

降りかかる不条理に抗す(13)

2020年10月24日 | 研究・書籍
今こそすべてはよい


オランの町を襲ったペスト。4月に始まり12月までは猛威を振るったものの年明け1月には、医師たちの処置がにわかに功を奏しはじめ1月25日には疫病の終息の宣言が出されるところまでに至った。

しかしこの流れに反するように旅人タルーは発熱し寝込む。本来なら隔離するべきなのだが、青年医師リウーはこの友人を自分の家で自分の母親とともに看病をする。


壮絶だった少年(判事の息子)の死とは対照的に、ここではすべてを悟っているかのようなタルーの静寂な闘病の様子。だが、やがてその時が来た。臨終のタルーの言葉は「今こそすべてはよい」

「今こそすべてはよい」とは、なんとも肯定的な言葉でしょう。「よい」のフランス語「ビヤン=bien」は、ペストには負けたが「人間」として最後まで闘ったことを肯定した、とは『マンガで読むアルベール・カミュ「ペスト」』での解説。

たとえ運命としては結果、敗北であったとしても、それに抗し闘った姿勢は全面的に肯定できるものと言えるでしょう。悲観的でニヒルなようにも見えた不条理文学の見事な最終回、逆転の有終の美でした。

タルーはペスト禍の人々の行動や談話を克明に記録し文書に残した。メモ魔の彼がペストとの闘いで勝ち得たものは「認識と記憶」だった。たぶんこれこそがタルーの執念だったのではないでしょうか。

「あきらめない」「忘れない」「記録する」

少し飛躍しているかもしれませんが当方はここで「赤木雅子さん」を感じてしまった。

『私は真実が知りたい』(文藝春秋 刊行)の森友学園事件で公文書改ざんを強要され自殺に追い込まれた財務省職員の妻、赤木雅子さん。

組織のために泥をかぶったものが評価され異例の出世を遂げる。「うそをついていると偉くなれるというなら、この国から正義がなくなってしまう。卑怯者とうそつきの世界になってしまいますよ」(同書 相澤冬樹氏)。

今の世の中、矛盾と理不尽なことが後を絶ちません。それでいて正義を振りかざしている人の側にも怪しいものがあります。国家、官僚、企業、団体、機関すべてが不条理な病理を抱えているようにしか映らないのですが・・・。

本シリーズは今回で終わります。
さいごにもう一度、「降りかかる不条理」とのたたかいを綱領に掲げている
「れいわ新選組」の檄文の一節をご紹介してお開きとさせていただきます。


決意(綱領)・規約
<私たちの使命>

日本を守る、とは
あなたを守ることから始まる。


あなたを守るとは、 あなたが明日の生活を心配せず、
人間の尊厳を失わず、
胸を張って人生を歩めるよう全力を尽くす政治の上に成り立つ。


あなたに
降りかかる不条理に対して、
全力でその最前に立つ。
生きているだけで価値がある社会を、
何度でもやり直せる社会を構築するために。


(おわり)

【木工さんの写真】矢嶋秀一作 フォト 田口大輔

 
 


エデイット・ピアフ『愛の讃歌』♪ この曲は『世界残酷物語』の主題歌でもありました。中学3年生の時、近くにあった今は無き洋画専門映画館「文映」(群馬県前橋市)でこの曲を耳にしました。当時は映画館の前のスピーカーからは上映中の音声が小さく流れていました。
訂正:世界残酷物語の主題歌は『モア』でした。ずっと『愛の讃歌』と勘違いしていました。失礼いたしました。



愛の讃歌 エディット・ピアフ
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